ハマショー・イタリアン 【マニアが集う“注文の多すぎる料理店”】

 

音楽マニアが集まる、ワン&オンリーな飲食店をレポートし続けてきた本コーナーも気づけば10回目。記念すべき(?)今回、訪れたのは杉並区井荻。西武新宿線井荻駅周辺、同じ杉並区でも荻窪や高円寺とはカラーの違う閑静な住宅街だ。
その井荻で月に一度、ハマショーこと、浜田省吾のファンが集うイタリアンがあるとか。ハマショーといえば、80年代に大ブレイクを果たして以降、日本のロックファンを魅了し続けるレジェンド! そのファンが集まるって一体……。面白そうだけど、熱い人が多そうで少し怖い。「わかってない!」とか言われないかな……。とにかく行ってみました!

バンダナ&サングラス changes everything ハマショー!?

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井荻駅を降りて、目の前の大通りを約1分ほど歩くと、今回のお店「TEN」がある(近い!)。扉にはイタリア国旗、窓には「生ハムサラダ」「マルゲリータ」などのメニューが書かれた看板。確かにイタリアン。が、その横には、ハマショーのレコジャケが何枚も!
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扉をあけると、奥のモニターからハマショーのライブ映像が大音量で流れ、独特のハスキーな歌声が! 店内の各スペースにはハマショーのレコードやポスターが飾られている。
そして驚くことに! 店内でピザなどを食べているお客さんは全員、まさかのバンダナ&サングラス! え? バラエティのロケ中? いや違う。ここはリアルな、ハマショーだらけのイタリアンなのだ!
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厨房の奥からオーナーシェフのたろーさんが店員の女性と一緒に現れて、声をかけてくれた。

「驚きました? 普段はイタリアンのダイニング・バーなんですけど毎月最終土曜日に浜田省吾さんの音楽しかかけない『ハマショーナイト』をやってるんですよ。バンダナ、サングラス着用で30%オフ。寄っていきません? 貸し出しもありますよ」
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そうか! 今日は月に一度のイベントデイ! 目の前にはきれいに折りたたまれたバンダナと数種のサングラス。これはやらないわけにいかないだろう。いや、面白そう、是非やりたい! というわけで、今回はバンダナ&サングラス姿で取材しました。わからないと思うけど……。

「TEN」のオープンは2016年12月。

大阪出身のたろーさんと、シェフをやっていた友人が同時期に上京し、スタートした。本格イタリアンのお店として地元で知られていくなか、月一イベントとしてスタートしたのが「ハマショーナイト」だ。

「このイベントはオープン時からやっています。音楽って世代を越えて共有できるものだから色んなお客さんが集まってくれるし、あとは単純に僕がハマショーさんを好きだったから。パートナーはハマショーに興味なかったけどお客さんが増えるならいいよって。半ば強引に始めました(笑)」

店内には私物のレコードやポスターなど、ハマショーグッズを飾り、普段からハマショーファンのお店であることもさりなくアピール。「ハマショーナイト」は最初こそ集客に苦労したものの、じわじわと噂を呼んで1年が過ぎると客で一杯になるほど盛り上がるようになった。

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「全国のハマショーファンが、SNSで連絡を取り合って、来てくれるようになりました。この間も北海道、大阪から来てたかな。もちろん一般のお客さんやハマショーさんを知らない若い方も来られます。バンダナ&サングラス姿を写真に撮ってインスタにアップするとか面白がってもらえますし、いつの間にかファンの方と仲良くなってたりもします。『マネー』なら知ってるって、一緒に歌う方もいますし。本当にハマショーさんって、偉大ですよね」
 

 

お客さんは40~50代がメイン。好きなハマショーの曲が流れるとそれについて熱く語ったり、口ずさんだり。中にはマイギターを持ち込んで、歌い出すツワモノもいる。

「熱心なお客さんは多いです。普段からハマショーさんの曲を路上で歌ってる方とか、頭のてっぺんから足の先までハマショーさんそのものの格好の方とか。あ、そういえば、この卓上カレンダーもファンが持って来てくれました。ハマショーさんになりきって、写真に映っているんです」
 

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左右がハマショーファン「DEBU-SHO」さんによるオリジナルカレンダー。真ん中は本物のハマショーです。

 

そう言って見せてくれたのが、このカレンダー。え、これ、ハマショーじゃなくてファンなの!? 
す、すごい!! ついさっきまで、『こんなグッズがあるんだー』なんてすっかり本人だと思ってたんだけど……。

「そういう熱いファンのおかげでイベントは毎回盛り上がりますよ。特に印象に残っているのは、昨年の12月28日。翌29日はハマショーさんの誕生日で、0時になった瞬間、盛大にお祝いしました。ケーキはお客さん各自で持ち込んでもらって、もちろん全員バンダナ&サングラス。で、全員でハマショーさんの曲『ハッピー・バースディソング』を合唱して……。知らない人が見れば、ちょっと異様な光景だったかもしれませんね(笑)」

