【まつりの作り方】ニュータウンで毎月開催!子育て世代が作りあげた 柳瀬川ブロックパーティ(埼玉県志木市)


東京と埼玉を繋ぐハブシティとしての役割も持つ池袋駅から北西へと伸びる東武東上線には、都心で働く人々のベッドタウンが点在しています。そのなかのひとつ、柳瀬川駅に隣接した志木ニュータウンを舞台に、「柳瀬川ブロックパーティ」というユニークなパーティが行われています。

スタートしたのは2016年。会場はなんと志木ニュータウン内のラーメン店です。近隣の中学生も巻き込みながら、都心のクラブとは異なるやり方で現代的なパーティの形を提示する柳瀬川ブロックパーティは、ひとつの地域のなかに新たなコミュニティーを作り出そうとするものといえます。その意味では、この連載で取り上げてきたニュータイプの祭りと共通する点も多いはず。地域をおもしろくするヒントを求め、東武東上線に揺られて志木ニュータウンにお邪魔してきました。

ニュータウンに子育て世代が戻ってきた

ニュータウンに子育て世代が戻ってきた(1)

 

志木ニュータウンへの住人の入居が始まったのは1979年のこと。それまでこの一帯は柳瀬川沿いに農地が拡がる農村でしたが、それ以降、段階的に志木ニュータウンの建設が進行。当初の建築計画が終了した1988年には、商店街である「ぺあも~る」やニュータウンを対象としたケーブルテレビも完備した当時最先端のニュータウンができあがりました。

それから30年。柳瀬川ブロックパーティを主催するアボカズヒロさんは、志木ニュータウンの現状をこう話します。

「僕は子供ができたことをきっかけに6年前から奥さんの実家がある志木ニュータウンに住み始めたんですけど、住んでみて思ったのは、子供をあまり見かけないということ。ニュータウンができた当初に入居した60代がそのまま住んでいて、ウチの奥さんの両親はまさにここができた当初に入居した世代なんですね。このあたりには何か娯楽があるわけでもないし、あくまでも東京で働いてる人たちが帰ってきて寝る場所。若者がたむろできるファミレスもなければ、マクドナルドもない。友達と飲もうと思ったら、志木に出るか、池袋など都心まで出ちゃうんです」

ニュータウンの高齢化は他の地域でも問題となっていますが、志木ニュータウンも同様の問題を抱えているといいます。ただし、志木ニュータウンの場合は都心へダイレクトに行くことができる副都心線や有楽町線が柳瀬川駅に乗り入れるようになったこともあって、近年少しずつ変化が起きているのだとか。アボさんはこう話します。

「僕が住み始めた6年前は、最初の入居者の子供世代が子育ての時期に入りつつあるタイミングだったんですね。副都心線が通って便利になったこともあって、ここ数年のあいだにニュータウン生まれの僕と同世代の人たちが子育てのために戻ってきてるんです」

 

ニュータウンに子育て世代が戻ってきた(2)

 

志木ニュータウンを歩いてみると、確かに子供たちの姿をよく見かけます。完成してから30年の月日が経過した「ぺあも~る」はさすがに老朽化も目立ちますが、味のある個人経営の店舗が並んでいて、古き良き団地の風景が今も残っているとも言えるでしょう。また、近年の志木ニュータウンにはもうひとつの変化があったといいます。

「以前の柳瀬川にはおじさんが行く居酒屋がちょっとあるぐらいで、自分と同世代と出会う機会もほとんどなかったんですよ。それが4年ぐらい前、『CAFE and BAR 3R』というバーが『ぺあも~る』の一角にできたんです。初日に行ってみたら、それまで町ですれ違わないような人たちが集まってたんですね。30代の自分と同世代で、サブカルチャーに対しても少し関心があるような人たち。バーが一軒できるだけで、それまで見えなかった同世代の姿が見えてきたんですよ」

 

ニュータウンに子育て世代が戻ってきた(3)

 

アボさんはのちに柳瀬川ブロックパーティの会場となるラーメン店「麺や まつ本」の店主やオーナーもそのバーで出会ったといいます。なお、「麺や まつ本」では以前から何度かアコースティック編成のライヴをやっていたそうですが、本格的なイべントはアボさん発案の柳瀬川ブロックパーティが初めて。では、アボさんはなぜこのパーティを始めることになったのでしょうか?

「ここに住んでいる人たちのなかにも町を活性化するために何かアクションを起こさないといけないという危機感は持っている人はいると思うんですよ。ただ、僕のなかにそうした危機感があるかというと、それほどなくて。どちらかというと、『パーティのない町で子供を育てるのか?』という思いのほうが強いんです。自由と寛容さが担保されている場所で子育てしたいんですよ。
そもそも町のなかにオルタナティヴな場所、一言で説明できないような場所があるべきだと思ってるんです。世の中の情報が整理されてまとめられていくなかで、デザインやフィルタリングされていない体験をできる場所があることによって救われる人がいるんじゃないかと思ってて。ただ、救うことが目的じゃなくて、やっぱり自分が楽しいからやってるところはありますよね」

 

「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」

「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」(1)

 

アボさんの名前を一躍有名にした動画があります。それは2004年に撮影されたとある幼稚園でのDJプレイの模様を収めたもので、アボさんがプレイするハウス~ディスコに合わせて園児たちが踊り始める光景は、当時大きな話題になりました。
 


このDJはアボさんが東京芸術大学の音楽環境創造科在学中に課題の一環として行ったものでしたが、以降、アボさんは都内のクラブでDJを続ける一方で、幼稚園・保育園でのDJも継続。共通言語のあるクラブ・カルチャーの住人とパーティを作るだけではなく、異なる世代や共通言語を持たないコミュニティーの人々と根気良く対話を続けながら、ひとつのパーティ空間を生み出してきました。柳瀬川ブロックパーティはそうしたアボさんの試みの延長上にあるものといえるでしょう。

