東京モジュラーフェスティバル2017 ~主催者HATAKENが語るモジュラー・シンセの魅力~


昨今、プロアマ問わず注目を集めるモジュラー・シンセサイザー。
オシレーター、フィルター等、各機能をケーブルで繋ぎ、自由に音造りが出来る無限の可能性を秘めた電子楽器が、秘かに人気を集めている。
デジタル機器の均一感に飽きた人々の間で、味のあるアナログテイストを求める動きは確かにある。ただ、昔を懐かしんで買い漁る熟年層とは別に、アナログレコードやカセットテープ、使い捨てフィルムカメラなどを好む若い世代にも評価を得ているというから面白い。
とは言え、一般層にはまだまだ未知の世界であることは確かだ。
そこで、11月18&19日にRed Bull StudiosとContact Tokyoにて開催される「東京モジュラーフェスティバル2017」の主催者で、モジュラー・シンセアーティストのHATAKEN氏に、楽器の魅力を存分に語ってもらった!

機材オタクからファッション関係者、若いカップル、高年齢層……多種多様な層を魅了するモジュラー・シンセ


─「東京モジュラーフェスティバル」は今年で5回目を迎えますが、静かなブームというか、手応えをどのようにお感じでしょうか? そもそもどういう経緯でイベントを開催する事になったのですか?

HATAKEN(以下H):ある時、デイブ・スキッパーというアーティストと「ビンテージシンセやアナログシンセに興味がある」という共通点で、意気投合したんです。それで最初は「Analogue Sonic」というイベントを二人で始めたんですが、全然集客が無かった(笑)。フード出店の人たちと一緒に組んでみたり、音楽プラスアルファの要素を取り込んでコラボレーション等も試みたんですけれど……全然ダメだったんですよね。
だから、ただのイベントではなく「機材を紹介するような場も設けたらどうか?」という案でスポンサー企業を募って、1回目のモジュラーフェスが開催される運びになったんです。

 

東京モジュラーフェスティバル(1)

 

─そこから毎年開催されるようになったということは、反響があったんですね!?

H:はい。僕らが「Analogue Sonic」を主催していた時は、マニアックな趣向の男性客が大半だったんです。しかも顔ぶれも毎回同じで……。そんな状況だったので、機材主体のモジュラーフェスを初めて開催する直前までは、これまで同様の客層が中心なんだろう…と予想していたし、正直集客がどうなるか不安で仕方なかったのですが……。
蓋を開けてみたら、不安とは裏腹に若いカップルだったり、年配の人達だったり、今までの僕らのイベントとは全く違う客層の人達で賑わっていたんです。

─今までと何が違ったんでしょう?

H:名もないアーティストが出演するライブ興行としてのイベントだったのが、「モジュラーシンセ」という機材を主役に据えて、機材の展示会やそれを取り巻くシーンを紹介する役割としてのライブコンサートに趣旨を変えました。
アーティストの表現がメインではなく、機材とそのシーンを紹介するモジュラーシンセ見本市というところをアピールしたことで、より一般の人たちや流行に敏感な若者たちが集まったのだと思います。後から聞いた話では往年のYMOファン、機材オタクの人たちも来場されていたようです。

─全く予想していなかった層にも響いたんですね。

H:当初はスポンサーさん含め、マニアックな機材オタクのような層に向けて、
自分たちも含め「集える空間が出来れば良いかな!?」ぐらいの気持ちだったんですが、予想に反して一般の人達からの反響が大きかった。
これまでレクチャーを受けられるような場が提供されていなかっただけで、モジュラー・シンセサイザーというものに、意外と皆さん興味はあったようなのです。お客さんに後押しされて、マニアックな集いという当初のコンセプトから、より啓蒙的に、多くの人を対象にした開催内容になっていきました。

─スポンサーの反応は?

