Californian Grave Digger 〜極私的ロックドキュメンタリー映画5選(パンク編)〜


ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される大衆娯楽=ポップカルチャーから見えてくる新たな価値観とは何かを探るべく、日本とアメリカ西海岸、時に東南アジアやヨーロッパも交えつつ、太平洋を挟んだEAST MEETS WESTの視点から広く深く考察する大人向けカルチャー分析コラム! 橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!

ロック・ドキュメンタリーとは何か?

好きなジャンルの音楽や、関わるバンドや歌手についてもっと知りたい! もしくは、未だに見たことのない伝説のバンドの映像、貴重なライブなどを観てみたい! どのようなジャンルであれ、音楽に親しんでいれば、このような欲求は自然である。音楽を映像で楽しむという行為は、この世界に"映画"が誕生した瞬間まで話はさかのぼるが、とにかく映画誕生以降、映像と音楽のリミックス作業は休む間もなく進化を続け、現在に至る。近年ではミュージカル・クリップの最新バージョンとして話題となった『ラ・ラ・ランド』(‘16年)や、最強最後のスーパースター、マイケル・ジャクソンのラストリハーサルを追った『THIS IS IT』(‘09年)といった、音楽を主体とした映画のヒットが記憶に新しいだろう。これらの作品こそ、まさに音楽映画の真髄といえる。

が、しかし、である。音楽をテーマにした映画にも色々ある。そこで筆者が、掘り下げて考察を試みるには最も面白いジャンルとして提唱したいのが"ロック・ドキュメンタリー"である。ロック・ドキュメンタリーとは何か? ビートルズからメタリカ、チャック・ベリーからレニー・クラヴィッツ、はたまたプレスリーから矢沢永吉に至るまで、ロックンロールを体現する人々の生きざまは、いつでもエネルギッシュであり、その人生は波乱万丈極まりない。またジャンルの歴史そのものが時代との合わせ鏡のような側面を持ち、映像で振り返ることで見えてくる時代性やメッセージがある。ロックをテーマとしたドキュメンタリー映画/映像は主人公がバンドであれ歌手であれ、己の才覚に賭ける情熱とパフォーマンスの出来栄えが最大の見所となっており、さらにカタギとはいえない多忙な生活によって独自の結論に辿りついた彼らの人生観に触れることは、下手なドラマを2時間観るよりよっぽど面白い。

特にロックやヒップホップといったサクセス絡みのドキュメンタリーは、事実だからこそ奇なりといったエピソードのオンパレードである。この機会に、未見の方には是非DVDレンタル、Netflixなどで色々検索し、Digってみて欲しい。また、本稿がその手助けになれば幸いである。それでは早速本題のレビューに突入しよう。まずはパンク編からスタートだ!

パンクロック〜ジャンルとしての大前提

パンクロックの音楽的特徴は、時代性と共に多少の変化はあれど、反社会的かつ反政府的なメッセージと、怒りを原動力とする過剰なパフォーマンスとファッションが基本中の基本だ。しかし、バンド単位で見ると、リスナーから演者側への境界、敷居が他音楽ジャンルに比べて圧倒的に低い、という特徴がある。

最初の出会いこそ輸入されたCD、レコードの裏ジャケのメンバー写真を見て「スゲー!」と初期衝動を受け、気づけば自らそこを目指すようになり、GIGに通うようになり、バンドを組むようになり……という道のりにこそ、多くのドラマがあるのだが、楽器のテクニック向上のようなスポ根要素が決定的に欠けており、故にパンクを取り扱ったドキュメンタリー映画は音楽性云々よりも、そこに至るまでの生き様あってこそという内容が多い。そこが他ジャンルとの最大の差にもつながっているのである。その点を踏まえたうえで、以下に紹介するパンクロック・ドキュメンタリー映画をご覧になって頂きたい。どれも比較的近年に制作された、もしくは再リリースされた作品が中心となっており、往時とは違った角度からバンドの歴史に向き合うスタイルが特徴的である。

『ザ・デクライン』


‘76年に大英帝国ロンドンで誕生したとされるパンクロックが、すぐに大西洋を横断しアメリカ大陸に上陸。以降80年代初頭からアメリカ西海岸ロサンゼルスでは、ハードコアパンクと呼ばれるUKパンクとは違う攻撃性の高いジャンルに進化を遂げたパンクバンドが台頭するようになる。

本作はそんなホットにも程がある時代のLA を舞台に、BLACK FLAG、CIRCLE JERKS、FEAR、LOS ANGELS X、そしてThe GERMSといった強烈な個性を誇る初期カルフォルニアパンクのパフォーマンスが生々しく詰め込まれたプロモーションビデオ集としての側面を持ちながら、パンクスへのインタビューやバンドの意見といったオピニオン主軸の構成が、ロック・ドキュメンタリー映画としても秀逸の仕上がりとなっている。

後にシリーズ化されることになるが、日本では80年代中盤に都市部に限ってパート1のみがレイトショー公開され、その後に出回ったレンタルビデオで本作の存在を知った人も多い。しかしレンタル版VHSもすぐに廃盤となり、再び注目が集まりDVD化が実現したのは、つい最近の話だったりする。

ちなみに『ザ・デクライン2』はパンクから打って変わってLAメタルのドキュメンタリーとなり、90年代後半に製作されたパート3は再びストリートパンクの生態ドキュメンタリーに回帰。なので、パンク編的にはパート1と3がオススメだが、メタル編は別物として面白いので、別に紹介の機会を設けたい。

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『GGアリン 全身ハードコア』


"SCUM"=ムカつく奴と直訳できるが、とにかく他者が不快になるパフォーマンスを追求した、"スカム・パンク"というパンクロックのサブジャンルがある。ニッチなので通常注目が集まることは、 まずありえないが、まさにパンク最果ての地といった趣きのある、スカム・パンクの音楽性は麻薬のような常用性があり、一度その魅力に取り憑かれると、そっち系ばかり追い続けてしまう。

