『GTA』と西海岸ポップカルチャーの世界



ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される"ビデオゲーム"というエンタメを通して見えてくる新たな価値観とは何か? 橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!

アメリカ合衆国での人生を追体験するゲーム『グランド・セフト・オート』シリーズ



『グランド・セフト・オート』というゲームがある。ビデオゲーム機を所有していない人でも、そのカルチャーに興味がない人でも、このゲームタイトルの略称である『GTA』という三文字は聞き覚えがあるハズだ。 "重車両窃盗"という意味を持つこの三文字は、北米の警察用語がルーツとなっており、ゲームは"オープンワールド"と呼ばれる広大なステージに築かれた架空の都市を舞台に、そこで生活する犯罪者として三下のチンピラから影の首領にまで登り詰めるドラマを追体験するデザインとなっている。箱庭として作られたその街の中で、様々な非合法活動に血道をあげるというアクションゲームをプレイできるのだ。それはレースや銃撃戦、ヘリの操縦から戦闘機による爆撃、はたまたパトカーの追撃を振り切るチェイスバトルは当たり前、余興で用意されたヨガなどのスポーツ、食事と飲酒、ギャンブルや狩猟といったアクティビティは、それぞれが単体でも完成度の高いミニゲームとなっており、舞台となる街はアメリカ西海岸やニューヨークといった実在の大都市をモデルに構築され、その中には飛行場、地下鉄、ロープウェイ、貨物列車に船舶までもが行き来する。

しかし、GTAの魅力はこれだけでは終わらない。GTAが他のビデオゲームと決定的に違うのは、車などを運転する際にかけられるラジオ番組の存在である。この要素が加わることにより、架空だったはずの都市のドラマが絶妙に現実とリンクし、時にはアクション映画の名場面のような戦いを演出してくれるのだ。

このラジオ局こそが本稿の最も掘り下げたい部分であると同時に、GTAというゲームの素晴らしさを今一度改めて解説を試みたい。

シリーズ5作目『GTAV』のリアリティ溢れる仮想現実社会



GTAシリーズは、1997年の第1作目から現在に至るまで、約20年の間に12本(うち、ナンバリングタイトルは7本)がリリースされており、目下のところの最新作は、2013年発売の『GTAV』となる。本稿では、この『GTAV』を主軸に、ゲームと音楽の相乗効果を生み出したゲームデザインの奥深さについて考察したい。舞台は、アメリカ合衆国西海岸をモデルとした架空の州であるサンアンドレアス州と、その首都となるロス・サントス。もちろんロスアンゼルス(LA)がモデルなのだが、全体は大きな1つの島となっており、その中には3つの飛行場(国際線空港、民間機用滑走路、そして軍事基地)、2つの港、複数の海水浴場や離れ小島、発電所や雄大な山岳地域、そして巨大な塩湖とダム湖を湛えている。このマップを1周するには、最速のバイクでメーターを振り切るスピードでも約20分を要し、周辺の海域には沈没船や海底洞窟なども眠っている。陸、海、空の隅々まで信じられないほど作り込まれているのだ。無論、徒歩での走破も可能であり、体力に自信があれば島一周のトライアスロンにも挑戦できる。

プレイヤーは、このロス・サントスで生きる3人の男たちを交互に操作しながら、残酷と虚飾でパロディ化されたアメリカ社会のドラマを味わうことになる。1人目はフランクリン。若きギャングにして、サクセスに憧れるアフロアメリカンの青年であり、ストリートレースで鍛えた運転技術は超一流。2人目はマイケル。元プロの銀行強盗だが、逮捕されてから司法取引に応じ、証人保護プログラムによって一度死んだことにされた中年男。家族との平凡な生活に疲れ、野望の炎が再び燻っている。そして3人目の男、トレバー。かつてのマイケルの強盗仲間にして、凶悪で残忍な人格を合わせ持つ元軍人。このクセのある3人の男が出会い、破天荒な犯罪アクションの火蓋が切って落とされるのだが、ここでのメインは先にも述べた通り、運転時におけるラジオ番組。ここで登場するサウンドトラックは全てが本物。さらにトークを挟み込むDJたちには、超有名アーティスト、コメディアン、そして俳優が参加しているのだが、そのメンツがスゴイ。スゴすぎるのだ。以下、ジャンル毎に解説しよう。

