日々是鍛錬 ~私の練習遍歴:Yasei Collective編~

日々是鍛錬 ~私の練習遍歴:Yasei Collective編~
ジャズのカッティング・エッジな部分を体現しながら、インストであることの自由さとポップネスを表現する実力派バンド、Yasei Collective。聴きやすさを持ちながらも、彼らのサウンドが一筋縄にいかないのはその変則的なビートとグルーヴにある。結成当時から変拍子をはじめ黒人のリズムのとらえ方など、徹底してリズムにフォーカスした練習をしていたという彼ら。ここでは別所和洋(key)、中西道彦(b、synth)、松下マサナオ(ds)、斎藤拓郎(g、voc、synth)の全員を迎え、その独自のトレーニング方法について聞いた。

3拍子は昔からあるけど、5拍子と7拍子ってあまり認知されていない

─みなさんが一番楽器の練習をしていた時期はいつですか?

中西:
僕は高校の時ですね。学校が終わって家に帰ると4時ぐらいなんですけど、それからご飯の時間までずっとベース弾いて、食べたらまたずっとベース弾いてました。あの頃コピーしていた音源はCDの最初から最後まで全部弾けます。レッチリの『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』とか『ジャミロクワイ (Emergency On Planet Earth)』、ブランニュー・ヘヴィーズとかですね。
  • 別所:僕は大学の時に、就職活動の時期に音楽でやっていこうかなって思って、やっぱり練習しなきゃダメだなと。その頃は小曽根真さんのポップな曲をコピーをして、自分なりにどういう風に弾くかっていう練習をしていました。後はひたすら速弾きがどれだけできるようになるかとか。

    斎藤:僕は基礎練習が続かないタイプだったので、練習は演奏したいとか、コピーしたい曲がある時でした。当時よくやったのはジョー・パスの「Stella By Starlight」ですね。
  • マサナオ:僕はアメリカに留学していた頃かな。当時の1日の流れは、朝9時から学校で授業が終わるのが夕方4時。それから一回、家に帰って2~3時間仮眠をとって、夜7時ぐらいに学校戻って1回練習していると、ライブ見に行こうって誘われたりするので付き合ってから、夜中12時ぐらいに学校に戻って、そこからまた朝5~6時ぐらいまで練習して、仮眠して、また朝の授業に行くっていう流れでした。あの頃、練習していたフレーズは手グセとして今でも出てきます。

    ─結成当初に共通言語となる音楽やバンドはありましたか?

    マサナオ:
    ラダー(Rudder)とニーバディですね。今、ラダーはほとんど活動してませんが、ニーバディとは対バンしたこともあって。でも、最初は雲の上の存在で“ああなりたい”って存在でした。後はジェイソン・リンドナー(key)が率いる、ナウ・バーサス・ナウです。その3つのバンドと、ギタリストのウェイン・クランツが僕らの共通言語的な音楽です。

    ─では、その辺りの音楽に憧れがあり、バンドが始まったのですか?

    マサナオ:
    そうです。今言ったバンドの音楽に日本ならではのやり方を加えて、僕らの音楽をやろうと思いました。最初、Yaseiは3人編成だったのでギター・トリオみたいな感じで、ウェイン・クランツ色が強かったです。ロバート・グラスパーがまだ日本で人気がない頃に“ヴォコーダーかっこいい!”って思ったので、取り入れました。でも、ジャズっぽいことをやるのが3人だと難しくて、大学のジャズ研でやっていた別所を騙して(バンドに)入れようってことになって(笑)。それで2009年のあたまに別所が加入しました。

    3拍子は昔からあるけど、5拍子と7拍子ってあまり認知されていない(1)

    ─その頃はどんな練習をしていましたか?

    斎藤:
    マサナオ君に出会った頃に4拍5連のリズムを教えられたので、メトロノームを鳴らしながら4拍5連で弾く練習をしていました。リズムの練習が多かったですね。

    マサナオ:一時期、その練習を4人でやったりしてましたね。ソロ中にフレーズを作ったり、7拍のフレーズを全員が一緒にシンクロできるか、7拍子からどうやったらスムーズに4拍子に移行できるか、みたいなことをやってました。今でも僕は拍子を移行する練習をしていますね。

    ─では、リズム・トレーニングはYasei Collectiveにとっては大きな項目だったのでしょうか?

