知られざるワールドミュージックの世界 ~ねむ~くなる音楽~

知られざるワールドミュージックの世界 ~ねむ~くなる音楽~
春眠暁を覚えず。なんていう言葉があるが、春に限らずいつも眠いという方も多いはず。そんなに眠いのなら、思い切って寝てしまうことも大切だ。

というわけで、今回は聴いていると眠くなってしまう音楽、そして眠りたい時に最適の音楽を集めてみた。音楽とは、コンサートという演奏会形式があるように、本来はじっくりと対面して聴くものだ。一部には、BGMとしてインテリアのようなものや、具体的に「眠りのための音楽」というようなものも作られているが、基本的には意識して聴くものである。しかし、世界を見渡してみると、聴いているうちに催眠術にかかったように眠くなってしまうものも多数ある。ここでは、最後まで聴き通すのは至難の業といえそうな、眠い音楽をお楽しみいただきたい。

ガムラン、インド・クラシック、ハワイのスラック・ギター、ロックステディ、ミナス……心地よく夢見ごごちにしてくれる南国の音色

トップバッターは、なんといってもインドネシアのガムランだ。もともとは宗教儀式で奏でられていたというだけあって、青銅製(もしくは竹や木でできたものもある)のゴングのような打楽器を数十人で奏でるアンサンブルは、かなりの音圧がある。しかしそれでも、何度も反復されるフレーズや、独特の心地良いハーモニーは子守唄にしか聞こえない。この動画のように、美女が舞い踊ってくれたなら、ますます夢心地になるだろう。


ガムランに匹敵する眠い音楽の代表といえば、やはりインドの古典音楽ではないだろうか。ラーガといわれる独自の旋法は、宗教的な意味合いを持っているが、これまた睡眠導入にぴったりのメロディといえる。とりわけ、タンプーラという開放弦を弾いて演奏する弦楽器のビョーンという響きが延々と続けば、夢うつつになること必至。カウシキ・チャクラバルティの美しい声にも癒やされる。



楽園と呼ばれるところには、必ず眠くなる音楽があると思うのだが、ハワイのスラックキー・ギターはまさに絵に描いたようなサウンドを作り出している。チューニングをゆるめた中低域が心地良いスラックキー・ギターで奏でる音色は、ビーチでごろ寝する気分にさせてくれるはず。この動画は、名手オジー・コタニが巨匠サニー・チリングワースのカバーをした極上の一曲。



ビーチでごろ寝から想像する音楽で、ハワイアンと並ぶのがレゲエだろう。レゲエにも種類は多数あるが、ロックステディといわれるスカとソウルが合体したメロウなミディアム・テンポのリズムは、まさに楽園での昼寝を想起させる音楽の筆頭だ。70年代から活動するルーツ・ラディックスの演奏を聴きながら、ビールでも飲んで寝てしまえば、いい夢を見れそう。



ブラジル音楽は、サンバのイメージが強いため基本的に眠い音楽とは無縁に思われるだろうが、実際には穏やかで癒やされるサウンドも多数ある。その代表的なものがボサノヴァだろうが、昨今話題に上ることの多いミナス地方の音楽も、少しヨーロピアンな雰囲気を感じさせるメロウなメロディやリズムの宝庫だ。ミナス音楽の代表格であるミルトン・ナシメントの名曲「Ponta De Areia」を、バンドリンという楽器の名手アミルトン・ヂ・オランダがカバーしたバージョンで極楽へどうぞ。

アフリカから北欧、そして日本へ まだまだ続く春眠ワールドミュージック!

同じくアグレッシブな印象があるアフリカにも、眠い音楽は存在する。西アフリカ発祥の弦楽器コラの爪弾きは、優しい音色が特徴だ。場合によっては超絶技巧を見せる場合もあるが、基本的にはおとぎ話に出てくる竪琴のようなイメージで奏でられ、聴いているうちに睡魔が襲ってくる。このマリ共和国の天才バラケ・シソコのソロ演奏からは、まるでチェンバロで教会音楽を演奏しているような心地良さを感じられるだろう。



コラにも印象が近いが、フィンランドのカンテレという弦楽器もまた、夢の国を思い起こさせる音色が響く楽器だ。カンテレは、フィンランドに伝わる叙事詩『カレワラ』のなかに出てくる賢者が発明したことになっており、まさにそんな伝説が似合うドリーミーな音色が美しい。国民的作曲家であるシベリウスの楽曲の演奏を聴いていると、いつしか針葉樹の森の中で眠っている気分にさせられる。



最後は究極に眠い音楽である雅楽を紹介しておこう。日本独自に発展した雅楽は、笙(しょう)や篳篥(ひちりき)といった楽器の響きのせいもあって、とにかく眠気を催してくれる。楽曲の作りもインドのラーガなどに近い平坦な印象があり、とくにこの「越殿楽」(「越天楽」ともいう)の心地良さは格別だ。いつまで耐えられずに眠ってしまうかをぜひ試してみてほしい。



すでにお気付きだと思うが、眠い音楽とは「心地良い音楽」と同じ意味。うとうとしながら世界の音楽を聴くというのも、なかなか趣があるといえるだろう。そもそもこの原稿を最後まで眠らずに読んでいただいているのだろうか……。書いているこちらもなんだか眠くなってきた。というわけで、おやすみなさい……zzz


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣

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