菅野祐悟インタビュー ~交響曲はその人の人生に寄り添い、その人が主役になる音楽である~


このインタビューは3/27(金)、28(土)に開催予定だった「菅野祐悟スプリングコンサート2020」に向けて、その中止が発表される前に行った取材から、近年の音楽活動について話した内容を中心に編集したものである。映画『マチネの終わりに』、ドラマ『テセウスの船』、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』や『ジョジョの奇妙な冒険』など、数多くの作品で素晴らしい劇伴音楽を提供している彼の音楽を、こういう時だからこそ聴いてほしい。きっと聴く人の心を豊かにしてくれるだろう。また、コンサートで演奏する予定だった自身の交響曲についても語ってもらった。

音楽の一番原始的な喜びはライブなのではないか

 

ーー『PSYCHO-PASS サイコパス』初のコンサート『PSYCHO-PASS サイコパス IN CONCERT』が127日~29日にLINE CUBE SHIBUYA131日・21日に梅田芸術劇場メインホールで行われました。こちらを終えての率直な感想をお願いします。

 アニメの音響監督である岩浪美和さんのプロデュースで東京と大阪で5日間、2,000人のホールがほぼ満員だったのですが、『PSYCHO-PASS サイコパス』の熱心なファンの方が多くいらっしゃっていたので、コンテンツの人気の高さやみなさんの『PSYCHO-PASS サイコパス』愛をすごく感じました。曲間でアニメの台詞を演出として入れたのですが、殉職シーンなどがあるとお客さんが泣いているのがわかるんです。僕は舞台上で、そういう『PSYCHO-PASS サイコパス』への愛を感じながら演奏していたんです。かと思えば、メインテーマのサビが流れた瞬間に会場が湧いたりする。そういう経験って初めてだったので新鮮で嬉しかったし、とても貴重な経験になりました。

 

菅野祐悟インタビュー(1)

 

ーーたしかにオーケストラコンサートとなると、演奏中は静かに聴いていますからね。

 そうなんです。僕も自身のコンサートを10年以上積み重ねてきているんですけど、岩浪さんというプロデューサーが入ることによって、新しい角度からコンサートに光を当ててくれた感じがしたんですね。MCなく、声優さんの台詞でコンサート全体をストーリー仕立てに見せていくやり方とか、映像をあえてあまり流さず、音楽に集中してもらう演出とか、こういう魅せ方もあるんだという新鮮な驚きと感動があったので、それは僕のこれからの活動にも活かせられるだろうし、僕にとって大きなきっかけにもなったので、やって良かったです。

ーー10年以上とおっしゃっていましたが、菅野さんが毎年主催コンサートをする理由を教えてください。

 

菅野祐悟インタビュー(2)

菅野祐悟バレンタインコンサート2019より

 

 ファンの方とリアルタイムで音楽を共有して楽しめるのは僕にとって貴重な機会なんです。作曲家は裏方ではあるけどミュージシャンであることに変わりはないんです。表に出る仕事ではないけど、楽曲を作っているのでコンサートはできるんですね。音楽は時間芸術とか、空気の振動の芸術だと言われているけど、それを同じ場所で、自分が出したバイブレーションをお客さんと共有するのが音楽の根源的な魅力というか。録音芸術が出来る前は、音楽は生で演奏するしかなかったものなので、音楽の一番原始的な喜びはライブなのではないかと思っているんです。

 それを僕らミュージシャンは当然やりたいし共有したい。自分が発したバイブレーションをお客さんが喜んで、それが自分に返ってきて、それによって演奏も変わる。決して一方通行ではない相互作用があると思うんです。知っている曲だけどライブでしか生まれない瞬間の芸術がある。『PSYCHO-PASS サイコパス』の5公演で感じたのは、大阪と東京で全然お客さんの反応が違うことでした。大阪の方は表現がストレートで、東京では内側で楽しんでくれている感じ。それも5公演すべて違うのでミュージシャン側の表現も変わってきて、全部違う音楽が生まれ、その瞬間にしかない喜びが生まれるんです。それはやってみてよくわかりました。

ーーだからこそ、個人的には劇伴音楽を聴けるコンサートがもっと増えればいいなと思っているのですが。

 でも最近は、ゲームやアニメの音楽コンサートは増えてきましたよね。僕のように作曲家主動でコンサートをするというのはあまりないかもしれないですけど。やはりやるとなるととても大変なので。

 

覚悟が強ければ強いほど作品に強さが生まれる

菅野祐悟インタビュー(3)

 

ーー菅野さんは、アニメの音楽もドラマの音楽も手掛けていますが、その違いはあるのですか?

 作っている本人はアニメとドラマに大きな違いがあると思っていないし、端的に言ってしまうとひとつひとつ違うんです。物語が違うから音楽は違って当たり前だし、ただドラマに『ジョジョの奇妙な冒険』みたいな曲がない理由は、ドラマには空条承太郎みたいなヤツは出てこないからなんです(笑)。ドラマだと弁護士が悪人を法廷でやっつけるとかになるからそういう音楽になる。敵をぶち殺す空条承太郎の音楽とはどうしたって違うんですね。だからドラマやアニメがあって、しかもそのそれぞれのストーリーに音楽があるから、僕の音楽はバラエティに富んでいるんだと思います。もちろんその中に僕のカラーみたいなのは当然あると思うんですけどね。ただ、僕はその中で交響曲も書いているので、それはオリジナル曲に限りなく近いものと言えるかもしれないです。

ーー交響曲を作っている理由もあるのですか?