    中西:
    そうですね。その中でも特に5拍子と7拍子で演奏するトレーニングが大きいです。3拍子は昔からありますが、5拍子と7拍子ってあまり認知されていないんです。なので、そのリズム感に慣れたいと思って練習ばかりしていました。

    別所:僕がバンドに入った頃は、マサナオの家に2日間くらい泊まって、2人でずっとリズム・トレーニングの合宿をしていました。僕は後からバンドに入ったから、Yasei Collectiveのリズム感覚を共有しようという趣旨だったと思います。

    マサナオ:別所以外の3人は一緒に住んでたんですよ。

    ─3人で住みながら一緒にトレーニングをやっていたのですか?

    中西:
    はい、2日に1回くらいはリハーサルをしてました(笑)。家には電子ドラムが置いてあって……。

    マサナオ:リビングでみんなでヘッドホンをつけてやってましたね。

インドのカウンティングを真似して、身体にたたき込んだ

─初期のYasei Collectiveは意図的にテクニック的にも難しいことをやろうとしていたようですが、それはなぜですか?

マサナオ:
今思うと、意固地になっていた部分がありますね。僕はジャズメンにも負けたくないし、ロックの人にも認められたい欲求が強かった。でも、どうして難しい演奏がしたかったのか、あの時は分かっていなかったと思います。たぶんアメリカで植えつけられた“難しい音楽がカッコイイ”という価値観があったからかな。

─5拍子、7拍子以外にはどんな練習をしましたか?

マサナオ:
留学していたときの先生が変拍子オタクで、普段の授業では使わない資料を僕にくれたんです。Yasei Collectiveはその資料をもっとポップにして練習していました。そこに書かれた練習法でインドのカウンティング(リズムをカウントすること)を真似するものがあるんです。ワン・ツー・スリー・フォーって英語で言ってたら口が回らないんです(笑)。だから“タ・カ・ティ……タ・カ・ティ・カ”みたいな発音の仕方がローマ字で書いてあって。まずはそれを口で言えるようになることでスムーズに変拍子に入れるし、それを身体にたたき込むことでカウントしなくてもよくなるという……。

─そういうマサナオさんの変拍子の情熱に、みなさんは付いていったと……。

中西:
今のマサナオの説明を聞いていたら、勝手に体がリズムを取ってましたよ(笑)。慣れって、すごいなぁ。

─そういう変則的なリズムをちゃんと体得するまでに、どれぐらいの期間がありましたか?

斎藤:
僕が何も考えないで4拍5連ができるようになったのは2年ぐらいですね。それまではどこかでリズムが揺れている感覚が自分の中にありました。でも、2年くらいやっていたら自然と4拍5連ができるようになりました。

別所:単純な個人リズム練習って言うよりは、曲を演奏していく中で培っていくこともありました。難しい曲がまずあって、その曲を練習することで自分のなかで腑に落ちていく感じがします。

インドのカウンティングを真似して、身体にたたき込んだ(1)

─というと、自分たちができないことを曲に盛り込もうとしていた?

マサナオ:
それはあります。それを練習するために作った曲もたくさんあるんです。別所だけずっと16分の15拍子の曲で、その15拍を3拍子×5連符、5拍子×3連符で取るというのをずっとやってる間に、他の僕らはそれをさらに細かく割って全然違うことをやるという……もはや、ただの苦行ですね(笑)。

別所:やっぱり演奏しているのが人間だから、やってるうちにちょっとしたリズムのズレが出てくるんですけど、それに対して微調整しないといけないんです。

マサナオ:でも、調整したら“なんで微調整するんだよ!”って、僕らが言ったりして。僕らは別所の音に合わせないとできないから、“こっちに合わせるなよ!”ってことを言い合ったりして。

別所:それが理由でバンドを辞めるんですけどね(笑)。(※2018年のツアーをもって脱退を発表)

メンバー:脱退の理由は5連符(笑)。

グリッドに合わせたら、今度はズラす練習をしていた

─(笑)。では、個人でやる練習もメトロノームを使ったものが多かった?

