松浦俊夫(TOSHIO MATSUURA GROUP)×江﨑文武(WONK)×安藤康平(MELRAW)が考える、2018年のジャズ・シーン

松浦俊夫(TOSHIO MATSUURA GROUP)×江﨑文武(WONK)×安藤康平(MELRAW)が考える、2018年のジャズ・シーン
United Future Organizationのメンバーとして、そして脱退後はソロDJとして、90年代から“踊れるジャズ”を牽引してきた松浦俊夫。彼が3月にリリースしたTOSHIO MATSUURA GROUP名義の作品『LOVEPLAYDANCE』は、代表曲「Loud Minority」の進化形と呼べる新曲「L.M.II」に加え、90年代の「Talkin’ Loud」の諸作からフライング・ロータスまで、厳選した楽曲を今のセンスで、しかもUK新世代のジャズ・ミュージシャンが演奏している。そこで5月のリリース・パーティに出演するWONKの江﨑文武、WONKのサポートメンバーでもありMELRAW名義でリーダー作もリリースしている安藤康平の3人で世代を超えた鼎談を実施。面白い音楽はジャズ的な発想やシーンから生まれている今、2018年におけるジャズとは何なのか?を探る。

松浦俊夫(TOSHIO MATSUURA GROUP)×江﨑文武(WONK)×安藤康平(MELRAW)が考える、2018年のジャズ・シーン(2)
L→R:安藤康平(MELRAW)、江﨑文武(WONK)、松浦俊夫(TOSHIO MATSUURA GROUP)

INTERVIEW

─松浦さんは江﨑さんと安藤さんにどういう経緯で出会われたんですか?

松浦:
イギリスのインターネットラジオ『Worldwide FM』でレギュラーを持っているのですが、そこにお二人にゲストで来ていただきました。彼らのような若手の人たちに接する機会がなかなかないので、これを機にいろんなことでご一緒できたらと思い、今回、こちらから鼎談相手のリクエストをお願いしました。その背景には世代がうまく繋がり合えてないという、よくない状況が今の日本にはあるなと思っていて。ラジオをきっかけに知り合えたので、こういった鼎談もできればお互いにさらに新しい発見があるんじゃないかと思ったんです。

─WONKを最初に聴かれた印象としては?

松浦:
ようやく若い世代の中で挑戦する音楽っていうものに対して積極的な人たちが出てきたなという印象でした。これまではフォーマットありきで、海外のアーティストに影響を受けたものをそのまま踏襲して表現しているミュージシャンが多かったという印象がありました。でも彼らは、ロバート・グラスパーの影響を受けた、ハイエイタス・カイヨーテの影響を受けたって当初は言われていましたけど、彼らなりのオリジナリティを逆にオリジナル・アーティストに向けて発信しようとしているのを感じたので、これは面白いんじゃないかなと。

─それはテン年代になってからの傾向かもしれませんね。

江﨑:
とりわけ今の25歳から30歳手前ぐらいの中に面白い層がぎゅっと濃縮されてる印象を僕は持っています。多感な時期にインターネットメディアを通じて音楽を自由に聴けるようになった世代という風な見方をすると自然な現象にも思えるというか、分け隔てなく最先端のものを聴いて吸収していける世代の面白さはある気がしますね。

安藤:僕は文武(江﨑)よりも3つぐらい年上で、平成元年生まれなんですけど、ちょうど変換期にいるなと思います。僕より少し上の30歳から32歳ぐらいのミュージシャンって、文武たちの世代をすごく羨むんですね。彼らは一生懸命、ビバップやってたところにグラスパーとかが出てきたので。僕は狭間の年齢ですけど、ジャズっていうフォーマットにそういう新しい音楽がいっぱいある中で、楽器や音楽を勉強し始めました。

松浦:彼らとは生まれてきた時代も違うし育った環境も違うので、そこをどうこうって比べてもあまり意味がないと思います。それよりは何が違って何が同じなのかみたいなところの方が、セッションする価値があると思うんです。90年代にUnited Future Organizationをやり始めた時に常に話していていたのが、お互いの違いをわかり合った上で作っていこうということでした。新しい世代の人たちの自由さっていうのは、その感覚が自然に身についていることなのかなっていう気がします。オルタナティヴ感が出てくる理由っていうのはそこじゃないのかなっていうか。

─江﨑さんや安藤さんの世代が最初に触れたジャズのアーティストとか作品はなんなんですか?