 アニメやドラマの音楽もちゃんと自分の足跡だけど、それとは別にゼロベースで自分から出てきた音楽というのも、ライフワークとして残しておきたい気持ちがあるんです。ただ、ここでどういう名前でそれを出すかというのが結構大事で、交響曲と言うとベートーヴェンとかモーツァルトとかと比べられやすいじゃないですか。そのリスクを出した当時は考えました。

ーーそれはどういうことですか?

 たとえば『ジョジョ』や『PSYCHO-PASS サイコパス』、今でしたら『テセウスの船』や大河ドラマでもいいのですが、そういう日本を代表すると言われるコンテンツの作曲をしている人が交響曲を書いて、たいしたことがないじゃんと言われてしまったら、僕が劇伴業界の価値を下げてしまうような行動をしていることになる。そういう責任があると思ったんです。劇伴は所詮劇伴だよねという感じになってしまうと、とても責任重大だなって。

 でも、だからこそ交響曲という枠組みで作品を発表することに意味があるのではないかと思ったんです。そこにチャレンジしていき、自分自身の音楽家としての意識を高めることで作品の質を上げていく。覚悟が強ければ強いほど、作品に強さが生まれるんじゃないかという気持ちがどこかにあったんです。

ーー劇伴は現代音楽の中でも素晴らしいジャンルだと思っていたので、そういう作曲家の方が、なぜ交響曲を書かないのだろうという疑問がありました。そういう理由もあったのですね。

 でもそういう覚悟は音楽家にとって大事だと思っているし、それは全クリエイターに言えることだと思います。だって『ジョジョ』って日本が世界に誇る宝じゃないですか。その音楽を書かせてもらうことって圧倒的な責任があると思うんです。でもそれは大事なことで、その責任は『ジョジョ』に関わっているスタッフすべてに発生していることなんですよね。それによって生まれるコンテンツの強さがあると思っているので、僕は交響曲という冠をつけて、その責任を自分で取ることで、クオリティを担保してるんです。まぁ、そういうリスクのあるところで戦うフェチみたいな感じかもしれないけど(笑)。

ーーこの取材に来るまでの電車の中で、菅野さんの音楽を聴いていたのですが、ちょうど交響曲のところで涙が溢れてきたんです。すごく良いなと。

 良いですよね(笑)! 音楽って何かに紐付けて聴くことが多いと思うんです。劇伴ならばその物語やシーンに紐付けて聴く。音楽は思い出とか記憶と密接な関係があると思っていて、初恋をしたときに聴いていた曲は、今聴いても甘酸っぱい記憶が甦ってくるし、良いことも嫌なこともそのとき聴いていた音楽を聴くと思い出してしまう。そういう経験はみんなあると思うんですね。劇伴はドラマやアニメ作品に強く結びついて残ることが多いけど、交響曲はその人の人生というか、そのとき誰が好きで、何を頑張ってて、何に苦しんでいるかみたいなところに寄り添っているような感じがするんです。その人の人生に寄り添って、その人自身が主役の音楽になりうるというか。僕の交響曲もそんな風になればいいと思って作っているから、また違う聴き方ができると思うし、まっさらな状態で人生とリンクさせるような音楽になればいいなと思っているんです。

 

菅野祐悟インタビュー(4)

 


 

【Profile】
1977年生まれ。東京音楽大学作曲科卒。
フジテレビドラマ『ラストクリスマス』でドラマ劇伴デビュー。NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』、連続テレビ小説『半分、青い。』の音楽を担当。現在は映画、テレビドラマ、アニメーションを中心に、幅広いメディアで活躍中。

<主な作品>
映画『カイジ ファイナルゲーム』『マチネの終わりに』『亜人』『昼顔』『SP野望篇/革命篇』『容疑者Xの献身』、ドラマ『テセウスの船』『シャーロック アントールドストーリーズ』『リーガルV~元弁護士・小鳥遊翔子~』『刑事ゆがみ』『MOZU』『ガリレオ』『ホタルノヒカリ』『新参者』、アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』『ガンダム Gのレコンギスタ』 他多数

【Information】
『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』

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音楽:菅野祐悟
2020年3月27日(金) 2週間限定ロードショー
Amazon Prime Videoにて日本・海外 独占配信

詳しくは『PSYCHO-PASS サイコパス』オフィシャルサイトにて
https://psycho-pass.com/

 

【Release】
菅野祐悟: 交響曲第2番 “Alles ist Architektur”

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2019/9/18リリース

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TBS系 日曜劇場「テセウスの船」オリジナル・サウンドトラック

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2020/3/4リリース

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映画「カイジ ファイナルゲーム」オリジナル・サウンドトラック

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2020/1/8リリース

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映画「マチネの終わりに」オリジナル・サウンドトラック

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2019/10/30リリース

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ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風 O.S.T Vol.3 Finare

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2019/8/14リリース

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その他、最新情報は菅野祐悟オフィシャルサイトにて
https://www.yugokanno.com/

 


 

Text & Photo(インタビュー):塚越 淳一