Californian Grave Digger ~東映サウンドトラックの世界(日本映画番外編)~

Californian Grave Digger  ~東映サウンドトラックの世界(日本映画番外編)~

 

ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される大衆娯楽=ポップカルチャーから見えてくる新たな価値観とは何かを探るべく、日本とアメリカ西海岸、時に東南アジアやヨーロッパも交えつつ、太平洋を挟んだEAST MEETS WESTの視点から広く深く考察する大人向けカルチャー分析コラム!橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!

70年代東映サントラ=侠(男)のラウンジミュージック! 

70年代東映サントラ=侠(男)のラウンジミュージック!(1)

 

9回目を迎えたこのシリーズもいよいよ佳境、趣向を変えて番外編である。今回はタイトルのカリフォルニアも関係ないし、ロックを考察することもない。アメリカ西海岸もバンドも好きな筆者だが、本当に好きなものは何かと尋ねられたら、こう即答する。 「東映ヤクザ映画です!」と。 本題に入る前に少し筆者自身の話をしたいので、いつもの如くだが、お付き合いいただきたい。とにかく筆者は東映が大好物であり、幼少のみぎりから地元にある東映直営の映画館に通いつめていた。時代はちょうどエネルギッシュで波乱に満ちた70年代が終わり、シラけたバブル騒ぎが始まる80年代に突入しようかという端境期。アニメ3本立て目当てで熱中した東映だったが、父親に付き合って観たヤクザ映画3本立てにも見事にハマった。もちろん東宝だって松竹だって大映だって好きなんだが、やはり男なら東映だ。不良性感度の高さ、バイオレンス、そしてお下劣と、男に必要な3本立てが揃っている。それから30年以上あの荒磯に叩きつける波飛沫の三角マークを追い続けているわけだが、趣味が高じて書籍執筆まで行き着くとは夢にも思わなかった。タイムマシンが発明されたら、ガキの自分に会いに行って告げてやりたい。  そんな筆者がつい最近書き上げた1冊が、盟友・杉作J太郎氏と共に編著した『東映実録バイオレンス浪漫アルバム』(徳間書店)(https://www.amazon.co.jp/~)だ。この"浪漫アルバム"はシリーズ6冊目。その1発目の『仁義なき戦い 浪漫アルバム』が'98年の刊行なので、今年でちょうど21年目となる。いやはや、まさか20年以上も続くとは思わなかった。生まれた子供が大学生に……という年月を東映に費やしたのだ。せっかくだから、この連載の場を借りて東映を語りたいと考えての番外編となった次第。もちろん、mysoundの媒体を使って語るからには、音楽がテーマだ。

 

70年代東映サントラ=侠(男)のラウンジミュージック!(2)

 

音で楽しむ東映実録バイオレンス

最新刊『東映実録バイオレンス浪漫アルバム』は、20年の節目として原点に立ち戻るべく、『仁義なき戦い』以外の実録ヤクザ映画を網羅することで同年代に送り出された東映作品の補完と総括を試みた野心作だ。一応"実録"とは何か補足しておくと、『仁義なき戦い』以前の東映の主流は、鶴田浩二や高倉健主演による任侠路線であり、ヤクザ映画ではあるが、中身は勧善懲悪。世知辛い世の中の理不尽に立ち向かう、純然たるヒーローものだった。対する実録は、その名の通り「実際に起きた事件・抗争」を原作に、正義も悪も関係なく暴力で解決を試みる(そしてこじれる)荒々しく人間臭い物語であり、mysound的に言い換えるなら、ビートルズ=任侠に対するナパームデス=実録ぐらいの違いがある。

そんな実録バイオレンス映画の音楽といえば、筆者的にも書籍的にもイチ押しなのが、"昭和の暗黒スター"こと安藤昇先生の遺した数々のレコード音源だ。かつて、映画スターは歌手も兼業するのが基本で、主演を務めたらレコーディングもセットだった。そして自らの半生をテーマにした主演作『実録安藤組』シリーズを筆頭に、暗黒街から芸能界への華麗なる転身を遂げた安藤昇先生もまた、当然のように歌手デビュー。'65年の映画『やさぐれの掟』挿入歌「新宿無情/夜の花」でビクター(後にキャニオンに移籍)からリリースすると、堰を切ったようにリリースラッシュとなるんだから、当時の人気が伺い知れよう。

 

 

安藤昇先生のレコードは、なんといってもタイトルがいい。夜のしじまの、深く濃い空気がドップリ感じられる、演歌の枠には収まりきらない異能が、独特の世界観を花咲かせているのだ。とりあえずタイトルを列挙すると……。
『男がひとりでうたう唄』
『血と命』
『夢は俺の回り燈籠』
『地獄門』
『男が死んで行く時に』
……どうです? 熱いというか、クールというか、この何とも言えない世界観。特に『男が死んで行く時に』は、死を目前にしたヤクザ者のモノローグを独白調に唄ったもので、鑑賞後の"死んだ感"もハンパない。まさしく"DEATH演歌"とジャンル分けするしかないオリジナリティーだ。