江﨑:
僕はビル・エヴァンスでした。

─それはもう自分の思想や美学の軸にあるものなんですか?

江﨑:
それはかなりあると思いますね。ビル・エヴァンスとの出会いは偶然で、たまたま父親が持っていたアルバムを聴いて、とても衝撃を受けました。そもそも自分が鍵盤弾きなのでピアニストに惹かれるっていうのは自然なことだったと思います。クラシックピアノをやっていたのですが、中でもフランス和声ものがすごく好きで、ドビュッシーとかラヴェルとか、すごく不思議な雰囲気があって好きでした。その流れで聴くと、ビル・エヴァンスもアンサンブルによるハーモニーの響きを重視しているようなところがあって。僕はWONKではビートミュージックと呼ばれるようなところで活動していますが、今でも自分の中で美しいなと思うものは、そういうハーモニーを重視した音楽ですし、どちらかというと音楽の作り方もフォルテッシモ寄りに作るんじゃなくて、ピアニッシモ寄りに作るものの方が美しいと考えています。モノを削り取っていく美学を自分の中では大事にしたいと思っているので、今でもエヴァンスは自分の音楽観というか、美学の中心にいる存在ですね。

安藤:僕はジャズを聴いたのは中学の部活でした。それまでも映画の中とかでかかっていたものを耳にしていたと思うんですけど、それを別にジャズ!と思って聴いたことはなかったです。サックスは親父の影響で幼い頃からアース・ウィンド&ファイアーとかを聴いたり、ライブ映像を見ていたりしたので、渋い楽器だという認識はあまりなかったですね。

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─リスナーとしてはジャズと意識してないことが多いかもしれませんね。

安藤:
話がずれるのかもしれないですが、時代によってヒーロー感って変わってくるじゃないですか。昔だったらオーダーメイドのスーツを着たような、マイルス・デイヴィスの昔のルックがクールでかっこいいと思われていた時代から、今は例えばロイ・ハーグローヴのように、かっこいいスーツを着ているけど、下はナイキのスニーカーみたいな。そういう立ち振る舞いも含めてヒーロー感って時代とともに変わると思うんですよ。

─確かにジャズってアティチュードなのかなと思いますね。ところで今更ではありますが、松浦さんのジャズ的なものの原点とは?

松浦:
自分の中では、挑戦していく、壁をぶち壊す、「ゴーイング・トゥ・アンノウン・エリア」っていう姿勢は30年間変わらないです。高校生の時にマイルス・デイヴィスの『カインド・オヴ・ブルー』に出会ったのですが、当時はさっぱりわからなかったのだけど、いつも悩みに入ったときにあのアルバムを聴くと、なんだか気持ちが落ち着くというか、また新しい発見を得られるという意味では、そこが原点なのかなと思いますね。

─そこは江﨑さんも安藤さんもうなずくところなんですね。

江﨑:
そうですね。

─そして松浦さんの初リーダー作『LOVEPLAYDANCE』についてお話をしていければなと。このアルバムって単純にカバーではないですよね。

松浦:
思い入れの深い楽曲はいっぱいあるじゃないですか?その中から、今の時代にやり直して聴かせたいもの、やらねばならないものという基準が、いわゆる作り手としてのマインドとは別に、選曲家としての側面がすごく強く出ていると思います。作り始めるまでの曲の選定作業にものすごく時間をかけましたが、最終的な楽曲ラインナップに自分の30年の歴史が凝縮されてるか?って言われるとそうでもなかったりするわけですよ(笑)。でも思いとしては、最初にお話ししたように世代間が今ひとつ海外と比べるとうまく混じり合ってないところで、それをなんかつなぎ合わせたいということです。その役割は、本来は僕は30代がやるべきことだと思っていたんですよ。でも、その話を前に40ぐらいの人としていたら、もしかしたらその人たちにバトンを渡したつもりだけど、本人たちはバトンを渡されたと思ってないかもしれないって言われて、その時腑に落ちたというか。で、そこも含めて埋めあわせるとしたら、言葉じゃなくて音で埋めるしかないなって思いがあって、そこの発想が今回のアルバムの一番の根っこになっています。

