ナイス♪2拍3連 10選【百歌繚乱・五里夢中 第11回】


前回は、「グルーヴ」という、音楽の諸要素の中でも、主要な、全体的なもの、麺における”腰”みたいな、なくては困るものを取り上げましたが、今回は脇役、ゆず胡椒とか、タバスコくらいの、無くても困らないけど、あったらうれしい、サウンドの一表現形態である「2拍3連」というものに、スポットを当ててみたいと思います。

「2拍3連」とは何か?

 

ではまず、「2拍3連」の簡単な説明を。音の長さですね。全音、2分(ぶ)、4分、8分、16分……とあって、全音が1小節全部、2分はその半分ですが、4拍子で考えると全音は4拍、2分は2拍、4分は1拍、となります。で、「3連」系がありまして、普通の「3連」は1拍(=4分)を3等分した長さになります。なので、「2拍3連」は2拍(=2分)を3等分したものってことですね。
それを表す音符ですが、4分音符や8分音符は誰でも知ってますよね。「3連符」は8分音符を3つつなげて、「3」と書きます。

「2拍3連」とは何か?(1)

 

その要領で、「2拍3連符」は、4分音符3つをまとめて「3」と書きます。

「2拍3連」とは何か?(2)

つまり「2拍3連」は「3連」の倍、なーんだ簡単じゃん、なんですが、実は演奏はちと難しいんです。
4拍子で、<1,2,3,4,>と曲が進んでいる中、「3連」ならば、<タナカ、タナカ、タナカ、タナカ>で同じように進んでいけるのですが(別にナカタ、ナカタでもかまいませんよ)、「2拍3連」となると、<タ◆カ、◆ナ◆、タ◆カ、◆ナ◆>と、◆のところはお休みしなきゃなりません。「タ」のところは4分音符の位置と重なるのですが、他は、2を3で割って、0.66...拍ごとにやってきます。これでは<1,2,3,4,>と進めませんね。
というわけで、4拍子のビートに2拍3連が入ってくると、かなり目立ちます。なので、曲の中である部分を目立たせたいとき、メリハリをつけたいときに、使うことになります。
また、2拍3連の3つの音の2、3コ目は割り切れない位置にありますから、プロであっても、その位置は感覚に頼って演奏しています。コンピューター・プログラミングで限りなく正しい位置に持ってくることはできますが、不思議なことにそうすると、人間の耳にはちょっとぎこちなく感じてしまいます(と私は思います)。
どうです。けっこうクセモノでしょ?2拍3連。
そんなわけで、2拍3連の使いどころとか、演奏の感じとかには、それぞれのアーティストやクリエイターの個性やクセが現れていて、とても興味深いのです。

 

ナイスな2拍3連たち

#1:Wilson Picket「Something You Got」
(from 3rd アルバム『The Exciting Wilson Pickett』:1966年8月発売)
mysoundで試聴

2拍3連のお手本のような曲です。16小節で1コーラス、それが何回か繰り返される構成ですが、その16小節がまた、4小節ごとに、起→承→転→結という感じでわかりやすく展開されます。で、いちばん盛り上がる「転」の3小節目の3、4拍目で2拍3連!その勢いで4小節目にはジャーンと打ち放す、という段取りになっております。いやー、王道。
王道だからか、ボニー・レイト(Bonnie Raitt)の「I Know」という曲なんかは、まったく別曲なんですが、構成もコード進行も、この「Something You Got」と全く同じだったりします。
それにしてもウィルソン・ピケット、このアルバムのストレートなタイトル通り、とてもエキサイティング、声帯が破けるんじゃないかと思うようなパワフルな歌声で、知らない方にはぜひ聴いてもらいたいです。オーティス・レディング、ジェイムズ・ブラウンやアレサ・フランクリン(おお、2018年8月16日に亡くなってしまった!)に劣らない重要ソウル・シンガーだと思います。


#2:The Ronettes「Be My Baby」
(シングル:1962年8月発売/from 1st アルバム『Presenting the Fabulous Ronettes Featuring Veronica』:1962年11月発売)
mysoundで試聴

