【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第20回「HIP HOP×プログレ&サイケ 〜 サンプリングされて昇華した元ネタ・レコード5選」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第20回は、「HIP HOP×プログレ&サイケ 〜 サンプリングされて昇華した元ネタ・レコード5選」。ヒップホップの世界では重要にして、もはや当然のごとく使用されている「サンプリング」という手法ですが、その元ネタはジャンルを超えて多岐にわたります。

有名曲から誰も知らないような楽曲に至るまで、そこに選ぶ側の“センス”を見ることもできるでしょう。今回はそんな中でも、プログレ&サイケの元ネタを使用した楽曲をピックアップ。こうした視点で見てみることでヒップホップへの興味が湧いたり、元ネタのほうを追求したくなったり…また新たなレコード・コレクター道が開けるかもしれません。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

みなさん「サンプリング」というものをご存知でしょうか? 既成曲の一部を切り取って再構築し、サウンドに新たな息吹を与える手法のことで、ヒップホップを支えてきた重要なカルチャーです。

そして、こと中古レコード市場においてもサンプリングは重要なキーです。有名曲の元ネタが収録されているレコードの価値相場は上昇したりもしますし、何よりも世の中で最も「掘りが深い」ビート・メイカーたちが、新しいネタ探しに日夜レコードをめくり続けてきてくれたおかげで発掘され、日の目を見てきたレコードも少なくないのです。

ちなみにですが、そんな元ネタの中でも近年飛び抜けて激しい価格上昇を見せたのは、Charles Hayward / Gigi Masin『Les Nouvelles Musiques De Chambre Volume 2』(Sub Rosa / SUB 33019-27 / 1989)でしょうか。なお、チャールズ・ヘイワードというのは、「King CrimsonとSex Pistolsの間を埋める存在」と評された伝説のバンド、This Heatのリーダーです。

ここ日本のヒップホップ・クルー、舐達麻による代表曲「Floatin’」(2019年)の元ネタになったことで爆上がりした1枚で、元々2千円そこそこのレコードでしたが、今や8万円付近をウロウロしているといった状況です。当然といえば当然なんですが、こういった中古市場の動向はアーティストの人気を映す鏡でもあるワケです。

一方で、オールドスクールなロック・ファンの中には、この手法に眉をひそめる方もいるかもしれません。当の私もオールド・ロック村の一員なのでその気持ちも分からないでもないんですが、こんな感じで元ネタにはプログレやサイケもいっぱいで、その使い方を聴けば聴くほど「そうきたか〜」と唸らされて楽しくなってきちゃうと思いますよ!

ということで、今回はプログレやサイケがサンプリングされて新たな音楽へと昇華した、ヒップホップの名曲たちをご紹介させていただきます。
なお、私がそれほどヒップホップに精通していないというのもありますが、あくまでロックのレコード・コレクター視点だけで語りますのでご容赦ください。ではご一読あれ!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Kanye West feat. Dwele「Power」(2010)

元ネタ:King Crimson「21st Century Schizoid Man」
収録アルバム:『In The Court Of The Crimson King』
発売国:UK
レーベル:Island Records
規格番号:ILPS 9111
発売年:1969
レアリティー:★★☆☆☆(3/6)

サンプリングってBPM変えたりピッチ変えたりと、いろいろイジって忍ばせたり自分色に染めたりするパターンが多いものですが、これに関してはモロもモロ。「トゥエンティファーストセンチュリースキッツオイドマ〜ン ジャー」っていうところを大胆にサンプリングしています。ただ、だからこそ私たちは嫌が応にもアガらされるのです!

 

■ Kanye West feat. Mos Def「Drunk and Hot Girls」(2007)

元ネタ:Can「Sing Swan Song」
収録アルバム:『Ege Bamyasi』
発売国:German
レーベル:United Artists Records
規格番号:UAS29414I
発売年:1972
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

同じアーティストということもあって、こちらもモロ使い。今度は原曲の歌メロをそのまま拝借して歌っているため、サンプリングというかカヴァー味が強い使い方です。

ちなみにですが、本家のドイツ原盤のレアリティーを星3つとしていますが、非常にレアなポスター付きであれば堂々の星5つへとランクアップします。あしからず。

 

■ InI「Step Up」(2003)

元ネタ:The Soft Machine「Save Yourself」
収録アルバム:『The Soft Machine』
発売国:US
レーベル:Island Records
規格番号:CPLP4500
発売年:1968
レアリティー:★★☆☆☆(3/6)

お次は上手く忍ばせパターンです。
ソフツ「Save Yourself」の終わりかけ部分の優しくスウォールするオルガンをループさせて、そこにジャッキー・ミットゥ「Too Late to Turn Back Now」のストリングスを掛け合わせた、職人技が光るサンプリングです。ナイス!

 

■ Tyler, The Creator「Puppet」(2019)

元ネタ:Czar「Today」
収録アルバム:『Czar』
発売国:UK
レーベル:Fontana
規格番号:6309 009
発売年:1970
レアリティー:★★★(5/6)

ブリティッシュ・プログレ〜サイケのハード・コレクターのハートを射抜く名サンプリング。美しいメロトロンによって組み上げられた桃源郷のような原曲をチョップして、新たに独自の世界観を描いています。

この曲に関してはネタの使い方も良いですが、何よりもチョイスが素晴らしいと思います。というのも、この曲ってプログレ&サイケ村以外の方にはあまり触れられてこなかったと思いますが、こうして人気ヒップホップ・アーティストにサンプリングされることによって、より多くのリスナーに再発見されたと思うのです。こういう相互作用もサンプリングの妙味。

 

■ Travis Scott ft. Yung Lean, Dave Chappelle「Parasail」(2023)

元ネタ:Dave Bixby「Drug Song」
収録アルバム:『Ode To Quetzalcoatl』
発売国:US
レーベル:Private
規格番号:D-24
発売年:1970
レアリティー:★★★★★(5/6)

最後にご紹介するのは、最高に渋い元ネタを使った1曲です。ネタはUSアシッド・フォークの最もダークな部分を担う漆黒の名作ですが、原曲のすこぶるキケンなムードを損なうことなく、現代版へとモディファイしています。

なお、この曲が収録されたアルバム『Utopia』には他にもプログレ・ネタが潜んでいて、「Hyaena」ではGentle Gaint「Proclamation」の冒頭の歌がサンプリングされていたりもします。いろいろと比較しながら聴いてみてくださいね!

ということで、今回はここまで。また次回のご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千