H:協賛参加頂いたいずれの東京のショップからも「その日を境に売り上げが急に上がり始めた」という報告を受けました。
最初は問い合わせだけ程度のものだったのが、開催を重ねる毎に、1日に5、6台売れるというような状況に変わっていきました。数年前には考えられなかった程の認知と人気が出始めているようです。
モジュラーフェスでは、そうしたお店やメーカーさん達の協力体制が凄く積極的で、心強いです。

─当然その相乗効果で、フェス以外のモジュラーシンセのイベントの集客も増え始めたのですよね?


東京モジュラーフェスティバル(2)

 

H:そうですね。ここ数年、モジュラーシンセをフィーチャーしたイベントは増えてきていると思います。
あとは、タイミング的に、音楽業界内に於いても制作の現場レベルでビンテージシンセの流行というか、「やっぱりパソコン上で作られる音源はアナログの実機から出る音には敵わないよね……」という風潮になりつつある時代背景もあったと思います。プロの現場でのアナログシンセや、ツマミを自分で直接いじって好みの音を出せるという気持ち良さを知ってしまった人が増えてきた経緯も重なるんですよね。

─ソフトウェアから出る音に満足できなくなってきたわけですね。

H:手軽ではあるけれど、やはりハードウェアから生み出される音のほうが圧倒的に素晴らしい。そして、様々なアーティストが、アルバムリリース時のインタビューなどで「今回は、こういうアナログ機材をフィーチャーして使いました!」的な事が、公に向けて発せられる事で、更に盛り上がりが加速している気がします。

─それは国内外同様に起きているムーブメントなのでしょうか?

H:そうです。Moogなどの機材はアメリカのほうが余程台数はあるようですが、マーケット的には海外から日本の機材を求めて買い付けに来る人たちも少なくありません。

─それって、アナログレコードをわざわざ日本に買いに来るというマーケットに似ているんでしょうかね? 日本の中古レコードは、海外のものに比べて圧倒的に程度が良いというのが理由ですが。

H:ああ、それはあるかもしれませんね。日本人はモノを大切に扱う印象がありますし。良い状態のものが見つけられるんでしょうね。
あとは、日本のRoland やKORG、YAMAHAなどの名機の周辺機器なども海外では手に入りにくかったりするようです。

─話が前後しますが、HATAKENさんご自身のモジュラーシンセとの出合いは?

H:2000年の初めぐらいまではデジタル機材を使って音楽活動をしていたんです。その時期にKEN-MACHINE名義で活動していたリチャード・シャープに出会い、アナログ機材が放つ音の良さに衝撃を受けました。彼と一緒にプレイをしても、僕のデジタル機材が出す音では全く太刀打ちできない。90年代当時のバーチャルアナログといったデジタルシンセでは、音が前に出てこないんです。
音圧から何から何まで、全てにおいて負けてしまっている。
そう実感してからは、自分が出したい音を探求するにはアナログ機材を使うのが最短で最良なのではないか?と……。
で、実際に使ってみると、やはり「こんなに音がいいんだ!」と、そこからはアナログシンセのサウンドに魅了され続ける事になるんです。
ビンテージなアナログ機材は音に関して間違いないのですが、内部結線されてしまっているので、自由度に関しては制限が多いのです。また、ライブなどに持ち歩くにはデカすぎるものが多い。また、現行のユーロ・ラック規格の小型のモジュールが出てくるまでは、僕にとってもモジュラーシンセは手を出したくても、金額もサイズも大きすぎました(笑)。
ユーロ・ラックはサイズも金額も小さい。コンピューターベースのDAW環境と同等か、それ以上の最新の技術も反映された新しいモジュールが全世界で毎日リリースされ続けていることも、大きな要因です。ちなみに300社以上ものメーカーがあり、我々のフェスティバルでも全てに声をかけています。

 

東京モジュラーフェスティバル(3)

 

─メーカーによって規格がバラバラという事ですが、判りやすく言えば、WindowsフォーマットのパーツやソフトはMac環境では使えない。みたいな状況なんですよね?

