独習ギタリストのための練習アイデアノート【Go!Go! GUITAR プレイバック】


ギターの練習をするのでも、やりかたによって上達スピードは大きく変わってくるもの。独学で練習しているギタリストが、途中でつまづいたり、余計な回り道をしなくて済むような練習方法を、演奏・教則経験豊富な著者がアドバイス。練習効率をアップさせるためのアイデアや、練習に役立つアプリ、活用方法を紹介していこう。

解説/佐々木秀尚

独習ギタリストのための練習アイデアノート(1)
 

練習に集中できる環境を手に入れる
 

 まず大事なのは、「ギターを弾こう!」と思い立ってからすぐにギターを弾ける部屋作り。できれば5〜10秒以内で音を出せる環境が望ましい。弾きたいという気持ちがフレッシュなうちに触れるかどうか、逆にそうしておかないとつい面倒くさがってギターを触らなくなってしまいがち…。よく使うギターはケースにしまわず、すぐ手の届く位置に。チューナーもクリップ型ならネックに、ペダル型ならつないだままスタンバイしておこう。都市伝説となっている「妖怪ピック隠し」の存在も無視できないので、予備ピックを財布やパスケースなど至る所に忍ばせておこう。
 エレキギターは絶対に生音で練習しないこと。アンプを通した時に強すぎる不自然なピッキングが身についてしまうため、必ずギターアンプから音を出そう。住宅環境的にアンプが無理ならアンプシミュレーター+ヘッドフォンで練習しよう。アコギもなるべく音量を気にせず、普段からしっかり鳴らせるピッキングを身につけたい。レンタルスタジオの個人練、市民センターの音楽室、カラオケルームなどもアリだぞ。

 

独習ギタリストのための練習アイデアノート(2)



PCやスマホを使いこなして効率よくうまくなる
 

 PCやスマホ、動画サイトやSNSなどギターを練習する環境は日々進化している。長所短所を理解して上手く使いこなそう。
 YouTubeなどの動画サイトは、練習中の曲のライブ動画や演奏テクニックの解説動画など、まさに情報の宝庫。動画から「教えてもらう」という受け身ではなく、上手い人との差は何かを研究し盗むという能動的な姿が大事。際限なく動画を見れてしまうため、動画ばかり見ていて気づいたらギターを全然弾いてなかった、なんてこともありがちなので、動画が終わると次の動画が再生される自動再生機能はオフにしておこう。YouTubeは【K】で再生/停止、【J】で10秒戻る、【L】で10秒進むというショートカットキーを覚えておくと、ギターを弾きながら見るのに便利だぞ。
 PC・スマホには、再生スピードを変えられるフレーズトレーナー耳コピソフトと呼ばれるアプリを是非インストールしておきたい。練習中の曲やフレーズをリスト化して、練習したいポイントを区間リピート設定することも可能。遅いテンポからちょっとずつスピードを原曲に近づけていく練習方法は効果絶大。
 メトロノームチューナーアプリも入れておくと便利。ただ、メトロノームは動作中にたいていスリープモードになってしまうので、あくまで予備用として。テンポを変えようとして、いちいちパスコードを入力し、スマホを起動したらメールが来ていてつい…、なんてのは筆者がよく陥るパターン(笑)。スマホのメモアプリにギター練習日記をつけるなども賢いやり方だぞ。

 

独習ギタリストのための練習アイデアノート(3)

▲無料でも練習にとても便利なアプリがたくさんある。いろいろと試してみよう! 

 

 

録音・動画撮影機能をフル活用しよう
 

 「ギターの練習時間は、半分はギターを弾いて、残り半分は録音した自分の演奏を聴きなさい」と言われるほど、録音は本当に上達には必要不可欠だ。スマホアプリを使えば簡単に録音可能なので、時間の半分とまではいかないまでも、是非録音して自分の演奏を確認してみよう。スマホやノートPCのカメラを使えば動画撮影もできるので、音と合わせてフォームや姿勢をチェックしよう。指の向きや角度、ピッキングする位置や振れ幅などに注目してみよう。ギターが上手い友達の演奏中の手を撮影させてもらう、スロー撮影してフォームの違いを研究する、などしてみるとホントに役に立つぞ。
 上達スピードは、自分の演奏を客観的に評価し、どこがどう弾けていないかを判断する「ディレクション力」にかかっていると言っても過言ではない。音が違うのか、リズムがズレているのか、音の長さが短いor長いのか…。どこがどうダメかを判断できる耳を鍛えることが上達への鍵。
 弾けている箇所と弾けていない箇所を分けて、弾けていないところを集中的に練習することで、練習効率は何倍にもアップする。その日の最後に「次の日通勤・通学中に聞くBGMを録る」という試練を課すと、下手な演奏は聴きたくないから必死に練習するのでオススメ♪


