notアナログ回帰!カセットテープブームの真相 ~前編~

notアナログ回帰!カセットテープブームの真相 ~前編~

配信データ、ストリーミング、CDなど、音楽を聴く形態が多種多様化している中、レコード、さらにはカセットテープがセールスを上げているというのは面白い話だ。アラフォー以上の世代からすれば、幼少期、青春期を思い出すノスタルジックなアイテムに映るに違いない。DJユースなレコードはまだしも、MDよりも以前のカセットが売れているのは一体なぜ? と驚く人もいるだろう。今なぜカセットが注目されるのか、その真相を探っていこう。
 

カセットテープ復権は、海外のインディシーンから始まった。

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今回のテーマを紐解くために話を伺ったのは、原宿にあるレコードショップ「BIG LOVE RECORDS」を経営する仲真史さん。仲氏はもともと、90年代に渋谷の宇田川町にあった輸入盤レコードショップ「ZEST」のバイヤーであり、「ESCALATOR RECORDS」の主宰者でもあった。いわゆる渋谷系のキーパーソンのひとりである。氏が‘01年にオープンしたレコードショップが「SHOP ESCALATOR」。‘10年に「BIG LOVE RECORDS」へと店名を変え(レーベル活動も継続中)、現在進行形のUK、USのインディミュージックを中心としたフレッシュな音楽を、レコード、カセットで紹介し続けている。過去には、ソニック・ユースのサーストン・ムーアがニューヨークからレコードを注文し、ストーン・ローゼズのイアン・ブラウンなど、来日した海外ミュージャンやクリエイターが噂を聞きつけ足繁く訪れていることでも知られているショップだ。

まずは、選球眼の研ぎすまされた敏腕バイヤーの彼が、なぜアナログのアイテムを扱い続けているかを聞いてみた。

「僕は91年からレコード屋で働いてるけど、今までレコードのリリースって切れたことがないんですよ。‘01年にここでショップを始めて、最初はCDも扱ってたんですが、12インチシングルは、ダンスミュージックに限らずみんなレコードで出てたし、特に‘05年以降の、UKインディムーブメントがあったときは全部7インチが出てた。あと、レコードでしか出てない作品もたくさんあったんです。日本ではそうしたことが知られてないだけで、欧米ではずっとレコードってあったんですよ。だから、こうして新譜を扱うレコードショップとして経営が続けられているんです」

さらに、海外のインディシーンでアナログカルチャーが続いてきた背景についてを掘り下げて尋ねると、日本とは異なる状況が浮かび上がる。

「海外のインディ系がアナログを出すのって、バックボーンとしてのカルチャーとしてパンクとかニューウェイヴ、DIY的なものがあったと思います。あと、欧米のカルチャーは、アンダーグラウンドなものに対しての市民権、リスペクトがしっかりとあるんですよ。アートでも映画でもそうですけど、新しい才能、アーティストを、パトロンがお金出して育てるというのがステイタスとしてある。メジャーとインディが並列、もしくはインディが上くらいに見られている。インディのバンドがレコードやカセットを出すという文化が廃れず、今もこうして盛り上がっているのはそういうところも関係していると思います。もうひとつ、向こうは2000年代に入ってからSpotifyとか音楽がほとんど無料になったので、シングルを出すとき、どうしてもフィジカルで出さないと認められないって土壌も関係していたと思いますね」
 


では、メインテーマのカセットカルチャーについてはどうか。仲氏が肌感的にカセットの盛り上がりを実感したときのことを振り返ってもらった。

「もともとノイズ、エクスペリメンタル系のアーティストはずっとテープで出してたけど、ごく少数だったんです。で、‘08年くらいからCOLD CAVEとかカセットのリリースが目につくようになって仕入れたら、みんなが“え、カセットですか?”って言ったのをすごく覚えてます。ちょうど、マイスペースが終わりの頃。マイスペは、自分のページを持って直接カセット売ることができたんです。バンドキャンプ以前の話ですね」

インディ系のバンドが、音源をフィジカルで出すのに、カセットテープがハマったのにも理由があったという。

「やっぱりデータで儲かるのは、メジャーな人だけなんですよね。最初にカセットが売れ始めたのは、BURGER RECORDSってガレージ系だったんです。LAにBURGER RECORDS SHOPというのがあって、そこがカセットを作ってあげて、バンドがライブハウスで売るという流れがあった。バンドがツアーで回るときに、レコードだと重いんですよ。ライブだけだと儲からないからフィジカルを売るときに、レコードよりもカセットの方が楽だったんです。あと、買う方もレコードを持ってだと暴れられない。でもカセットはポケットに入れられる。そこは大きかったと思います。例えば、KING TUFFってバンドは、ファーストアルバムのカセットを3000本くらい売ってたんです。まだカセットブームの前、2000年代の後半です」
 

King Tuff

King Tuff

 

それと同じ頃、WASHED OUTがカセットテープをリリースしたことも話題になった。
 

Straight Back

Washed Out

 

