妄想系アルバム鑑賞法「利きジャケ」のすゝめ 第7回


「利きジャケ」へようこそ。
古今東西の名盤を紹介する当コーナーは、いわゆるアルバムレビューではない。
ならば何をするのか? ……「利く」のだ。「聴く」ではなく、「利く」のだ。一枚のジャケットをじっと凝視し、アルバムの“顏”から名盤を味わい尽くす。流浪の妄想コーナー、それが「利きジャケ」だ。

「アナログレコードへの愛を(最終回)」

 

音楽的要素は一切ない、全く役に立たないコーナー「利きジャケ」。
読者の皆さん。お久しぶりです。ヴィンセント秋山です。

まずはお知らせ。今回で「利きジャケ/mysound編」は最終回です。
さよならだけが人生さ。ああ、果たして私はかれこれ10年以上、一枚のジャケットを凝視し、ジャケットのアートワークだけから妄想を広げそのアルバムを味わい尽くす遊びをしてきました。……すなわち音楽的要素をあえて封印する「利き酒」ならぬ「利きジャケ」です。しかしながら、こちらでは今回で一度お別れなのです。またいつの日か。ありがとう。

え? もう終わったと思ってたって?
嫌だな、時間差でジワジワ心に効いてくるのが「利きジャケ」の魅力ですよ。
最終回を派手にブチ上げようと色々策を練っていたら、なんと担当編集者にも忘れられてたって……ヒドすぎ!

ここでちょっと反省すればね、この連載……「役に立たない」「音楽的要素一切なし」「くだらない」って、自ら言いすぎちゃったかなあ(笑)。本当のことなんだけど、いやいや! くだらないお話の中にもちょいちょい音楽的いい話、挟んでいたんですよ!

だって、ストーンズの「グレイト・ギタリスト・ハント」と呼ばれるアルバムの理由とかさ(第1回)、コージー・パウエルとゲイリー・ムーアの関係とかさ(第2回)、ジーン・シモンズの戦車DEデートした逸話とかさ(第3回)、ボズ・スキャッグスのアルバムに参加してたメンバーがTOTOになった話とかさ(第4回)、マイルスがシンディをカバーしていることとかさ、シンディが日本料理屋でバイトしてた話とかさ(第5回)、ブルース・スプリングスティーンの初めて買ったレコードのこととかさ(第6回)、他にもいっぱい「役に立つかもしれない」「音楽要素」を散りばめていたつもり……。

と、ちょっと反省しつつ
最終回では「すこしだけ役に立つ利き」として、アルバムアートの歴史を作った先駆者の作品を利こうと思う。
そして、私がこの「利きジャケ」という遊びをはじめたおよそ10年前の、ある意味「利きジャケの祖」との出会い話も。

そんなわけで、もうみんな忘れてると思うから、これだけはお伝えしなくちゃ。

当コーナーではアルバム名を「銘柄」、アーティスト名を「蔵元」と表記する。そして利きジャケ唯一のルールも。音楽的要素は一切ない利きジャケであるが(いや、ほんとはちょっとあるんだよ)、音楽を愛するものとしての唯一のルールがある。それは…………

「利いたからには、聴かねばならない」

 

「音楽的要素? そんなもん! くそ! くそ! 食ってやる!」

利きジャケ最終回(1)

銘柄:FOR THE LOVE OF VINYL(書籍です)
蔵元:ヒプノシス


レコードの魅力。それは音楽だけではない。
レコードジャケットという31cm×31cmの四角いキャンパス。それを味わう。
「聴いて楽しい」だけでなく「見て楽しい」。
それがレコード/アルバムジャケットだ!
そんなジャケットの魅力にとりつかれた私が“利きジャケる”にあたり、じつは大ファンのデザイナーがいるのであった。
果たして、彼らが現れるまではレコードを収納するためだけの存在であったジャケット。
それを、アート作品にまで高めたデザイン集団。それが………

ヒプノシスだ!

1968年、ストーム・ソーガソンとオーブリー・パウエルがデザイン集団「ヒプノシス」を結成した。のちにピーター・クリストファーソンが加わり3人体制となるのだが、当初からロンドンを拠点に活動をはじめ、友人であったピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズからジャケットデザインを依頼されたのを契機に、音楽アルバムのアートワークをおこなうようになった。
彼らの作品は「見る者に考えさせる」ということが、コンセプトのひとつだという。(みんな大好きwikipedia参照)

……ん?

「見る者に考えさせる」………?

あら? あれ?
まさにこれ、「利きジャケ」じゃないっすか! みなさん!

ヒプノシスをご存じない方もいると思うので、彼らの作品をいくつか紹介しておきましょう。

こんなんとか、

 

利きジャケ最終回(2)

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銘柄:原子心母
蔵元:ピンク・フロイド


こんなんとか、

 

利きジャケ最終回(3)

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銘柄:A Momentary Lapse of Reason
蔵元:ピンク・フロイド


こんなの。

 

利きジャケ最終回(4)

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銘柄:Wish You Were Here
蔵元:ピンク・フロイド


こんなのや、

 

利きジャケ最終回(5)​​​​​​​

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銘柄: 永遠(TOWA)
蔵元: ピンク・フロイド


これとか!

 

利きジャケ最終回(6)

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銘柄: Presence
蔵元: レッドツエッペリン


どうよ? どれもこれも利きたくなってくるでしょ? 見ているだけで、妄想が広がらない?
まさに「ジャケ買い」なんてものを生み出した祖!
ジャケをアートに高めた先駆者!
それが、ヒプノシスなのです!