ロネッツがフィル・スペクターのPhillesレコードに移籍して最初のシングル。
この曲では2拍3連、なかなか登場しません。アウトロの、さらに最後の、フェイドアウトしていく中で、ドラムの2拍3連×2回のフィルインが、遠雷のように響いてくるだけです。ドラマーは西海岸のスタジオ・ミュージシャンとして有名なハル・ブレイン(Hal Blaine)ですが、アウトロで2小節ごとにいろんなパターンのフィルインを叩きまくって、もうネタがないんじゃないか、と思った頃に出してくるのがこの2拍3連なのです。これでシメだっ!て言ってるみたい。The Beatlesの「Day Tripper」などもこのタイプですね。リンゴはもっとあっさり叩いてますが、けっこう印象的です。
この曲、曲もいいけど、リード・ヴォーカルのヴェロニカ(Veronica "Ronnie" Bennett)の声と歌い方が、実に魅力的ですねー。映像を観ますと、笑顔もキュート。こりゃあ売れるわ、と納得しますが、当時、加えて評判だったのはそのサウンド。フィル・スペクターが”発明”した”Wall of Sound”(音の壁)と呼ばれるものです。モノラルなのに、音が面となってあふれてくる、というところが画期的で、ブライアン・ウィルソンが、カーラジオで、この曲を初めて聴いた時、感動のあまり、車を止めてドアから転がり落ちた(どんな感動のしかたや!)という逸話が残っているのですが、いかんせん、ステレオが当たり前の今ではよくわからないのですな。
ところが先日、モノラル専用カートリッジ+厳選オーディオ機器で、この曲のアナログ・シングル、つまりドーナツ盤を聴く機会がありまして、ぶっとびましたね。確かに、モノなのに音が広がっているのですよ。こりゃあ車のドアから転げ落ちるかもな、と長年の「ブライアン、それはウソやろー」疑惑がさぁっと晴れましたよ。


#3:Electric Light Orchestra「All Over the World」
(シングル:1980年8月2日発売/from サウンドトラック・アルバム『Xanadu』:1980年6月発売)
mysoundで試聴

これも、先ほどの、エンディングになって初登場、という”シメ”タイプですが、こちらは、ドラマーの自己判断、ではなく、みんなで合わせて、計3回、つまりちゃんとアレンジされてやっています。
サビが繰り返されて、大団円、でも単純な繰り返しではなくて、一味変化を、ということで2拍3連。盛り上がります。もういっちょ!と次のサビでも。歌がなくなって、三本締めとばかりに3回目、そしてジャーンとおしまい。堂々たるエンディングになりました。
「Xanadu(ザナドゥ)」という1980年の映画のサウンドトラック・アルバムです。オリビア・ニュートン・ジョンの主演で、アルバムも、A面がニュートン・ジョン、B面がELO、ときれいに分かれています。映画はまったくの不評だったようで、私も観ましたが、ちっとも面白くなく、ニュートン・ジョン人気を当て込んだだけのものかと思いますが、音楽はよい。前年にアルバム『Discovery』を大ヒットさせてノリにノッているELOですから、悪いわけがないのです。特にこの曲は、ELOの中でも5本の指に入ると、個人的には思っています。


#4:Mike Oldfield「Family Man」
(シングル:1982年5月28日発売/from 7th アルバム『Five Miles Out』:1982年3月19日発売)
mysoundで試聴

翌年、ホール&オーツがカヴァーして全米6位のヒットとなった曲のオリジナル。こちらもシングル発売していますが、全英45位でした。マイク・オールドフィールドは唄わないので、マギー・ライリー(Maggie Reilly)が唄っていますが、娼婦に誘惑されて、いや僕には家庭があるから、と断る歌を、女性が唄って違和感ないのかな?
両バージョンとも、アレンジは基本同じ、つまりH&Oはかなりオリジナルに忠実にやっていますが、ラストだけははっきり違います。H&Oバージョンはフェイドアウトなんですが、こちらはちゃんと終止していて、その終止の形が2拍3連なのです。
最後のパートは、4小節のサビの繰り返しが続きます。
「He said, leave me alone, I'm a family man」
で2小節、後の2小節はそもそもメロディが2拍3連のリズムなのです。オケのリズムはそれに追随はしませんが、最後の1回だけ、
「If you push me too far I just might」
の「push」から、1単語=1アクセントで、オケ全体も2拍3連に合わせて、カットアウト。「might」のディレイ成分だけが、余韻として残って、おしまい。
かっこいい……。


