『Yamaha Acoustic Mind』プロデュース6年目 ISEKI(ex.キマグレン)のプロデューサーとしての才能


ヤマハアコースティックギターの音色を存分に堪能することができるイベント『Yamaha Acoustic Mind 2019 〜Circuit〜』。ISEKI(ex.キマグレン)を総合プロデュースに迎えて6年目を迎える本イベントは、毎回趣向を凝らしながら、まさに“人と楽器”をつなぐ架け橋のようなイベントとして音楽ファンから愛されてきた。今年は10〜11月に名古屋・大阪・福岡・広島・東京と開催場所を全国5会場へと拡大し、各地にゆかりのあるゲストアーティストを迎えイベントに華を添える。演出の構想やアーティストのブッキングを行い、ミュージシャンとして自らもステージに立つISEKIに、『Yamaha Acoustic Mind 2019 〜Circuit〜』の魅力とプロデュースにおけるポリシーを聞いた。

5年間のベーシックな部分は残しつつ新たに全国に広めていこうという気持ち

 

『Yamaha Acoustic Mind』は毎回、趣向を凝らした演出で行なっていますね。

ISEKI:
いかにも“企業イベント”っぽくはやりたくないなと、実は最初にヤマハさんとも話していたんです。アコースティックギターが大好きな人はもちろん、初めてアコースティックライブを観に来てくれる方にも、アコースティックギターってこんなにも弾き手や歌が加わることで雰囲気が変わるんだ、と感じてもらいたい気持ちがあって。制作に関わらせてもらった2014年から4年間は、僕がヤマハショップの店長でアーティストをお迎えするという面白おかしい演出でやらせていただいて、そのあとの2年間は“THE SESSION”という形で、バンドアンサンブルの中で光るアコースティックギターの素晴らしさを感じてもらいたいと思い、アーティストのコラボを中心とした演出を考えました。

―アイディア出しから一緒に行うんですか?

ISEKI:
そうですね、イチからです。僕も『音霊OTODAMA SEA STUDIO』というイベントはやっていましたけど、プレイヤーとしてイベントを構築したことはなかったので、ぜひやらせてほしいという話をして。キマグレンからのつながりもあるんですけど、演出家や制作スタッフなどの仲間集めからすべて。演出家の笹川章光さんは、ゆずさん主催のイベント『音野祭』からのつながりがあって、そのときにバックで弾いていたキーボーディストの野間康介さんは“THE SESSION”で音楽監督という形で起用しました。今までの“縁”がすべて集約されています。
今年出演していただく方も、僕のイベントによく出てもらっている方だったりします。大石昌良くんはSound Scheduleの解散前(のちに再結成)、『音霊OTODAMA SEA STUDIO』の最初の頃にSound Scheduleと椿屋四重奏とNatural Punch Drunkerの3マンイベントに出てもらって、解散後はソロとしても何回か出てもらったりと縁があって。今やアニソン界でも売れっ子ですけど、僕のイメージはシンガーソングライターとしての大石くんなんですよね。だから、シンガーソングライターとしての大石昌良を見てもらいたい気持ちもあって。磯貝サイモンも似た境遇というか、一度メジャーシーンに行って、現在はプロデューサーとしても作家としても売れっ子なので。だから『Yamaha Acoustic Mind 2019 〜Circuit〜』で全公演出演するアーティストに関しては、結果的に同世代を集めた感じになりました(笑)。

―今年の『Yamaha Acoustic Mind』は東京以外の都市でも開催されますね。

ISEKI:
僕が関わらせてもらってから今年で6年目ですが、少し展開を見せたいと。全国のお客さんから “東京以外のエリアでもやってほしい”という声がずっと前から上がっていて、主要都市からアーティストも揃えられる5箇所で、今年はサーキットという形で始動した感じです。今までの5年間のベーシックな部分は残しつつ、新たに全国に広めていこうという気持ちです。

―ここまでコンセプトを刷新し続けるライブイベントってなかなかないですよね。構想はいつ頃から話し合うんですか?

ISEKI:
構想は臨機応変に変えていきます。アーティストって、1年間で状況が変わるじゃないですか。ブッキング自体はだいたい1年前くらいから、大御所のアーティストだと1年半〜2年前からブッキングするんです。なので、アーティストの今の状況と、それぞれがやりたいことを吸い上げながら、もちろん根元の部分は決まっているんですけど考えていきます。今年に関しては、大石くんがずっとヤマハのアコギを使っているので、大石くんをかなりフィーチャーしてそこに肉付けしていくようなイベントの作りになっています。


お客さんの顔がすごくいいとき “今日は勝ったな”って思うんです(笑)

 

―今までの『Yamaha Acoustic Mind』で特に印象深い年は?

