ご当地メタルで世界一周 【知られざるワールドミュージックの世界】


ライター/選曲家の栗本斉による、知られざる世界の音楽を紹介する連載コラム。第4回目は世界各国のメタルがテーマ。日本ではアイドル文化と融合し、アイルランドには民族的な世界観のケルティック・メタルサウンドが存在する。その土地ならではの、ご当地メタルをピックアップする。

ギターの速弾きだけじゃない! 味わい深いご当地メタル

ヘヴィ・メタル、通称「ヘヴィメタ」。その言葉を出すと、大抵の人は「ああ、あんな感じのやつね~」とイメージすることだろう。とにかく、ヘヴィ・メタルほど好き嫌いがはっきりした音楽はないかもしれない。苦手な人は、とことん苦手で、嫌悪感を丸出しにされることも多々ある。

ただ、ヘヴィ・メタルにもその一般的な印象とは異なり、いろいろなサブ・ジャンルがあって、単一的ではない広大な世界が横たわっている。それぞれの解説はここでは避けるが、スラッシュ・メタル、スピード・メタル、デス・メタル、ゴシック・メタル、シンフォニック・メタル、ブラック・メタル、ドゥーム・メタルなどなどその分類は多数あり、ファン層も細分化されているのだ。

また、その演奏スタイルも様々で、メタルというと「ギターの速弾きでしょ」という固定観念はもはやメタル・ファンには通用しない。例えば、チェロだけでヘヴィな世界を構築するフィンランドのアポカリプティカや、ア・カペラのコーラスでハードに責め立てるドイツのヴァン・カントなどは有名なところだ。いずれもメタリカの同一楽曲をカバーしているので聴き比べてもらうとよく分かるがヘヴィ・メタルはそんなに単純な世界ではないのだ。
 

 

そんなバラエティに富んだヘヴィ・メタルは、当然世界各国に存在し、その国独自の文化や社会状況を反映しながら進化を遂げてきた。有名な例では、日本のアイドル文化と合体したBABYMETALもそのひとつだ。
 

民族的な世界観を打ち出したヨーロッパのメタル・シーン

また、民族的な世界を打ち出したヘヴィ・メタルは、とりわけヨーロッパに多く、アイリッシュ系の要素を加えたケルティック・メタルと呼ばれるジャンルも存在感を増している。しかも、アイルランドにとどまらず、各国に分散されているのも興味深く、社会文化学的な観点で研究しても面白いだろう。例えば、ベルギーのエティーリーエンもバグパイプなどの民族楽器を生かし、ケルト音楽の要素を積極的に取り込んだバンドの筆頭だ。
 


こういった民族的な要素を加えたものは、一般的にフォーク・メタルと呼ばれて、ヘヴィ・メタルのなかではオルタナティヴではあるが、愛好家も非常に多い。とくに、北欧や東欧はフォーク・メタルの宝庫で、民謡のエッセンスが薫るメロディや民族楽器の響きを効果的に配したアレンジはもちろん、地域性を感じさせる歌詞やファッションも様々。チェコのサイレント・ストリーム・オブ・ゴッドレス・エレジーのパフォーマンスなんて、土着信仰の宗教儀式のようでもある。
 


隠れメタル大国の南米! アフリカ、中東にも浸透するメタルの威力

ヨーロッパだけでなく、民謡のエッセンスを取り入れたヘヴィ・メタルはまだまだ世界中にたくさんあり、南米に渡るとフォークではなくフォルクローレ・メタルになる。ペルーの首都リマを拠点に活躍するフロール・デ・ロトは、アンデス系のフォルクローレとヘヴィ・メタル、そしてプログレッシヴ・ロックが合体したかなりユニークな音楽性で、マニアを狂喜させている。


実は、南米諸国は全般的に、相当なメタル大国で、メキシコやアルゼンチン、コロンビアなどから世界的なヘヴィ・メタル・バンドをたくさん輩出している。なかでもブラジルはその筆頭だ。そんなこともあって、ボサノヴァとヘヴィ・メタルをミックスするというアイデアも自然と生まれたのだろう。こういったミクスチャー系はどこか色モノ感が漂うが、ウアスカはサンバやボサノヴァへの敬意をしっかり打ち出し、ヘヴィ・メタル・ファンだけでなくブラジル音楽マニアをも魅了している。
 


ブラジルにはサンバやボサノヴァだけでなく、アフリカからの影響が色濃いアフロ・ブラジリアン音楽も多彩だが、そんな土着的なサウンドを取り入れて世界的にブレイクしたのがセパルトゥラだ。この曲も、パーカッションのプリミティブなリズムが、徐々にハードな世界に変化していく様子が、スリリングで興奮させられる。
 


さらにルーツを辿るとアフリカに行き着くが、アフリカ音楽とヘヴィ・メタルの親和性はさらにピンと来ないだろう。しかし、意外にもアフリカ全土にヘヴィ・メタルは浸透しており、モザンビークでは国民的スターといわれるスクラッチは日本でも話題になった。リズミカルなアフロ・リズムとヘヴィなサウンドの融合は、なんとも形容し難い魅力がある。
 


アフリカと同じくらいイメージの沸かない中東だが、ここにもユニークなヘヴィ・メタル・シーンが横たわっている。イスラエルのオーファンド・ランドは、オリエンタルなメロディとヘヴィ・サウンドを合体させた先駆者的存在で、政治的なアティチュードを含めてこのエリアに無くてはならないバンドだと高く評価されている。
 


イデオロギーをメタルに乗せろ! アジアン・メタル

アジア圏もヘヴィ・メタルはどこも盛んで、アジア特有の情感が反映されているバンドが多いが特徴だ。台湾のソニックはフジロックフェスティバルに出演したこともある実力派。二胡をフィーチャーしたサウンドが特徴で、台湾独立や反中国思想を掲げた過激な姿勢でも知られている。ただ、そういった背景を抜きにしても、情緒的なサウンドはインパクトがある。
 


最後はインドネシアのロード・シンフォニーを聴いてもらおう。ガムランのフレーズを取り入れたユニークなサウンドは唯一無二で、東南アジアからでしか生まれ得ないバンドと言えるだろう。垢抜けないルックスややり過ぎ感満載のミュージック・ビデオも、見れば見るほど、聴けば聴くほど癖になってしまうはずだ。
 


こうやって並べてみると、ヘヴィ・メタルだけで世界地図が作れてしまう。もし少しでも興味を持っていただけたなら、さらなる辺境メタルを追求してみてはいかがだろうか。新たなワールドミュージックの魅力に開眼するきっかけになるはずだ。


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