ヤマハ「DX7」と「reface DX」比較レポート!「DX7」篇

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「DX7」はなぜ一世を風靡した?音色からビジュアルまでを徹底解剖!

ヤマハから2015年に「reface DX」(リフェイス・ディーエックス)が発売されたのは記憶に新しいところです。進化したFM音源を搭載し、歴代の「DX」シリーズに比べ、より感覚的に音色を作る事ができ、音作りの幅が大きく広がった現代バージョンのDXといえるシンセサイザーです。この度、「DX」シリーズの進化をより詳しく解明すべく、シリーズ初代である「DX7」(ディーエックス・セブン)と「reface DX」をそれぞれ入手、2回にわたり比較レポートをお届けする事になりました。今回は1983年に発売され一世風靡し、その後の電子楽器に大きな影響を与えたフル・デジタル・シンセサイザー「DX7」を改めて徹底解析します。

「DX7」とは?

1983年に、ヤマハから世界で初めてのフル・デジタル・シンセサイザー「DX7」が発売され、30年以上が経ちました。「DX7」は、それまでのアナログ・シンセサイザーと比べ、あらゆる面でカッティング・エッジな存在でした。当時は、シンセサイザーの発展に伴い、音楽そのものが進化していた時代でした。そんな中、「それまでのアナログ・シンセとは明らかに異なる音色、音楽表現が可能なFM音源」を、「イニシャル・アフタータッチによるアコースティック楽器に匹敵する演奏表現が可能なキーボード」で、「16音ポリで弾ける」、しかもその音色が指一本で呼び出せるという、画期的でありながらリーズナブルな価格で発売され、従来のアナログ・シンセでは出す事ができなかったきらびやかな音色は、坂本龍一の『未来派野郎』に収録されている“黄土高原”や、ハワード・ジョーンズの『HUMAN'S LIB』に収録の“What is Love”などで使用されるなど、そのデジタルでシャープなサウンドは80年代の音楽シーンに大きなインパクトを与え、一大シンセサイザー旋風を巻き起こす程の人気だったのです。

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こちらがヤマハ「DX7」です。そのデザインは、従来の「木のサイドパネルに黒の操作パネル、そこにたくさんの操作子」というアナログ・シンセのUIと全く異なる、直線を基調としたダーク・ブラウンのボディーと、当時のPCのモニターの表示色が緑だったことから付けられたという色鮮やかなグリーンのボタン。またパネル上には、音色を保存するためのカートリッジの差込口や、ユニークなFM音源の仕組みをビジュアル化した、アルゴリズムやEGカーブなどの図、そしてシャープにデザインされた「DX7」の大きなロゴ。進歩したLSI技術により、本体内の回路もUIも最小限におさえられ、ボタンがたくさん付いた角ばった四角い箱のようなデザインは、鍵盤のついたビンテージ・パソコンのように思えて来ます。

さっそく音を出してみてまず感じたのは、音に厚みと重みがあり力強く、きれい過ぎないところにもビンテージのハードウェア製品ならではの魅力を感じます。鋭くてアタック感がある、2番のブラスや9番のピアノ、そして「ゴリッ」とした15番のベースなどは、存在感と説得力があります。これらのプリセットの音色はヤマハとつながりのある世界中のミュージシャンが数百という音を制作し、それをベースに選定とブラッシュアップが行われ、最終的な部分は、デビッド・ブリストウ氏、ギャリー・ルーエンバーガー氏、福田裕彦氏、生方則考氏の4名を中心に決定されたといいます。その順番も、インパクト重視のSE的な音色よりも、実際にキーボーディストが弾いて「よく使う、使える、使って欲しい」音色が初めの方に出てくるように並べてあるのだそうです。

ここで「DX7」がどんな音色なのか気になるという方のために、一曲演奏させて頂きました。打ち込みパートは他のソフトウェアで制作しましたが、手弾きパートは「DX7」の音色を使いプレイさせていただきましたので聴いてみてください。

▼YAMAHA『DX7』 DEMO PLAY


「DX7」の特徴的な機能

液晶ディスプレイ

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「DX7」の中央に配置された液晶ディスプレイは、音色名を表示し、作った音色に名前を付けたり、エディット中のパラメータを見るための物で、今では当たり前のように思えるかもしれませんが、当時は画期的な機能でした。それまでのシンセサイザーは、本体にたくさん並んだツマミやスライダーをセッティングして音を作っていたので、パラメーターの数値や、音色名を表示する機能はなかったのです。たくさんあるパラメーターを画面上に一つずつ呼び出してエディットする事で、膨大なパラメーターをシンセ本体に並べる事なく、ツマミ類がいっさい付いていない、シンプルな「DX7」のデザインが実現しているのです。


