「まつりの作り方」第5回「森戸の浜の盆踊り大会」(神奈川県三浦郡葉山町)

「まつりの作り方」第5回「森戸の浜の盆踊り大会」(神奈川県三浦郡葉山町)
三浦半島西部に位置する神奈川県三浦郡葉山町。夏ともなると多くの海水浴客で賑わう風光明媚なこの町で、毎年とあるユニークな盆踊り大会が開催されています。

会場は森戸海岸のビーチ。踊られるのは炭坑節や東京音頭などスタンダードな盆踊り歌ですが、奏でるのはギターやベースも含む大所帯の生バンド。しかも現役ミュージシャンが顔を連ねる本格的な演奏です。噂が噂を呼び、近年は県外からも多くの踊り手がやってくるほどの人気ぶり。それが今回ご紹介する「森戸の浜の盆踊り大会」です。

今回はその森戸の浜の盆踊り大会の背景にあるものについて、昨年まで実行委員長を務めていた土川雅章さん、その土川さんに変わって今年から委員長を務めることになった長久保アキラさんという、生粋の葉山っ子であるお2人にお話を伺ってきました。

2012年度の森戸の浜の盆踊り大会。演奏曲は炭坑節

「音源で踊る話は最初からまったく出てなかった」

「音源で踊る話は最初からまったく出てなかった」(1)
©Keiko K. Oishi
左から、昨年まで実行委員長を務めていた土川雅章さん、今年から委員長を務める長久保アキラさん(撮影協力:陸の家カラバシ)

皇室の別荘である葉山御用邸があることから古くからの保養地としても知られるいっぽうで、70年代からヒッピー・カルチャーが根づき、デッドヘッズやサーファー、音楽関係者や出版関係者が多く住む葉山は、鎌倉や逗子といった周辺地域と比べても少々特殊な地といえます。その一角に広がる森戸海岸で盆踊りが行われるようになったのは昭和30年代のこと。当時は盆踊りのスタンダードがテープ音源で流れる、通常の盆踊りと同じスタイルで行われていたといいます。

土川さん:当時主催していたのは海の家の組合(正式名称は「葉山森戸海水浴場協同組合」)。昔は海の家も今以上に多くて、浜に二列で海の家が建っている写真を見たこともあります。このあたりは会社の寮も多くて、夏になるとそこの子供たちも海の家に遊びに来てたんです。そういった寮も今はほとんど老人ホームになりましたね。

長久保さん:昔は葉山でもそこいら中で盆踊りをやっていて、一週間やってたところもあったぐらい。私も親に連れられて盆踊りに行ったことを覚えてます。でも、私が子供のころはもうおじいちゃんおばあちゃんばっかりで、同級生は誰もいなかった。無理やり踊らされた記憶があります(笑)

土川さん:90年代は盛り上がってなかったよね。やる人もいなかっただろうし、やっても集まらない。それでいくつかの盆踊りが終わっちゃったんでしょうね。

森戸海岸の盆踊りもそうした理由から90年代半ばには一度終了。それが2000年代に入ると、海の家「OASIS」に集まる人々の手によって再開されることになります。レゲエ・バンド、HOME GROWNのヒット曲“OASIS”(2002年)の舞台ともなったこの場所は、さまざまなミュージシャンや音楽関係者が集まる葉山の文化発信地でもありました。当初はこのOASISを会場として、夏のライブ・イベントとして2回ほど盆踊りが開催。その後、OASISのスタッフや周囲の人々がそのまま実行委員になる形で、2006年に「森戸の浜の盆踊り大会」が本格的な復活を遂げることとなります。そうした経緯があったため、バンド演奏で盆踊りを行うことに関しては自然な流れで決まっていったそうで、土川さんも「音源で踊る話は最初からまったく出てなかったと思う」と話します。

「音源で踊る話は最初からまったく出てなかった」(2)

また、本格的な復活の背景には、菅原裕美子さんという初代実行委員長の熱意が大きかったと土川さんと長久保さんは話します。

長久保さん:裕美子さんは結婚を機に葉山に住み始めて、もともと音楽好きだったからOASISに遊びにくるようになったんです。昔ながらの伝統行事が大好きで、〈踊りを通じて世代を超えてひとつになれるのは素晴らしいことだ〉とよく言ってましたね。〈盆踊りを復活させたい〉という熱い思いを持っていて、そこにみんな巻き込まれていったんです。裕美子さんのエネルギーが本当にすごくて、私もこの人についていきたいなと思ったんですね。

土川さん:完全なる発起人ですよね。

「音源で踊る話は最初からまったく出てなかった」(3)

最初はOASISでのライブ・イベントとして再開した森戸の浜の盆踊り大会も、少しずつ地域の行事として定着していくことに。そのなかで、ライブ・イベントとは異なる盆踊りの魅力がスタッフの間でも浸透していくことになります。

長久保さん:私はもともと伝統行事にも関心があったんです。盆踊りって言葉がいらないし、踊りを通してみんなでひとつになれる。そのことに言葉にならない感動があった。一体感があったんです。

土川さん:ライブと違って、盆踊りとなるとウチの親世代やおじいちゃん世代まで来ますからね。演奏する側も踊る側もすごく一体感があって、〈へえ、おもしろいな〉と思いました。ウチの盆踊りで初めて盆踊りを体験したという地元の若い連中もいます。

「主役はあくまでもお客さん」

「主役はあくまでもお客さん」(1)