また、アボさんは志木ニュータウンという郊外のベッドタウンでブロックパーティを続けることに重要な意味を見出しているようです。

「日本でクラブ・カルチャーを考えるとき、都心のクラブ産業の話になることが多いと思うんですよ。僕らはディスコからクラブへと移り変わる時期を体験したわけですけど、震災以降、クラブから別の何かへ動いていくほうが自然だと思うんです。今の社会に合った形でのDJ/クラブ・カルチャーの形もあるはずだし、郊外から右にならえのものじゃない、突拍子のないものが生まれてこないと未来はないと思っているんです」

2018年2月、そんな柳瀬川ブロックパーティにお邪魔しました。
オープンは15時、クローズは夜20時半。入場料は大人300円、小学生以下の子供が200円という通常のパーティからすると破格の安さです。この日の出演は主催のアボさんやDJフクタケ&DJ aLive、Dee-S、Hi-Beam、カマタダイスケ、TotsumalのDJに加え、近隣の埼玉県朝霞市でJAMESというパン屋さんを営むラッパーのIMUHA BLACKや古川麦のライヴ、ガッツのダンスショウケースも。

 

「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」(2)「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」(3)

 

入場券はラーメンの券売機で購入するなど、随所にユニークな仕掛けも施されているのも柳瀬川ブロックパーティの特徴。そうした空間のなか、DJに合わせて身体を揺らしている人もいれば、美味しそうにラーメンをすする人も、元気に走り回る子供たちも、お酒を片手に話し込んでいる人たちもいて、楽しみ方はそれぞれ。老若男女が思い思いにその場を楽しむその光景は、どちらかというと盆踊りに近いともいえるかもしれません。空間作りについてアボさんは「あくまでもデザインしすぎないということですかね。来てくれる人が構えずに、好きなように過ごせるためには何もしないことが大事な気がしていて」と話します。

 

「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」(4)

 

また、オーナーの私物であるオーディオ用スピーカーと、アボさんの私物であるサブウーファーとターンテーブルを持ち込んでいるため、音量も十分。決して耳をつんざくような大音量ではありませんが、気持ちよく音に浸れる音量です。

 

「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」(5)

 

「最初の3回ぐらいは苦情がきちゃったんですよ。セッティングやスピーカーの位置はだいぶ試行錯誤しましたね。単にロウ(低音)を下げればいいわけじゃないし、音量が小さくてもちゃんと鳴ってる環境にしたくて。今ではだいぶ安定してきて、苦情もこなくなりました」

 

「郊外から突拍子のないものが生まれてこないと未来はない」(5)

 

「子供たちのためにどんな町を作ることができるのか」

「子供たちのためにどんな町を作ることができるのか」(1)

 

パーティを始めてから約2年。毎月続けるなかで、わずかな変化が生まれてきたとアボさんは話します。

「パーティに興味がなさそうなおじさんがふらりとやってきて、カウンターでひとり楽しそうにお酒を飲んでることもあるんですよ。フロアのほうと混ざり合うことはないけれど、すごく楽しんでくれてるみたいで。別にこちらも一緒に踊りましょうよ!なんてことも言わないし(笑)、それぞれのやり方で楽しんでもらえるのが一番だと思うんです。
 あと、このパーティを始めてから『柳瀬川』という名前を冠したプロジェクトが増えたんですよ。住民の間にはこれまで柳瀬川をレペゼンする意識もなかったと思うんですけど、子育てをするためにこの町にやってきた自分と同世代の人たちが、この町をどうするべきか考え始めているところはあると思うんです。子供たちのためにどんな町を作ることができるのか。そういう意識が芽生えはじめてるんでしょうね」

 

「子供たちのためにどんな町を作ることができるのか」(2)

 

また、アボさんは朝霞在住の中学生2人と新たなるDJクルーも始めるなど、それまでになかったローカルの繋がりも生まれているといいます。

「柳瀬川にも実はハンドメイドの小物を作る作家がいたりして、目に見えない表現がたくさんあるんですよね。今後はブロックパーティのなかにマーケットを増やして、柳瀬川という町のメディアとしての機能を持つものにしていきたいと思ってるんです。世の中のさまざまな人たちが自然に交わる場所になっていったらいいなと思っていて」

アボさんたちの試みは、柳瀬川で起きている他のプロジェクトとも連動しながら発展しています。

「この町の重要人物のひとりが、『マーケットでまちを変える:人が集まる公共空間のつくり方』(学芸出版社)という本を書いた鈴木美央さん。公共空間としてのストリートの使い方を研究されている人で、鈴木さんとも先ほど話したバーで出会ったんです。柳瀬川ブロックパーティを始めたら、『私も柳瀬川で何かをやりたいと思っていたんです』と声をかけてくれて。2017年にニュータウンのなかの公園でマーケットと盆踊りをやるということで、DJをやらせてもらいました。地元の人が持ってるレゲエのサウンドシステムを使って、DJフクタケさんと一緒に盆踊りでDJをやったんですよ(笑)」

 

「子供たちのためにどんな町を作ることができるのか」(4)

2017年に行われた盆踊りの模様。レゲエ・マナーのサウンドシステムが鎮座する光景はまるでジャマイカ!

 

柳瀬川ブロックパーティは毎月最終土曜日に開催。「麺や まつ本」のラーメンも本当に美味しいので、みなさまも東武東上線に乗って柳瀬川へぜひ!

 

「子供たちのためにどんな町を作ることができるのか」(5)

 


柳瀬川ブロックパーティ
https://www.facebook.com/yanasegawa.blockparty/

 

Text:大石始
Photo:大石慶子