で、じつは
そんなメンバーのひとりに、私は会ったことがあるんですよ。そしてサインまでもらっちゃったんですよ。そして………勇気を振り絞って「利きジャケ」ってることも伝えたんですよ。あれは12年前の秋のある日………

ヴィンセント 「あのー、私、「役に立たなくて」「くだらなくて」「音楽的要素をあえて封印」して「ジャケでボケまくる」遊びをあなたの作ったアルバムでしているんですが、大丈夫ですか?」

そしたら、ヒプノシスのオーブリー・パウエルは言ってくれたんです。

オーブリー 「それは、まったくもって正しいよ! 自由に妄想してくれ。見る者が好きに妄想してくれていいんだぜ!!!!!!」

そう言って、
ヴィンセントへって、彼はサインしてくれたんです。

それがこれ。
18年11月08日じゃないよ! 08年11月18日ね!

 

利きジャケ最終回(7)

 

どう? これ、「利きジャケ」のお墨付きと言っていいでしょ?
レコードジャケットアートワーク界の巨匠からのお墨付き。
だってヒプノシスが「ヴィンセント」って書いてくれてるのよ。
どう? こちらのコーナーがちょっと崇高に見えてきたんじゃないの? 
アカデミックに見えてこない? 

ともあれ、そんなわけであれから12年。
私は大手をふってジャケ妄想しつづけているわけなのだけど。

で、サインをもらったのがこの画集なわけです。

 

利きジャケ最終回(8)

ヒプノシスの画集『FOR THE LOVE OF VINYL』(ヴィンセント私物)

 

こちらの画集、うっとりするぐらいたっぷりと80年代初頭あたりまでのヒプノシス作品が網羅されてます。さらには、今回は最終回なんで、しっかりと音楽的要素、音楽情報もお伝えすると………こちらの作品集の表紙。
レコードを食べている男の図なんですが、

RIFF RAFF(リフ・ラフ)の『VINYL FUTURES』というアルバムのアートワークなんです。

残念ながらぜんっぜん売れなかった81年のバンド、リフラフ。アメリカのロックバンド・Cactus(カクタス)の2代目ギタリストが参加したバンド! って言っても、かなり好きな人じゃないとわからないと思うし……mysoundで探してみたけれど、残念ながら『VINYL FUTURES』は扱ってなかったんだ(涙)。
でも「ヒプノシスのジャケットだっ!」って当時、ちょっとだけ話題になったんだよ。

それじゃあ、せっかくなので、
その時オーブリーから聞いた話で、恐らくネット上にはあまり出てない話をば。

1968年。美術系の大学に通っていたオーブリーは友人で学生だったストーム・ソーガソン、そしてピンク・フロイドのシド・バレットと一緒に住んでいたそう。ロンドン・ソーホー地区にあったスタジオにはピンク・フロイドのメンバーをはじめ、ミュージシャン、アーティストなどたくさんの人の出入りもあったとか。なんなら彼ら自身もバンドメンバーみたいなものだったらしい。
ところがそのソーホーのスタジオのすぐ裏手には、なんと!
マルコム・マクラーレンが借りていたビルがあって、セックスピストルズのメンバーと顔を合わせることもあったんだって。はじめのうちは、愛想のある子たちだったらしいんだけど、「だんだんトンガってきて挨拶もしなくなったんだぜ、あいつら」って(笑)。
そんな話も語っておりました。
どう? 音楽的知的好奇心満たされる情報じゃない?

ああ、ってなわけで、そろそろ、この連載も終わりに近づいてまいりました。では最後の利きを。
愛するヒプノシスの画集(ヴィンセントへのサイン入り)を利いてみましょう。

 

利きジャケ最終回(9)

 

「やけ食い」

くっそー! 利きジャケ最終回だってさ! 音楽要素がなかったからだぜ、きっと!
そんなん、わからんじゃん! 知らんじゃん! ウィキペディアで調べりゃいいじゃん! レコードなんてあるからだ! レコードなんてあるからだ!
アルバムジャケットだけでいいじゃん! もっとやりたかったじゃん! 利きジャケ!
………と、最終回に気が触れて、やけ食いする私、ヴィンセントの心情風景であります。

ありがとう!

以上、ヒプノシスの関わったアルバムをいくつか、以下にもういちど紹介します。
ためしにちょっとだけ利いてみます。
ぜひ、あなたも利いてみてください。だって、ヒプノシスは言っています。

「見る者に考えさせる」ということが、コンセプトのひとつだ、と。

利いたからには……聴かねばなるまい!


問:ふりかえって一言

 

利きジャケ最終回(9)

 

あなたの答え「        」

例:「えっ? 焼肉食べ放題終わっちゃったの?」


問:ため息ついて男が一言

 

利きジャケ最終回(10)

 

あなたの答え「           」

例:「ビーチベッドと間違って発注しちゃったよ……」


問:全身から火が出るくらい恥ずかしい! なぜ?

 

利きジャケ最終回(11)

 

あなたの答え「           」

例:「国会答弁で漢字読み間違っちゃった!」


問:「雲の上から一言」

 

利きジャケ最終回(12)

 

あなたの答え「           」

例:「バルス!」


問:「なに家族?」

 

利きジャケ最終回(12)

 

あなたの答え「           」

例「食い逃げ家族」

どうです? 実際やってみたらなかなかハマるでしょ?
「利きジャケ」ファンの皆さん。短い間でしたが、ありがとう。
またどこかでお会いしましょう!

 

今回の逸品

Atom Heart Mother
Pink Floyd

A Momentary Lapse of Reason
Pink Floyd

Wish You Were Here
Pink Floyd

永遠(TOWA)-Deluxe Version-
Pink Floyd

Presence (Remastered)

Led Zeppelin


そして、最後まで快くジャケの使用を許してくれた太っ腹なレーベルたちに感謝します。

Text:ヴィンセント秋山