─ああ、だからご自身の30年の凝縮とはまた違うということなんですね。

松浦:
そこに「ああ、懐かしいね、90年代」とか、同世代からすると「大学の時ジャズネタのヒップホップとか聴いたよね、今も聴くよ」みたいな感傷はありません。今の世代のミュージシャンの人たちと敢えて昔の楽曲を現代に新しく聴こえさせるためにはどうすればいいのか?っていう、その点も大きなコンセプトと課題にありました。自分の思いとミュージシャンの今のクリエイティビティって、また違うベクトルにあると思うので、そこをどうブレンドしながら、中和させずに混ぜ合わせて、例えば今の20代に届けることができるか?ってところが全てだったという感じです。

─江﨑さんと安藤さんは今回の選曲やミュージシャンがピンとくるのかもしれないなと思ったんですが、いかがですか?

江﨑:
そうですね。僕はもう1曲目の「CHANGE」から心惹かれました。ブッゲ(・ヴェッセルトフト)というピアニストがものすごく好きで。彼自身も自分のレーベル(JAZZLAND)を立ち上げてシーンを作ろうとしているようなプレイヤーですが、1曲目にそのブッゲのカバーが置かれているってことがまず印象的でした。かつ後半の方にフライング・ロータスのカバー(「DO THE ASTRAL PLANE」)も入っていて、ちゃんと僕ら世代がど真ん中のアーティストまでがっつり押さえてありますし。

─今回ミュージシャンがUKジャズの面々ですが、その選定はどういう基準だったんですか?

松浦:
やはりここ数年、クラブミュージックしかり、ジャズの流れもありつつのビートミュージックも含めてLAに中心があると思いますが、僕はそれだけじゃなくてヨーロッパでも新しい動きを感じていたので、だとしたら、自分がLAに行ってやるより、もともとU.F.O.はイギリスのレーベルからリリースされていたこともあるので、自分の原点であるロンドンで、今ジャズを動かしている人たちとやる方が、挑戦するって意味では面白みがあるかなと思ったんです。それにちょうど1年前ぐらいに現地でレコーディングしたのですが、向こうのシーンでは大きく地層が動いているような状態だったので、今振り返るとタイミングが良かったなと思います。

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─江﨑さんや安藤さんは今のUKジャズのシーンはどう捉えていますか?

江﨑:
今、すごく面白いシーンだなと思っています。ジャズなのかはさておき、僕らと同じ20代前半から20代半ばぐらいのアーティストは面白いコラボがどんどん生まれていて、今度TAICOCLUBにくるアルファ・ミストはUK出身の25歳のトラックメイカーで、ピアノも弾くけどビートミュージックも作って、ジャズ系のプレイヤーを巻き込んで自分の作品を作っているし、今度サマソニで来日するトム・ミッシュはまだ22とかですけど、UKのジャズ・ミュージシャンに加えて、アメリカの東海岸や西海岸の若手第一線で活躍する同世代のジャズ・ミュージシャンを巻き込んで作品を作っている。そういった状況を見てると、今、UKのシーンは一番熱いんじゃないかなと思いますね。

安藤:少し前まではヨーロッパのジャズというと、特にオランダとかイタリアですけど、まだハードバップやってるの?みたいな(笑)、アメリカ人が「時代遅れ」と思ってるものを「いや、やっぱりかっこいいんだ」って、スーツ着てやるみたいな人も多かったですよね。でも最近ではサム・クロウとか、リチャード・スペイヴンとかがアメリカの00年代のスタイルをイギリスで同時多発的に昇華させていて、もう今のUKはUKの色っていうのが出来上がっているところまできていると思います。

松浦:カテゴリーで考えたら、ま、シャバカ・ハッチングスみたいな人はもうジャズでいいと思いますが(笑)、ジョー・アモン・ジョーンズはジャズなのかどうなのか?みたいな、ロックだしフュージョンだしみたいなところで、あえてジャンルでくくって分けることが、あんまり意味がないと思うし、聴いて何か感じるものが新しいかどうかだと思っています。たぶんやっている本人たちもジャズというマナーの中でやろうっていう風には思ってなくて、やってたら結果的にそうなってたってことなんじゃないかな。何よりもそれぞれのアーティストが自分のアイデンティティ、クリエイティビティを求めて音を出し続けて、それが自然と一つのシーンとして形成されているってところに多分今のUKのシーンの面白さがあるんじゃないのかなと。

