ナイス♪女性ボーカル Cute Voice編 10選【百歌繚乱・五里夢中 第26回】


引き続き、女性ボーカル・シリーズ、今度は「Cute Voice」です。「キュート」はよく使われる言葉ですし、イメージしやすいですよね。それゆえに、なのか、意味が広い。「cool」がいつのまにか、「かっこいい」という意味で使われるほうがふつうになっていたり、「bad」が正反対の「good」の意味をさしたりするように、シンプルな言葉はだんだん意味が広くなりがちです。たとえばこれまでに見てきた「funny」や「ほっこり」だって、「キュート」と言えなくはないだろうし、そもそも女性ボーカルって"キュートさ命"でしょ、とも思ったりします。

私の「Cute Voice」

 

というわけで、ちょっと的を絞りたいと思います。
まず、ストレートな感覚に限定したい。たとえば、「フレンチ・ブルドッグはあのブサイクさが可愛い」というような屈折した感じ方はなし、ということです。ブサイクはブサイク。
その上で、「キュート・ボイス」とはどんな特性を持っているのでしょう。
ちょっと考えると、「まろやか」で「つややか」で「かろやか」な……なんて言葉が出てきたのですが、でもこれらって、いいボイス、いいボーカルの必要条件であって、「キュート・ボイス」にだけあてはまるものではなさそうです。
でもって、もう少し考えたら、「若さ」とか「初々しさ」みたいなことかなぁと思いました。どんな歌手も、年を経るうちに、少しずつ声が変わっていきます。声の"良し悪し"については、人の好き嫌いですので、置いといて、若いうちの、まだあまりこなれていない、荒削りだけれども、エッジが立って元気な声が、「キュート」さに結びつくのじゃないかと。まぁ私の感覚ですけどね。
だから、ここでピックアップする「キュート・ボイス」の多くは、同じ一人のシンガーでも、いつでもそうなわけではなく、新人時代の限られた期間における声ということになります。なんだか儚い、それでいて甘酸っぱい、「青春」という言葉の響きにも似た、かけがえのないものなのです。

 

ナイスなCute Voice 10人じゃなくて10曲

 

①小柳ルミ子「わたしの城下町」(1st シングル:1971年4月25日発売)

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いきなりのこの人選にちょっと驚いた人もいるかもしれません。でも前述しましたように、同じ一人のシンガーでも変わるのです。小柳ルミ子さんも初期の2年くらいは実にキュートな声でした。何を隠そう、私が初めてファンになった女性歌手が彼女です。彼女が「わたしの城下町」でデビューした時、私は高校2年でした。天地真理、南沙織とともに"新3人娘"なんて呼ばれ、中ではルミちゃんが、持ち歌がやや演歌調ということもあって、いちばん田舎っぽい、イモっぽいとされていましたが、そんなの関係ない。小遣いを工面して写真集を買ったのは、私の人生で唯一彼女だけです。
さて大学卒業後、渡辺プロダクションに入社した私は、見習いで小柳さんの仕事に同行しました。もちろん既に、ファンだった頃の熱情は思い出でしかなかったのですが、ある時、楽屋で2人だけになり、何も話さないのも気詰まりなので、「あのー、実は学生の頃、大ファンでした」と言ったら、即座に「今はどうなの?」と真顔で切り返され、その時はキャンディーズの蘭ちゃんのファンでしたが、「あ、今ももちろん好きです!」と嘘をついてしまいました…。
彼女の歌声は、ファルセットがとてもふくよかできれい。地声は使わずに全面ファルセットのような感じですね。声質そのものもユニークだし、歌唱力もありました。
この曲はデビュー曲にして、オリコンで通算12週も1位に居座り、それは現在に至るまで、女性歌手では歴代1位の記録だそうです。時あたかも「ディスカバー・ジャパン」がブームでした。

 

 

②キャンディーズ「年下の男の子」(シングル:1975年2月21日発売) 

