mysound SPECIAL INTERVIEW!! 寺下真理子

mysound SPECIAL INTERVIEW!! 寺下真理子

どこまでも深く、豊かな音色で聴く者を魅了するヴァイオリニスト、寺下真理子さん。2015年にリリースしたメジャー・デビュー・アルバム『AVE MARIA』はハイレゾ音楽配信サイトの総合チャートで週間1位を獲得し、オーディオ・ファンの間でも人気沸騰中。クラシックの王道ともいうべきキャリアを積んできた実力派ながら、可憐な風貌と等身大のキャラクターでファン層を広げています。そんな彼女が、2月にセカンド・アルバム『ROMANCE』をリリース。クラシックの小品や映画音楽など、親しみやすく、美しいメロディがたっぷり詰まった一枚となっています。そこで今回は、この新作についてお話を伺いつつ、料理が得意だという寺下さんに「女性の日常を彩るプレイリスト」というテーマでお気に入りの曲を選んでいただきました。

NEW RELEASE

INTERVIEW

  • “ひたすら「いい音ってなんだろう?」と研究する毎日です”



    ――ニュー・アルバムには『ROMANCE』というタイトルがつけられていますが、選曲にあたってのコンセプトをお聞かせください。


    私が“恋に落ちた”曲を集めた一枚です。恋や愛に関係するテーマで選んだのですが、どれも大好きな曲ばかり。たとえばシューマンの「3つのロマンス」は、奥さんのクララに捧げられた曲なので、まさに男女の愛ですよね。あとは映画音楽をいくつか入れたのですが、私の場合、“ロマンス”というとまず思い浮かぶ映画が『ひまわり』なんです。とても悲しいストーリーですけれど、はじめて観たときからずっと心に残っていて……。『ニュー・シネマ・パラダイス』は恋愛ではないものの、人と人との愛が描かれているという意味で選びました。


    ――なるほど、恋愛だけに限らず、さまざまな愛の形をテーマにしているのですね。アルバム冒頭の、ブラームスの「コンテンプレーション」は、すごくいい曲だなとあらためて思いました。


    もともとは歌曲なのですが、ヴァイオリンで弾いても美しくて、また違う魅力が出る曲ですね。あまり演奏される機会は多くないかもしれませんが、私は好きで、よく演奏しています。


    ――アザラシヴィリの「無言歌」は、今回はじめて聴きました。


    私もはじめて知りました。プロデューサーの方が「この曲、いい曲だから弾いてみたら?」と紹介してくださったんです。アザラシヴィリさんはグルジア(現ジョージア)の現代の作曲家なのですが、曲調はまったく前衛的なものではなく、すごく親しみやすいですよね。郷愁に満ちていて、日本人が好きな感じのメロディだなと思います。


    ――後半にはストラヴィンスキーの「イタリア組曲」の6曲が入っていますが、これは寺下さんのご希望だったのですか?


    はい、「絶対入れたい! どうしても弾きたい!」と言って入れさせていただきました。ストラヴィンスキーは時代によって作風がまったく違うのですが、この「イタリア組曲」は“新古典主義”と呼ばれる時代の作品。すごくシンプルになって、古典的な要素がたくさん入っています。変拍子だらけの先鋭的な「春の祭典」とは大違い。けれど、ただ古典に回帰しただけでなく、やはりストラヴィンスキーならではの世界観が入っていて、近代と古典のコラボレーションという感じがするところが、私はすごく好きです。


    ――ずっと弾いていらっしゃったのでしょうか。


    いえ、それが最近なんです。去年から今年にかけて、ロシアの近現代の作曲家たちの作品にハマっていて。ちょうど自分が変わりたい、殻を破りたいと思っている時期だったので、その心境にフィットしたというか。ストラヴィンスキーやプロコフィエフ、ショスタコーヴィチばかり弾いています。彼らは世界大戦や不安定な政治情勢によって、時代に翻弄されながら生きた作曲家たちですよね。ときにはプロパガンダ的な作品も作らなければならなかったかもしれない。けれど、つねに自身と葛藤し、音楽を通して自分の世界を追求していった人たち。時代によってガラッと作風が変わるのも彼らの特徴ですが、そこに一人の人間が持つ可能性の広さ、現状を打ち破るエネルギーを感じるんです。弾いていると、すごくパワーをもらえますね。


