聴き手と共鳴する楽聖 エルメート・パスコアールが語る音楽世界

聴き手と共鳴する楽聖 エルメート・パスコアールが語る音楽世界
ブラジルが生み出した楽聖=エルメート・パスコアールが自身のバンド、エルメート・パスコアール・グループを率いて、昨年に引き続いて来日公演を行った。古くはマイルス・デイヴィスと共演もしているエルメートだが、2017年には3枚の作品をリリースし、そのいずれもが素晴らしい出来であったのに加え、前知識がなくとも観る物を虜にするパフォーマンスは日本だけでなく、世界中で新しいリスナーを獲得しているという。81歳を迎え、なおもキャリアの絶頂期の只中にいる希有なアーティストは今、何を思うのかーー? ここでは、5月12日に行われた東京公演の楽屋にて録り下ろした、インタビューをお届けしたい。

「私は歳をとったとは思っていませんし、心のなかは子供のままです」

「私は歳をとったとは思っていませんし、心のなかは子供のままです」(1)

─去年に引き続きの来日ですね。日本のオーディエンスはあなたたちの音楽に何か影響を与えたりはしますか?

日本はとても素晴らしい国で、私は自分がこの国に生まれたんじゃないかと思うほどに親しみを感じています。私は音楽のジャンルや民族などに囚われないユニバーサルな音楽を提唱しているので、そのことを観客全員に伝えることができるのです。

─それはアメリカでもヨーロッパでも、日本でも同じということですか?

私のユニバーサルな音楽は常に違うことを伝えていて、それはどの国で演奏するときでも変化しますし、演奏を聴いているお客さんによっても変わります。

─オーディエンスのエネルギーがあなたの音楽に変化をもたらすことはありますか?

常にお客さんからエネルギーはもらいますし、私からも与え合っています。それはステージに限らず、どんな場面においてもそうです。

「私は歳をとったとは思っていませんし、心のなかは子供のままです」(2)
「私は歳をとったとは思っていませんし、心のなかは子供のままです」(3)

─あなたが提唱している“ユニバーサル・ミュージック”(どこで生まれたかなど、偏見のない音楽)ですが、これはいつ思い付いたものなのですか?

生まれたときからはじまっています。宗教や政治は関係なく、私にとっては音楽がすべてです。私は音楽を通して自分のことやいろんなことを伝えたり、コミュニケーションをとったりしています。なぜなら私は、7歳の頃から野生の動物たちを相手に演奏をしていました。私が楽器を演奏すると、動物たちが寄ってきて、お互いに共鳴することができました。かつて農場で動物たちを前に演奏したこともあります。それくらい音楽は私にとって生まれたときから自然にあるものでした。

─昨年、あなたは自身のグループ(エルメート・パスコアール・グループ)の最新作『No Mundo Dos Sons』に加えて、ビッグバンドによるアルバム『Natureza Universal』、さらには1970年代の音源集『Viajando Com O Som』をリリースしています。80歳を超えた現在、ミュージシャンとしてのピークを迎えているようにも感じます。それはとても珍しいことだと思うのですが?


そうかもしれませんが、私は歳を取ったとは思っていませんし、心のなかは子供のままでずっと居続けています。肉体は車のようなもので、徐々に老いていきますが、心や気持ちが老いることはないのです。

「私にとって、ハーモニーは音楽の母親です」

─あなたが曲を思い付くのは、どういうときが多いのですか?

私は100%、感性で生きています。直感的に感じ、そこから音楽は生まれます。自分から音楽を書こうとか、何かをしようとすることはありません。

「私にとって、ハーモニーは音楽の母親です」(1)
インタビュー中、おもむろに手元にあったお菓子の包み紙で音を鳴らし始めるエルメート。

─そのようにあなたが作った曲の断片は、グループでどのように楽曲へと変わっていくのですか?

