INORANと酒の幸福な関係 【My Favorite Things】


3月12日、アジア最大級のテキーラ&メスカルの祭典「TEQUILA FESTA 2017 in TOKYO」に、テキーラマエストロでもあるINORANが登場。お気に入りの銘柄をストレートで飲みながらテキーラ愛を語る姿は、クールな外見からは想像もつかないほど熱く、「Salud(サルー)!」の合言葉に、会場の熱気は最高潮に高まったのだった。そんなINORANの〝My Favorite Things〟テキーラから、現在の愛器ジャズマスターへの思いに、氏のアンビエンス感溢れるギターサウンドに多大な影響を受け続けているという気鋭のミニマルテクノアーティストAKIKO KIYAMAが迫った。

INORANを構成する テキーラ、ジャズマスター、音楽。その全てはコミュニケーション


—私は、クラブカルチャーという割とお酒と密接な現場でのプレイが多い割に、お酒が苦手なため……是非、魅力を教えて頂きたく。ライブ前にショットで4杯飲まれるとか?

どんなガセですか?

—え! ガセなんですか?

嘘です。飲みますね(笑)

—テキーラに限らず、基本的にお酒がお好きですか?

そうだね。やっぱり一人で飲むというよりも、真ん中にお酒があるというか、みんなと一緒にいる時に付随しているもの。食べ物もそうだったりするのかもしれないけど、お酒を飲んで友達や知り合いといる空気が好きなんですよね。だから、そこにもお酒があるというか。

—お一人で家で飲むというよりも?

うん。やっぱり誰かと一緒の方が断然美味しいと感じる。とはいえ、家でも飲むけどね(笑)。曲作ってる時とか、昼間でもちょっとフックが欲しい時はワインだったり、ランチでシャンパンとかもいいよね。夕方だったら、テキーラがいいかもしれない。僕、ソロでの活動が、今年でちょうど20年になるんですけど、LUNA SEA以外に、TourbillonというRYUICHIとやってるユニットと、他にMuddy Apesというバンドもやっていて。そのメンバーとフロリダでレコーディングした時に、お酒と音楽と時間の関係というか、僕らの生活しているお酒と音楽と時間の付き合い方と違う経験をして、まぁぶっちゃけて言うと常に飲んでるんですよ(笑)。彼らにとって、ビールは水なんですよね。本当に、水みたいな感覚。そういう中で、みんなで乾杯したり、良い音楽ができた時と、酒があったことっていうのは記憶に直結するっていうかさ。飲むとハッピーになるっていうんじゃなくて、それを思い出すっていうかね。

—それほど強烈な体験だったんですね。

そうですね。やっぱりMuddy Apesをやって、良い影響なのか悪い影響なのかはよくわからないですけど、ライブ前に数杯飲むのも、それは(彼らと出会った)後ですね。日本人的にはさ、なんとなく本番前に飲んでしまうと、真面目じゃないんじゃないかってあるじゃないですか。ミュージシャンとしても。でも、もっとフランクでいいのかなって。

—飲み方が大事なのでしょうか?

それはあるかもね。ベロベロになっちゃしょうがないし。あくまでも楽しく飲むっていうのが基本だよね。あとは、感覚。ライブ前は、気持ちをあげるために音楽かけて、飲んで、ぴょんぴょん飛びながら準備運動をして…って感じで。やっぱり、お酒があるとポジティブな方に持っていくきっかけになる。

—お酒での失敗とかはないのですか?

うーん。最近はそんなにないですね。昔は、飲みすぎちゃって…というのはありましたよね。次の日にジャケット撮影があるって分かってたのに…。まぁ、どの作品がとは言えないですけどね(笑)。あとは、やっぱり良いお酒は美味しいだけじゃなくて、二日酔いにならないっていうのもあるかもしれないですね。

INORAN(1)

—テキーラと言うと、どうしてもショットでバーン! といった、激しいイメージが強くて。でも、今日のイベントで見て、色んな種類があり、飲み方も様々でお酒が苦手な私でも美味しいと思うものがありました。