独習ギタリストのための練習アイデアノート(4)


独習ギタリストのための練習アイデアノート(5)


「何を練習しているのか」フォーカスをしっかり持つ
 

 練習時間同様、上達スピードに差をつけるのが練習の質。集中力が落ちてくると、つい練習のフォーカスがあっちこっち変わってしまって、効率の悪い練習になってしまいがち。まず始めに練習時間をバシッと決める(結果伸びるのはOK)。そしてその時間内で今日やるメニューを決める。音と運指を覚える、上手く弾けないところを改善する(該当箇所だけをやる、ついつい曲を“通し”でやらない)、音色を良くする、リズムを安定させる…などなど。なんとなく時間を浪費しないように、常に練習目的に意識のスポットをあてよう
 

 

【フレーズや曲の練習フローは次のように整理しよう】
 

❶ 音を覚える(譜面を見ないで弾けるように)

❷ 止まらずに通して弾けるようにする(まずは弾けるテンポでOK)

❸ 録音・録画して弾けていないポイントをチェック

❹ 弾けていないポイントを抽出し、テンポを落として集中的に練習

❺ 再び通して弾く(→③〜⑤を繰り返し)

 

 

本当の「テンポを落とす練習方法」とは?
 

 練習フロー④のテンポを落とす練習だが、大事なやり方がある。それは「10回中数回成功する→その成功率を上げていく」という練習方法はNGだということ。実はこれ、10回中7、8回弾けなくなる練習をしてしまっている!筆者はこれを「博打練」と呼んでいる。ミスが露呈している状態は、例えるなら病状が進行して症状が顕著になっている状態。もっと遅いテンポの段階で、例えばある運指に力が入っているとか、右手が無理して弾いているなど、初期症状は現れているもの。病気は早期発見・初期治療が良いのと同じで、「ミスるBPMマイナス20〜30」で成功率100%で弾く練習を繰り返そう。100%OKを繰り返す中で身体は正確な動作を覚え、脱力できるようになっていく。ここでしっかり直しておけば、BPM 20〜30テンポアップしても確実に弾けるようになっているはずだ。


独習ギタリストのための練習アイデアノート(7)

 

自分先生を育てる
 

 自分の演奏を客観的に評価し、OK/NG箇所を切り分け、練習方法を指示する。そんなもう一人の自分こと「自分先生」を育てることが、上達スピードの鍵を握っている!
 次のフレーズを練習して、自分の演奏を客観的に観察してOKポイント、NGポイントを洗い出そう。必ずメトロノームと一緒に演奏すること。ダメなところだけでなく、上手くできたところ、良いところを褒めてあげるのも大事♪(昨日より間違えずにできるようになったとか、忙しいのに練習してエライでもOK)

 

独習ギタリストのための練習アイデアノート(8)

独習ギタリストのための練習アイデアノート(9)

 

 

 録画した場合は、録音に加えて次のような項目もチェックしてみよう。
 

  左手のフォームは自然か、見たことある形か(上手い人と一緒か)
  …腕の方向、指の方向、肘の位置などに着目する

  右手のフォームは自然か、見たことある形か(上手い人と一緒か)
 …ピックを持つ親指、人差指の角度と曲がり方、ピッキングの位置、振り幅、手首の形などに着目する

 


 

独習ギタリストのための練習アイデアノート(11)

 

見られることで人は上手くなる

 