カートリッジ・スロット

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また、カートリッジ・スロットが付いている事も「DX7」の魅力的な要素の一つです。カートリッジを差し込み、自分で作った音色に英数字10字までの好きな音色名を付けて保存したり読み出したりする事が可能で、32個のプリセット音色に加え、ROMカートリッジを使用する事で音色を増やす事ができます。当時、坂本龍一や、向谷実といった有名アーティストが制作した音色が入ったカートリッジも販売され、アマチュア・ミュージシャン達にとても注目されていました。


MIDI

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そして「DX7」には83年に規格が制定されたばかりの、MIDI(ミディ)がいち早く搭載されていました。MIDIとは演奏データを楽器間でデジタル転送するための世界共通規格で、「DX7」と外部のシーケンサーをMIDIケーブルで接続し、打ち込みで自動演奏すれば、FM音源のシャープなサウンドと、機械的なシーケンスを組み合わせた、エレクトロニック、ダンス系のサウンドを作る事ができたのも、「DX7」が80年代に注目された大きな要素だと言えます。試しに、MIDIケーブルでパソコンと接続した「DX7」のキーボードから打ち込みをしてみたところ、鍵盤のタッチが良いので入力しやすく、「DX7」を外部音源にしてシーケンス・データを鳴らすと、存在感のあるサウンドでタイミング良く鳴ってくれました。


鍵盤

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「DX7」は鍵盤の弾き心地がとても良いです。鍵盤を軽く指で押すと「ストン」と沈み、離すと軽やかに戻ってくる感触はずっと弾いていたくなります。鍵盤を弾いた時の強さによって、音の強弱をコントロールするFM音源の特性を最大に活かすために、プラスチック、バネ、おもりを組み合わせて作られた、FS鍵盤というセミウェイト鍵盤を採用し、程よいアタック感と、吸い込まれるようなタッチを実現してあるそうです。このFS鍵盤は、元々エレクトーンに使われていた技術で「DX7」以来ヤマハのフラッグシップ・シンセサイザーに20年以上も採用され続け、多くのミュージシャンに高く評価されています。


FM音源

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「DX7」は、6オペレータ32アルゴリズムのFM音源を内蔵し、同時に最大16音出す事ができます。FM音源は、アナログ・シンセには出せない複雑な倍音を持つ、金属的な音を作る事ができます。当時「DX7」はエポックメーキングな機種でありながら比較的リーズナブルな価格だったので、アマチュアからプロまで瞬く間に人気となり、世界的に大ヒットしました。発売された当時は、ツマミがたくさん付いてるアナログ・シンセが主流でしたので、このルックスはかなり斬新だった事でしょう。それに触発された他のシンセ・メーカーも、低コストな電子楽器を多数発表し、その結果、世の中にデジタル・シンセサイザーが爆発的に広がって行ったのです

「DX7」が音楽界にもたらしたもの

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「DX7」はあっという間に世界中に受け入れられ、80年代のミュージック・シーンをリードしました。現在のシンセサイザーの基本的な機能や、ユーザー・インターフェースは「DX7」に盛り込まれていたアイデアがルーツになっているといっても決して大げさではないのです。「DX7」本体の開発段階では、LSIの進化や、元々エレクトーン用に開発していた鍵盤の完成、MIDIの採用など、とても良いタイミングで進んだそうですが、その前の段階で、FM音源を「シンセサイザーとしての音作りの幅広さをもつもの」として開発するのには、1974年頃に始まったプロトタイピングから、非常に多くの試行錯誤があったそうです。一世を風靡した「DX7」の登場は、音楽シーンや、シンセサイザーの進化の方向性を劇的に変化させた重要なターニング・ポイントでした。MIDIケーブルを接続する電子楽器の使い方や、パソコンを使った曲作りを普及させるなど、現在の楽曲制作スタイルの基礎を築きました。「DX7」はその後の電子楽器や、音楽シーン、世の中に大きな影響を与えたのです。

 

次回は復刻版「reface DX」を徹底解剖

さて次回は、ヤマハから2015年9月に発売され、コンパクトなサイズながら優れた演奏性を実現し、場所を選ばず楽しめる事で大人気の「Reface」シリーズ、その中でも、往年のDXサウンドから最新のFMサウンドまで搭載した現代のDX、ヤマハ「Reface DX」のレポートをお届けしたいと思います。

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往年の「DX7」に比べ、いったいどのくらい進化した製品なのか、次回もお楽しみに!