弓木トイによる初ライブ! 『弓木流vol.4~悩める乙女は岩隠れ。神様、わたしたち桜が見たいです~』弓木ワールド全開レポート


ギタリストでシンガー・ソングライターの弓木英梨乃が主催するライブ・イベント、『弓木流vol.4~悩める乙女は岩隠れ。神様、わたしたち桜が見たいです~』が3月21日、東京キネマ倶楽部にて開催。同日には彼女がスタートしたソロ・プロジェクト「弓木トイ」によるファースト・アルバム『みんなおもちゃになりたいのさ』が会場にて先行販売された。

『弓木流』は、弓木が毎回ゲストを迎えて行なっている1年に1度の主催イベントである。前回は、「YOUは何しにこの島へ? ちょっとカブ抜くの手伝ってもらえませんか?」というユニークなサブタイトルが付けられ、ライブ演奏はもちろん、ゲストの澤部渡(スカート)や吉澤嘉代子をも交えた(巻き込んだ?)奇想天外な寸劇を披露するなど、盛りだくさんの内容だった(弓木流Vol.3ライブレポートはコチラ)。もちろん、今回もそんな「弓木ワールド」が全開となるのは必至だ。

ポエトリー・リーディング、サビの甘く切ないファルセット、そして“侠気”溢れる超絶ギター!

弓木ライブレポ1

 

定刻を過ぎ、客電が落ちた瞬間に軽快な音楽が鳴らされる。それと同時に渡辺シュンスケ(Key)、真船勝博(Ba)、楠均(Dr)の3人が現れ、軽快なBGMに合わせてステップを踏む。遅れて弓木がステージに登場すると、割れんばかりの拍手がわき起こり、まずは「春っぽいうた」という曲名の通りの清々しいナンバーでライブはスタートした。続いて弓木のファンキーなギター・カッティングに導かれ演奏されたのは、弓木トイのアルバムにも収録されている「キャベツのようなもの」。都会的な洗練されたコード進行と、メンバー全員による掛け合いコーラスが印象的な楽曲である。

上述の通り、今回も演奏と共に進行しているのは奇想天外なストーリー。今回は、『古事記』や『日本書紀』などに登場する天の岩戸神話にちなみ、なぜか「岩隠れ」してしまった「太陽を司る女神様」を、なんとか外の世界に連れ出すために弓木とバンド・メンバーたちが工夫を凝らす……というもの。女神さまが岩から出てこなければ、いつまで経っても春は訪れないのだ。

「どうやら女神さまは、楽しいことが大好きみたい。だから楠さん、とてつもなく楽しいことをお願い!」

叫ぶ弓木に応えて楠がド派手なドラム・ソロを繰り出し、そこから「ハルノコ」へとなだれ込む。ニューオリンズ風のイントロと、トッド・ラングレンの「I Saw The Light」を彷彿とさせるメロディが印象的な、心弾むポップチューンだ。また、エリック・サティにインスパイアされたという、中盤の展開がサイケ&ドリーミーな「2人だけのデート」では、ハンドマイクになった弓木がサブステージへと向かう階段を駆け上がるなど、予想外の展開にファンも大喜び。次の「海辺のパンダ」は、弓木の可愛らしいラップ(ポエトリー・リーディング?)と、サビの甘く切ないファルセット、そして“侠気”溢れる超絶ギターという、彼女の持ち味をギュッと凝縮したようなキラー・チューン。ラスサビ前にはなんと、2分30秒を超えるギター・ソロが炸裂し、オーディエンスのボルテージは早くもピークに達した。

 

弓木ライブレポ2

 

しかし、どれだけ楽しそうに4人が演奏しても、一向に岩から出てこない女神さま。「ただ楽しく演奏しているだけじゃダメなんだよ。なんで女神さまが岩の中に閉じこもっちゃったのか、その原因を探すために過去へ遡らなきゃ!」そう思いついたバンド一行は、「そうだ時代をかえよう」という軽快な楽曲の演奏とともにタイムスリップ。すると、どこからともなく甘い香りが漂ってきた(会場内にチョコレートもしくは、甘い香りのお香が焚かれていた)。