  • West Coast Classics
    アイス・キューブとクリス・タッカーの主演映画『フライデー』の脚本家でもあるDJ POOHがゲストDJとして参加。オールドスクールの西海岸ヒップホップ専門チャンネルで、参加アーティストは2PAC、DJ QUIK、Dr. DRE(ft SNOOP DOGG)、アイス・キューブ、N.W,A、そしてGETO BOYS!

  • RADIO LOS SANTOS
    こちらは最新のヒップホップ。DJにはDJビッグボーイが参加(かつてGTAシリーズに声優としても参加していた)。参加アーティストは、ダニー・ブラウン、YOUNG SCOOTER、SKEMEなど。2015年発売のPC版とPS4アップデート版には、更に新曲が追加されている。

  • LOS SANTOS ROCK RADIO
    往年のロックとポップスを聴かせる40歳代感涙のラジオ局。DJはケニー・ロギンス。クィーン、エルトン・ジョン、ロバート・プラント、ドン・ジョンソンなど。トム・クルーズの主演作『TOP GUN』のテーマ曲「DANGER ZONE」が流れる瞬間は、是非戦闘機操縦中に味わいたいところ。夜のフリーウェイを走る時にも最高。

  • The Lowdown 91.1
    ソウルミュージック専門局。DJにはブラックス・プロイテーション映画の女王パム・グリア! 参加アーティストは、BT Express、スモーキー・ロビンソン、FIVE STARSTEPS、WARなどなど。これまた西海岸のダルい夕暮れにベストマッチなサウンドが揃えられている。

  • REBEL RADIO
    ロス・サントスから遠く離れた塩湖のほとりにある田舎エリア、ブレイン群のヒルビリー気質を代表する、ド直球なカントリーを聴かせる渋い局。サム・ペキンパー監督のトラック野郎映画『コンボイ』のテーマと共に、16輪タンクローリーで荒野をドライブする時のカタルシスがタマラない。

  • The Space 103.2
    スーパー・ファンク・ベーシスト、ブーツィー・コリンズがDJを務める濃厚ファンクなラジオ局。スティービー・ワンダー、リック・ジェームス、そしてエディー・マーフィー! 余りにも渋すぎる選曲は、単なるゲームのサウンドトラックを超えている。

  • CHANNEL X
    西海岸ハードコアパンク専門局。DJは元サークル・ジャークスのキース・モリス。BLACK FLAG、YOUTH BRIGADE、SUICIDAL TENDENCIES、FEARなどなど西海岸色全開のパンクバンドが目白押し! コンビニ強盗に向かう際に聴くと異常にテンションが上がる。トレバーお気に入りの局でもある。

  • The Blue Ark
    ダブの神様リー"スクラッチ"ペリーがDJを担当するレゲエチャンネル。デニス・ブラウン、グレゴリー・アイザックス、リー・ペリー率いるThe Upsettersも参加!

  • EAST LOS FM
    カルフォルニア州に旅行したら、一度は耳にしたことがあるかもしれないメキシカン・ミュージック専門のラジオ局。陽気なメロディだが、今なお続く麻薬戦争を歌う強烈な歌詞も多い。

  • これで全てを紹介したわけではなく、あくまで収録された膨大なサウンドトラックの一部に過ぎない。かつて、これほどまでに音楽に真剣に向き合い、前人未到のキャスティングを実現させたビデオゲームが存在しただろうか? 架空の都市であっても、その姿は限りなく現実のロスアンゼルスに近い。フランクリンは医療大麻ショップの常連であり、資金を調達すればショップの権利も購入できるが、オーナーになれば、畑から至急店にブツを届ける仕事も発生するから気が抜けない。あらゆるシチュエーションの中で、気分によって聴く音楽を変えながら、自分だけの時間を楽しむ…。暴力ゲームとして時に批判の標的となるGTAシリーズだが、本来の楽しみは音楽とドライブという快楽を追求した、究極のドライブシミュレーターであることも忘れてはならないのだ。


