mysound SPECIAL INTERVIEW!! 伊藤ゴロー
1950年代にブラジルのサンバやショーロを基に派生し、60年代以降、世界中を席巻したボサノヴァ。ラテン音楽ならではのシンコペーションやポリリズムを有しながらも、独特のタイム感と柔らかく優しいその伝達手段も手伝い、非常に耳馴染みの良い、一緒に口ずさめる楽曲の数々で、幅広い人に人気の高い音楽です。みなさんも日頃、色々なところで耳にしているであろう、このボサノヴァ。それらを気軽且つ身近に接せられるフリーのライブイベント<BOSSA AOYAMA 2016>が10月28(金)~30日(日)に行われます。東京・北青山を中心に街を交え国内外のボサノヴァ・アーティストが集う同フェスは、同音楽に親しみたい方に是非ともオススメ。一流の演奏に間近で触れられ、さらにその魅力の虜になることでしょう。今回登場する、日本ボサノヴァ界の旗手として、国内外にて活動している名手・伊藤ゴローさんも同イベントに第一回目より欠かさず出演。今年もnaomi & goroやソロとして、良質な音楽と贅沢な時間を集まった者に寄与くれそうです。そんな伊藤氏が、「是非ともここから聴き始めて欲しい」と、自身にとっても想い出深いボサノヴァを12曲精選してくれました。ボサノヴァの幅広さとバリエーションを是非ともこの機会にお楽しみください。
INTERVIEW
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"仕事もせずに音楽に合わせてひたすらギターを弾く日々が続きました。"
--まずは伊藤さんとボサノヴァとの出会いから教えて下さい。
最初の出会いは、中学の頃、父親のレコードでした。そこからロックを始め、色々な音楽を経て、20代後半に再びボサノヴァに行き着いた感じです。その頃からですね、自分でもボサノヴァを演り始めたのも。
--ボサノヴァは独特のリズム感やタイム観を要する音楽のようですが、取り組んで直ぐに習得出来たのでしょうか?
いやいや。それこそ当時は、仕事もせずに音楽に合わせてひたすらギターを弾く日々が続きました。ボサノヴァの場合、ギターにしてもメロディ楽器でありながらも、ある種、打楽器的な役割も担ってますからね。それらを習得するまでは、ボサノヴァに限らず色々なブラジル音楽も聴きました。プリミティブなサンバからジャズ~フュージョンに至るまで幅広く。
--伊藤さんにとってのボサノヴァの魅力とは?
凄くミニマムな音楽というところです。歌の内容も身近なものが多いし、シンプルな音楽性にも限らず、色々なものがギュッと凝縮されている。聴きやすく親しみやすいんだけど、実際自身でやってみようと思ったら一朝一夕には出せない音楽。色々なものを削ぎ落として、究極、あの音楽性に辿り着いた感じがしていて。そこが魅力のひとつでもあります。
--ボサノヴァの楽しみ方で推奨があったら教えて下さい。
やはり自身で演奏することでしょう。習得までに時間はかかるかもしれませんが、基本、ギターと歌だけで成立している音楽ですから。あと、注意深く細部も是非楽しんで欲しい。優しく柔らかい歌ですけど、色々な要素や音楽性から成り立っている楽曲たちでもあるので。ホント、ハマると楽しいですよ。
--そんな中、今回の選曲は?
自分が聴き始めの頃にハッとさせられた曲たちですね。聴いていくうちに色々な発見があり、好きになってもらえそうな曲、そんな観点で選びました。
"軽快で楽しげ、みんなで一緒に楽しめる楽曲"
――まずは、世界中の多くのアーティストがカバーし続けている、ボサノヴァの代表曲ですね。
この曲がボサノヴァの曲の中では世界中で最もポピュラーなんじゃないかな。僕もこの曲から入りました。それこそ「ザ・ボサノヴァ」的な非常に優れた楽曲です。ジョアン・ジルベルトが歌い、アストラッド・ジルベルトが継ぎ、スタン・ゲッツのサックスが入ってと、けっこう尺的には長いんですが、それを全く感じさせない。色々な奇跡が収まった1曲です。
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--この曲もまた前曲同様、ジャズの名盤にも例えられるStan Getz/ Joao Gilbertoからの曲ですね。
この曲も最初の発表以来、色々な方が自身のアレンジや解釈を交えて披露してきた曲です。サックスのボリュームが大きいという自分的には難点もありますが(笑)、この曲も聴いておかないといけないんじゃないかと。
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--ここからは、ジョアン・ジルベルトの曲が続きます。こちらはスキャットも印象的ですね。
ボサノヴァの前史でもある古いサンバをジョアンが彼流に歌ってるんですが、これはもう彼の楽曲と呼んでも過言じゃないほど全てに於いてジョアン節が炸裂しています。軽快で楽しげ、みんなで一緒に楽しめる楽曲です。でも、いざ、これを自分でトライすると、それはそれは大変で。それを楽しげに軽々とやっているところが彼の凄さなんです。
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--これは男女のデュエットが楽しめますね。
ジョアンと2番目の奥さんのミウシャとのデュエットです。実はボサノヴァでデュエットって少ないんです。特にこのように二者でハモって歌う、そういった曲は非常に少なくて。仕事に行かなくちゃいけないけど、君かそばにいるから行きたくないな・・・.。そんなおのろけソングです。
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--これは、これまでの楽曲に比べ、色々な楽器が入っています。
80年代のアルバムなんですが、ジョアンの進化した匠さが愉しめる楽曲です。他の方には真似できない世界。ギターと歌のみならず、かなりの管楽器も導入していて。分厚いホーン等で、アレンジも含めダイナミズムを感じさせる曲です。
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--ここからは、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲が続きます。