「これって、もしかしてチョコレートの匂い?」そんな弓木の掛け声を合図に「CCSC」のイントロが流れ出した途端、フロアからは大きな歓声が上がる。前回の「弓木流」で初披露され、アルバム先行曲としてすでにリリースされているこの曲は、変拍子のトリッキーなリフとサビの開放感のコントラストが鮮やかなバレンタイン・ソングだ。しかも、曲の途中で女優・創作あーちすととして活躍する、のんが登場し弓木とともにサビを歌うと会場は大きな歓喜に包まれた。

 

弓木ライブレポ3

弓木ライブレポ4

 

「のんちゃん、今日はもしかしてバレンタイン・デー? もしかして私たちは1ヶ月前のバレンタイン・デーにタイムスリップしちゃったの?」

そう尋ねる弓木に、のんは頷く。

「実はバレンタインの今日、女神さまが心を寄せている人に告白して、でもフラれちゃうみたいなんです」

のんから驚愕の事実を知らされる弓木。

「そっか、女神さまが岩隠れしちゃう理由は、失恋だったのか」とショックを隠しきれない。「だったら女神さまが告白しないよう、私たちが拘束しちゃえばいいんじゃない?」そんな過激な提案をする弓木にのんは、「それはダメです! 女神さまのことは女神さま自身が決めることで、誰にも邪魔する権利はないと思います」とキッパリ。

「そう! 自分の心は自分で決める、『わたしはベイベー』!」

と、のんが叫び、矢野顕子・作詞作曲によるのんの楽曲「わたしはベイベー」を弓木バンドを従え披露した。

 

弓木ライブレポ5

 

真っ赤なテレキャスターをしなやかにかき鳴らす姿が、少年のように瑞々しい。続いてSachiko Mが作詞作曲、大友がアレンジという“あまちゃんコンビ”による楽曲「RUN!!! 」を演奏したあと、「この先、何か困ったことが起きたらこの“魔法の笛”を使ってください」と、「フエラムネ」を1つ弓木に渡して会場を去った。

再び「そうだ時代を変えよう」でタイムスリップして現代に戻ると、優しい旋律が印象的なインスト楽曲「Dream a dream of me」と、アルバムに収録されたジャジーな楽曲「カァカァカァ」を続けて演奏する4人。弓木はヤマハのSGを抱え、太くてまろやかな音色で楽曲を彩った。

 

弓木ライブレポ6

 

「ねえ、まだ女神さまは岩から出てきてくれないの? せっかくタイムスリップまでしてさ、のんちゃんにも協力してもらってさ、こんなに演奏もしてるのに……」と、業を煮やす弓木。と、その時、のんから預かった「フエラムネ」のことを思い出した彼女は、「みんなでこれを一緒に吹こうよ!」とオーディエンスに呼びかける。

 

「春の訪れは、自分自身が決めること」挫折を乗り越え自分の足で歩み始めた「弓木トイ」の誕生!

弓木ライブレポ6

 

実は、私たち観客にもあらかじめ「フエラムネ」が会場入口で配布されており、全員でそれを「ピーピー」と吹き始めると、それまで微動だにしなかった「岩」が真っ二つに割れ、中から「太陽を司る女神様」こと土岐麻子がまばゆい光とともに、遂に登場! 彼女のソロ曲「How Beautiful」を、ラテンテイストの華やかなアレンジとオーディエンス全員によるフエラムネの合奏と共に盛り上げた。

 

弓木ライブレポ8

弓木ライブレポ9

 

「あれ、みんなまだ寒くない? せっかく女神さまが岩から出てきてくれたというのに、春の来る気配がないよ!」と叫ぶ弓木。すると「太陽を司る女神様」こと土岐が「それはね、春が来るか来ないかは私が決めるのではなく、あなたの心が決めることなのよ」と告げると、そのまま「Gift〜あなたはマドンナ〜」(『sings the stories of 6 girls』に収録された、EPOが作詞作曲を手がけた楽曲)を披露した。