H:そういう不便な環境下で、DOEPFER(ドイファー、http://www.doepfer.de/home_e.htm) というドイツのメーカーが提示した3Uというサイズの規格で製作したユーロ・ラックフォーマットのモジュールが発売されるようになりました。そのラックのサイズを基準に、自作で作ったモジュラーをはめ込んで独自のシステムを作るアマチュア・ユーザーが登場し始めたんです。インターネット環境が普及し始めた時期でもあり、こうしたアマチュア・ユーザー達が、Net上のフォーラムで情報交換をし始めるようになるんですね。
そのフォーラム上に自作した機材の実演映像や詳細をアップすると「それ、僕も欲しい!」みたいな反響を受け、自作の機材が売買される……いわゆる「ガレージ・メーカー」が続々と立ち上がり始めたんです。

─今でいうクラウドファンディングの先駆けのようなシステムですね!?

H:そうなんです。フォーラム上で「今回10個作ってみたけど、欲しい人が居れば譲ります」みたいなやりとりがされ、営利目的ではなく仲間同士でテクノロジーを共有しながらシェアしているような感じで進んで行くんですよね。
今ではきちんとメーカーとして起業しているような人達同士が、お互いに自分たちが作ったものを分け合っていた世界です。

─それは素敵な世界ですね。

H:僕が今エンドースメント契約をさせてもらっているMalekko Heavy Industry(https://malekkoheavyindustry.com/)というメーカーは、元々はエフェクト・ペダルのメーカーだったんですが、個人で創っている機材やアイデアを具現化出来るように、自社工場のライン(Dark Place)を提供して量産製造を手伝ってあげていたりするんです。
ユーロ・ラックというサイズが基準となり、今までは大手の機材メーカーしか無かったマーケットにガレージ・メーカーが続々と参入してきた事と、インターネットの普及によって、2000年から2010年あたりまでの10年間の間に一気にモジュラー・シンセのマーケットが拡大していったんです。その勢いは今も変わりません。
 

 

 

─規格の統一によって、機材の組み合わせの可能性が無限に広がり始めたんですね?

H:あとは、機材が物理的にコンパクトになったので、持ち運びが容易になった事も敷居が低くなった要因かもしれませんね。

─それまでは「箪笥」と呼ばれる、バカでかいのがモジュラーシンセというイメージですものね……。あれでは、余程のスペースを持っていないと、自宅にも置けないし、運び出すのも大変。

H:そうですね。それまでのモジュラーシンセって、スタジオに“ドン”と大きいモノがあって、それを博士のような人がいじっている……というイメージでしたよね。
価格的にも、昔はバカでかい上に何十万という金額だったものが、今では技術的にも小さくした上で数万円に抑えられている。技術の進歩が一般層の参入を助けているのは確かです。
また、「Moogのフィルターだけ」というように、各自が必要としている機能部分だけを個々に購入出来るというのも、マニアな人たちから受け入れられたんだと思います。何気なく機材として使っていたアナログシンセの中身、どのような仕組みで音が出ているのか!?という事まで使い手が理解することで、更に集合知を高めて行く事にも繋がっていると思います。

 

アナログ/デジタルのハイブリッド時代に突入!


─HATAKENさんも、そうやってどんどんモジュラーシンセの沼にハマって行ったわけですね?

H:そうは言っても自分が出したい音が、どれだけ良い音で表現できるか?という手段として行き着いたところが、モジュラーシンセというだけであって、アナログ至上主義というわけではないんです。
当たり前ですが、デジタルの世界もどんどん進化して、そうした技術はモジュールにも反映されています。中にデジタルのマイコンチップが組み込まれていたりするので、中身を書き換えたり、バージョンアップが容易にできるようなものも出てきています。更には、裏モードが設定できるような隠しコマンドがあったりと……(笑)。

─そういう情報はネット上でやりとりされているんですか?