斎藤:
そうですね。僕はほかにルーパーを使った練習もしていました。

マサナオ:僕は極力メトロノームを使わずに、その時に好きな曲を聴きながらドラムを叩く練習をしていました。ジャミロクワイとかサンダー・キャットみたいに、音がタイトでポップな曲は、基礎練習に使えるんです。スネアだけ叩いたり、ハットだけ叩く練習をするときにもテンポ感がすごくいいんですよね。

中西:僕は同じことを何回もやるのが得意で、ヘッドフォンでひたすら同じ曲を聴きながら、自分のベースを合わせる練習だけしていました。それもあってスピーカーで音を鳴らして練習したことが一切なかったんですよ。ヘッドフォンって音がすごく耳に近いから、今でも癖として残っているんですが、音が鳴った後に音を弾いちゃうんですよ。ずっとそれで練習してきたので、僕の音はちょっと重いんです。

グリッドに合わせたら、今度はズラす練習をしていた(1)

─ヘッドフォンで弾くと重くなるって、面白いですね。

マサナオ:
これはみんなでやっていた練習だけど今言ったポリリズム以外に、グリッドに対して全員がジャストにハメる練習をして、その後にそのグリッドよりも前後する練習をやっていました。ドラムならスネアだけちょっと早くなるとか、ベースが少し遅らせるといったような……そうすると4分音符が太くなるんですよね。

─つまり、グリッドをズラして演奏するということですね?

マサナオ:
そうです。その練習のおかげで、あるときからグリッドを自由自在にずらして演奏できるようになったんです。

─バンドの練習量はどのくらいだったのでしょうか?

マサナオ:
基本的には週1回で、レコーディングの前は週2回。僕たちは機材のセッティングに時間がかかるので、3日間とかスタジオをロックアウトして練習することもあります。それで2日目の朝だけ個人練習の時間をもらったりもしますね。

中西:週1回でも1日4時間とかじゃなくて8~10時間くらいはやります。

─では、ここ最近における、各々の個人練習はどんなことをしていますか?

マサナオ:
ある曲を演奏するために、出来ない技術があるとか、手が詰まっちゃったとかってことがあったら、その技術を身につけるために新しいプログラムを自分で作って練習します。それが出来るようになる頃には、自分の中に技術として入っているので、そうしたらその練習は終わりで、また次の新しいプログラムを作っています。そういう練習を15年ぐらいずっとやってますね。

別所:僕は練習よりも音を作ったり、曲を作ったりすることに時間を割いてますね。なので、最近は練習といったものをしていないです。

中西:僕にとっての最近の練習は、仕事でもらった曲をYasei Collective化しようかなってことかな。分からないようにYasei感を入れる練習(笑)。

やりたい音楽を表現するために必要なのが練習

─これまで話を聞いて、Yasei Collectiveは常に演奏表現を広げる練習を怠らずに行ってきたことが分かりました。そんな皆さんにとって、演奏技術とはどういうものでしょうか。

マサナオ:
技術とか基本的な演奏テクニックって、その人がやりたい演奏をするためのものだと思います。例えば僕ならヘヴィメタルはやらないから、早いツイン・ペダルが踏める必要はないし、自分のバンドやプロジェクトの中で、やりたい音楽を表現するために必要なのが練習。アフロ・キューバンの教本、ジャズの教本、ブラジリアンの教本……と、いろいろありますが、昔は教本に載っているすべてのテクニックを極めないと完全なドラマーなれないと思っていました。でも今は、苦手な部分があるほうが、ドラマーって絶対かっこいいと思いますね。

別所:やっぱり僕にとってテクニックは必要な物。テクニックって言うと、何だか情感がなくて、ひたすらに技術一辺倒みたいな感じに聞こえますけど、そこから生まれる美しさがあったりもしますから。Yasei Collectiveをやっていて思うのは、テクニックよりも暖かいとか質感とか、フィーリングが大事だよねって考える前に、ちゃんと技術を身につけるのも大事だと僕は思います。ジャズの考え方だと、年を重ねた味のある演奏がいいって意見もありますが、今それを目指しても仕方がない。だからこそ(演奏技術は)おざなりにしちゃいけないと思います。

斎藤:僕は基本的にマサナオ君と同じスタンスですね。自分がかっこいいと思うものを実現させるための要素と言うか。僕は練習もしてこなかったんで。

やりたい音楽を表現するために必要なのが練習(1)

メンバー:いや、すごいやってるよ!