とにかく安藤昇先生のレコードは、EPもLPも外れなしの名盤揃いで、実録バイオレンス好きなら1枚は持っておきたい。が、残念ながら全て廃盤。再発もされてないし、目下のところその予定もない。平成も終わろうとしている今こそ……今だからこそ、安藤昇先生の全作品をデジタルリマスターで復刻プラス配信アリでリリースすべきである! CDは紙ジャケがいい。ジュエルケースなんてクリスタルすぎてダメだ。プラスチック製なんて失礼にも程がある。やはり重厚な唄には重厚な装丁でお願いしたい。聴いて良し飾って良し、並べて尚良しの復刻に乗り出す侠気あるレーベルの登場を期待してやまない次第であります。

 

いま楽しめる東映サントラの世界

 

そして、東映ヤクザ映画の音楽といえば、高倉健の『昭和残俠伝』や『仁義なき戦い』のテーマ曲"ジャジャジャーン!"あたりが有名だ。しかし、そうした劇中音楽が個別に音源化されることは、実は皆無だった。しかし時代は移り変わり、これまでは歌手主体だった東映サントラにも変革が訪れる。その革命の旗手となったのは、『東映実録バイオレンス浪漫アルバム』(https://www.amazon.co.jp/~)他、浪漫アルバムシリーズの殆どに協力&執筆いただいているフリー音楽プロデューサーの高島幹雄氏だ。高島氏はVAPの『ミュージックファイルシリーズ 東映アクション映画音楽列伝』(http://www.vap.co.jp/musicfile/index.html)を手がけたことで、日本映画サントラのボトムを思いっきり広げてくれた熱血漢。仁義なき戦いのテーマを収録した『東映実録映画シリーズ サウンドトラックコレクション』は、ファン待望! 一家に一枚どころか三枚持っててもイイぐらいの大名盤であり、高島氏の熱い東映サントラ愛に満ちた解説は、ぜひ本書を手にとって確認していただきたい(本気のPRで恐縮です)。


話は変わりますが、前回の「日本映画のロック編」でも取り上げたように、東映のサントラは、演歌やブルースや激しい劇伴音楽ばかりではない。流行りモノもそうでもないモノでも、ウケるなら何でも取り込むのが東映スタイルである。そして近年では70年代東映作品の再評価が高まり、かつてレンタルビデオもリリースされなかったような作品がバンバンDVDになったり、サントラCDが発売されたりしている。のだが、まさかmysound内にも東映コーナーがあるとは思わなかった!

東映傑作シリーズ 中村錦之助主演作品 Vol.1

東映傑作シリーズ

 

東映傑作シリーズ 五社英雄監督作品ベスト Vol.1

東映傑作シリーズ

 

mysoundの"東映傑作シリーズ"は、「なぜコレが配信に?」と一部マニアしか唸らないような楽曲ラインナップが特徴。タイトルもズバリな"アダルト編"には、スケバン映画『女番長 三匹の牝蜂』と『女番長 牝蜂の挑戦』のサントラが! さらに石井輝男監督の異常性愛シリーズから『徳川女刑罰史』と『元禄女系図』までもが配信中! そんなの誰が聴くんだよ?って、筆者が聴くんだよ!

東映傑作シリーズ アダルト篇 Vol.1

東映傑作シリーズ

 

アダルト編と並んでオススメは、やはり梅宮辰夫シリーズ! 先日、80歳の祝いの席に顔面に30針の大怪我を負って登場するなど、今尚伝説的エピソードに事欠かない辰兄ィの代表作『不良番長』のサントラ集が、なんと2種あるんだから、マジでmysoundどうかしてる(褒めてます)。この勢いで辰兄ィの放送禁止曲「シンボルロック」も配信してくれたらと願うばかりである。

東映傑作シリーズ 梅宮辰夫主演作品 Vol.1

東映傑作シリーズ

 

東映傑作シリーズ 梅宮辰夫主演作品 Vol.2

東映傑作シリーズ

 

先述の通り東映を筆頭に日本映画のサントラは、怪獣映画の例外はあるものの、基本的に歌手メインであったため日陰に追いやられていた感がある。しかし、東映のサントラの鉱脈はまだまだ無限にある。高島氏のような勇者が鉱脈を掘り出してくれているのは、東映ファンにとってはなんとも心強い限り。そしてmysoundにも、今後ドンドン東映サントラがラインナップに加わることを期待しつつ、番外編を締めさせていただきます!


Text :Mask de UH a.k.a TAKESHI Uechi