人生を変えた楽器 ~ベーシスト洞口信也(クレイジーケンバンド)のフェンダーPrecision Bass~

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ミュージシャンには、人生を変えるような楽器との出会いがある。運命的な出会いや、楽器とともに切磋琢磨したストーリー…。このシリーズでは毎回、さまざまなミュージシャンを迎え、各々のキャリアにもっとも大きな影響を与えた楽器を紹介してもらう。

三回目のゲストは今年でデビュー20周年を迎えたクレイジーケンバンド(以下CKB)のベーシスト、洞口信也。“東洋一のサウンドマシーン”とも呼ばれるCKBの多彩な音楽を、長年にわたってグルーヴィーなベース・サウンドで支えてきた洞口にとって、バンドの黎明期から長年に渡って使い続けている1本がある。そのゴキゲンなベース・プレイの裏には、このベースとともに長年にわたってプレイ・スタイルを模索する姿も垣間見られた。

自分にとっていろんな意味でスタートの年に買った1本

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─今日持ってきてもらったベースは、いつ頃に入手したものですか?

このベースは、1995年に(横山)剣さんのソロ名義のアルバム『クレイジー・ケンズ・ワールド』が出たときなんですよ。
そもそも最初に買ったベースは高校の時で、グレコPB700なんだけど、やっぱりこれと同じ感じでサンバースト・カラーにアノダイズド・ピックガードが付いたやつ。なんでかなぁ、なんかこういうベースが好きだったんだと思う。この頃はハードロックを聞いていて、リッチー・ブラックモアかぶれの先輩たちとディープ・パープルやUFOとかをやってたよ。ジャズ・ベースよりもプレシジョン・ベースのシェイプの方が好きだったね。ヴァン・ヘイレンのマイケル・アンソニーも最初はプレべだったし。その後、1962年のオールドのプレベと、パッシブだけどスイッチが付いてるフェンダー・プレシジョン・プラスを2本持ってたんだよね。

剣さんとは1990年くらいにやりだしたんだけど、そのときにジェームス・ブラウンのバンドのThe Soul G'sが演奏している時代の曲をコピーしたの。そこのベーシスト、ジミー・リー・ムーアがアノダイズドのピックガードが付いたサンバーストのプレシジョン・ベースをゴリゴリ弾いてて“これだ!”って思っちゃったわけ。それでまず、1991年にフェンダーのツートーン・サンバーストを新品で買って、1995年にもう一本、サブで買っておこうと思って購入したこれだったんです。

この年は、イクラさんとも一緒にやり始めたり、結婚して子供が生まれたりと、いっぱいいろんなことが起きたたいへんな年だった。30才で親元を離れて結婚し、パパ、プロのレコーディングを始める! と、1995年は自分にとっていろんな意味でスタートの年だったの。アフロのパーマをかけて黒人になりきるんだっていうときに、新品で買った思い出深いベースで、クレイジーケンバンドのファースト・アルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』も、このベースで録っていますね。

─最初にこのベースを楽器店で買ったときのことは覚えていますか?

うん、確か御茶ノ水の楽器屋だったね。あの頃は金もなかったけど、楽器に関しては迷わず同じものを買ったね。これは最初サブとして買ったんだけど、同じ色でもつまんないと思って、イメージしたのがジェームス・ジェマーソン。なんでかっていうと、ジェマーソンは1962年のサンバーストのほうが有名なんだけど、実はブラックビューティってあだ名を付けたアノダイズド・ピックガードの黒いベースも持ってたんだよね。まあ、見た目的に選んだわけ。買ったときは黒だったけど、3年くらい前にキャンディ・アップルレッドに塗り替えたよ。ステージで汗をかくと黒い塗装がね、青くなってくんの。乾くと戻るんだけどね。一回、野外ステージの土砂降りの中で使ってびしゃびしゃになっちゃったこともあってさ。
もともとマディ・ウォータースのフェンダー・テレキャスターの赤が好きでね。それはダコタレッドと言って、ラメ成分が入ってないんだけど、フリーダムカスタムギターリサーチでダコタレッドのベースを持っているから、これはラメが入ってるキャンディ・アップルに塗装し直したんです。

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─このベースはプロのベーシストとして自分のスタイルを確立したいと思った節目の年に手に入れたのですね。