    ――寺下さんのヴァイオリンの音色は、深々としていて、とても魅力的ですね。華奢なルックスからはちょっと想像できないというか。


    ありがとうございます。できるだけ音を丸く、深い響きを出せるように心がけています。ヴァイオリンは音域が高いので、細くシャープな音になりやすいのですが、音の捉え方においても出し方においても視野を広く持って、全体を包み込むような音が出せたらいいなと。ひたすら「いい音ってなんだろう?」と研究する毎日です。


    ――ではここで、寺下さんにお選びいただいたプレイリストのお話をお伺いしていきましょう。



    女性の日常を彩るプレイリスト ~シーンに合わせた厳選6曲


  • ■料理をしているとき

  • ジャスト・スクイーズ・ミー/マイルス・デイヴィス・クインテット
  • 料理が好きで、健康のためにも、できるだけ自分の食事は自分で作るようにしています。野菜や調味料といった素材にこだわったりして。といっても、本当に普通のごはんで、なにも特別なものではないのですが……。“練習・仕事・料理”と、毎日の生活の中に料理をする時間が組み込まれていますね。音楽をかけながら作ることが多いのですが、ジャンル問わずなんでも聴きますよ。ここに挙げたマイルス・デイヴィスのようなジャズだけでなく、テイラー・スウィフトもアリアナ・グランデも。


    ■辛いとき

  • Brahms: 6つの小品 作品118 - 第2番: 間奏曲  イ長調  作品118の2/ラドゥ・ルプー
  • ピアノが大好きで、なかでもラドゥ・ルプーは別格。彼が得意なシューベルトの最後のピアノ・ソナタ(第21番)を選びたかったのですが、プレイリストに入れるには重すぎるだろうと思って、ブラームスの間奏曲(作品118-2)にしました。辛いときに寄り添ってくれるような曲ですよね。ピアニストではほかに、チョ・ソンジンの大ファンです。ショパン・コンクールのライブストリーム中継もチェックしていました。自分が弾けないぶん、ピアノには永遠の憧れがあります。


    ■恋をしているとき

  • 「ニュー・シネマ・パラダイス」〜ノスタルジア(ジュゼッペ・トルナトーレ組曲)/Yo-Yo Ma
  • 最近、恋をしていないから全然思いつかなくて(笑)、今回のニュー・アルバムにも入れた曲を選んでしまいました。これはヨーヨー・マがモリコーネ作品を弾いたアルバムに収録されている音源。『ニュー・シネマ・パラダイス』って、私の中ではすごくロマンティックなイメージなんですよね。恋愛を描いた映画ではないのに、この音楽を聴くと、恋をしているときのような気分になります。




    ■旅のお供に

  • I'm Yours (From the Casa Nova Sessions)/Jason Mraz
  • この曲は、なぜかめちゃくちゃ好きで、ひたすら聴いていました。夏に、ドライブしながら聴きたいですね。日ごろは仕事での旅も多いですが、この曲はすごく解放感があって楽しい気分になるので、どちらかというとプライベートな旅のテーマソングです。仕事での移動中は、そのモードに入るためにクラシックを聴いていることが多いかもしれませんね。


    ■眠りながら

  • ノラ・ジョーンズのデビュー・アルバム『Come Away With Me』のいちばん最後に入っている曲。最近は無音で寝ていますが、この曲をかけながら眠りについていた時期もありました。このアルバムは、今でも本当によく聴いています。緊張するような出来事の前に聴くと落ち着くんです、歯医者さんの治療前とか(笑)。飛行機に乗っているときなど、なかなかリラックスできないようなときに聴くことが多いですね。


    ■寺下真理子を作った最重要曲

  • Caprice in E Major, Op. 1, No. 1/Midori
  • 五嶋みどりさんは、私にとって神様のような人、ヴァイオリニストを目指すきっかけになった存在です。共演させていただいたこともあるのですが、本番前の舞台裏で何時間もエルガーの「愛の挨拶」を練習していらっしゃった姿が忘れられません。普通のヴァイオリニストだったら、簡単だから練習しなくてもいいやと思うような曲なのに。その徹底したストイックさは本当にすごいと思いますし、心の底から尊敬しています。