そんなスカム・パンクの帝王として君臨していたのが、孤高のパンクロッカー、GGアリンその人である。あいにくとっくの昔に故人だが、その激しくもスカムな人生を、親しかった周囲の人々が証言する本作は、スカムなのにハートフルという相反する感動を兼ね備えた見事なロック・ドキュメンタリー映画であり、その孤独な戦いぶりはパンクス版『ゆきゆきて神軍』。GGのライブパフォーマンスを詳細に解説するのは難儀なので、ここは筆者がUKノイズハードコアバンド、CHAOS U.K.のギタリスト、GABBAから聞いた話を紹介することで説明に変えさせていただきたい。


あれは20年ほど前……単身来日していたGABBAと下北沢の居酒屋で呑んでいた時のこと――。

「俺はお前に自慢話がある。俺はGGアリンのライブを見たことがあるんだ!」

「マジかよ! そいつは本気ですげえ! 是非、自慢話を聞かせてくれ!」

「ニューヨークで見たんだが、ライブハウスに着いたら、もう客が皆店の外に出ているんだよ。誰も中に入ろうとしないんだが、演奏は聞こえるんだ。で、中に入るともう、ウ●コとゲ●の匂いで充満しててさぁ! 客がもう誰もいない中、自分のウ●コまみれになったGGがマイク咥えて絶叫してるんだ! スゲエよな! 色々無茶やってるバンドはいっぱい見てきたけど、あんなのは初めてだったよ……!(感慨深げに)」


……いやはや、全盛期のGGとは、こんな感じだったらしい……。もしも、「タイムマシンに乗せてやるからお前が一度でいいから見てみたいライブを言え!」と問われれば、 筆者の場合、1990年頃のGGアリンのライブ、それ一択なのであります!

『バンド・コールド・デス』


最近のロック・ドキュメンタリー映画の中では、筆者的には群を抜いた面白さをもたらせてくれた作品。1970年代初頭のデトロイトにおいて、大英帝国で未だパンクロックが生まれてないタイミングにも関わらず、そのサウンドの本質に到達してしまった奇跡のようなバンドが存在した。そのバンド名は"DEATH"。アフロアメリカンの3人兄弟が結成した、ピュアロックバンドであり、ポストパンクバンドの幻の大物である。結成当初から異色すぎるサウンドが注目を集めたものの、不吉すぎるバンド名にメジャーなレコード会社は難色を示し、結局バンド名は変えずにデビューして結果は惨敗。3人兄弟は方向性をめぐり対立し、ギタリストでバンマスの長兄だけが意見を曲げず、遂には若くして病に倒れ他界する。

それから30年の時を経て些細な偶然からバンドが再発掘され、遂に再結成に辿り着くまでのストーリーは圧巻。このような革新的サウンドのバンドが当時のディスコミュージック全盛期に存在したこと自体が奇跡みたいなもんである。よくぞ発掘された。こういう鉱石が稀に眠っているから、ロック・ドキュメンタリーというジャンルは面白くもあり、堀り漁る甲斐もあると実感する次第なのである。

『バッド・ブレインズ/バンド・イン・DC』


こちらはパンク誕生のオンタイム、アメリカツアーのセックス・ピストルズの洗礼を受けた若きアフロアメリカン4人組の立志伝。ワシントンのバッド・ブレインズといえば、泣く子もダイブするハードコアパンクの鬼っ子的存在として、結成当初からその名を轟かせていた。本作は、バンドの結成から、紆余曲折を経た数回の解散から再結成を繰り返しながら現在に至る流れを、かなり冷徹に描写した作品。特にラスタファリアンの思想にハマり込み奇行を繰り返すボーカリストのHRを巡る問題は、バンドというスタイルの在り方、持続性へのモチベーションとはなんなのかを我々観客に投げかけている気がする。アフロアメリカンのハードコアパンクバンドとして、そしてレゲエバンドとしても大きな成功を手にした彼らだからこそ、バンド存続の難しさに大きな説得力があるのだ。その激しいサウンドに裏打ちされた、地味で深刻な真実を見ずに、このバンドを語ることはできないのである。

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『THE DAMNED 地獄に落ちた野郎ども』


セックス・ピストルズ、ザ・クラッシュと並ぶ"パンク御三家"のザ・ダムド。結成から約40年を経ていながら、バンド活動は低空飛行で継続中。他のバンドとは違い、メンバーの誰も死なず、解散を宣言してもいない特異なポジションであるのは何故なのか? メンバー自らが語る"三番手"の理由とバンド利権!

と、女性誌的な見出しで説明できるパンク御三家ザ・ダムドのヒストリ・ドキュメンタリー。監督は『極悪レミー』(’06年)を撮りあげたウェス・オーショスキー。ピストルズ、クラッシュと違い長い活動歴の中でドキュメンタリー映像らしきものが極端に少ないダムドの内実は、長期密着取材の甲斐あって、ファンからしてみれば「できれば聞きたくなかった」感満載な内輪揉め話のつるべ打ち。それもまたバンドらしくて良いのだが、結局金かよ!感があるのは事実……。人気のあるパンクバンドであり続けるためのリアルを見せつけられるので、正直評価は分かれるところではある。

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  • 以上、パンク編のロック・ドキュメンタリー映画を5本チョイスしてみたが、こんなものは、本当に入り口に過ぎない。今後も様々なジャンルのロック・ドキュメンタリー映画を紹介したいので、今から首、もといギターのネックを洗って待っていてほしいのだった。

    Text: マスク・ド・UH/Mask de UH

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