#5:Sheryl Crow「Sweet Child O' Mine」
(シングル:1999年6月22日/from サウンドトラック・アルバム『Big Daddy』:1999年6月22日発売)
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今度はこれがカヴァーです。オリジナルは”Guns N' Roses”が1988年8月にリリースし、バンド唯一の全米1位シングルとなっています。映画「ビッグ・ダディ」(1999年)のために、シェリル・クロウがカヴァーしました。
こちらも、アレンジはほぼオリジナルに忠実で、エンディング手前の、最高の盛り上がりを、2拍3連で演出するところも共通です。
ただテイストは全然違うので、どちらのヴァージョンが好きか、意見ははっきり分かれるでしょう。優勢なのはガンズのほうみたいで、ロック誌などではクロウ盤は酷評もされているようですが、私個人は断然クロウ派です。
彼女の声は素晴らしいですね。強靭でしかも伸縮性抜群なゴムのよう、とでも言いますか。そのくせ、キュートです。キュートさと強さって背反するかと思いますが、彼女の場合は、鳴り響くオケの中でもまったく負けません。唯一無二の声です。
それが、この曲のピーク、2拍3連のところで、よく分かります。


#6:The Beatles「We Can Work It Out」
(11th シングル:1965年12月3日発売)

大サビの、「Life is very short, and there's no time for fussing and fighting, my friend. I have always thought that it's a crime, so I will ask you once again.」の、下線部分が2拍3連です。
そこだけで見ると3拍子なので、「4拍子の中に、3拍子が突如出現する曲」というふうに、普通は解釈されているかと思いますが、たとえば「Happiness Is A Warm Gun」みたいに、1拍の長さが同じで拍子が変わっていくなら、そういう解釈しかないですけど、この「We Can Work It Out」の”3拍子”部分は、4拍子部分の2拍3連符の長さが1拍となっているのです。それならば、2拍3連が2小節続いている、としたほうがいいでしょう。
どうでもいい?ハハハ、そうですね、解釈よりも咀嚼がだいじ。音楽は味わってなんぼですからね。彼らとしても、美しく、かつパワフルなメロディを求めていったら必然的にこうなった、ということなんでしょう。
「We can work it out」という楽観的な歌詞のサビやAメロはポール作だそうです。で、「Life is very short, …」の悲観的な大サビはジョン。なんとなく分かりますね。
そして、2拍3連化は、ジョージのアイデアだそうです。3人三様の個性が結集して、名曲ができ上がりました。


#7:小田和正「ラブ・ストーリーは突然に」
(6th シングル:1991年2月6日発売)
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テレビドラマ「東京ラブストーリー」の主題歌として大ヒットしました。ギターのイントロが流れるだけで、ドラマのシーンが浮かぶ人も多いでしょう。鈴木保奈美は可愛かった。織田裕二も今と全然違った…。これ以降、ドラマ・タイアップものの大ヒットが続出しましたね。
「We Can Work It Out」と同様、歌メロが2拍3連というタイプです。サビのメロディが、頭っから22音も連続で2拍3連、しつこさでは今回いちばんです。
ここにちょっと”売れ線”狙いが見え過ぎて、サビの5回目くらいになると(全部で7回もある!)、やや疲れてくるのですが、なんと6回目に、メロディが変形して、22音が25音にまで増えるのです!しかも、それまでオケはまったく追随しないで普通に4分の4拍子だったのですが、ここの最後の7音にはオケも全体で合わせ、これでもかーっ、とばかりに盛り上げまくります。しつこさもここまでくれば立派なもの。初めて聴いた時は思わず拍手しちゃいまいした。