H:はい。そういう意味でも、モジュラーシンセの世界はもの凄くオープンなんですよね。
基本的にこれまでの大手機材メーカーが技術を公開する体制はなかったので、機材の中がどうなっているかは、積極的に明かされてきませんでしたよね。今は、全てのアナログシンセの名機の中身は周知のものが多い。
ガレージ・モジュラーメーカーは、積極的に自分たちがやっていることをオープンソースにしているんです。
それを、別の人が見て、バグの報告をしあったりアドバイスをして、改良されてより良いものになったり、応用して別の音が出せるようになったり……。
更に別の第三者がプログラムを書き換えて全く別のものを作って、それを無償で公開するような動きも出てきていて、デジタルの技術を導入し、どんどん進化して行っているのがこのシーンの現状です。

─もはやモジュラーシンセ=アナログという定義も無くなってきていますね。

H:ライブ会場などでも「やっぱりアナログの音はいいですね!!」と言ってくる人がいるんですけれど、「いやいや、もはやもうほとんどデジタルの音です」というのが今の現場の状況なんですよね。アナログオシレーターやフィルターの存在価値はもちろん変わらないのですが、デジタルのおかげでさらに表現力の幅は増してきています。アナログ/デジタルのハイブリッド時代ですね。

では、モジュラーシンセの何が「アナログ」なのか?となると、やはり音を出す手法としてパッチングと言う、ケーブルでモジュラー同士を繋いで行く作業だったりするのですが、実際の中身の発想や処理の仕方に関しては、デジタルの技術に頼っている部分が殆どなんですよね。そして、更に小型化していく傾向も見られます。デジタルは便利にする技術でもあるので、あまり行き過ぎるとコンピューターの作業環境みたいになって行くと思いますし、そうなるとモジュラーらしさと面白みがどうなっていくのか……、興味深くもあります。

─とはいえ、ハードウェアで生成される音はソフトウェアから出てくる音に比べて圧倒的な音質と音圧があるから、そこは譲れないと……。

H:プリセットで組まれている音だとどうしても他の人たちと似通ってきてしまう。そこに満足できない人たちが。自分が出したい音を一から作る楽しさとともに、モジュラーを思考錯誤していじって行く。そういうところが魅力で惹きつけられるんだと思います。

 

東京モジュラーフェスティバル(4)

 

─今回のモジュラーフェスに出店や協賛をされているメーカーさんは、個人で作っていたことの延長から機材ブランドを立ち上げられたような人たち……レコード会社で言う所のインディー・レーベルのような会社ばかりという感じでしょうか?

H:そうですね、そういうケースが多いです。
つい最近立ち上がったばかりのブランドもあります。が、そうした中に混じってRoland傘下のAIRAさんなども出店されています。
そうした大手メーカーさん達の中でも、Rolandさんはこのマーケットに将来性を感じてくれたんだと思います。ユーロ・ラックに収まるサイズの商品開発なども積極的にやり始めていますし。とは言え、瞬発力や小回りという点では、1人2人だけで運営しているようなガレージ・メーカーさんのほうがやりたいことをすぐにやれますからね……。

─企業となると、企画会議諸々の過程を経て開発をするのか、否か?を決めなければならないし、そりゃ慎重にもなりますよね…。

H:大手はやはり安全基準など品質管理に於いても厳格ですから、ガレージ・メーカーのように冒険や実験的な段階では商品化に踏み切れないというジレンマがあるのは仕方が無い。
ガレージ・メーカーは「これ、面白そうだ!」と思えばすぐに作ってしまうし、それを発売後に徐々にバージョンアップしていったり、あとから調整したり…。で、その辺りの事情をユーザー達も理解した上で商品を手にしているので、不具合があってもいわゆるクレームのような文句は言わないし、一緒に「シーンを作っていく為の実験をみんなでやっている」という仲間意識が根底にあるのでしょうね。

─そうしたガレージ・メーカーが世界中にあるわけですよね?