 

アコースティックマインド(1)

 

ISEKIやっぱり2016年、中野サンプラザで開催したとき。加山雄三さんと南こうせつさんがレジェンドすぎて、どう接したらいいのかわからないという(笑)。イベント自体は素晴らしく本当に思い出深くて、miwaちゃんも来てくれたし、KEYTALKの寺中くん(Vo,Gt)や解散してしまったけどShiggy Jr.が来てくれたり。よくよく考えたらすごいラインナップですよね。加山さんは僕のイベントに出てくれた縁があって、こうせつさんも“加山さんが出るなら僕も出るよ”って言ってくれて。その世代の仲間意識は素晴らしいなと感じました。結局は“人と人”ですよね。戦友というか。ヤマハギターの誕生50周年という節目も重なって、すごくスペシャルなイベントになりました。僕としてもヤマハさんとしてもしっかり足跡を残せた実感があるし、世代があまりに離れているとイベントを構築するのって集客的にもすごく難しいんですけど、開催できて良かったなと本当に思います。

―プロデュースする立場として苦労する部分も多いですか?

ISEKI:
そうですね、去年の“THE SESSION”ではSilent SirenとKEYTALKがセッションしたのですが、セッションって普通はなかなかやらせてもらえないんですよ。特にロックバンドは嫌がるというか、僕も比較的避けるんですよ。イベントを組む上でアレンジャーを入れなければいけないし。『Yamaha Acoustic Mind』は野間さんにやってもらったんですけど、そういう方がいないと成立しないので。

 

アコースティックマインド(2)

 

『Yamaha Acoustic Mind』のプロデュースをやっていて良かったと思う瞬間は?

ISEKI:
アーティストって意外と内気な人が多いので、最初は心配がる方も多いんです。でも、ステージに上がってお客さんも一緒になって盛り上がった瞬間、アーティストとお客さんの顔を見るとやっぱり楽しそうにしてる。“音楽って楽しいな!”と感じている雰囲気がフワっと出る瞬間があるんですよ。それをオーガナイザー、プロデューサーとして見る瞬間はとても楽しいですね。ライブが終わったあと、お客さんが帰る時の顔でその日のライブが良かったかどうかがわかるというか。コラボが良かったときはお客さんの顔がすごくいいんですよ。それを見る瞬間が一番好きだし、楽しいからやめられないですよね。“今日は勝ったな”って思うんです(笑)。100人だろうが500人だろうが1,000人だろうが、お客さんの顔ですべてがわかるので。

―イベントを作り上げる上でプロデューサーとして気をつけていることは?

ISEKI:
対“人”なので、気にしているのは相手側はどう思っているか。それは常に考えながら仕事しています。相手が望んでいるものと、僕が望んでいるものの調整をどうつけていくか。と言いつつ、物を作る人はわがままでなければいけないので葛藤はありますよね。

―コミュニケーション能力が必要ですよね。

ISEKI:
みんな考え方は違うので、考えが違うことを受け入れるようにしていますけどね。仕方がないというか。あまりにも合わないようであればやめればいいだけだし、無理してお互いが我慢してやる必要はないというか。もちろん、自分がやりたいことに関してはとことんやりたいって言いますけど。だから、10月18日にリリースされるデジタルシングル「Parade」も僕のわがままなんです(笑)。

 

僕自身も吸収できる場だから新しいアイディアにもつながる

 

アコースティックマインド(3)

 

―わがままとは?

ISEKI:
今年『音霊OTODAMA SEA STUDIO』が15周年だから何かやれたらいいねってKUREIと話していて、15周年とは別に楽曲制作はずっと続けていたので、ユニバーサルミュージックの人と会った機会に“ソロで曲は作っているんですよ”って話をしたのがきっかけでリリースすることに。だからそれも縁なんですよね。

―作っていた楽曲の中から「Parade」を選んだ理由は?

ISEKI:
去年は若いチームと音源を作る機会が多くて、ダンスミュージックをもっと取り入れたいという気持ちが高まったんです。これまでもAORだったりキマグレンのダンサブルな楽曲など、ダンスミュージックから派生した音楽をやってきてはいるんですけど。

―4つ打ちベースにカントリーの要素が入っているというか。

ISEKI:
これまでソロでやってきた音楽と昔の音楽を、最終的には合体させたいなと思っていて。そのほうが今までやってきた意味があるなと。常に楽曲制作は僕の中で勉強でしかなくて、新たな音楽性を手に入れたらそれを楽曲に反映させることをこれまでもやってきたので、そういう意味では今の僕の年齢に合った楽曲が作れたのかなと思っています。

―『Yamaha Acoustic Mind』での経験が曲作りに影響を与えている部分もありますか?