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というわけで、話の流れから次はキャンディーズです。実は私が渡辺プロに就職したのは、蘭ちゃんに会いたかったから、と言っても過言ではありません。「そんなふざけた理由で、だいじな就職先を決めるバカがいるのか?」と笑われるでしょうが、渡辺プロ自体、話の種程度の気持ちで受けたのです。結果的に、出版社などまともな志望先はみんな不合格になり、渡辺しか通らなかった。ところが入社した1978年の4月に、後楽園球場で解散コンサートです。新入社員の研修として、それを観に行かされまして、それはラッキーだったのですが、結局蘭ちゃんとは一度もお会いしていません。
5th シングル「年下の男の子」。この曲から蘭ちゃんがリードボーカル&センターになり、初めてのトップ10ヒットとなりました。キャンディーズがステップアップした記念すべき曲です。私もこの曲から蘭ちゃんのキュート・ボイス&ルックスに魅せられました。アトランティック・ソウル・テイストに溢れるグルーヴィなサウンドと歌謡曲メロディの取り合わせもナイスでした。

 

 

③Taylor Swift「Shake It Off」(シングル:2014年8月18日発売/from 5th アルバム『1989』:2014年10月27日発売)

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「シェイク・イット・オフ~気にしてなんかいられないっ!!」と、久々に"邦題"というものがつけられて日本でも話題になった曲。当世音楽畑の稼ぎ頭、テイラー・スウィフト嬢であります。そのハリのある元気でキュートな歌声は、まだバンジョーでカントリー感が漂っていた2008年の「You Belong With Me」あたりから気になっておりましたが、完全に打ちのめされたのはこの「Shake It Off」ですね。前アルバム『Red』から関わり始めたポップ・マエストロ、マックス・マーティンが曲作りとプロデュースにガッツリ入り込んでもたらした最高にキャッチーな傑作ポップス。マーティンは、バック・ストリート・ボーイズ、ブリトニー・スピアーズ、ケイティ・ペリーらに多くのヒットをもたらし、全米No.1曲の数で、ジョージ・マーティン(奇しくも同姓だ!)の記録を塗り替えようとしているスウェーデン人プロデューサーです。
ポップス誕生から200年。もうさすがに出尽くして、画期的に新しいポップスなど出てこないのではないか、などと憂えておりましたが、この曲、特にサビの"Shake, shake, shake…"の連打は実に新しかった。マックス・マーティンの発想の面白さと、それを輝かせるテイラーのキュート・ボイス、どちらが欠けても生まれなかった名作です。
 

 

 

④太田裕美「青い傘」(from 5th アルバム『12ページの詩集』:1976年12月5日発売)

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どうでもいい話だけど、伊藤蘭と太田裕美と私は同学年なのです。彼女たちは早生まれなので生年は1年違うんだけど。何が言いたいかと言うと、くり返しになりますが、声はやはり変わるということで。太田さんは今のほうが輪郭がクリア。よりくっきりしっかりして、パワフルではあるのですが、若い頃は、その輪郭にあった、ちょっとカサッとした成分が、なんとも言えない味を出していて、それがとてもキュートでした。わかるかなー…?
この曲は作詞・作曲がユーミン。私より学年ひとつ上で、太田さんのちょうど1年+1日前に生まれたユーミンさん、この曲が入ったアルバム『12ページの詩集』の発売の6日前に結婚式を挙げていますが、クレジットは荒井由実です。松任谷になってからさらにビッグスターになっていったユーミンですが、作曲能力という点では、やはり荒井時代は神がかっていると思いますね。この曲はユーミン自身、できれば渡したくなかったというくらい気に入っていたそうですが、ほんとにいい曲。何度聴いても、聴くたびに涙が出そうになるんですよ。

 

 

⑤伊東ゆかり「恋のしずく」(シングル:1968年1月20日発売)