H:そうです。世界ということでいえば、2013年の時点で「日本は10年遅れている」とも言われていました。
最近ようやく世界に追いついてきたように感じます。
遅れているというよりも、日本人がこのシーンのことに気がついていなかった。もしくはマーケット的に必要がなかったのかもしれません。

─と、いうと?

H:プロの制作現場で今までモジュラーシンセが無くても楽曲作業的に何の
不自由も問題も無かったんでしょうね。

─では、何故必要性が定義されてきたのか? 何が魅力で昨今の評価になっていったのだと思われますか?

H:自分の眼の前で、直接プラグをブスブス刺して、操作してゆく直管的な楽しさなんだと思います。が、最大の魅力は音が良いと言うことに尽きると思います。
出力も強すぎるので、むしろそれを抑えて音を出すような状況ですし、あれだけたくさんのケーブルを使用しているにもかかわらず、ノイズも殆ど出ない。
それでいて強靭な音が出る。現場での破壊力がハンパないんです。
通常であれば、スピーカーが壊れるようなレベルが出ないように製作されていたり、耳を傷めない配慮がされているのですが、モジュラーシンセにはそうしたリミッターが無い。

─それこそ車のガレージ・メーカーが、排ガス規制や騒音規制を無視して作ったレース用パーツ……といった感じですか?

H:そういうものに似たところはありますね。
それに加えて、シンセサイザーを開発したMoogのような老舗もそうした技術を自社で独占せずに誰でも流用、応用を許される環境でのスタートされたシーンなので、これだけ多くのガレージ・メーカーが自由に機材開発をすることが出来たんだと思います。
 

 

そうした、皆で技術を共有し、それぞれが得意な分野で作り上げたものが、パッチというケーブルで繋がれることによって、新しいものとして生まれてくる。我々の生きる社会も、そうしたモジュラーシンセのようなシステムになればもっと良い世界になるんじゃ無いか?と思うんですよね。
そういう意味でも、子供達にモジュラーシンセを使って音を出すようなワークショップを開催出来れば、音の楽しさを知るきっかけだけでなく、良い社会を作る上でのマインドが育まれるようにも思うんです。

─なるほど。そんな子供達も含めてになるかもしれませんが、モジュラー・シンセに興味を持った人が始めるにあたり、どの機材から買えばいいのか? 何を買うのがいいのか? そこが分からずにスタートが切れない人も多いと思います。ビギナーにオススメのセットなどはあるのでしょうか?

H:それが本当に難しい質問なんですよね。
シンセを扱うショップの店員さんも、その質問には毎回悩まされているようです。
と、言うのも「その人がモジュラー・シンセで何をしたいのか?」次第で選択肢が無限に出てくるのです。

─なるほど…。沼と言われる所以がそもそも入り口から始まっている……。

H:今までだれも聴いたことの無い音に出会える可能性も秘めているので、インスピレーションの元を見つける作業としても良い道具だと思います。
PCで楽曲制作していて、そこに何かエッセンスを足したいと思っているのか?
全く知識もなく、これから電子音楽を始めてみたい。というレベルなのか?
どんな人でも、まずはケースと電源が必要になるんですけれど、ケースにモジュラーをはめ始めると、空いている隙間が気になってきて埋めたくなってくるんですよね。そうなってくると、大きく分けて20タイプぐらいのモジュラーの中から、自分にとって必要なものを探して埋めて行くようになるんですが、それでも空いている隙間に自分には必要無いモジュールまで買ってしまいたくなっちゃうんです(苦笑)。

 

東京モジュラーフェスティバル(5)

 