ショットは罰ゲームって印象でしょ? そういう人は、是非パトロンを飲んでみると良いですよ。テキーラの概念が変わると思う。これもやっぱりMuddy Apesのレコーディングの時に出会ったんだけど、収穫までに10年くらいかかる最高品質のブルーアガベだけを使っているから、希少性はもちろんだけど、味わいが本当に豊かで美味しい。あと、今日のテキーラフェスタもそうだけど、テキーラに集まる人って、とにかく皆ハッピーなんだよね。テキーラを好きになった理由は、それも結構大きいね。僕は、お酒に限らず何でもそうなんだけど、そのものを好きになると、それを作ってる人、それを扱ってる人も好きになるっていう傾向がある。洋服もそうだし、フェンダーもそうだね。

—ジャズマスターについても気になっていました。例えば昔はフランジャーとかモジュレーション系のエフェクトがガッツリかかる時期が結構あったと思うんです。でも最近の傾向として、ジャズマスターになってからよりギター自体の良さを引き出すというか、ギターの本来の音を鳴らそうという心がけになってきているのかな? と。

そうだね。ジャズマスターを使うようになって、フェンダーの人と会ったりとか、ファクトリーの人と会ったりすると、やっぱり作ってもらったものをもっとも良く鳴らしたいと思う。ジャズマスターを自分なりに最大限に引き出す。そういうことだね。

—私は、INORANさんのギターサウンドにおいて「最小限の手数で最大限の効果を出す」という部分がとても印象的で、かなり影響を受けています。例えばLUNA SEAの曲で「FALL OUT」や「TWICE」のように、ループのようなアルペジオを楽器奏者の人がやるっていうのは私の中ですごく革新的だったんです。そこはやっぱり音楽を作る際に、曲がなにを欲しているかっていうのを一番先行して考えて、一方で自己を抑制するような部分が働いているのかなというのが少し気になっているんですけれども、いかがでしょうか。

基本的には曲が求めるっていうことを信じてやっていますけど、そのスタイルが俺のスタイルとかだとしたら偶然できたものですよね。LUNA SEAという5人の中に、手数が多い人が4人いたってことですよね。動物でもそうだと思うんですけど、置かれた状況の中で生きていくために自然となったっていうか。

—「FACE TO FACE」など、音数こそ少ないけれど曲のパートごとにタイプの違うアレンジがあり、特に後半では開放弦を使ったアルペジオが非常に効果的に音域を広げているなと感じています。私はミニマルをやっているのもあって、結構音数が多くなってしまっていらないものをどんどん捨てなきゃって思ってやってきてるんですけど、逆に、減らすことっていうのは難しく感じます。それが自然とバンドの編成の中の自分の居場所ということでできあがってきた、ということでしょうか?

だと思いますね。バンドが自分のフィールドだとしたら、その当時ね。生きるためにはそうするしかなかった。その方法論しかなかったというか。だから本当に偶然ですよ。それやってみたら面白かったというのを突き詰めていって、ループループな方にいったというか。あとはその性格ですね、俺の。やっぱり……

—フラット?

そう。フラットだし、ギターソロも、そんなにギターギターしてないっていうか。あんまり好きじゃないっていうかさ。それは、今でもそうなんですけどね。まぁ本当に自然に、そんな計算してやっていないというか、行き当たりばったりが積み重なって今のスタイルというか、いわゆる「っぽい」っていうことになるのかなとは思いますけど。

INORAN(2)

—アルペジオはINORANさんのすごく有名な部分だと思うのですが、実はリズムがすごく面白んじゃないかと思っていまして。コードに沿ってタンタンタンって弾かれることもあるのですが、コードの中から2、3音とってきて結構リズムを作っているなという印象があるんですが、ああいうリズムもバンドであわせたりとか、音を鳴らして生まれているんですか?

そうですね。その頃聴いてたものの影響、アブストラクトとかもあったかもしれない。アシッドジャズとかもあったかもしれないかな。あとは、他のメンバーとの絡みもあったでしょうね。だからやっぱ、俺コード全然わかんないですけど。自分がどんなコードを弾いてるか、とか。

—そうなんですか?嬉しいです。私も(コードについては)分からないので。曲によっては結構無理な手の形になっていたりしますよね?

コードの中で、例えばAの9thとか、そこにRYUICHI(のボーカルライン)とかもいくんですよ。面白いことをやろうと思って。そうすると同じ音と同じ音が重なって……今だとかっこいいけど、ユニゾンで。昔はそうではなかったから、(ボーカルに当たらないようにリズムを)ちょっとズラすんですよね。そうすると結果的に変なリズムになるんです。追っかけるかとか、前いくかとか。

—なるほど。なんかそれぞれの弦で、好きな弦とか位置って言うんですか……6本あって、ご自分がアルペジオ弾く上で好きなのはどれってありますか?