安藤:あと、世界的に見ても今、音楽作るのってパソコン一台あればできる時代になって、SNSを見ても、今、インスタでみんな何か自分のチョップス(腕前)をひけらかすために映像をアップしていますよね。地球上のすべての人が楽器をやってんじゃないか?ぐらい自分で全部やれちゃう。そうなると例えば僕がMELRAWの次のアルバムは全編俺のボーカルで行きます!みたいなことだって、「じゃあそれはジャズなのか?」みたいな話になるかもしれない。でも自分たちが通過してきた音楽を自分の好きなようにクリエイトして表現している中でいろんな要素が自然と混じり合っていくので、だからジャンルというより、純粋に自分たちの「声」を表現しているっていうのがすごく大きいと思うんです。

─そういう意味で松浦さんのリリースイベントにWONKが出るってことも新しい化学反応が起こる可能性が大きいわけで。

松浦:
5月13日のイベントに関しては高校生以下無料って打ち出しています。あと、日曜日の夕方にやるのも、人それぞれ生活スタイルが違いますが、終わっても電車で十分帰れる時間帯でいろんな世代が入り乱れたらいいなと思っています。その日集った時に、「あ、なんかいろんな発見があったな」、それが言葉だったり音楽だったりするっていうところが面白いところじゃないかなと思いますね。

江﨑:先輩方のイベントに出演させてもらって毎回思うのが、お客さんが温かいというか人間味があるというか、楽しんでいる方が多いことなんです。僕ら若い世代だけでやっているイベントをは少し趣が違う。根強いファン、ほとんどファミリーみたいな感じのリスナーがついてきてくれることって本当に重要なことだなと思います。

─今回のライブでの共演もですし、今日話に出たUS、UKのミュージシャンやシーン、そしてアジアとも混じり合って行くと面白いことになるんじゃないかとワクワクします。

松浦:
WONKはもうヨーロッパとかに出て行ってやっていますし、アメリカでもやってみたいって話を聞いたので、どんどんやって進化して、それをこっちに持って帰って来て他のミュージシャンやアーティストたちにそれを音として伝えて行く。「あ、やばい、こんなことじゃダメだ」って、他のミュージシャンが自分なりの音を出していって、どんどん緊張感を高めて行くっていうのが大事になってくると思いますね。

松浦俊夫(TOSHIO MATSUURA GROUP)×江﨑文武(WONK)×安藤康平(MELRAW)が考える、2018年のジャズ・シーン(5)

NEW RELEASE

TOSHIO MATSUURA GROUP『LOVEPLAYDANCE』
2018.03.07(水)Release
  • WONK『Pollux』
    2017.09.06(水)Release
    • Pollux/WONK

      アルバム

      1,800

      Pollux
      WONK
  • WONK『CASTOR』
    2017.09.06(水)Release
    • Castor/WONK

      アルバム

      1,800

      Castor
      WONK
  • MELRAW『Pilgrim』
    2017.12.06(水)Release
    • Pilgrim/MELRAW

      アルバム

      2,400

      Pilgrim
      MELRAW

LIVE INFORMATION

TOSHIO MATSUURA GROUP “LOVEPLAYDANCE” RELEASE PARTY
日程:2018年5月13日(日)
会場:Contact
時間:OPEN 17:00 / CLOSE 23:00
料金:ADV ¥2,500 / DOOR ¥3,000
LIVE : J.A.M、WONK
DJs : 須永辰緒 (Sunaga t experience)、沖野修也 (Kyoto Jazz Massive / Kyoto Jazz Sextet)、vinylDJ EIJI TAKEHANA (Jazz Brothers)、大塚広子、松浦俊夫 (TOSHIO MATSUURA GROUP)
DANCE: Broken Sport (Jazzy Sport)
MUSIC MARKET : HMV record shop TOWER RECORDS JAZZY SPORT music shop
http://www.contacttokyo.com


Interview&Text:石角友香
Photo:Kohichi Ogasahara

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