私にとって、ハーモニーは音楽の母親です。そして、メンバー全員がクリエイティブな思いを持ち、それぞれが音楽に対して真摯に向き合うことでグループの音楽として成長します。これは、全員がこういう気持ちを持っていないといけません。大切なのはクリエイティブなマインドです。

─あなたのグループは一時、毎日数時間という膨大な時間を練習に充ててきましたが、表現力をひろげるために練習は必要だと思いますか?

練習はもちろん大事なことです。ドラムのアジュリナン・ヅァルギやサックスのジョアン・パウロは若いながらに、長年グループにいるような素晴らしい演奏をします。なぜならそれだけの努力と練習を重ねているからです。まだ彼らとは短い時間の付き合いですが、彼らが素晴らしい音楽を作ることで、メンバーの一員として活躍できるのです。

「私は歳をとったとは思っていませんし、心のなかは子供のままです」(2)
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「私は歳をとったとは思っていませんし、心のなかは子供のままです」(4)

─あなたたちのように卓越した楽器の演奏力を持ち、それと同時に音楽的に豊かさな表現力を持ったバンドは、世界を見渡してもほかにいないと思います。

はい、私もそう思っています。


─(笑)。

もちろん、私ひとりでは世界一になれませんよ。私自身が一緒にいて光栄だと思えるメンバーと一緒のグループにいることで、それをなし得ているのです。ところであなたが被っている帽子は素敵ですね。どこで手に入れたのですか?

─これですか? 友人が作っているブランドのものです。

いいですね。私からひとつ提案があります。みなさんで写真を撮りましょう!

─分かりました。でも、ひと通りインタビューが終わってからでもいいですか?

もちろん! 私は急いではいませんから、どうぞ質問してください。

─あなたは長年YAMAHA DX7というシンセサイザーを愛用していますね。

ええ、DX7は家にも置いてありますし、ツアーでもいつも使っていて、とても気に入っている、世界で最高の楽器です。DX7はピアノをはじめさまざまな音色が入っていますが、私が弾くことで私の個性がそこに注入されて、私の音楽になります。もちろん他の人が弾けば、また違った音が出てくる……そんな懐を持った楽器です。

「私にとって、ハーモニーは音楽の母親です」(5)

─DX7のなかでよく使う音色はありますか?

DX7に入っている音色はどれも好きなので、その都度いろんな音を混ぜながら使っています。昔は自分が所有するDX7を世界中に持っていっていましたが、今は飛行機で楽器を運ぶことが難しいので、行く先々でレンタルしています。ちなみにDX7を使い始める前は、ヤマハのピアノを弾いていました。

─ピアニカもヤマハのモデルをお使いですよね?

はい、ヤマハのピアニカは世界でも一番だと思います。値段も手頃だし、質もとても良いです。

「私にとって、ハーモニーは音楽の母親です」(6)

─楽器を演奏する人に向けて、アドバイスをお願いします。

先ほども言いましたが、ハーモニーは音楽の母親です。ですからハーモニーやメロディを大切にしてください。これらの要素は木になった果実のようなものです。ハーモニーを大事にすることで、音楽は広がりをみせてくれるでしょう。

─あなたは若い頃、楽器の練習をしていたのですか?

私が生まれ育った田舎には、楽器というものがありませんでしたから、自然のなかにある物を取ってきて、それを楽器に見立てて音楽にする練習をしていました。それはつまり、先住民の人々が行っていたことと同じですね。

─最初にあなたが触れた楽器はアコーディオンですよね?

そうです。私の祖父が持っていたボタン式のアコーディオンで、今でも使っていますよ。

「私にとって、ハーモニーは音楽の母親です」(7)

─アコーディオンの練習はしなかったのですか?

練習をするとか、勉強をしようという意識はありませんでした。自然と演奏をするなかで演奏できるようになりました。楽器の演奏を難しいと思ったことありませんね。音楽とはそういうものだと思います。さて、私はそろそろワインが飲みたい気分になってきました。さあ、ここにいる素晴らしいインタビュアー、通訳、カメラマンみんなで写真を撮りましょう!

