【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第8回「飛び出せサイケデリック・ファミリー! 家族ぐるみの異端レコード名盤撰」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第8回は「飛び出せサイケデリック・ファミリー! 家族ぐるみの異端レコード名盤撰」。以下で最初に紹介されているThe Shaggsの名前、存在くらいは知っている方も多いかもしれません。ですが、それと同様にファミリーで録音された盤……中でも濃厚かつ味わい深く、中毒者たちの心をつかんで離さない……そんな知られざる名盤の数々をご紹介していきます。

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

秘密レコード_01


いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

血の繋がりって強いもので、強力な遺伝子を受け継いだ子供たちが類まれなる音楽的才能を持ち、家族でグループを結成して大きな成功を収める、そんなファミリー・グループっていうものが少なからず存在しています。
The Beach boys、Jackson 5、The Osmonds、Free Design……挙げ出せばキリがないかもしれませんが、彼らはリアルな家族であるからこそ実現し得た、一糸乱れぬシンクロにより秀逸な音楽を生み出してきたのです。

均整の取れた美麗ハーモニー、阿吽の呼吸による完璧なグルーヴ。彼らは家族であることの長所を活かし、セールス上でも大きな成功を勝ち取りましたが、そういったアカデミックな音楽的才能とはかけ離れていたものの、ある意味また異なる家族の長所を活かして、現代のヴィニール・ジャンキーの心(のみ?)を鷲づかみにする名作を生み出したファミリーもいたのです。

メジャー・レーベルから大手を振ってリリースできるはずもないほどに、耳障りで、音痴で、欠落した、音楽的常識の蚊帳の外のような音楽だったにも関わらず、家族でプレイすれば人数揃っちゃうよねというシンプルな理屈と、家族内で高め合った根拠のない自信、そしてそれを録音してリリースしちゃおうという謎の意欲とが掛け合わさって、世にも奇妙な異端レコードたちが産み落とされてしまったのです。

ということで、今回はそんなファミリーたちが遺した、愛すべきどうしようもないレコードの中から、選りすぐった名品かつ迷品をご紹介しようと思います。

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

The Shaggs『Philosophy Of The World』

発売国:US
レーベル:Third World Recordings
規格番号:TCLP3001
発売年:1969
レアリティー:★★★★★★(6/6)

この手のファミリーものの中では、圧倒的にメジャーな存在にまでのし上がった、丸ごとレジェンド・グループ。ライブをすれば観客から缶を投げつけられる、その下手すらも程遠い劣悪な演奏技術が打ち鳴らす音楽(ぽいもの)は、周りに回って今ではアウトサイダー・ミュージックの代名詞として語り継がれています。

彼女らについては散々語られているので他に譲らせていただくとして、ここではそのレコードの価値について触れておきましょう。
1969年当時、本作のオリジナル盤は1,000枚プレスされたと言われています。よくもまぁ、こんなにもひどいレコードを1,000枚もプレスしたな……という心の声が思わず口をついて出てきそうですが、その内の900枚はプロデューサーに持ち逃げされてしまったという、しっかりとしたオチが付いています。

そんなこともあって、今やオリジナルはコレクターズ・ドリーム級のプレミアムなレコードとなっています。こういうクラスになると適正価格なんてあってないようなものなんですが、ミニマム50万円以上の売値が付くプライス感ではあります。
まぁ、たしかに1枚のレコードとしては規格外のプライスですが、これを稀代のアウトサイダー・アートとして捉えれば、案外安いものなのかもしれません。知りませんけど。

ただ、バイヤーたるものやっぱり気になるのは、その所在不明となった900枚の行方です。もし、それらのデッドストックがドサッと大量に出てくることがあれば、オリジナルの市場価値は大きく下がることになるでしょう。
大枚叩いて買ったごく一部のコレクターは、今日もその情報に戦々恐々としているとかいないとか……。

 

■ The Mystic Zephyrs 4『Maybe』

発売国:US
レーベル:Two Dot
規格番号:HRH-6873
発売年:1974
レアリティー:★★★★★☆(5/6)

ごく一部では「ネクストThe Shaggs」とも呼ばれている、マクレオド4兄弟による唯一のアルバムです。確かにちょっと不安定な部分もなきにしもあらずですが、The Shaggsより遥かに演奏は上手く、なんなら音楽的にもウェルメイドな仕上がりです。

ギター、ベース、キーボード、ドラムの少年1少女3の4人編成で、全曲自作自演と高いミュージシャン・シップも発揮。キュートだけどなんだか浮き足立ったハーモニーや、細かく速く異様に切れ味鋭いドラミング等、やっぱり少し奇妙な感じはするものの、この手の自主盤がお好きな方にはちょうど良い配合率ではないでしょうか?

