mysound SPECIAL PLAYLIST by 加藤マニ
ORIGINAL PLAYLIST
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#1. The Strokes - You Only Live Once
ニルヴァーナの"スメルズ・ライク・ティーンスピリット"のMVでも知られる巨匠、サミュエル・ベイヤーがディレクションした本ビデオは、密室空間にて白い衣装を纏って演奏するバンドメンバーへ黒い汚水が降り注ぎ、みるみるうちに水かさは増すばかり。それでも演奏を続けるメンバーの運命や如何に、と思う視聴者をよそに、平然と演奏を続けるメンバーの様子はエモーショナルであり、タイトルの示す「人生は一度きり」という儚さと尊さを表現します。
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#2. Mutemath - Typical
MTV開局以降、いわゆる「アイデアもの」と言われるMVが数々生み出されましたが、録画したビデオを逆向きに再生させることで、破壊されたものが元に戻ったり、こぼれた液体が容器に戻ったりするアナログ感ある不思議な映像、即ち「逆再生もの」というジャンルにおける最高峰のひとつではないでしょうか。特筆すべきは、ほぼ1テイク(厳密には恐らく2テイクを繋いでいると思いますが)の長回しと、卓越した技術で、譜面自体を完全に逆回しにして演奏しきるというストイックさです。ディレクターはイズラエル・アンセム。
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#3. Franz Ferdinand - Take Me Out
「あなたの人生を変えるバンド」というのが、当時の彼らにつけられた日本でのキャッチコピーだったと記憶していますが、ジョナス・オデルによるバウハウス的な色遣いと構図、アナログの風合いを残したデジタル・コラージュのシュールにして洒脱なセンスは、多くのインディバンドが4つ打ちのキックと裏拍のハイハットを真似したがるようになったのと同じくらい、世界中のアートディレクターが真似したがったものでした。トレンドが変わる瞬間が確かにあったのです。
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#4. The Vines - Ride
映画監督としてもすっかり著名となったミシェル・ゴンドリーが監督したこのビデオは、メンバー4人だけが存在するにしては少々広過ぎるような体育館で行われるシンプルな演奏シーン主体と思わせつつ、最初のコーラスから様相は一変、フォークにカントリー、ヒップホップやガールズポップまで、ありとあらゆるジャンルのバンドが彼らを取り囲むように、同一の曲を演奏するという狂ったオーディションを思わせる大騒ぎは「俺と一緒に乗ろう」というリフレインに、これ以上ない一体感を与えています。
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#5. The Cribs - Men’s Needs
カット割を極力排した、ある意味粗野にも感じるバンド演奏に、「全く関係のない傍若無人な女性がメンバーへちょっかいを出し続ける」というワンアイデアを足すことで、パンキッシュにして記号的な男女の関係を鮮烈に描きます。本ビデオには「健全バージョン」と「不健全バージョン」があり、後者は黒い目隠しで規制されつつも女性が全裸だったり、投げた包丁でボーカルの首が飛んだりと雑なナンセンス・グロのオンパレードなので興味のある方は是非。その質感から、一見ごく若手のディレクターが撮っているのかと思いきや、当時でも10年以上のキャリアを持つベテラン、近年は1975やマイリー・サイラスとの仕事でも知られるダイアン・マーテルによるものです。
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#6. Kasabian - L.S.F
女性刑務所の慰安にやってきたバンドメンバーが囚人たちと共謀して、演奏中に集団脱走を企てるというストーリーものです。日本人でやってしまうとどうしてもコントになってしまいがちなモチーフを、お寒くさせずにしっかりサスペンスとして見せられるのは本当に羨ましいことでもあります。ともあれ、結末が気になるドラマを仕込みつつ、バンドの演奏も同じ空間や時間軸で展開するビデオは曲への感情移入を削がずに最後まで視聴させる力の強さがあります。この件のUKバージョンはW.I.Z.ことアンドリュー・ジョン・ウィストンのディレクション。(バッキー・フクモトによる、内容が全く異なるUSバージョンもあります)
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#7. Foster The People - Call It What You Want
当時弱冠29歳という早熟ディレクター、エース・ノートンによる、特に具体的な脈絡を設けないまま、人物やオブジェクトを絵画的に組み合わせたシーン群を散文詩的に並べたビデオですが、構図のひとつひとつが現代アートを思わせる不思議な美しさを称えているため、全カット楽しめるオシャレMVです。CGによる空中浮遊から、アナログ火薬の爆発シーン、コマ撮りアニメーションまで手法に節操がないのも飽きさせないポイントのひとつですが、決してとっ散らかった印象にならないところも流石です。
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#8. Wolfmother - Woman
映像の1コマ1コマをフィルムではなく紙に印刷した上、適切にしわくちゃにしつつ、並べ直した(と思われる)気の遠くなるようなコマ撮りビデオです。単なる質感面だけではなく、破れたり、風で飛んでいくといった紙の特性を活かしたカットチェンジにより、登場人物だけではない、記録メディアのノイズもまた映像に勢いを与えるという結果になっています。2分半以下という短い尺だからできるロックンロールビデオ。ディレクターはU2やホワイト・ストライプスとの仕事でも知られる2人組、アレックス・アンド・マーティン。現在はコンビを解消していますが、それぞれ優れたビデオを産み出し続けています。
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#9. UNKLE - Rabbit In Your Headlights (featuring Thom Yorke)
わたしが最も尊敬するディレクターのひとりでもある、ジョナサン・グレイザーによる怪作です。謎の言葉を履き続けながらトンネルを歩き続ける中年男性、どういうわけか彼は頑なに車道を歩き続けるため、心ないドライバーからクラクションを鳴らされるばかりか、何度となく撥ねられてしまいます。その都度、何かに取り憑かれているかのように立ち上がり、再び歩いてゆくという内容ながら、4分半ほど後に訪れる結末にぶっ飛ばされるはずです。言語化できるような意味はそこになく、ただ気高き力強さが映し出されるのです。
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#10. Fiona Apple - Across The Universe
近年はレディオヘッドによる"デイドリーミング"のMVディレクションでも話題になった映画監督、ポール・トーマス・アンダーソンによる90年代後期の傑作です。略奪されるダイナーの様子を捉えたスローモーションの狼藉の中、まるでそこにいないかのように笑顔で歌い上げるフィオナ・アップルの表情はジャンヌダルク的な選ばれし存在感もあり、同時に自棄っぱちのエスケーピズムをも感じさせます。ともあれ「わたしの世界を変えるものは何もない」という歌詞にこれ以上ぴったりくるビデオは、宇宙を一通り探したとしても、そうそうないように思います。
PROFILE
1985年8月14日生。東京都青梅市出身。東京・渋谷を本拠に、インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作、広告デザインやウェブデザインによって口を糊する他、DJやVJ、レビューやエッセイ執筆等のオファーは来るもの拒まず、インディ精神を忘れない、立派な大人を目指して自活中。
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