ドラマー BOBO のラディック LM402【人生を変えた楽器】


人生を変えるような楽器との出会いを、各ジャンルで活躍中のミュージシャンに聞く連載シリーズ。
四回目のゲストはMIYAVIやTKをはじめ、くるり、フジファブリックなどのライブ/レコーディング・サポートとして幅広く活躍するドラマーのBOBO。ここで紹介するスネア・ドラムのラディックLM402は、伝説のオルタナティブ・ロック・バンド、54-71の一員として活躍していた時代から、現在にいたるまでメイン・モデルとして長年愛用している。一点集中型のパワーヒッター・ドラマーとしてのスタイルを培ったこのスネアについて、詳しく聞いた。

「やっぱり、ジョン・ボーナムの音がするんですよ」

「やっぱり、ジョン・ボーナムの音がするんですよ」(1)

 

ーBOBOさんが最初に買ったスネアは何でしたか?

大学生の頃に買ったヤマハのデヴィッド・ガリバルディのシグネイチャー・モデルですね。学生の頃にタワー・オブ・パワーの「Oakland Stroke」が叩けないとダメだ、みたいな空気があって。『Future Sound』っていうガリバルディのドラム教則本を買ったりしてました。でも、買っただけで満足して、ほとんど読まなかったです(笑)。

で、しばらくこのスネアを使っていたときに冬が来て、みんなでスノボに行くことになって。で、ボード買わなきゃいけないし、お金もなかったから、スネアを後輩に売って、そのお金でスノボに行きました。で、またしばらくスネアを持たない生活に戻っちゃいました。
 


ースノボを優先させたというのは、学生らしいエピソードですね。

ドラムってライブハウスやスタジオに行けばセットが置いてあるし、買ったとしても家では叩けないから、自分で買うのはスティックくらいでしたね。でも、54-71の活動がはじまってから、さすがにもう一度自分のスネアくらいはを持っておかないとなって思って手に入れたのがこれでした。確か22歳くらいの頃ですね。


「やっぱり、ジョン・ボーナムの音がするんですよ」(2)「やっぱり、ジョン・ボーナムの音がするんですよ」(2)「やっぱり、ジョン・ボーナムの音がするんですよ」(3)

 

ーなぜ、ラディックLM402(14インチ×6.5インチ)だったのですか?

やっぱり、人生で一番聴いていたドラムがレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムで、彼が使っていたスネアだったというのが大きいですね。たしか、渋谷の石橋楽器にスティックを買いに行った時だと思うんですけど、たまたま1970年代後半のヴィンテージのLM402が目に入って、なんだか欲しくなっちゃって、試奏もせずに買いました。​​​​​​​

ーヴィンテージにはその当時から興味があったんですか?​​​​​​​

いや、興味はなかったです。見た目も美品だったし、ただ出会っちゃったなって感じでした。買った帰りに車でレッド・ツェッペリンの「カシミール」を爆音で聴きながら家に帰って。もちろん家では叩けなくて、スタジオではじめて鳴らしたときは感動しました。やっぱり、ジョン・ボーナムの音がするんですよ。そりゃたぶん、全然同じ音じゃないけど、“この同じ楽器から出ている音なんだ!”って納得したというか。​​​​​​​

ツェッペリンの音源ってもちろんカッコイイし、あの時代ってエンジニアやプロデューサーが楽器の音をちゃんとレコーディングしていたんですよね。今の時代のレコーディングみたいにコンプで潰して持ち上げたような音なら、正直どのスネアで叩いても変わらないって思ったりもするけど、ツェッペリンのスネアは402だっていう……だから、このスネアは売らずに今までずっと持っていますね。​​​​​​​

 

 

「無意識に“良いスネアの音=402”っていう感覚がある」


ーそこからの遍歴はどういったものでしたか?

LM402を手に入れてから4年間くらいはずっと使っていて、でもその後で今度はヤマハのピーター・アースキンのシグネイチャー・モデルを見たときに天からのお告げがあって、そっちを使うようになりました。

ーBOBOさん、けっこうヤマハのシグネイチャー・モデルに惹かれるんですね?

