【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第22回「南半球のFab4〜 世界中に散らばったThe Beatles遺伝子系グループ5選」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第22回は、「南半球のFab4〜 世界中に散らばったThe Beatles遺伝子系グループ5選」。まさにタイトル通りなのですが、世界中に存在する「●●(※国や地域)のThe Beatles」、その中でも南半球に絞って、特に優れた音楽性を持ったアーティストの作品を紹介していきます。

単にサウンド的な影響を受けているというだけではなく、その存在感においてThe Beatlesに例えられるグループもご紹介。ここ日本では熱心な音楽ファン以外にはなかなか触れられないであろう南米や東南アジア、オセアニアといった地域の素晴らしい音楽に、ぜひこの機会に出会ってみてはいかがでしょうか?

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

いまさら改めて言うまでもないんですが、The Beatlesってとてつもないグループです。彼らが遺した音楽的レガシー、そしてその影響力は、今も昔も地球の隅から隅まで行き渡り根付いています。

そんなこともあって、雨後のタケノコのごとく数多のフォロワーたちが生まれてきたワケですが、正直そのクオリティーはてんでバラバラ。いくら熱心なThe Beatlesファンだからって(だからこそ?)、聴いていてシンドイようなグループも少なくないのです……。

ということで、今回はそんな世界のThe Beatles遺伝子系グループの中から、これぞという素晴らしい音楽を遺した名グループたちをご紹介したいと思います。なお、今回は南半球の国に限定して、5つのグループを選出してみました。

その影響を咀嚼し、独自の音楽へと昇華させた彼らの高いミュージシャン・シップを堪能していただくとともに、改めてThe Beatlesが遺したレガシーの重みを感じ取っていただければ幸いです。ぜひ!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

We All Together『We All Together』

発売国:Peru
レーベル:Mag
規格番号:LPN-2422
発売年:1972
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

まず最初にご紹介するのは、「ペルーのThe Beatles」ないし「ペルーのBadfinger」の異名を取る名グループ中の名グループです。

その甘酸っぱいメロディーと人懐っこい声は、メロウ好きの私たち日本人の琴線に触れまくるようで、彼らの作品の国内中古市場での人気は群を抜いて高いです……というか、彼らの音楽が嫌いっていう人に会ったことがありません。だって、それってもうThe Beatles嫌いっていうのとほぼ同義ですからね……って言い過ぎ?

ちなみに、本作の原盤はけっこうお高いんですが、探している人は「南米コンディション」という専門用語を覚えておきましょう。
本作もそうなんですが、南米のレコードって基本的に状態が悪いモノばかりで、フェアにグレーディングをするのが難しいもの。そのため、英米でいえば「VG++」ぐらいのコンディションのものでも、南米ではこれぐらいでも良好だよねっていうことで「EX」表記をする、そんな感じの現象を指す用語なんです。まぁ端的に言えば、基準が違うっていうことですね!

なお、このくだりの話がワケ分からなかった方は、ぜひ拙著『アナログレコードにまつわるエトセトラ』(辰巳出版)をご一読ください!

ちなみに、本作は彼らのデビュー作なんですが、1974年にリリースされた2ndアルバム『Volumen II』(Mag / LPN-2454)も大名作なのでチェック推奨ですよ!

 

■ Truck『Surprise! Surprise!』

発売国:Malaysia
レーベル:Baal Records
規格番号:BRC2011
発売年:1974
レアリティー:★★★★★(5/6)

こちらは「シンガポール(ないしマレーシア)のThe Beatles」として知られたグループで、We All Togetherに負けず劣らずの天国メロウです。

特に鼻にかかったヴォーカルの声質は、アジア人ならではの胸キュンなメロウ・ヴァイブスに満ちているんですが、ミョンミョンと縦横無尽なシンセサイザー使いや、ちょっとモサめのアーティスト写真等、いちいち音楽マニアックの心をくすぐってくる作品です。彼らはきっと「メロウの黄金比」を見つけてしまったのかもしれませんね!

なお、本作は彼らの唯一作となりますが、ちょこちょこと名義を変更しているので多くのカタログがあリます。そして、その中でも最も成功を収めたのが、前身グループにあたるOctober Cherriesです。

 

■ October Cherries『Meet The October Cherries』

発売国:Singapore
レーベル:Baal Records
規格番号:BCO100
発売年:1969
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

そして、本作が名前からしてThe Beatles味の強いデビュー作です。
サウンド的にも強烈にビートリッシュで、『The Beatles(White Album)』期あたりがお好きな方であれば、もう最高すぎでひっくり返っちゃうかもしれませんよ!

ちなみに、本作やTruckをリリースしているBaal Recordsは、彼ら自身が設立した自主レーベル。そういった強いミュージシャン・シップは、彼ら自身も自国のシーンに多大なる影響を与えていったのです。

なお、TruckにはCol Truckという後身グループが存在していて、1976年には『One Fine Day』(BAL89001)を残しています。こちらは英国でのリリースとなっており、『Surprise! Surprise!』と多くの同曲を収録した、世界デビュー仕様の改変再録音盤みたいな感じになっています。

超入手難なTruckに比べると、かなり容易に入手できるということもあって、手を出してみる方も多い作品でもあるんですが、Truck期とはかなり音楽性が異なっています。聴きどころもある作品ではあるんですが、メロウ愛好家にとっては正直イマイチ、いや、イマサンぐらいかもしれませんね……。あしからず。

 

■ The Impossibles『Hot Pepper』

発売国:Sweden
レーベル:Philips
規格番号:6316 064
発売年:1975
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

お次は「タイのThe Beatles」ことThe Impossiblesの代表作です。
1971年のデビュー作以降、自国タイでのリリースを続けていましたが、本作は世界デビュー盤としてスウェーデンで発表されたアルバムとなっています。

彼らの音楽はソウルやファンクがベースになっており、The Beatlesの直接的なテイストはほとんどゼロ。彼らの異名もその音楽性というよりも、自国でのミュージシャンとしての立ち位置を示すものだと思います。

ただ、彼らの作品はいずれも音楽としてはかなりの極上ぶりですので、The Beatlesファンの方もぜひチェックしてみてくださいね!

 

■ The Twilights『Once Upon A Twilight…』

発売国:Australia
レーベル:Columbia
規格番号:OSX 7870
発売年:1968
レアリティー:★★★★☆☆(4/6)

最後にご紹介するのは、オーストラリアのグループです。

2ndにして最終作となる本作をレコーディングするにあたって、彼らが目指した先はイギリス。録音はアビー・ロード・スタジオ、レコーディング・エンジニアにはノーマン・スミスを起用と、まさにド真ん中なフォロワーの鑑(かがみ)的作品となっています。

時代性も反映させたサイケデリック・ポップ・サウンドが持ち味で、The Zombiesの大名作『Odessey And Oracle』をも想起させる作品へと仕上がっています。
また、カヴァー・アートにも素晴らしい意匠が施されていて、真っ白でシンプルな表面を見開くと、寓話的でメルヘンなデザインがポップアップする仕様となっています。

特にこういうワザの利いたジャケットなんかを手に取りながら音楽を聴くと、やっぱりこの時代のものはレコードで楽しむのが一番だよなぁ〜と、改めてシミジミするのでした……。

ということで、今回はここまで。また次回のご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千