    ゲーム中に登場する医療用大麻ショップ。カリフォルニア州では他州に先駆けて医療用大麻が合法化され、昨年には嗜好品として少量の所持・使用も合法化された。




    実際のLAでも、現在医療用大麻ショップ(ディスペンサリー)はスターバックスよりも多く存在する。犬の散歩ついでにふらりと立ち寄る気安さだ。

GTAを作ったハウザー兄弟

GTAVは4年前の発売以来、6千万本を売り上げ、シリーズ全タイトルの売り上げ本数は2億2千万本(2015年8月集計)を超えるギネスタイトルである。この驚異的な数字が意味する重大なポイントは、GTAが、あくまで大人向けのゲームソフトであることだ。『スーパーマリオブラザーズ』の全年齢対象ゲームソフトとは、根本的に違うポジションにあり、それは全年齢対象よりも購入間口が狭いという意味でもある。それでこの数字は、まさしく怪物タイトルと呼べるだろう。

この怪物タイトルを作り上げた、ROCKSTAR GAMESの創設者であるハウザー兄弟について解説が必要だ。兄のサム・ハウザー氏は、R★社の社長にして、GTAシリーズ並びに同社のリリースする全てのタイトルのエクゼクティブ・プロデューサーを務める。弟のダン・ハウザー氏は、シナリオ全般の監修とゲームデザインのディレクションも手掛ける。他にも様々な分野において天才的才能を持つプログラマーやアーティストが数多く関わることでこのゲームソフトは作り上げられた。特筆すべきはサム・ハウザー氏の前歴だろう。R★社設立以前、サム氏は音楽レーベルBMGのインタラクティブ部門の社員だった。そこで音楽ライセンスにおけるノウハウを学び、前身となるDMGというデジタルゲーム・ディベロッパーを立ち上げる。そこで登場したのが最初のGTAだった。
爆発的ヒットを記録したのは、2D画面から3Dに進化した『グランド・セフト・オートIII』(2001年)が契機だった。『GTAIII』の時点ではラジオ局こそオリジナル楽曲だったが、空前のヒットを受けて大幅に世界観を拡大した『GTA: バイスシティ』のリリースによって、ゲームの世界は変わった。そこで登場したサウンドトラックは、いきなりマイケル・ジャクソンだったのである。ハウザー兄弟たちR★社のクリエイターたちは、ネクストレベルのゲーム文化へ到達するためのアプローチとして、GTAの世界に現実の音楽市場を取り込んだのだ。その膨大な売り上げのほとんどを、サウンドトラックのバージョンアップに注ぎ込んだのである。これはまさに、革命だった。

GTAシリーズはビデオゲームの未来を見据えている

ここまでは、サウンドトラックからのアプローチで『GTAV』の世界を解説したが、様々なハリウッド映画へのオマージュもタップリと込められているのも、GTAシリーズの特徴である。特に『GTAV』では、その傾向が強く、マイケルが絡む仕事は映画の裏舞台を駆け回る血生臭い内容が多い。映画館に行けば、オリジナルの短編映画が楽しめ(日本版では一部の作品が未収録だが)、マイケルなら映画館を不動産として所有することもできる。このゲームの中ではアメリカン・ドリームの実現を自らの手で実行できるのだ。未だGTAをプレイしたことがない読者諸兄がいるならば、今すぐプレイステーション4を購入し『GTAV』の世界に飛び込んでほしい。
我々が憧れて止まない破天荒なアメリカンライフが、そこにある。





Text:マスク・ド・UH
Photo:メアリー・J・ドリンコ(LA)

© ROCKSTAR GAMES 2013-2017

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