曽我部恵一の現在地「自分と、レーベルと、子どもと、清志郎さんと」


2000年の解散から2008年の再結成を経て、現在は本格的に活動を再開しているサニーデイ・サービスのフロントマンとして、一人のシンガーソングライターとして、自身のレーベル・ROSE RECORDSの代表として、そして3人の子どもの父親として──。曽我部恵一は、そのアーティスト活動はもちろんだが、それ以外の時間も含め、本当に多忙な日々を送っているように見える。しかし、取材場所の喫茶店に現れた彼の表情に疲労感などはなく、むしろ柔和な笑顔を浮かべながらベトナムコーヒーをオーダーしている。一人で何役も務める“カッコいい大人”曽我部恵一の、たった今の気持ちを聞いた。

先のことは考えずに続いてきたレーベルのこと


まずは、2004年にスタートしたROSE RECORDSについて、あらためてその成り立ちと現状を聞いてみる。

「ソロになってから所属していたメジャーレーベルとの契約期間が終わって、次はどうしようかってなったときに、また別のメジャーのレーベルを探して、契約金とか原盤の交渉をして、自分にお金をかけてもらいながら作品を発表していくのは、ちょっとしんどいなって思ったんですよね。だったら、一人でやったほうが楽そうだなって。自分で責任を負ってね」

そうして始まったレーベルは、現在までの約13年間で、本人の作品を中心にしつつも、それ以外の多くの新人、あるいはすでにキャリアのあるアーティストの楽曲も含め、200以上もの作品をコンスタントにリリースしてきた。

「何年経ったとか、あんまり意識してないですけどね。そもそも、続くとも続かないとも考えてなかったし、今も先のことは考えていないし。俺、性格的に適当だからさ(笑)。何も考えてない。今45歳で、30年後の75歳になっても歌ってたいなって思うけど、だからって具体的な姿を思い浮かべられているわけじゃないし、将来のことは一切考えてない。これから年を取ってどうやって生計を立ててるんだろうとか、全然考えることができないんですよね。これはね、病気だと思う(笑)。だから、レコード会社をやってますっていう感じでは、まったくない。自分のプライベートレーベルっていう感覚で、まずは自分の作品をリリースする場所。あとは、いいなって思うアーティストがいたり、つきあいの流れの中でリリースしたり。例えば、(中村)ジョーくんとか、’90年代からの古い友だちで、“新しい音源ができたよ”ってなったら、じゃあ出そうかってなる。もちろん、ジョーくんの音源がいいからなんですけどね。そう考えると、いわゆるほかのレーベルみたいに発掘したり、スカウトしたりっていうことはないかな。ただ、赤字にはならないようにはしてますけどね。赤字になると、次がなかなか出せなくなったりするから」

とはいえ、今まで危機的な状況はなかったのだろうか? 例えば、金銭的に。あるいは、精神的に。

「正直、自転車操業みたいなもんだから、定期的に会社のお金が少なくなるっていうことはあります。でもスタッフに“なんとかしてください!”とか言われたことは、今までないです。銀行にお金がなくなりそうになると、なぜかどこかしらからお金が入ってくる(笑)。経理を担当しているスタッフが、“不思議なんですよね”って言ってましたけどね。精神的には、2年に1回ぐらいはもうめんどくさいなって気持ちになるかな。たまーにだけど、仕事が数ヶ月間集中して、忙しくなりすぎることで気持ちがパンクしちゃいそうになることがある。俺、子どもがいるから、忙しくなりすぎると子どものケアができなくなるんです。そうなると、もうやめたほうがいいのかなって。俺にとっては、やっぱりちゃんと子どもをケアして、しっかり育てることが第一だから。もちろん、どんな状況でも曲は作るし、歌は歌うんですけどね」

父親として今、歌う歌。そして、清志郎が歌う孤独について


パンクしそうになる曽我部恵一を踏みとどまらせるのは、パンクしそうになる気持ちのうしろにある、3人の子どもたちの存在だ。

「仕事が忙しすぎて、子どもの世話があんまりできない日が続くんだけど、その数日後に子どもと一緒に楽しい時間を過ごす瞬間があったりして。そうすると、子どもも頑張ってるから俺も頑張ろうっていう気持ちになったりする。俺が仕事を辞めて、子どもにべったりしたところで、子どもたちが幸せなのかなって思うしね。子どもたちは、私たちも頑張るからお父さんも頑張ってって思ってるだろうし。今はもう、シングルファザーになって3、4年かな。地方でライブをやって、どうしても帰れないときが大変ですよ。基本的には、例えば九州でライブをやっても東京の自宅に帰るようにしているんだけど、どうしても無理な場合があるから。今は、高1と小6、小3。小学校はお弁当を作らなくていいけど、高1の長女にはお弁当を作ってます。自分が高校生のときは、親からお金をもらって弁当を買ってたから、それでいいじゃんって言ったら、“そんなの嫌に決まってんじゃん!”って(笑)。だから今は、なんでも作れますよ。毎日、娘のお弁当を作ってるから(笑)」

そんな子どもたちの存在は、自身が生み出す音楽にも影響を与えている。

「前は歌ってたけど、今は家族の歌や生活の歌は特に作ろうとはしていないかな。前よりも家族に対して客観的じゃないというか、自分は家族の中に間違いなく今いるっていう実感が強いから、歌わなくていいのかもしれない。今は、唯一ライブで歌っているときとかが自分の自由な時間だなーって思うし、家族のこともほかのことも何も考えないで、ただギターを弾いて歌う瞬間っていうのが、自分にとっては大切です。だから今は、家族や生活は関係なく、自分の中にある風景とか、気持ちの旅路みたいなものを歌いたいなーって思っていますね」