ISEKI:
プロデューサーとしての立ち位置から、いろいろなアーティストを見るじゃないですか。流行りの音楽がわかるから、僕自身も吸収できる場なんですよね。だから、新しいアイディアにもつながります。9月25日に磯貝サイモンとインスタライブをやったんですけど、なぜかと言うと、この間一緒に曲を作ったんですよ。前々から一緒に曲を作りたいと思っていたんですけど、完全に2人でセッションした曲を作ろうぜっていう話になって、歌詞もその場で2人で唸りながら書いて、その日に全部を書き上げたんです。もちろん、『Yamaha Acoustic Mind 2019 〜Circuit〜』で披露します。だから『Yamaha Acoustic Mind』がそういうきっかけ作りにもなっていますよね。

―『Yamaha Acoustic Mind』がいろいろな刺激になっているんですね。

ISEKI:
そうですね。毎年この時期にアコマイがあるので、身を引き締められる思いというか。でも、達成感はありますよ。

―では最後に、改めて『Yamaha Acoustic Mind 2019 〜Circuit〜』の魅力と見どころをお願いします。

ISEKI:
魅力は何と言ってもヤマハのアコースティックギターの音色の美しさや、人によっては激しさだったり、さまざまなアコギの表情を生で感じることができる。通常のアコースティックイベントとは違いセッションも多いので、普段見られないアーティストの一面を見てもらえるんじゃないかなと。あと、ギターや音楽を始めたいと思ってもらえる演出を要所要所に入れているので、そういうものも感じてもらえたら嬉しいです。
今年の見どころは同世代の3組。イベントプロデューサーでもあるISEKI、音楽プロデューサーでもある磯貝サイモン、大石くんはプロデューサー/作家でもありシンガーソングライターとしても活躍している。みんな超絶プレイヤーなのでスペシャルな夜になると思います。あとは開催地ごとにゲストが異なり、特に植田真梨恵ちゃん(福岡)と森恵ちゃん(広島)は自分たちの故郷だし、Anlyちゃんは名古屋で長くラジオをやっていたこともあったり縁の深い土地でそれぞれゲストアーティストを呼んでいます。そこに今一番勢いのある2人組、さくらしめじ(大阪)も加え、さらに素晴らしいラインナップになりました。ヤマハさんは本当にいろいろなイベントをやっているので、そのひとつとして、アーティストとがっつり組んだイベントを今後もしっかりと構築していきたいと思っています。

 


 

【イベント】
Yamaha Acoustic Mind 2019 ~ Circuit ~
■日 時:
10月19日(土) 名古屋ボトムライン
10月20日(日) 心斎橋 JANUS(チケット完売)
10月26日 (土) スカラエスパシオ
10月27日 (日) 広島クラブクアトロ
11月3日 (日・祝日) 品川インターシティホール

*全会場 ロビー開場 15:00 (ギター試奏体験他) / ホール開場 16:00 / 開演 17:00

■出演者:
全公演出演アーティスト : ISEKI / 大石昌良 / 磯貝サイモン
ゲストアーティスト : Anly(名古屋・東京) / さくらしめじ(大阪) / 植田真梨恵(福岡) / 森恵(広島)
*総合プロデューサー : ISEKI 、演出家 : 笹川章光
 

▼Yamaha Acoustic Mind 特設ページ▼

アコースティックマインド(4)

 


 

【PROFILE】

アコースティックマインド(4)

1980年10月、神奈川県逗子市出身。
1998年度のYOKOHAMA HIGH SCHOOL HOT WAVE FESTIVAL(@横浜スタジアム)にて、「ベストプレイヤー賞 Vocal部門」を受賞。大学時代より本格的に音楽活動をスタートし、いくつかのバンドで活動。
2005年に幼馴染のKUREIと逗子海岸に海の家ライブハウス(現「音霊 OTODAMA SEA STUDIO」)を発足。同年キマグレン結成。2008年にユニバーサルシグマよりメジャー・デビュー。2nd シングル「LIFE」がヒットし、その年の数々の新人賞を受賞、紅白歌合戦初出場を果たす。2012年、日本武道館初公演。結成10周年となった2015年夏にキマグレンを解散、ソロ・アーティストISEKIとして始動。
2017年1月ライブ会場限定CD『COFFEE & SOUL-demo tracks-』を発売。6月には徳間ジャパンコミュニケーションズよりカバー・ミニアルバム『AOR FLAVA-mellow green-』でメジャー・デビュー。8月、10月には同シリーズ2ndミニアルバム『AOR FLAVA-sweet blue-』、3rdミニアルバム『AOR FLAVA -silky red-』を立て続けにリリース。2018年はファンと共に作り上げたオリジナルアルバム『CROSS HEART』をクラウドファンディング限定で作成。リード曲「Workman」は配信リリース中。

8月2日にテレビ朝日「ミュージックステーション」へのキマグレン出演が11年ぶりに決定。一夜限りのパフォーマンスを披露。アルバム『BEST OF SUMMER』も配信リリース中。2019年10月18日にはユニバーサルミュージックから「Parade」を配信リリースすることが決定。来年2020年そのリリースLIVEとして「ISEKI LIVE 2020~Parade~」の開催が決定している。ミュージシャンとして活動する傍ら、自身が創始者となる「毎日がクリスマス」(横浜赤レンガ開で開催)は今年で12年目を迎える他、「Yamaha Acoustic Mind」ではイベントプロデューサーも兼務し、活動の幅が広がりこれから益々目が離せない。

http://iseking.net/


【RELEASE】

アコースティックマインド(5)

デジタルシングル「Parade」
2019年10月18日発売
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Interview&Photo:溝口元海
Live Photo:山路ゆか
取材協力:CAFE168

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