僕はもう、その衝動には駆られずに、隙間は隙間で、意味があると理解出来る境地になりましたけど…。

入門編としての希望を聞いていると、ともすると既存のプリセットのシンセサイザーでも出来ることばかりで「だったら、モジュラーじゃなく、普通にシンセ買ったほうが早いし安いですよ…」みたいな結論になっちゃって、意味が無いなあ…と、感じてしまうことも多いんですよね。
そうなるともう、失敗覚悟で「欲しい!」と思っちゃったモジュールを、もうとにかく買っちゃって、それに合わせて必要な別なモジュールを揃えて自分でどんどん実験を繰り返しながら、自分の出したい音を探って行くしか無いのかな……と。
ただ、この世界には情報共有をしたい先輩がいっぱいいるので、喜んで相談に乗ってくれると思います!
そういう意味で失敗がない世界。目的の音にたどり着け無いのであれば、それはその人にとって失敗なのかもしれませんが、実験の中で出てきた音が面白い場合、それはそれでアリだと思うんですよね。
まず最低限の音を出すために必要なものから揃えて、自分が満足するポイント見つけてもらえれば良いと思います。

─とにかく、あらゆるところに入り口があるのに出口が無い世界だということが良く解りました(笑)。

H:出口が無いということでいえば、例えばバンドだったりすると、人前で演奏して、有名になりたいとか、Liveハウスで多くの人に聴きに来てもらいたい。というようなことになっていくんだと思うんですが、僕らが開催しているイベントなどを見ていても、沢山の人に聞いてもらいたいという以前に、自分が楽しいかどうか? が基準の自己満足の世界のようにも感じます。
勿論、自分の作ったモジュラーの音をネットのLive配信やインスタグラムなどへの投稿を通して披露する人も多いですよ。アマチュアユーザー達が各々の形で表現して、独自の盛り上がり方をしている……多様性があります。

https://www.instagram.com/explore/tags/modular/?hl=ja
インスタグラムで「#modular」を検索すれば、その多様性は一目瞭然だ。


─今回のフェスには所謂プロフェッショナルも出演しますよね?

H:普段はメジャーなアーティストの楽曲制作をしているという人もいれば、ゲーム・ミュージックの音楽を制作して生計を立てている人もいます。機材メーカーの人が自分の所の機材のデモンストレーションの一環で行っていたことがアーティスト活動になっていったというケースもあります。

─今回は女性アーティストを特集した日も設けているようですが、女性人気も結構あるのですね!?

H:僕も最初はマニアックな男性の世界! というイメージがあったのですが、イベントに来るお客さんも、思っていた以上に女性が多く、一人でふらっと来る人も居て考えが改められました。
このシーンを盛り上げて、理解を得てもらうには、女性のアーティストにも是非頑張ってもらいたいと思っています。

 

東京モジュラーフェスティバル(6)

 

─HATAKENさんから見て、男性と女性で演奏に違いってありますか?

H:あぁ、全然違うと思います。
女性の方が直感的というか、頭でいろいろ考えない分、潔い気がします。
男性ってどうしても「ここはこうしなきゃいけない」とか、無意識に決まったやり方のようなものを通ろうとするんですよね。
今回、そういった女性ならではの感性が一同に集った時に放たれる独特の世界観が作れるのではないかと、当日の特集時間帯の空間に期待しています。

ほかの出演者も、海外でもっとも話題のモジュラーシンセ・アーティストを筆頭に、様々なシーンで活躍するバラエティに富んだ人選になっています。
クラブシーンの代表格、音響シーンの大御所、アカデミックにアート表現を探求する大学の研究員、アーティスト本人がモジュラーシンセを開発して出店もしている人まで……いろいろな形でモジュラーシンセでの表現を探求している人たちを国内外から招いています。
僭越ながら、私もゲストにギタリストのSUGIZOさんを招き、モジュラーシンセの演奏を披露させていただきます。

ジャンルや演奏スタイルも一括りに出来ない、バラエティに富んだイベントになると思いますので、新しい楽器に触れてみたい方は、是非遊びに来てみてください!

●東京モジュラーフェスティバル2017 
http://tfom.info/


Text, Photo & Edit:KOTARO MANABE