 人は誰かに見られるとなると真剣に取り組むもの。上手くなりたかったらとりあえずライブや文化祭の出演を決めてしまうなど、人前で弾く機会を作ってしまえば、あとはエンジンを点火せざるを得ない!そして緊張とプレッシャーがかかった本番中に弾けたことは、確実に自分の実力として刻まれる。これは日頃の練習では絶対に獲得できない経験だ。
 …とはいえ、「じゃあライブ組みます!」とすぐにできる人とできない人がいるし、大きな本番は大きな失敗をするリスクもある(だからこそ練習に身が入るのだが笑)。
 オススメは、日頃から小さな本番を沢山作り、やがて来る大きな本番に備えておくこと。小さな本番はその気になればいろいろ日常に転がっている。家族や友達の前でのちょっとした音出し、楽器屋の試奏、リハスタでの一発目の音出しなども、「人に聴かれる本番」だと思って真剣に弾く。ここぞという場面でミスをしない癖をつける。筆者はこのような小さな本番をチャレンジチャンスと呼んでいる。マインドの問題だが、ピンチと捉えるかチャンスと捉えるかで、もしかしたらギター人生が変わっていくかもしれない。チャレンジチャンスでは「絶対にミスってはいけない」などのルールを課して緊張状態を高めよう。
 小さな本番として最適なのが動画投稿。YouTubeやTwitter、Instagramなど、スマホで録画して投稿するまでの手順は驚くほどシンプルだ。もし上手く撮れなかったら、上手く撮れるまで100回でも200回でもやり直して欲しい。これこそが最良の練習となるはず。友達のコメントから、自分では気がつかないアドバイスがもらえるかもしれないぞ。さあ、この記事を読み終わったら、「○月○日○時に動画アップします!」と宣言してしまおう!期限を設けるのが最大のポイント。

 

独習ギタリストのための練習アイデアノート(12)

 

動画投稿のポイント
 

 ❶背景に気をつけよう 

気持ちよく見てもらえるように、背景になる部分だけでも最低限キレイに片付けておこう。うっかり映りこんではいけないモノにも注意! そう、動画投稿をはじめると部屋が片付くのだ。
 

 ❷録音レベルに気をつけよう 

ギターの音が大きすぎると音が割れてしまうし、逆に小さすぎると生音の「バチバチ音」ばかりが入った動画になってしまう。何度かリハーサルしてから撮影しよう。
 

 ❸投稿可能時間、ファイル形式を確認しておこう 

各SNSで投稿可能な動画のファイル形式、時間制限が異なるので確認しておこう。時間に関しては、YouTubeが制限なし(ファイルサイズ128GBまで)、Twitterが140秒、Instagramが60秒だ。
 

 ❹人の動画にも積極的に参加しよう 

良いコメントやいいね!が欲しければ、まずは自分が他の人の動画に積極的にコメントやいいね!を付けよう。コメントは基本褒めること。いつも良いコメントをしていると、相手も良いコメントを返してくれるぞ。

 

独習ギタリストのための練習アイデアノート(13)

 

 まとめ 
 

僕がギターをはじめた20年前に比べ、時代も変わって確実に便利なツールが増えてきました。一方で練習を邪魔する雑音や誘惑も多くなり、情報が多いぶん取捨選択するスキルも求められるようになった気がします。しかし、良い練習を沢山した人が上手くなるのはいつの時代も一緒です! 最短・最速での上達を狙って頑張りましょう!

 


 

■INFORMATION

著者プロフィール

独習ギタリストのための練習アイデアノート(15)
 

佐々木秀尚

ロックからジャズまでオールジャンルに演奏できるギタリストとして、ジャズ・フュージョンシーンを中心に精力的にライブ活動を行う傍ら、松田聖子、森口博子、真琴つばさ、majikoなどのアーティストサポート、「Girl Friend(♪)」「グ リモア」「Show by rock」 「ニンニンジャー」「ぼのぼの」「ガラピコぷ~(おかあさんといっしょ)」などの TV・アニメ・ゲーム音楽の作編曲・レコーディングに参加。ギター専門誌への執筆、ロックからジャズにわたる教則本の出版など多岐に活動している。人力で演奏不可能な楽曲を再現・演奏するバンド「有形ランペイジ」で、ポニーキャニオンより「有形世界リコンストラクション」をリリース。

 

 

(Go!Go! GUITAR 2017年8月号に掲載した内容を再編集したものです)

 


 

Edit:溝口元海