マサナオ:練習してるって意識せずに楽器を弾いている人が大体上手い人だからね。拓郎は新しい音楽を探すのも練習の一環って感じ。

中西:分析をするのが僕の練習ですね。よくヘタウマって言いますけど、例えばJ ・ディラのビートも分解したら必ず物理的な要因があって、その時点でもうヘタじゃないんです。だからとにかく分析して、それを自分のものにして、いかに自分の音に説得力を持たせるかっていう。なぜならベースって、ドラムやウワモノの楽器と違って、注意しないと聞こえない楽器だから、なおさら人がどう感じるかってことを考えます。だからスネアがちょっと早いとか、ベースがちょっともたっているとか、音楽が構造的にどうなっているのかを分析したり。あとは、どうやって体を動かすと、そういう音になるのかみたいなことも考えています。人種が違うと筋肉の量も違うし、食べているものも違う……まぁ、いろいろと理屈をつけるのが好きなんですね。

マサナオ:育ちがいいからね(笑)。

中西:アメリカにいた時にマサナオに言われて、すごく気をつけていたことがあって。人って頭でリズムを取るときに、下で乗る人と上で乗る人に分けられて。それを考えると僕が好きな音を出している人は後者のタイプで、そういう人がリズムを刻む時に、どこの筋肉を使っているかを考えると、背中の筋肉や体幹を使っていると思うんです。それで4スタンス理論とか……そういう身体の使い方を調べたりもしてみました。

分析して意識的に動きを身につけていくしかない

─もしかしたら、これも関係しているんじゃないかって(笑)。

マサナオ:
今思えば、体の動きについての練習も全員でやってましたね。黒人の真似をしたりして。その頃、遠心力を使ってスティックを戻すっていう動きをやっていたんです。ほとんどのビートでそれを意識してやっているし、難しいことをしながら、その体の動きができるかをすごく練習して、それをバンドでもやりましたね。これはもう強制的に(笑)。だってその方がカッコイイから。

中西:だから今は上で乗るのと、下で乗るという両方ができます。これはすごく強いことですね。ルーズな音も出せるし、逆に上でリズムを取るとベースの場合、明らかに出音がタイトになるんです。

別所:慣れないと難しいよね。

マサナオ:全然違う動きになるから、最初は8ビートですら叩けない。でも、ある時期を境にこの動きにトライする人がけっこう出てきたんです。ちょうどスティーブ・ジョーダンが注目されていた頃ですよね。彼を研究して明らかに出音が変わったドラマーの方もいたりして。たぶん僕は体の動きを意識したと思っていて。なぜなら、日本人の文化の中に、あの動きはないと思うんですよ。

中西:僕は黒人でも白人でもないので、あの動きは血の中には無いんですよね。なので、それをどう練習して後付けできるかになってくる。それはもう、分析して意識的に動きを身につけていくしかないんです。

マサナオ:僕にとってのラテンの先生が“キミはアジア人だけど、どんな音楽でも猛練習したら絶対に現地人と同じようにできる!”って断言していて。でも、そのためには練習だけじゃなくて、その音楽の歴史も知らないといけないから時間はかかるもので。でも、それをやれば“全部キミの体に入るから”って、言うんです。僕はそういうものだと信じてやっていて。で、その先生が日本に来たとき会ったんですが、やっぱり同じことを生徒に教えていて。で、僕の演奏を聴いたときに“やっていて良かっただろ?”って言ってました(笑)。



【Profile】
Yasei Collective

Yasei Collective

2009年にアメリカより帰国した松下マサナオ、中西道彦、斎藤拓郎とともに結成。翌年に別所和洋が加入し、都内を中心にライブを活動をスタートさせる。2013年に彼らの影響源でもあるKneebodyを招き、共演ライブを実現。2014年には活動5周年となる『so far so good』をリリース、SPECIAL OTHERSやACIDMAN、在日ファンクホーンズなど、作品に参加したメンバーが集結したツアー・ファイナルを敢行した。2017年には世界的なドラマーであるマーク・ジュリアナを迎えたブルーノート公演を開催。今年の7月にリリースされた最新作『stateSment』をひっさげて、現在ツアー真っ最中だ。

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