    “まず興味を持って、「聴いてみようかな」って思っていただけるのが、いちばんの目的”



    ――直近の予定として、4月には「ハウス食品グループファミリーコンサート」にご出演されますね。


    お子さんも連れて、家族で楽しめるコンサートで、オーケストラとの協奏曲や、ヴァイオリンの名曲を弾きます。


    ――今回のアルバムの選曲からも感じましたが、寺下さんは普段クラシックを聴かない人にも、音楽を届けたいという思いで活動されているのでしょうか?


    まず興味を持って、「聴いてみようかな」って思っていただけるのが、いちばんの目的というか、嬉しいですね。それと同時に、クラシックのコアなリスナーの方々にも楽しんでいただけるような内容をお届けしたいと思っています。


    ――今日は楽しいお話をありがとうございました。


    Interview & text by Noriko Hara

    Photo by Takanori Tsukiji


    PHOTO




PROFILE


5歳よりヴァイオリンを始める。
東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校、
同大学、ブリュッセル王立音楽院修士課程卒業。

1993年、第1回五嶋みどりレクチャーコンサートに出演。
1996年、第50回全日本学生音楽コンクール中学生の部、大阪大会第2位受賞。
1997年、第2回宮崎国際音楽祭にて、故アイザック・スターン氏の公開レッスンを受講。
五嶋みどりデビュー20周年記念コンサート(大阪NHKホール)にて五嶋みどりと共演。
2004年には第2回東京音楽コンクール弦楽器部門第2位(ヴァイオリン最高位)受賞し注目を集めた。
小澤征爾主宰のサイトウキネン室内楽勉強会、別府アルゲリッチ音楽祭に参加。
また、六花亭「期待の若手シリーズ」、東京文化会館主催の「モーニングコンサート」「フレッシュ名曲コンサート」等、様々なコンサートに出演。
2013年2月にはデビューCDが発売され、銀座ヤマハホールにてCD発売記念コンサートを開催し、各方面から高い評価を得た。
2014年、大桑文化奨励賞を受賞。
2015年11月6日には初の台湾公演を行い大成功を収めた。
2015年2月4日「Ave Maria」(KING RECORDS)をリリースし、高音質ハイレゾ音源配信
サイトにて全ジャンルの中から週間1位を獲得。Yahooニュースにも掲載された。
韓国の大手ハイレゾ音源配信サイト“groovers”にて、4位にランクイン。
その後も長期間に渡りTOP50にランクインした。
これまでに、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団等と共演。

2017年2月22日に2枚目のアルバム「ROMANCE」(KING RECORDS)をリリース。
同年4月から全国5都市にて、「ハウス食品グループ ファミリーコンサート」のソリストとして、東京フィルハーモニー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、九州交響楽団と共演予定。

各地での様々なコンサート・リサイタル・公演の他、テレビ・ラジオなどにも積極的に出演。
現在、(株)オスカープロモーション に所属。


アーティストページ

LIVE

【ハウス食品グループファミリーコンサート】
指揮:竹本泰蔵 ヴァイオリン:寺下真理子 ピアノ:CHIAKi 司会:原田知恵

■2017/04/02(日) OPEN 13:45 / START 14:30
会場:サンケイホールブリーゼ(大阪) 管弦楽:日本センチュリー交響楽団

■2017/04/09(日) OPEN 13:45 / START 14:30
会場:BUNKAMURAオーチャードホール(東京) 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

■2017/04/23(日) OPEN 13:45 / START 14:30
会場:熊本県立劇場コンサートホール(熊本) 管弦楽:九州交響楽団

■2017/04/30(日) OPEN 13:45 / START 14:30
会場:東北大学百周年 記念会館川内茨ホール(仙台)管弦楽:仙台フィルハーモニー管弦楽団

■2017/05/28(日)OPEN 14:45 / START 15:30
会場:郡山市民文化センター大ホール(福島) 管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団


詳細はオフィシャルサイトで

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