笛吹きたちの素敵な音色 【知られざるワールドミュージックの世界】


言うまでもなく、音楽には楽器が不可欠。打楽器、弦楽器、鍵盤楽器と様々な種類があるが、管楽器はある意味楽器の花形だ。今回は、そのなかでも「笛」と呼ばれる楽器にスポットを当ててみたい。

笛は口から空気を送り込んで吹き鳴らす楽器。というような説明はするまでもないが、じゃあなにが笛なのかというと意外に定義が難しい。管楽器でもフルートやクラリネットは笛っぽいが、トランペットやチューバは笛という人はいないだろう。また、オカリナやハーモニカは笛なのかよくわかりにくいし、汽笛や警笛は笛という漢字を使っているので笛なのかなど、追求していくと奥が深いのだ。
ここでは、細かい仕組みや定義はひとまず脇において、見た目や音などで笛だと思える楽器を、世界中から集めてみた。ぜひその音色に浸っていただければと思う。

日本が誇る笛“尺八”が奏でるドビュッシー、鼻笛のビーチ・ボーイズ…魅惑の笛の音に震えろ!

そんなわけで、まずは日本を代表する縦笛のひとつ、尺八の音色を聴いてもらおう。尺八は、竹で作られた管楽器で、中国起源だといわれている。音を出すのが難しく、「首振り三年ころ八年」なんていうことも言われるほど。しかし、海外でも興味を持つ人が多数おり、我が国が誇るべき楽器のひとつである。ここでは、フランス在住の日本人女性奏者が、ドビュッシーがフルートのために書いた現代曲「シランクス」を、尺八一本で表現している映像をご覧いただこう。
 

 

お次は、南米からお届けしたい。いわゆるフォルクローレといわれる民謡や民族的なサウンドで使われるのが、ケーナとサンポーニャ(シークとも言う)だ。ケーナは南米版の尺八のようなもので、もしかしたらルーツは同じなのかもしれない。サンポーニャはたくさんの竹筒を音階順にまとめた楽器。ヨーロッパではパンパイプやパンフルートと呼ばれているものと原理は同じで、ギリシャ神話にも出てくるほど歴史は古い。この2つの楽器があれば、心は一気にアンデス山脈へ飛べるはず。
 

 

バグパイプも比較的メジャーな楽器といえるだろう。有名なのはスコットランドだが、名前や形を変えてフランス、スペイン、東欧、トルコなどヨーロッパ全土で演奏されている。息を吹き込むとはいえ、空気を貯める袋を調節して音を出すので、アコーディオンと同じタイプの楽器として分類されることもある。この動画はスペインのガリシア地方で演奏されるガイタと呼ばれるバグパイプの一種。海を見ながら聴くバグパイプもなかなか風情がある。
 


インドの楽器というと、弦楽器のシタールや打楽器のタブラがよく知られているが、横笛のバンスリもインドやネパールの古典音楽でよく演奏されている。音色はフルートというよりは、日本のお祭りで使われる横笛のような素朴さを感じさせるのが特徴。とはいえ、ヒンズーの神様であるクリシュナが手に持っていることもあり、聖なる楽器ともいえるのだ。
 


さて、ここからは変わり種を紹介していこう。スイスのアルペンホルンという長い管楽器を見たことがあるかもしれないが、そのアルペンホルンの形をしていながら、実はディジュリドゥという奇妙な楽器だ。ディジュリドゥは、オーストラリアのアボリジニによって伝えられるもので、本来はシロアリに食べられたユーカリの木を使う。吹き方はどちらかというとトロンボーンなどの金管楽器に近いが、循環呼吸を使うなどかなり特殊な奏法と音色を出す。最近では日本でも演奏されることがずいぶん増え、ストリートなどで見かける機会もあるはずだ。
 


ヨーロッパでは動物の角を使った角笛もよく見られる。この角笛も神話などによく出てくるが、実際に演奏会などで聴く機会はあまりないかもしれない。というのも、たいていの角笛は単音しか出ないので、音楽を演奏するのには向いていない。ホイッスルやクラクションに近い楽器と考えたほうがいいだろう。この動画は、なぜかベトナム人が紹介する角笛だが、延々と単音のみを吹く様子がどこか滑稽で、物悲しさすら感じられる。
 

 

角笛は主にヨーロッパ中心に見られるが、インドから中国にかけてのアジアでよく見られるのがひょうたん笛だ。特にタイなどでは土産物屋でも売られているほどメジャーで、音色としてはバグパイプやラーメン屋でおなじみのチャルメラに近い雰囲気がある。ここでは中国人美女が吹くひょうたん笛をご紹介。楽器の見た目もメロディもオリエンタルでユニークだ。
 


笛は口で吹くものだけだと思ったら大間違い! 鼻で吹く鼻笛も冗談ではなく歴史あるもの。東南アジアでは横笛タイプ、ハワイ諸島などでは縦笛タイプと、広範囲に渡って鼻笛は存在するが、一般的には小さな器具を鼻に当てて音を出すものが普及している。吹く姿はちょっと間抜けではあるが、この動画のようにビーチ・ボーイズの名曲を見事に演奏されてしまうと、バカにできないはずだ。
 


さて、究極の笛といえばなんといっても口笛だろう。道具を一切使わずに肉体だけで吹く笛だが、これまた極めると奥が深い。こちらの動画は、日本で行われた国際口笛大会の記録映像。数人の演奏がダイジェストで見られるが、どれも口笛とは思えない超絶技巧で圧倒される。これくらい口笛が吹けたら相当気持ちいいはずだ。
 


さて、今回は音楽というよりも楽器紹介になってしまったが、もちろん世界各地にはこれらの笛を使った素晴らしい音楽が存在する。笛という楽器を通じて、新たな音楽の旅を楽しんでいただきたい。


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