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この人が毎週のように「夜のヒットスタジオ」に出演していた頃が、歌謡曲の黄金時代だったと思います。レコードなど持ってなくても、その頃のヒット曲ならたいてい、今でも歌えます。少なくとも1番くらいは、歌詞も覚えています。私が特別ではなく、私の世代の人はみんなそうでしょう。それくらい世の中に浸透していた。まさに"流行歌"だったのです。
この曲もそんな流行歌のひとつ。中でもかなりの名曲だと思います。なんと、「わたしの城下町」と同じ、作詞:安井かずみ/作曲:平尾昌晃のコンビ。さすがですねぇ。さらに編曲:森岡賢一郎も同じ。スパニッシュ・ギターのソロもあるラテン・サウンドという粋なアプローチは日本レコード大賞の編曲賞をゲットしています。
伊東ゆかりさんはキュートな歌声とたしかな歌唱力を兼ね備えた人でした。さほど美人というわけではありませんが、キラキラと光る澄んだ瞳が印象的で、テレビで拝見するのが楽しみでした。

 

 

⑥Connie Francis「Lipstick on Your Collar(カラーに口紅)」(シングル:1959年6月発売)

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伊東ゆかりや弘田三枝子はよく洋楽カバーを歌っていましたが、この曲もきっとやっていたことでしょう。またこの曲へのオマージュで、ラッツ&スターが歌った「Tシャツに口紅」(作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一、1983年)という曲がありました。声もルックスもキュートな大スターだったコニー・フランシスと、彼女が歌ったポップソングは、日本のポップスに多大な影響をもたらしています。
彼女はイタリア系アメリカ人。"Four Seasons"のフランキー・ヴァリなんかもそうですが、50〜60年代の米国のポップシーンではイタリア系の人がずいぶん活躍しています。
作詞:エドナ・ルイス(Edna Lewis)/作曲:ジョージ・ゲイリング(George Goehring)。彼らは、ニューヨークのブロードウェイ49丁目にあったブリル・ビルディングで働くソングライターたちの一員でした。このビルには多くの音楽出版社が集まり、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィンを初めとする有能なソングライターたちが競いながら、ヒット・ポップスを量産していたのです。
詞とメロディの完成度も高いですが、コニーのゴムまりのように弾む歌唱とロックンロール・ビートは相性バッチリですね。絡みついてくるギターもいい。いわゆる"ゴキゲンなナンバー"ってやつです。
 

 

 

⑦The Ronettes「Be My Baby」(シングル:1963年8月発売)

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60年代のキュート・ボイス、白人代表がコニー・フランシスなら、黒人代表はこのロネッツのヴェロニカ・ベネット(Veronica Bennett)でしょう。ちょっとドラえもんが入った(?)特徴的な声は「Funny Voice」に入れてもよかったのですが、キュートでセクシーで、一度聴いたらヤミツキになること必至。それに加えて、歌唱のリズム感が素晴らしいのです。ちょっとネットリひっぱりながら、でも全体的には軽やか、その絶妙なグルーブは彼女だけのものです。
またこの曲は「Wall of Sound」と呼ばれる、プロデューサー、フィル・スペクターが作り出した音世界を代表する曲でもあります。これは、モノラルでも広がりを感じる音を目指したもので、その真価はモノラルで聴かないと分かりません。私は以前一度だけ、超高級モノラル・オーディオシステムで、この曲のドーナツ盤を聴かせてもらったことがありますが、本当にぶっ飛びました。そして音が大き過ぎたのか、Wall of Soundのせいか、途中でアンプのヒューズもぶっ飛んでしまいました。
曲はスペクターと、やはりブリル・ビルディングで活躍したジェフ・バリー&エリー・グリニッチが共作しています。
 

 

 

森高千里「雨」(11th シングル:1990年9月10日発売/from 5th アルバム『古今東西』:1990年10月17日発売)