今、思い返せばそうなのかもね。ピーター・アースキン・モデルは10インチなんだけどそのサイズ感が最高で、海外に行くときでもリュックに入っちゃう。それから7~8年くらいはこのスネアがメインだったけど、54-71が活動休止して、くるりのサポートをやるようになってから、再びLM402を使い始めました。10インチのスネアは最高に尖った音が出せるけど、くるりは曲調も幅広いし、もっと普通のスネアの音色が必要になったんです。それが2008年くらいですね。もうそのときすでに30歳を越えているけど、今振り返ると……持っている機材って、LM402とピーター・アースキン・モデル、その2台のスネアだけでした。

ー楽器を所有することに、それほど興味がなかった?

それはたぶん、やっていたバンド(54-71)の影響もありますね。当時は予備とかサブっていうものにすごく嫌悪感を持っていて。例えば小さなライブハウスでギター1本でやってたバンドが売れて大きい会場でやるようになると、とっかえひっかえ楽器を替えて演奏するようになったりするじゃないですか? そういう人たち見て“そんな楽器の差くらいに左右されるような音楽をやってるんだね”って見下していたという……今思うと、ホントに酷いことを言ってました。

 

「無意識に“良いスネアの音=402”っていう感覚がある」(1)「無意識に“良いスネアの音=402”っていう感覚がある」(2)

 

ーLM402を叩いていた頃って、BOBOさんも自身のスタイルを模索していた時期でしたか?

そうですね。LM402って世界的にスタンダード・モデルと呼ばれる楽器で、ぶっ叩けば点も出せるし、胴鳴りも出せて、叩き手によってもいろんな音色が出せる。そういうスネアを若いうちに経験できたのは良かったと思っています。音色に関してはトミー・リー・モデルのヘッドを使ってミュートされたような音を目指したり、カーマイン・アピスが使っているヘッドをカンカンに張ってブッ叩いてみたりして……点を意識した演奏はその頃からやっていましたね。

やっぱり70年代の402ってシェルも薄いから、ぶっ叩くにはかなりピッチを張ってあげないと音が詰まっちゃうんです。ただ、その頃はスネアの鳴りをほとんど意識していなくて、とにかくぶっ叩いてました。それがくるりのサポートをやるようになって、ぶっ叩かない演奏をしたときに、はじめてLM402の真価を知ったというね。

ーその真価はどういうものでしたか?

とにかく都合の良いスネア。程よい倍音と中域と低域、それにちゃんとハイも出る。いろんなアーティストのレコーディングをやらせてもらうようになってからは、いろんなタイプのスネアを現場に持っていっても、だいたいこの402が最後に選ばれます。みんなのなかに無意識に“良いスネアの音=402”っていう感覚があるんじゃないかなって思うくらいですね。それもあって、今となってはメインのスネアに返り咲きました。​​​​​​​

 

「無意識に“良いスネアの音=402”っていう感覚がある」(4)

 

「楽器はみんなと同じだけど、演奏は人とは違って尖っている」


ー今話にあがった2台以外にもスネアは所有していますか?

うん。くるりの仕事をするようになってLM402がメインに戻ってきてから、今まで心の奥底に抑えていたヴィンテージ欲が復活して、いろんなモデルを買うようになりました。そのほとんどがラディックのヴィンテージですね。LM400にアクロライト、1960年代のLM402とLM400、1970年代のブラックビューティー以前のブラス製モデル、1970年代の13インチのLM405は、カンカン鳴るのに倍音と響きがあって調子が良いです。それと1960年代のジャズ・フェスティバルと、1980年代の木胴で深さが6.5インチでモデル名が無いものと、ビスタライトかな。​​​​​​​

あと、くるりの岸田(繁)君がヴィンテージ・ギターのオタクで、そそのかされて1960年代のラディックのドラムセットも買っちゃいました。ちなみにこれが自分が初めて買ったドラムセットでした。やっぱりいわゆるライブハウスだとセットがあるけど、もうちょっと大きい場所になると置いてないですから。でも、僕みたいなドラマーってあまりいなくて、普通はもっと楽器が好きで、高校生の頃からスネアを買ったり、もっと早い時期からちゃんとドラムセットも持ったりしていると思いますね。​​​​​​​

ー54-71の頃からBOBOさんは、常に尖った演奏を聴かせていましたけど、スネアのセレクトがLM402というわりと定番のモデルだったというのも、面白いですね。​​​​​​​