どうなんでしょうね。どの弦が好きなんて初めて聞かれた(笑)。なんかの心理テストじゃないですよね?

—違います(笑)。

うーん。(弦の種類としては)巻き弦が好きってのはあるな。そうだね、5弦がセクシーなんじゃないですかね。5弦の10フレくらいにしときます(笑)
 

「固定概念とかに固執するよりも、感じたほうがいい」

INORAN(4)

—過去のインタビューで、曲は比較的頭の中でかっちり作ってから、レコーディングするというのを読んだのですが。

そうですね。結構、ものぐさ太郎なんで……ものぐさ太郎って古いか(笑)

—いえ、一番伝わります。

ものぐさだから。GarageBandってあるじゃない。別にPro Toolsでも何でも良いんだけど。あそこいじるまでにすごい時間かかるんですよ。その前に頭の中で作っちゃったほうが早くて。ドラム、ベース、ギター、ボーカル…くらいまでは。いじっているうちに忘れちゃうし。

—分かります。いじっているうちに全く違う曲になってしまう…。

なるよね。いじったらいじったで面白いんだけど、でもほとんど頭の中だよ。集中して曲を降ろさなきゃヤバいときなんかは、8曲くらい常にここ(頭を指して)を行き来してる。

—8曲全部!?

忘れちゃったら忘れちゃったで、そのくらいの曲だしみたいな。だから書きとめることはしない。

—本当ですか!? すごいです。

うん。しない。だって、今日と明日、絶対違うもん。

—やっぱりそのインスピレーションとか、フィーリングみたいなものをすごく大事にされているんですね。

え、でもそんなもんじゃない?本とか読むよね?本読むとさ、この言葉いいなとか付箋貼ってあるところをさ、3年後に読んでみて。全然感じ方違うから。ってぐらい、やっぱり音楽もそうだし、物の感じ方も違うから。それはそれっていうか。その瞬間がやっぱり大事。固定概念とかに固執するよりも、感じたほうがいい。逆にもったいないっていうか。だから結構、脱線することも多いし、作ってて変わっちゃうし。頭の中で浮かべてそれを落とすけど、その通りに……例えばレコーディングした時、ベースとかドラムとか違う人にやってもらうでしょ? この通りにやってくれっていうことはないですよ。そこでもう可能性がなくなっちゃうから。人を思い通りにしようとは思わないし。だから人とやるっていうことは、(元のアイデアから)常に変わるっていうか、それが当たり前。

INORAN(5)
 

—お酒にしても何にしても作り手、あとお酒を飲まれる時も人とって、すごく人とのコミュニケーションを大切にしていらっしゃるんですね。

それが僕が曲を作ったり、音楽をしている糧というか、それしかないよ。あとは、その対極ですけど、もう音楽が大好きすぎて、世の中に知らない音楽があることが悔しいくらい。だから常に聴いてますね。Spotifyとか。

—特にジャンルや、アーティストとかではなく?

そこで絞っちゃったらそれまででしょ。聴く機会が狭まるから、逆にラジオとかのほうが好きかな、ぼろぼろ新しいのが出てくるし。ザ・チェインスモーカーズなんか、(どの局でも)最近ずっとかかってるから聴いちゃうよね。

—お話を伺っていて、お酒に関しても、音楽に対しても、とても自由で開放的なんですね。プレイから感じていた、調和や寛大さ、柔軟性、あと偶発性をすごく巧みに取り入れられるスタイルは、INORANさんにとって、他者との関わりあいが必須といいますか…。

そうだね。お酒も、音楽も、コミュニケーションツール。ひとつになれるんじゃないですかね。繋げるというか。特別なものではないじゃない。音楽も特別じゃないし、お酒も特別なものではない。作り手の思いとかは、もちろん特別なんですけどね。でも、それは会話もそうだし、笑顔もそうだし、特別なものなんかないというか。でも特別じゃなくても、音楽とお酒は『なくてはならないもの』になりつつありますけどね。僕の中では。

INORAN(6)

INORAN(7)

 


<テキーラフェスタ公式>
http://www.tequilafesta.jp


Interview:AKIKO KIYAMA http://akikokiyama.com
Photo:Great the kabukicho
Text:仲田 舞衣

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