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私の"押しアイドル"ヒストリーでは、蘭ちゃんの次が森高なのです。その間ずいぶんブランクがありますが。
最初に知ったのはなんかテレビの深夜の音楽番組。彼女のライブを放映していましたが、「姿勢のいい娘だな」が第一印象でした。背筋がスラッと伸びている人は見た目のカッコよさだけではなく、ふだんの生活態度もちゃんとしているんだろうなと思わせますね。
さてこの曲、詞曲はいいのに、サウンドがひどいと思っています。シンプルにオーソドックスにピアノとギターとパーカッションくらいでやればよかったのに、シンセが過剰に入っている。それも安いデジタルシンセの大味なフレーズの応酬で、かなりウザいです。
と思っていたら、この曲いろんなバージョンがあるみたい。ロックバージョンとか、アコースティックバージョンとか。ロックはちっともよくなく、アコースティックは生ピアノと生ギターのみなので、まぁホッとした。アルバム『mix age』に入っています。
さらに、『デビュー25周年企画 森高千里 セルフカバー シリーズ』というのがあって、2013年に自らカバーをしていました。声が変わっているだろう、たぶんキュートさは消えているだろうなと思いつつ、聴いてみたら、意外にもほとんど変わっていませんでした。いい意味で、巧くなっていない。これは珍しいケースだと思います。ただし、やはりシンセとかムダに入っていまして、そこはどうも。私にプロデュースやらせろ。
 

 

 

⑨Madonna「Holiday」(シングル:1983年9月7日発売/from 1st アルバム『Madonna』:1983年7月27日発売)

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マドンナの場合、どんどん、「すごい」という言葉が似合うようなシンガーになっていきますので、キュートだと思うのは、最初の2枚のアルバム『Madonna』と『Like a Virgin』くらいなんだな。レベッカのノッコが一所懸命マネていた頃ですね。マドンナはけっこう低い声もよく使うけど、それもあの頃はちょっと突っ張ってるみたいで、かわいかった。体型もポチャっとしていて、愛らしかった。
アルバムの中でこの「Holiday」だけをプロデュースしているのが、ジョン・ベニテス(John Benitez)、通称"Jellybean"。その後、主にリミキサーとして大活躍をする彼ですが、それまでプロデュースをやったことがなかったそうです。"G-A-Bm-Bm-G-A-F#m-G"で4小節、これのくり返しの上に、"ラ-ララ-シ-"というメロディがくれば、もう「Holiday」でしかない。誰か同じようなことをやれば「Holiday」のマネだと言われるでしょう。シンプルでキャッチーなのは無敵ですね。6分もある曲ですが、全然飽きません。見事な初プロデュースでした。
 

 

 

⑩Sheryl Crow「Good is Good」(シングル:2005年9月発売/from 5th アルバム『Wildflower』:2005年9月27日発売)

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シェリル・クロウは"パワフルなロック姐さん"というイメージをお持ちのかたが多いのではないでしょうか。でもその歌声自体はとてもキュートです。キュートなのに強靭な芯があって、バネのようによくしなる、スペシャルな声です。ヘヴィなロックサウンドにキュートな歌、この取り合わせが、シェリル・クロウ音楽の魅力だと思います。
今回、キュート・ボイスには"若さ"が必要だとしつこく言ってきましたが、彼女は1962年生まれなので、この「Good is Good」の時は、43歳。なかなかの"ええ歳"ですが、まったく問題なし。むしろ以前よりキュートさが増しているような。素晴らしい例外です。
この曲のミソは、サビ前のメロディ、一旦音を伸ばして終わりかと思ったら、くるっともうひと押しやってくる、そこの、都はるみにも勝てそうな、絶妙なコブシ!これを聴くたびに私は幸せになります。
 

 

 

 

以上、ナイスな「Cute Voice」女性シンガーたちでした。
思いつくままに選んだだけですが、こうしてみると、大成功した人ばかりですね。キュート・ボイスはやはりもてるのか。いや、たまたまこれらの人はルックスもキュートだから人気を得たのか。
でも、声がキュートってことは、骨格的に、ルックスのキュートさにつながっていて、結局、キュート・ボイスが勝因と言えるのでは?……どうでもいいか。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