たぶんそれは、楽器はみんなと同じだけど、演奏は人とは違って尖っているっていうのが、カッコイイって思っていたんでしょうね。でも……今思えば何でもよかったんだろうなとは思います。ただ、そう思っていた学生時代の自分に天から降ってきたのがLM402だったってことで。それがもしパールのスネアだったら、全然違うタイプのドラマーになっていたかもしれない。​​​​​​​

 

「楽器はみんなと同じだけど、演奏は人とは違って尖っている」(1)

 

ーもしLM402ではなくて、尖ったモデルを使い続けていたら……。

尖り続けて、今となってはもうドラムセット使っていないかもしれないですよ。そうそう、海外でレコーディングするようになってから、だいたいプロデューサーやエンジニアが楽器を持ってきたりしていて。そのほとんどがオールドのラディックのLM402とブラックビューティー、それに木胴なんです。深さも402と同じ6.5インチだったりして。それであらためてスタンダードな楽器なんだなって思いました。​​​​​​​

ー1960年代と70年代のLM402を所有していますが、年代によっての音の違いは?​​​​​​​

1960年代は暴れる感じが強くて、1970年代はもっと倍音が抑えられていますね。だから、今の時代のレコーディングだと70年代のほうが選ばれることが多いけど……60年代の暴れるニュアンスにはロックを感じさせる魅力もあります。​​​​​​​

ーあと、今日持ってきてもらったスネアには、打面にマジックで印が書かれていましたね?​​​​​​​

あれはリムショットしたときのスウィート・スポットです。赤丸は“カイーン”っていう倍音と実音のミックスが一番よく出るポイントで、黒丸はいわゆる身が鳴るような“みんなが好きな音”が出るポイント。矢印はそこを正面に合わせてスネアをセットする位置です。特にヴィンテージの太鼓って真ん中を叩くと倍音があまり出なくて、叩く位置をズラすと伸びが出てくるんですけど、やっぱり印を付けておくと便利なんです。​​​​​​​

 

「楽器はみんなと同じだけど、演奏は人とは違って尖っている」(2)

 

ーBOBOさんがLM402から教わったものって何でしたか?

“これがドラムの音ですよ”っていうことを、僕に教えてくれた楽器ですね。​​​​​​​

ー2台目に購入したスネアが今だにメインで現役というドラマーって、けっこう珍しいと思います。​​​​​​​

そうですね、運が良かったんだと思います。だからこの記事を読んでいるドラマーで、何のスネアを買おうか迷っている人がいたら、LM402をオススメしますね。今の音楽シーンは、生のドラムよりも打ち込みのトラックが主流になってきているけど、それでも生ドラムの質感が必要とされるときに、402があれば損はしないと思います。そして、できるなら70年代のものがいいですね。美品は少し値が張るけど、何せ販売数が多いモデルだから、ちょっと見た目が悪いものとかだったら、かなりお値打ちに買えます。昔のモデルって塗装に水泡が入ってしまっていたりするやつもあるけど、音への影響は無いし、むしろボロボロでも大丈夫です。ときたま壊れることもあるけど、単純だからすぐに直せるし。放り投げでもしない限り、壊れないですね。​​​​​​​

 

「楽器はみんなと同じだけど、演奏は人とは違って尖っている」(3)

 


【Profile】
BOBO

1974年生まれ。1997年に54-71へと加入。バスドラム、スネア、ハイハットの3点のみから生み出すソリッドで硬質なビートに、不可解なベースのグルーヴ、アヴァンギャルドなギターとラップが一体となったサウンドは、アンダーグラウンド・シーンで熱狂的な支持を得た。2008年にスティーブ・アルビニのもとで録音した『I'm not fine, thank you. And you?』をリリースして以降、メンバーの多忙により活動を休止。その後はくるりやフジファブリック、MIYAVI、TK(凛として時雨)などのさまざまなアーティストのレコーディングやライブのサポートを務めている。

■Twitter
https://twitter.com/bobo_drums

■Instagram
https://www.instagram.com/bobo_drums/


Text:伊藤 大輔
Photo:堀田 芳香
Edit:仲田 舞衣

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