そう、ドナルド・ダック・ダンが自分のアイドルだから、そういう風に弾けたらっていうイメージを持っていたね。このベースを持って立ってるだけで、そういう気分になれたから。(ダック・ダンも出演する映画『ブルース・ブラザーズ』みたいに)煙草のパイプも買ったし、アフロ・パーマもかけたし。ジャズ・ベースを持っている場合じゃないっていうか、当時はプレベ以外にありえなかった。今となってはそういう自分の思い込みはあまりなくて、剣さんが“イイネ!”っていう音がするベースを使いたいと思っている。それに、レコーディングも何回もやり直していると、みんなが求めている音がわかるし、よくよく考えるとそこに合わせることが一番いいんだよね。

 

「楽器は自分で育てるっていう方が好き」

─最近はレイクランドのベースをメインに使っていますが、最新アルバム『GOING TO A GO-GO』でも、このプレシジョン・ベースは使ったりしていますか?

うん、今回のアルバムのレコーディングは最初にこれで録っていたんです。プレべが3本、ジャズベ2本が並んでる中から、ドラムに対する組み合わせに合わせて弾いてて、その中でたまたまこのプレべが(剣さんは)いいなって思ったんだね。だけど、今回のアルバムは剣さんがベースの音にすごくこだわっていて、やっぱり「Shock HAWAIIAN Shock」(『GALAXY』に収録)の音がいいねってことになって、その曲で使っていたレイクランドは(倉庫に)眠ってて、最近は使っていなかったけど、急いで引っ張り出してきて弾いてみたら、剣さんに「全部これにしてくれ」って言われて。ジャズ・ベースでピック弾きした曲はOKだったけど、プレべで指弾きした曲は全部レイクランドで弾き直した。でも、「オハヨウゴザイマス」だけはレイクランドじゃなくて、このプレベの音が残ったんだ。この曲だけすでにプレベで録った音源をアンペグのアンプヘッドに通して再録音したの。剣さんはベース・サウンドにパンチが欲しかったんだけど、リアンプすることで求めていた音が出たみたいだね。だから『GOING TO A GO-GO』の制作には時間もかかったよ。

 

─今回のツアーでは、そのレイクランドをメイン・ベースとして使っているそうですが、ライブでこの赤いプレシジョン・ベースを使っていた時期もありますか?

あるある。それこそ90年代はずっとメインで使っていたよ。そのあともなんだかんだでレコーディングでも使っているね。

─先ほど話にも登場したオールドのプレベはあまり使っていなかったのですか?

若いころは使っていたよ。さっき言った1962年のサンバーストのプレベは、塗装がかなり剥げててケースも付いてなかったけど、信じられないくらい安かった。確か18万くらいで音もよかった。でも、廣石(恵一)さんの後輩のベーシストに売っちゃった。

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─その後、オールドのベースはあまり買ってないんですね。

そうねぇ。楽器は自分で育てるっていう方が好きで。ビンテージならいいんだけど、最初から傷があるという佇まいはそんなに好きじゃないんだよね。特に新品でレリック加工っていうのがあるけど、あの感覚が分からない。それよりも自分で汚したいし、そういう傷も自分のメモリーじゃない!? ただ、今からああいう風格のルックスに育てあげるってなると、その頃には俺、死んじゃうんだけどね(笑)。

2007~8年くらいに一回煮詰まったことがあって、いろんなベースをたくさん買ったときもあったんだ。ギブソンのリッパーベースも2本目を買ったり、ミュージックマン・スティングレイやジャズベも買った。その時期を乗り越えて、やっぱりプレベに落ち着いたね。でも、ジャズベを使っていた時代もけっこうあったんだ。(剣さんから)「ベースのラインをもっと見せて欲しい」ってリクエストがあって、フェンダーのカスタムショップやフリーダムカスタムギターリサーチとか、あと、76年のオールドのジャズベも買ったよ。形はやっぱりフェンダーが好きだけど、最近はそんなにこだわらなくなってきたかな。

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「プレシジョンで芯のある音を出すことをずっと追求している」

─このベースはもう、23年間にわたって育ててきたことになりますね。

うん、剣さんと一緒にやりだして、『よしやろう』って思ったのがこのベースで、サブで買ったんだけど、いつの間にかメインになっていく。親指を置くところが削れているでしょ!? それぐらい使い込んだってことなんだよね。スモーキーテツニとYG’Sってバンドでダック・ダンのコスプレしたりして、自分の中でスタックスやブルース・ブラザーズみたいな演奏を、一生懸命自分のなかに取り入れようとした時からの相棒って感じだね。やっぱりそのへんは自分のルーツだからさ。