足元には満開の白い花、頭上には突き抜けるような蒼空、そして、楽器を手にはにかむ4兄弟。そんな健やかさが逆にちょっと怖いアートワークも秀逸なので、ぜひチェックしてみてください。

 

■ Levitts『We Are The Levitts』

発売国:US
レーベル:ESP Disk
規格番号:1095
発売年:1968
レアリティー:★★(2/6)

Sun RaからThe Fugsまで、ラディカルなアンダーグラウンド・アーティストたちの作品を次々と世に送りだしてきた、ニューヨーク発の先鋭レーベル、ESP Disk。そんなレーベルからリリースされたということもあって、サイケ的文脈で語られることも多い作品ですが、その実、本作はすこぶる熟達したプロフェッショナルが集った本気系ファミリー・アルバムです。

9人家族のレヴィットさん一家は、お父さんのアルはジャズ・ドラマー、お母さんのステラはジャズ・シンガーと、2人とも腕利きのプロ・ミュージシャン。そして、そんな音楽一家で育ったサラブレッドたる子供たち7人と本作の制作に乗り出したワケですが、ゲストにはチック・コリア、ロニー・キューバー、ピート・イエリン等々、豊富な人脈を活かしたトップ・ミュージシャンたちがこぞって参加しており、記念に家族で作ってみましたなんていうテンションじゃありません。

バチバチの最高品質モード・ジャズ、ワイルドなしわがれロッキン・ナンバー、アントニオ・カルロス・ジョビンの美麗カヴァー、そしてちびっ子テレサちゃん作詞作曲によるピアノ弾き語り等々、実にワイドレンジな音楽性を盛り込んだ、本気度100%のトータル・アルバムと言えましょう。

 

■ The New Creation『Troubled』

発売国:Canada
レーベル:Alphomega Records​​​​​​​
規格番号:NC-001​​​​​​​
発売年:1970
レアリティー:(6/6)

バンクーバーで静かに暮らす、40代も半ばにして曲を書き始めた母、たまにギターを弾く息子、そしてドラムを半年ほど叩いたことがあるものの、何となくその場に居合わせただけの女友達。そんな彼らが繰り広げたのは、余りに拙く常軌を逸したゴスペル・ロック。

仕事や家事の合間を縫いながら、週末に集まって録音すること約半年。ちょっとしたママさんの趣味みたいな、なんとも地に足が着いた本作の冒頭から唐突に聴こえてくるのは、苛烈な戦場のコラージュ、レッドゾーン振り切ったエコー・チェンバー、連呼される「ジーザス・クライスト」、「ハレ・クリシュナ」等が目まぐるしくザッピングする、過激極まりないサウンド・コラージュ。
業火に焼き尽くされた跡から聞こえてくるのは、聖堂のようなホーリーな音場感をまとった稚拙な演奏、郷愁を誘う安穏としたメロディ……。

ジーザスに救済を求めるような素朴で実直なピュアネスと、拭いきれない激情型マッドネスが渾然一体となった、アメリカ音楽史の暗部でその名を馳せる奇作です。聴けば分かる。

 

■ Jr. And His Soulettes『Psychodelic Sounds』

発売国:US
レーベル:HMM Records​​​​​​​
規格番号:SH954​​​​​​​
発売年:1971
レアリティー:(6/6)

表ジャケでギブソン・ファイヤーバードをブン回すお兄ちゃんが10才、そしてバックを固める妹たちは6才、7才、9才と、ちびっ子が過ぎる4兄妹が作った可愛くてモーレツにサイコデリックな異端アルバム。

ひょんなことから金持ちマダムにいたく気に入られた兄妹たちは、楽器を買い与えられ、みっちり練習を積まされ、気づいた頃には地元のテレビ番組に出演していて、あれよあれよという間に本作でレコード・デビューを果たしていました。

そんな経緯を聞いてしまうと、子どものままごとのようなサウンドを想像するかもしれません。たしかに彼らはすこぶるちびっ子で、スタジオ・ワークもゼロのライヴ一発撮りのような作品ではあるんですが……その演奏たるや!
終始ワウ(時折ファズ)がかけられたペナペナのギターと、奔放なオルガン×2発が縦横無尽に交錯し、ガレージーで凶暴なドラムがドライブする、キッズ・ガレージ史上最高の1枚と言っても差し支えありません。うーん、タマラン!

​​​​​​​では次回ご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千