森戸の浜の盆踊り大会で演奏するバンドは、当初はPUSHIMのライブバンドなどに参加しているギタリストのノダチンを楽団長とする「盆バンド」としてスタート。2011年からはさまざまなレゲエ・アーティストのバックを務めてきたキーボーディスト、渡邉貴浩さんが楽団長となり、名前も「葉山盆楽団」となりました。昨年からは高野竜功さん(ベース)が三代目楽団長に就任。レパートリーは2006年から変わらず、炭坑節、東京音頭、花笠音頭、そして葉山のご当地音頭である葉山音頭という4曲です。

葉山盆楽団による2011年度の葉山音頭。

こちらは2011年度の東京音頭。

2013年には初代実行委員長の菅原さんが葉山を離れることとなり、2006年の復活時から盆踊りを支えてきた土川さんが実行委員長となりました。また、東日本大震災以降から少しずつ来場者が増加していたといいますが、2014年にはさまざまな理由から一度中止を余儀なくされます。

土川さん:隣の逗子で殺人事件があった影響で、その年から海の家の自主ルールが変わったんですよ。それまでは23時まで営業できたのが、20時半ラストオーダーの21時閉店になった。音についてもだいぶ厳しくなりましたね。

長久保さん:あと、人が多くなりすぎて、踊りの輪が回らなくなってきたんです。踊る人よりもバンドを観る人のほうが増えて、盆フェスっぽくなっちゃった。それで〈一度休んだほうがいいんじゃないか〉という結論になったんです。

生バンドによる盆踊りには通常の盆踊りとは異なるダイナミックな迫力があるいっぽうで、通常のライブを見る感覚で立ちすくむ観客が増えてしまうという難しさもあります。森戸の浜の盆踊り大会も盆踊りとライブ・イベントの狭間で頭を悩ませてきた経緯があります。あくまでも盆踊りは観るものではなく、踊るもの――そうした思いのもと、踊りのお手本として地元の踊りの会「若葉会」を招いたり、盆踊り当日に練習の時間を設けるなど、さまざまな工夫を凝らしてきました。

土川さん:踊りにきてくれてるお客さんにとっては、踊りたくても踊れないのはストレスになりますからね。

長久保さん:どうしてもステージの前に集まっちゃうんで、〈みなさん一歩ステージから離れてください〉とアナウンスしたり、踊りの輪がうまくまわるようにいろいろ工夫しています。あと、踊りたいけど踊り方がわからないという人は多いと思うので、ステージの四隅にお立ち台を作って、お手本として若い子に基本の踊りをやってもらうようにしています。主役はあくまでもお客さんであって、バンドじゃないんですよね。

海の家の自主ルールが緩和されたことなどから、2015年には盆踊りも再開。実行委員は試行錯誤を続けながらその後も盆踊りを続けています。

「ご先祖さまと一緒に踊れたらと毎年思っています」

「ご先祖さまと一緒に踊れたらと毎年思っています」(1)

現在の実行委員は14人。ほとんどが葉山在住者で構成されているといいます。また、盆楽団は去年の段階で基本編成が11人。そこに数人のお囃子が加わるという、かなりの大所帯です。運営資金は地元のお店や個人からの協賛金でまかなっており、オリジナル手ぬぐいの売り上げや当日の募金なども加える形で運営しているそうです。

盆踊りを再開して今年で12年。森戸の浜の盆踊り大会は、もはや葉山の伝統行事になりつつあると言えます。今年から土川さんから長久保さんへと実行委員長が変わり、盆楽団の楽団長も高野竜功さんになるなど、世代交代も着実に進んでいます。地域の盆踊りとしては、このように世代交代がスムースに進んでいるのはかなり稀なケースともいえるでしょう。

長久保さん:最初の実行委員は全員OASIS周りの人だったけど、今は商店街の若い人も入ってますね。盆踊りに関わりたいという若い人も増えてきてるし、盆踊り自体に関心を持ってる人が地元でも増えてる感じがする。

そう話す長久保さんの本職は、なんと漁師。実行委員長就任については、こんな思いがあったといいます。

長久保さん:私は5年前から葉山の海で漁師をやってるんですけど、漁師の世界に入ってみて、町と地元の人たちの関わり合い方がなんとなく見えてきたんですね。盆踊りも同じように地元との関係性のなかで育まれてきたものなので、私も地元の人間としてやれることがあるんじゃないかと思ったんです。

森戸の浜の盆踊り大会、フライヤー

森戸の浜の盆踊り大会は、今年も8月13日に開催。土川さんと長久保さんはこう話します。

土川さん:踊りの輪をきれいに作るというのが毎年の目標。練習会もあるので、ぜひ踊りを覚えてから来てほしいですよね。

長久保さん:盆踊りが開催される13日は入り盆の日で、ご先祖さまを迎える日でもあるんですよね。ご先祖さまと一緒に踊れたらと毎年思っています。

今年からは8月16日の送り火の日に灯籠流しも開催。こちらも一時伝統が途絶えていましたが、盆踊り同様、地元住民の手により復活することとなりました。土川さんも「入り盆で盆踊りをやり、送り火のときに灯籠流しをやる。今年からそのセットを復活させようと思ってるんです」と話します。

「みんなで輪になり和になってご先祖様に感謝しながら踊りましょう」――OASISのウェブサイトに掲載された昨年の告知文にはこんな言葉が記されています。音楽イベントとして再スタートしながら、先祖供養の儀式という盆踊りの原点をはっきりと意識しているのもまた、森戸の浜の盆踊り大会の特徴。ひょっとしたら葉山のご先祖さまたちも盆楽団の演奏で楽しげに身体を揺らしているのかもしれません。



<INFORMATION>
8月2日(木)、9日(木)、12日(日)の16時半から18時まで、海の家OASIS前で練習会が開催。詳細は「森戸の浜の盆踊り大会」のウェブサイトでチェックを。
https://facebook.com/bonfes/


Text&Edit:大石始

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