ここでお食事を。お店の人気メニュー、マルゲリータとフレッシュトマトのペペロンチーヌを頂きます。
 

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左:マルゲリータ(1000円) イタリアの食材だけを使って作りあげた看板メニュー。
右:フレッシュトマトのペペロンチーヌ(1100円) 国内産の乾麺を使用し、昔ながらの製法にこだわったモチモチのパスタ。

 

「ハマショーにちなんだメニューも考えなくもないんですが、イタリアンのお店としては、やっぱりお料理を一番にお客さんに来て欲しいので、そこは抑えています。以前、イベントの時だけはビールを『マネー』って呼んだりにして、『マネー4つ注文ね!』なんて、やってたことはありますけどね(笑)」

ところで取材中、気になっていたことが。たろーさんって毎月イベントをやっちゃうほど、熱心なハマショーファンだけど、その割には随分と若い気が。いわゆるハマショー世代って、大体40~50代なわけで……。

「それいつも言われます。僕、いま34歳です」

さ、34歳! (ハマショーファン的には)若い! 

「確かに同世代の友達で聴いてる人はいませんね。カラオケでもハマショーの曲を歌うんですが、誰も分からずポカーンとしてます(笑)。地元にいた頃、尼崎の『オクトパス』という、たこ焼きバーで働いていたんですけど、そこのオーナーが大のハマショーファンで、店内ではいつもハマショーさんの曲だけが延々と流れていたんです。最初は何がいいのか分からなかったけど『お前は好きになる素質がある!』とか言われて(笑)、毎晩10時間以上もお店で聞くばかりか、ライブに連れて行ってもらったりしてるうちに好きになりました!」

でも、よく聞かれません? 一体、ハマショーのどこがいいのって。

「聞かれますけど、うーん、なんだろう。真っ直ぐなところかな。すごいピュアで、でもだからこそ、ちょっと屈折してるというか。例えば『丘の上の愛(1980)』は、金持ちの男に女を取られて悲しいみたいな痛切な歌だし、『片想い』は、好きにならなかったらよかったって歌。普通ラブソングって、好きだってストレートに歌うものでしょ。でもハマショーさんは、そうでなく自分の切ない気持ちや辛い気持ちを赤裸々に歌う。そこに胸打たれちゃうんですよね」

そんなたろーさんが一番好きなハマショーの曲は?

「どの曲も好きなんですけど、一番は『家路』かな。サビが“遠くても、絶対にたどり着け”みたいな歌詞なんです。昔、仕事で苦しい時、クルマの中で泣きながら、よく大声で歌いました(笑)。その曲には何度も救われましたよ」

丁寧に言葉を選びつつ、ハマショーの魅力を熱く語ってくれるたろーさん。ご自身にとってハマショーとは?

「すべての曲を聴いて思いますけど、ハマショーさんっていつも横にいて、自分の経験やその時々の胸のうちを話しつつ、元気づけてくれる先輩みたいな存在かな。まぁ先輩と呼べるほど、年は近くないですけど(笑)」

では今後はどのようなお店を?
 

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「具体的に何をしたいってのはないけど、ハマショーナイトは続けていきたいですね。音楽には聴く人のストーリーが乗っかるんで誰かと一緒に聴くことでより楽しめるはず。それで店を出た後、いい気分で帰ってもらえたら、自分も嬉しいですよね」

最後は、ハマショーナイトに集まった濃ゆいファンの皆様をご紹介してお別れしましょう! (ちなみに、取材班もイベント時にはあまりの熱気に満足にお話を伺えず、2回もお邪魔してしまいました)
 

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左:高校生でハマショーの音に衝撃を受け、長年、路上でハマショーの弾き語りをやっているとか
右:ハマショーの曲を聴くと、「高校時代の甘酸っぱい思い出が蘇る」という地元の常連さんたち

 

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左:「Jボーイ」を聴いて以来のハマショーファンというご友人のお二人。年を重ねるたび、歌詞がしみるそう。
中&右:静かにハマショーになりきる人、コスプレ気分で盛り上がる人、とにかくお酒を飲みたい人……ハマショーナイトの楽しみ方は人ぞれぞれだ!

 

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【SHOP INFO】

● ダイニングバー TEN
東京都杉並区下井草5-18-8 高橋ビル1F
TEL 03-6913-8876
営業時間 18:00~3:00(3時以降は力尽きるまで営業!!)
定休日 火曜日
※「ハマショーナイト」は、毎月最終週・土曜日開催。次回は12/1(土)。

 


 

 

Text:大野 智己
Photo:渡邊 眞朗