これまでプレシジョンで芯のある音を出すことをずっと追求していて。ジャズ・ベースじゃなくて、指弾きのプレシジョン・ベースで“ゴリン”とした感じで、ラインをバキバキと見せていくっていうのはイカしてるし、魅力を感じるね。低音が出すぎて“モーモー”しちゃって何弾いてるかわかんないとか、そういう時期もあったけど、あれは嫌だったねぇ。それでいろんなベースを買って試したりとか、ミキサーの人と試行錯誤したりとかもしたよ。フィンガー・ノイズが気になるって言われてデリケートに弾こうとしたり、その逆にフラットワウンド弦を張って思いっきり弾いた時期もあった。そのときはうまくできたと思っていたんだけど、今度は剣さんがミックスで頭抱えちゃって、しまいには「ガーちゃん(新宮虎児)がベースを弾いて、信也はギターがうまいから代わって」って言われたこともあってさ、ショックだったよ。

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─それ、半分クビってことですよね?

そういうことですよ! なんだかんだでやっぱり、できなかったらクビだよね。できない人は必要ないし、放課後に集まって趣味でやってるわけじゃないんだから。その時は、すぐにその曲をいろんなベースで弾いて剣さんに音源を送ったよ。バンド仲間も助けてくれたし、同じ失敗はしないように一つずつ乗り越えた経験があって、今の音にたどり着いたってのはあるね。

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─ところで、洞口さんはいい音がする典型のベーシストというか、体格というか、そのふくよかな太鼓腹も持ち味だと思うのですが、ベースのサウンドと体型は関係あると思いますか? お腹に反響して、音が太くて温かみが出るとか……。 

やっぱり大きい腹の人がウッド・ベース弾くのと、薄っぺらい人がウッド・ベースを弾くのは生音が違うよ。だからエレキでも変わるだろうね。浮かして弾くより、腹にのっけて弾く方がいいね。でも、もうちょっと痩せた方が音は冴えるんじゃないかなあ。そんなに痩せなくてもいいんだけど、もう少し絞って鍛えた方がいい気もする。だから、これ以上は太らないように気をつけようって思うんだけどね(笑)。

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【Profile】
洞口信也
1964年生まれのベーシスト。クレイジーケンバンドのメンバーとして初期から活動。

●Instagram
https://www.instagram.com/horahorashin/

クレイジーケンバンド
1997年にcrazyken(横山剣)を中心に結成されたバンド。横浜・本牧を拠点に活動。コンポーザーcrazykenの下、ロック、ソウル、ファンク、歌謡曲など、雑食性のあるサウンドを展開する。98年に1stアルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』でデビュー。2002年に発表した「タイガー&ドラゴン」が2005年にドラマ主題歌に起用され、さらに知名度を高めた。同年発表のアルバム『Soul Punch』は初のチャート・トップ10入りを記録。以後、老若男女を問わない幅広い層からの人気を獲得。2014年9月、アルバム『Spark Plug』をリリース。

【LIVE TOUR】

◆CRAZY KEN BAND TOUR 2018
GOING TO A GO-GO
Presented by NISHIHARA SHOKAI

11月1日(木) 山口・防府市公会堂
11月2日(金) 鹿児島・鹿児島市民文化ホール第2
11月9日(金) 愛知・幸田町民会館
11月10日(土) 東京・中野サンプラザ
11月15日(木) 富山・富山県教育文化会館
11月17日(土) 石川・北國新聞赤羽ホール
11月23日(祝・金) 兵庫・神戸国際会館こくさいホール
11月25日(日) 沖縄・ナムラホール(ライブハウス)

◆クレイジーケンバンドCLASSIX
FRIDAY定例ライヴ

11月20日(火)神奈川・横浜長者町FRIDAY 
※クレイジーケンバンドCLASSIX(6人編成)でのLIVE

◆CRAZY KEN BAND TOUR 2019
GOING TO A GO-GO
Presented by NISHIHARA SHOKAI
2019年追加公演

2月11日(祝・月) 栃木・栃木文化会館大ホール
2月16日(土) 神奈川・厚木市文化会館大ホール
2月22日(金) 埼玉・川口総合文化センターリリアメインホール
3月2日(土) 愛知・アイプラザ豊橋
3月4日(月) 江戸川区総合文化センター大ホール

※一般発売日:11月25日(日)より

ほかディナーショーのスケジュールなど、詳細は↓をチェック!
https://finn-asp.jp/user.cgi?actmode=AblogArticleList&blogid=168

 

Photo&Text:堀田 芳香
Edit:伊藤 大輔/仲田 舞衣

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