─わかりました。でも、みんなで記念撮影をする前に、まずはエルメートさんのソロカットから撮らせてください。

私ひとりだけですか? それは寂しいなぁ、みんなで撮りましょうよ!

その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界

その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界(1)

“みんなで撮ろう!”――この言葉にエルメートの本質が詰まっているように感じた。彼が率いるエルメート・パスコアール・グループ自体にも、そんなメンバー全員で楽しむという合奏の魅力が詰まっている。取材後に観た彼らのライブでも、グループの鉄壁のアンサンブルに加えて、各メンバーがソロ・タイムで魅せる演奏力も本当に素晴らしい。エルメートのことをこの記事で知った人にとって、彼らはとらえどころのないミステリアスな集団だと思うかもしれないが、実際には彼はもちろん、グループのメンバーたちはスーパー・プレイヤーの集合体だ。鍵盤と管楽器が一体となった超絶難解なフレーズが舞い、ドラム&パーカッションが変拍子を繰り出すなど、最高難度を持つ楽曲がズラリとならぶ。だが、メンバーたちは辛そうな表情ひとつ見せず、笑顔を絶やさずに飄々と演奏してのけてしまう。難解であろうが演奏はできて当然、その先にある空気やムードを掴むのが彼らの神髄。そして、その指揮を務めるのがエルメートだ。
エルメートの指先や視線、身体の動きをメンバーたちは一時も逃さずに注視し、その動きに合わせて自在に演奏を変化させていく。各メンバーは担当の楽器を演奏するだけなく、空瓶をメンバー数人で吹くことでハーモニーを演出したり、豚のオモチャで合奏したり、さらにはエルメートはお得意のヤカンを吹いたりと、どんな楽器や物を使っても、音楽として成立させてしまう。

その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界(2)
その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界(3)
その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界(4)
エルメートにとって、スニーカー、自身のお腹、ヤカン、空瓶……すべてが楽器。

はじめて彼らの演奏を聴いた人は、今まで体験したことのないパフォーマンスに、“何だこれは!?”と驚くかもしれない。だが、インタビューでも語っていたように、エルメートにとってはDX7であろうと、アコーディオンであろうと、楽器は何であろうと関係ない。その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。それこそがエルメートの音楽の世界なのだ。今回の公演でも、ブラジル音楽が持つ複雑なハーモニーや湿度のある空気感を紡ぎながら、とんでもなくダイナミックで、ちゃんとユーモアもある“繊細な音楽”を展開した。

その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界(5)
その場で音楽を創造し、聴き手と共鳴する。エルメートの音楽世界(6)

僕はこの日の回だけでなく、東京公演のすべて(計4ステージ)を観たが、いずれもセットリストはガラリと異なっており、毎ステージで雰囲気の違うライブ体験を味わわせてくれた。彼らのパフォーマンスを表現するのは“想像を超えた”という言葉がふさわしい。毎回、音楽の純粋な楽しさを体感させてくれる、エルメート・パスコアール・グループ。来年も音楽と生命のエネルギーに満ちあふれた彼らの姿、そしてそのパフォーマンスを拝みたいものだ。



Festival de FRUE 2018、フライヤー

今回、エルメート・パスコアールを招聘したFRUEが、11月に静岡・掛川で野外音楽フェスティバルを行う。
詳細発表はまだ先になるが、夢のようなミュージシャンが多数ラインナップされるようだ。

● Festival de FRUE 2018
● 日時:2018年11月3日(土)~4日(日)
● 場所:つま恋 リゾート彩の郷(旧ヤマハリゾート)
http://www.hmi.co.jp/tsumagoi/

more info
http://frue.jp/


Text:伊藤 大輔
Photo:Great the kabukicho
Edit:仲田 舞衣
Special Thanks:http://frue.jp/

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