演奏後、土岐のメッセージに何かを決心した弓木。「女神様、私はこれから旅に出ます!」そう言い残すとステージを去って行く。残された土岐は、渡辺、真船、楠の3人とともに、さらに自身のレパートリー曲「名前」を披露。すると、どこからともなく現れたカラフルな帽子が宙を舞い、「弓木トイ」の衣装に着替えた弓木が再び登場。

「春の訪れは、自分自身が決めること」一度はソロ・アーティストとしてデビューするも、思うような結果を出せず大きな挫折を味わった弓木。その後、サポート・ギタリストとして数々のステージに立ち、キリンジの正式メンバーとしても活躍しながら、徐々に自信を取り戻してきた。

「もっと自由でいいんだ」
「音楽を楽しまなきゃ!」

そんな自分の中の声と、土岐からのメッセージが共鳴し、ついにオモチャのような「遊び心」を持つソロ・プロジェクト、弓木トイがここに誕生したのだ。

 

弓木ライブレポ10

 

生まれ変わった弓木の姿を見て安心した土岐はステージを去り、弓木トイの誕生を祝うかのように、アルバムのリードトラックであり先行曲「ハッピーバースデーをもう一度」を演奏。打ち込みを基調とした力強いビートと、弓木のルーツであるクラシック・ロックのイディオム、随所に散りばめられたカラフルな音色が融合し、弓木自身がインタビューでも述べていたまさに「トイロックEDM」とでもいうべきサウンドスケープが広がった。

そして最後は、「弓木流Vol.3」のオープニングで披露した「Shipbuilding」を歌って本編は終了。

 

弓木ライブレポ11

 

『メリー・ポピンズ』の名曲「Supercalifragilisticexpialidocious」をバックに、今日の出演者全員でカーテンコールに応じて今日のイベントは全て終了した。

「可愛らしさ」と「かっこよさ」と「面白さ」が全て揃った、まさに弓木英梨乃の魅力をそのまま凝縮したような「弓木流」の魅力は今回も健在。今日、バースデーを迎えた「弓木トイ」という表現も加わって、今後「弓木流」はますますエンターテイメントとしてレベルアップしていくことは間違いないだろう。

 

弓木ライブレポ12

弓木ライブレポ13

 


 

【Profile】

弓木トイ

2019年にデビュー10周年を迎える弓木英梨乃(KIRINJI)が始動させるソロ・プロジェクト。
バラエティに富んだ音楽ジャンルを、おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドに昇華、幾多のステージで磨かれた
弓木のギターテクニックやキュートな声音を乗せた、“弓木トイ・サウンド”を展開。

*弓木英梨乃
2009年シンガーソングライターとしてメジャーデビュー。
2013年夏、新生KIRINJIに正式メンバーとして加入。個人としても著名アーティストのライブやレコーディングサポート、楽曲提供、
アレンジ制作を行うなど、活動の幅を広げている。

ギターサポート経歴/相川七瀬、井上苑子、カノエラナ、柴咲コウ、土岐麻子、のん、秦 基博、Base Ball Bear、吉澤嘉代子…他多数(五十音順)

▼ 弓木トイ OFFICIAL SITE
https://www.yumikitoy.com/

 

https://twitter.com/yumikierino

https://www.instagram.com/yumikitoy/

 

 

【Release】

弓木トイ『みんなおもちゃになりたいのさ』

弓木トイ『みんなおもちゃになりたいのさ』

2019年4月24日Release

※3月21日「弓木流vol.4」会場にて先行販売

品番: YMCL‐30005
価格:¥2,000(税別)
収録:6曲入りアルバム
発売元:株式会社ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス

 


 

Text:黒田 隆憲

Photo:廣田 達也