「WASHED OUTも、マイスペースの後バンドキャンプなりビッグカーテルとかで自分のページを持って直接売ってましたね。やっぱりカセットは、レコードよりも作りやすいしお金がかからないですから。で、それをみんながやり始めた。まずレコードの前にカセットを出すという流れが、‘09年くらいに始まったと思う。それが、現在につづく近年のカセットブームの始まりだと思います」


カセットテープの広がりは、配信だけではなく“フィジカルで欲しい”という人間の欲求が根底にあるように感じられる。

「それはありますね。あと、レコードだとプレスは300枚以上だけど、カセットだったら25本でも10本でもいいし。それはバンド側にとって大きかったんじゃないかな」

とはいえカセットテープは、レコードよりもマイナーな存在であることは間違いない。現在はすでにブームが定着。その波は若者世代に移行しつつあり、アナログ回帰ブームの一現象として語られることも多くなった。市場の広がりとともにカセットの制作はコストダウンできるようになった。

「やっぱり、いつの時代でもリスクが伴わないものは、時代、文化の牽引者にはなれないんですよ。今みたいにカセットが広がる前は、カセットで売ることにはリスクがあった。ちょっと前に戻ると、ピッチフォークは、データでしかリリースしていないアーティストは紹介してくれなかった。でもカセットを50本でも100本でも出していると紹介してくれていたんです。それは、カセットを出すことにリスクがある、それをリスペクトするっていう文化を編集部が分かっていたからですね。CDしか出さないヤツはダサいって感じで紹介されなかった。だからレディー・ガガもレコードを出すようになったしね」

リスキーなカセットというアイテムで勝負することが、アーティストの姿勢としてリスナーの判断材料になっていたわけだ。

「で、2010年代の前半から大きく盛り上がり始めて、カセットが一番売れていたのは‘15年かな。インダストリアル系でも、自分たちで100本ネットで売ると数分で売り切れていた。ネットで出して、パッと売り切れるのがかっこいいってところがあったと思います」

そうした海外の動きが、日本でも広まっていったのが現在の状況につながっている。

「日本でもカセットブームと言われるようになったのが、ここ2〜3年くらいですよね。ただ、広まったからこそ、今ではカセットを出すのがリスキーなものではなくなったんですよ。今は、海外も日本も含めて、誰でもカセットを出せる環境が整った。こうしてカセットの取材が来てくれるように、ある程度の市民権を得ている。なので、カセットが特別なものという意識はなくなりましたね。でも、それでいいと思うんです。レコード、CD、データがあって、カセットもあるって、聴き手の選択肢が広がったってことでもあるので。全部共存してるというのが健全だと思うんです」
 

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日本では、まだまだこれから浸透していきそうなカセット・カルチャー。最後に、カセットテープが魅力的なものとして広まっていった真相について、改めて仲氏の意見を語ってもらおう。

「カセットでもレコードでもそうですけど、データよりもめんどくさいものじゃないですか(笑)。いろんなものが簡略化されていく中で、逆にカルチャーってひと手間あるものの方が何かを感じ取りやすいと思うんです。ただ、そこをレトロで終わらせるのは違うと思います。それを言うのは上の世代で、若い子からしたら知らない新しいものだから、レトロでもなんでもないし(笑)。音の柔らかさとか、それもあるかもしれないけど、でもオレはそんなところでみんなグッときてるんじゃないと思うんです。例えば、さっき言ったみたいに、ライブハウスに行ってカセット買ったとか、お店でもバーッとカセットが並んでて、おっと思って買ったとか、自分の行動が付随してる。だから、カセット自体の魅力というよりも、そこに至るまでの経験とか体験とかも含めて魅力になって、広がっていったんじゃないかなと思いますね」
 

仲氏によるピックアップ3本

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HELM『RAWABET』
「HELMはイギリスのアーティストで、去年来日公演をやったんです。そのときにBIG LOVE RECORDSから、向こうでレコードで出てるアルバムを、カセットにして50本販売したんです。ジャケットも、日本っぽくカタカナで書いたりすると外国人が反応するし。カセットはそういうことやりやすいですね」 

 

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PAUL McCARTONY & ELVIS COSTELLO『DEMO』
「今年のレコード・ストア・デイで、ポール・マッカートニーが出したカセットです。ポールはノイズとかやったりするし、アンダーグラウンドの文化がわかってる人なんですよね。大メジャーな人が、遊び心でこういうものを出してくれるとカルチャーとかシーンが広がる感じがしていいなと思います」 

 

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SOPHIA『THE COLLECTIVE WORKS 2000-2003』
「これは正直オススメってわけじゃないんですけど、カセットってこうした4本組とかも多いんです。うちのレーベルでも何度か作ったことがあります。それは、このカセットが入るケースが今もデッドストックで存在するからなんです。これって、昔あった教材用のテープのケースなんですよ。カセットでは最高6本組とかありました。こうして何本組とかで、限定感を作れるのはありますね」



BIG LOVE RECORDS
http://www.bigloverecords.jp/
住所:東京都渋谷区神宮前2-31-3 3F-A 
電話番号:03-5775-1315
営業時間:15:00~20:00(月)、13:00~22:00(火~日)
問い合わせ:order@bigloverecords.jp 

Text&Photo:土屋 恵介
Edit:仲田 舞衣