#8:Boz Scaggs「Jojo」
(シングル:1980年発売/from アルバム『Middle Man』:1980年4月発売)
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“AOR”の代表格とされる曲です。AORのひとつの特徴はサウンドの”構築美”ですが、この曲のアレンジたるや、斬新かつ精緻、まさに構築美のお手本だと思います。
中でも大きな役割を果たしているのが2拍3連。2サビの後、6拍のブレイクの中、ボーカルの余韻と、立ち上がってくるシンセ・パッドが交差して、緊張が張りつめた次の小節の頭でダンッとストップモーション、すかさずピアノがソロで2拍3連!あっ、と驚くヒマもなく、ここは4分の2拍子、即ブリッジへなだれこむ……とこんな具合です。これが後半にもう一回やって来ます。
で、ブリッジの終わりに、もっとハデな、全員で6発も合わせている”キメ”がありまして、そのあとサックス・ソロへというメリハリ・ポイントで、ここも2拍3連ぽいのですが、だまされてはいけません!これは付点8分音符なのです。2拍3連音符よりもひとつがやや長い。付点8分は8分音符+16分音符なので、長さが4分音符の3/4。片や、2拍3連は2/3。ここには付点8部が6つありますから、3/4×6=18/4=9/2=4+1/2、と1小節より半拍多く、次の小節にこぼれる感じになっています。その半端感がおもしろいですね。
このように文字にしていると、頭が痛くなってきますが、分析すればこういうことを、実にゆったりと、心地よく聴かせてくれるところがすごいねー。ジェフ・ポーカロのドラム、デヴィッド・フォスターのピアノとシンセ、ベースはTOTOのデヴィッド・ハンゲイトではなくて、ジョン・ピアス(John Pierce)です。


#9:大滝詠一「白い港」
(from アルバム『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』:1982年3月21日発売)
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大瀧さん(「大滝」は歌手としての表記)は2拍3連が好きな人で、よく出てきます。やはりスケールの大きなサウンドに、2拍3連は似合いますから。
でもたとえば、「君は天然色」の「別れの気配をポケットに」ってところ、オケは4小節ずっと2拍3連をやっているじゃないか、と思うかもしれませんが、これは、”4分の4拍子”でとっているとそうも言えますが、正しくは”8分の6拍子”なので、2拍3連に聞こえるところは、8分音符2つ分の長さの音符が並んでいるだけなのですね。感覚的には似たような効果があるので、いいんですけど。
ともかく、この「白い港」は、正真正銘の2拍3連が随所に配されています。歌と歌の間に、少しずつ形を変えた”キメ”があり、いろんなリズムが展開されるので、それまで調子よく揺られてきた乗り物が、突然ジャンプしたり、くるりと回ったりするような、そして2拍3連で急ブレーキがかかったかと思うと、元に戻って一安心、とまるで遊園地のアトラクションのような楽しさが味わえるのです。


#10:山下達郎「ヘロン」
(30th シングル:1998年1月28日発売)

達郎さんも大瀧さんの薫陶を受け、”Wall of Sound”好き=”スペクター一派"ですから、2拍3連はよく使いますね。
この曲は”シメ”タイプに入るかな。2コーラス終わった後、”ダンダンダダダン”という”キメ”があって、またサビの唄が入ってくるのですが、同時にほとんどの楽器が抜けてグッと静かになります。で、「泣かないでヘロン 雨を呼ばないで この街を柔らかな光 満たすまで」の「みたすまで」の「みたす」で一瞬ブレイク、タムが”ダラロン”と入り、「す」と「ま」の間から2拍3連が2回連続(1小節分)で登場します。この内1回目は頭抜き、そこはブレイクなんですね。小節頭に音がなくなって「ハッ!」、直後に2拍3連ですから、オドカシ効果は満点です。その後、サビの繰り返しで、同様の2拍3連が毎回入ってきます。2回目は「オ!」、3回目は「ホー」、4回目はもう慣れて、ノッていると、5回目はフェイドアウトです。このフェイドアウトも、2拍3連の間にほぼ音が消えていく、という絶妙なタイミング。実に素晴らしい。


以上、ナイス♪2拍3連×10曲、いかがだったでしょうか?
算数みたいで面倒くさい、なんておっしゃる方がおられるかもしれませんね。たしかに、音楽は、難しいことをやってるからどうこうじゃなくて、聴く人の心に、どれだけ強く、大きく、深く響くのか、ということで価値判断されるべきだと思います。
だけど、そのために、作り手は、いろんなことを考えたり、やったりしているのですから、そんな営みに思いを馳せてみるのも、たまにはいいんじゃないでしょうか。

いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪


Text:福岡 智彦