ほぼ単純なメロディが続いていく中、コードやメロディ、色々なものが微妙に変動していき飽きさせずに最後まで聴かせるところにこの曲の凄さがあります。これはジョビンが、避暑地での散歩の際に雨が降ってきて、急いで別荘に戻った時の自分の目に映った情景や音や匂い等を歌にしたものですが、凄く散文的で抒情があるんです。
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--続いては、インストですね。
歌入りもありますが、このようなインストもボサノヴァの魅力です。ボサノヴァの起源にはブラジルのインストのショーロを基本にしているところもあって。是非色々なことを思い浮かべながら愉しんで下さい。
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--これは、坂本龍一氏によるカバーですね。
ジョビンはボサノヴァだけでなく、このようなヨーロピアン的なクラシックな音楽も作っていたことを知ってもらいたく選曲しました。それでいてブラジル的でもある。教授と、かつてジョビンのバックで活躍していたパンダ・ノヴァのモレレンバウム夫妻との共演が愉しめます。自分的にはオリジナルよりもこのバージョンの方がジョビンの魅力が引き出されていて惹きつけられます。
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--ここからはカエターノ・ヴェローゾが続きます。
彼は1970年代に活躍したボサノヴァの第二世代のアーティストです。ロック世代だったこともあり、恰好やルックスもロック然とした方です。この曲はそんな彼が母国に向けて作ったサンバへの讃歌。聴いているとブラジル人でなくても彼らの気持ちが理解できる気がしてきます。向こうではみんなで一緒に歌う、アンセム的な楽曲かなと。
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この曲も色々なバージョンがありますが、ガル・コスタとの『ドミンゴ』というアルバムから選びました。サンバ前史の音楽が彼の解釈を通して楽しむことが出来ます。凄く品のいいデリケートな音楽で、ボサノヴァやブラジル音楽を継承している楽曲です。
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- シングル
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--続いては、日本語タイトルが「春」です。
淡い、恥ずかしくなるような歌詞と美しいメロディが特徴の聴いていてホロっとさせる曲です。ホント美しい曲です。
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--この曲も、世界中の色々な方に、色々なバージョンでカバーされていますよね?
ですね。"おいしい水"って、実は本物の水ではなくお酒の例えなんです。アフロでブルージーで、この歌詞。そんな不思議な曲です。アスラッド・ジルベルトの曲の中でもアフロな感じがする、ボサノヴァの代表曲でもあります。
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"僕も、私もやってみようといった気持ちになってもらえると嬉しいです。"
--間もな<BOSSA AOYAMA 2016>が開催されます。
今年で9回目ですが、第1回目から出演させていただいています。最初誘われた時には、こんなに続いて、大規模になるとは想像もしていませんでした。詳しい方から、初心者やフラッと来た方まで、毎年、多くの人に親しんでもらってます。
--どのように愉しんで欲しいですか?
一日中愉しめるのが特徴ですからね。様々なタイプのボサノヴァやブラジル音楽のアーティストたちが出るので、気軽に聴きに来て欲しいですね。青山を楽しみながら音楽も愉しんで欲しい。各箇所特別な時間を寄与いたしますので、是非。
--最後に、これからボサノヴァを聴いたり、愉しもうと思っている方々にメッセージを。
耳に優しい、言葉が分からなくても充分に愉しめる音楽です。あと、絶対と言っていいほどギターが入っているので、そこにも是非耳を傾けて欲しいなと。で、聴いて、僕も、私もやってみようといった気持ちになってもらえると嬉しいです。
ORIGINAL PLAYLIST
Bossa Nova入門プレイリスト
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text&interview by池田スカオ和宏
photo by Kohichi Ogasahara
DISCOGRAPHY
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- 11曲収録
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- アルバム
- 9曲収録
PROFILE
青森市生まれ。作曲家、ボサノヴァ・ギタリスト。 ジョアン・ジルベルト直系と言われる 布施尚美とのボサノヴァ・デュオnaomi & goroの活動、ボサノヴァフィーリングを感じさせる独自のソロ活動で音楽を追究し続けながら、クラシック、ロックと幅広くジャンルを横断。坂本龍一、細野晴臣との共演や映画音楽、原田知世のプロデュース、詩人平出隆とのCrystal Cage Collegeも行う。ブラジルのミュージシャンとも親交が熱く、ジャキス&パウラのモレレンバウム夫妻との共演は海外でも話題を呼んだ。<芸術の青森展>(青森県立美術館2011年) にサウンドインスタレーションを出品、<Art and Air ̃空と飛行機をめぐる、芸術と科学の物語>(青森県立美術館 2012年)展覧会のサウンドトラックも手がける。
LIVE
■BOSSA AOYAMA 2016
日程:2016年10月28日(金)、29日(土)、30日(日)
会場:青山通り(東京メトロ「外苑前駅」周辺施設)
料金:free
PHOTO REPORT
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伊藤ゴロー(at 原宿教会)
原宿教会でのライブの様子
パブロ モライス(at オラクル スカイロビー)
上段:オラクル スカイロビー、下段:グローカルカフェ
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