そんな曽我部の今の感覚がダイレクトに表現されているのが、現在のサニーデイ・サービスの楽曲たちということになるのだろう。最新アルバム「DANCE TO YOU」には、にっちもさっちもいかない現実にしっかりと根ざしつつも、ほんの数センチだけふっと日常から浮遊させてくれる楽曲が並ぶ。

「自分で始めて、自分で終わらせて、自分でまた始めたバンドですけどね。始めるときは、なんとなく友だちが集まって始めてるわけだけど、いつの間にかうまくいかなくなって解散して。でも、時間が経つといろんなことを許容できるようになって、また始めて。今は、自分が昔作ってた曲ってなかなかいいなとか、当時の楽曲をしっかり聴いてくれていた人たちがいるんだってことに気づいてね。もう、メンバーがバラバラになったら辞めようって気持ちもない。吹っ切れました。ずっと、俺が死んでもサニーデイが続いていったらいいなとも思う。デザイナーが変わってもアパレルブランドが続いていくように、2代目サニーデイみたいに」
    • DANCE TO YOU/サニーデイ・サービス

      アルバム

      1,800

      DANCE TO YOU
      サニーデイ・サービス

  • サニーデイ・サービスは、5月9日(火)に「サニーデイ・サービス presents 忌野清志郎ロックン・ロール・ショー」を中野サンプラザで開催する。

    「サニーデイ・サービス presents 忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー」
    会場:中野サンプラザ
    出演:
    サニーデイ・サービス(曽我部恵一(vo,gt)、田中 貴(bass)、岡山健二(dr)、木暮晋也(gt)、高野 勲(key)、新井 仁(gt))
    忌野清志郎、梅津和時、奇妙礼太郎、佐藤タイジ(シアターブルック)、志磨遼平(ドレスコーズ)、TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)、
    仲井戸“CHABO”麗市、中納良恵(EGO−WRAPPIN')、原田郁子(クラムボン)、ワタナベイビー
    時間:OPEN 18:00 / START 18:30
    料金:¥5,900(全席指定・税込)
    ▼詳細はオフィシャルサイトで
    http://www.sokabekeiichi.com/livedate/2017/05/_presents_lovepeace_201759.html

    「俺らは、第一部で『ハートのエース』を曲順通りに全曲演奏します。『ハートのエース』は、俺が中2のときに初めて買ったRCサクセションのレコード。「トランジスタ・ラジオ」とか「雨あがりの夜空に」を想像して買ったんだけど、聴いてみたら「山のふもとで犬と暮らしている」とか「横浜ベイ」とか、メロウで悲しい感じの曲が自分の中に残ったんですよ。なんか、不思議な残り方をする音楽だなーって。もちろん、好きな曲はいろいろある。アルバムとしては、『シングル・マン』も好きだけど、一番好きなのは『楽しい夕に』かな」

  • そんな曽我部が好きなRCサクセションの曲を挙げてもらった。

  • 「自分にとって、清志郎さんの歌は孤独さの極みなんだよね。どこまで行っても孤独というか、清志郎さんの歌は孤独な少年の叫びであり、つぶやきであり、本当にすごい。人はみんな孤独なんだけど、孤独というものを骨の髄まで知り尽くした人の歌ですよね、清志郎さんの歌は。清志郎さんみたいに、何もない、誰もいないっていうところに立って歌っている人って、あんまりいなくて。ジョン・レノンはそうだけどね。あとは、音楽の人ではないけど表現者という広い意味では、川端康成とか。自分も孤独だとか寂しいなとか思うけど、清志郎さんがいるのはそんな場所じゃない。だから、俺じゃ到底追いつけないでっかい歌がやっぱり生まれてくるし、でっかい声で歌わないと誰にも届かないし、誰も理解してくれないと清志郎さんは本気で思っていただろうし。その(孤独の)強度だよね、だから、清志郎さんの歌を聴くと、自分らがロックだとか孤独だとかを歌うときの、甘さを思い知るんですよね」


    春が過ぎれば、季節が巡って、また夏が来る。8月27日の日曜日、曽我部恵一が46歳の誕生日を迎えた翌日に、サニーデイ・サービスは19年ぶりに日比谷野外音楽堂でのワンマンライブを開催する。アーティストであり、経営者であり、父である曽我部の日常は、こうしてまた続いていく。

    「サニーデイ・サービス サマーライブ 2017」
    会場:日比谷野外大音楽堂
    出演:サニーデイ・サービス(曽我部恵一(vo,gt)、田中 貴(bass)、岡山健二(dr)、高野 勲(key)、新井 仁(gt))
    時間:OPEN 16:15 / START 17:00 ※ 雨天決行・荒天中止
    料金:前売 ¥5,000 (全席指定・税込)
    ※ 未就学児童は保護者同伴に限り入場可(小学生以上はチケット必要)。
    ※ 未就学児童でも座席が必要な場合はチケットが必要です。
    ▼詳細はオフィシャルサイトで
    http://www.sokabekeiichi.com/livedate/2017/08/_2017_1.html

    Text:大久保 和則
    Photo:Great The Kabukicho

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