101年目のジャズ vol.9 ~ライブ音源で想いを馳せる ムーン・ソング~

101年目のジャズ vol.9 ~ライブ音源で想いを馳せる ムーン・ソング~
「101年目のジャズ」、またお会い出来ました。ところで先日、月の周りを飛行する宇宙旅行の世界初となる民間人の乗客が発表されました。それがなんと日本人! ということもあり、大きな話題を呼んでいます。SF映画の話ではなく、リアルなニュースなんですものね、たまげるなあ。こうなると近い将来“アタシ、夏休みは家族で宇宙旅行をするの”“僕は中学の修学旅行で火星の近くまで行ったよ!”そんな会話が日常的に交わされる日がやって来るのかもしれません。月ではウサギが餅をついていると思っていた子供時代が懐かしい。前振りがまたもや長くなってしまいました。そう、今月は月がテーマです。「ライブ音源で想いを馳せる~ムーン・ソング」と題してお届けします。

#1. Glenn Miller - Moonlight Serenade/Running Wild

オープニングは「ムーンライト・セレナーデ」です。1904年生まれのトロンボーン奏者、グレン・ミラーが作曲したナンバーで、彼が率いるビッグバンドのテーマ曲としても知られています。このバンドは「イン・ザ・ムード」「茶色の小瓶」「チャタ・ヌーガ・チュー・チュー」など、多くのヒット曲を生み出しましたが、グレン・ミラー自身の活動期間はとても短いんですよ。というのも、第2次世界大戦中、彼は精力的に慰問演奏を行なっていて、その移動のために乗った専用機が1944年12月15日に消息を絶ってしまったからです。当時40歳の彼は何処へ……。では、お聴きください。1939年10月6日にカーネギー・ホールで行なわれたコンサートから「ムーンライト・セレナーデ」そして「ランニング・ワイルド」と続きます。

#2. Chicago ‐ Moonlight Serenade

ライブ音源ではないですが、どうしても紹介したい「ムーンライト・セレナーデ」があります。それは「長い夜」や「素直になれなくて」などのヒットで知られるブラス・ロック・バンド、シカゴのバージョン。アルバム『ナイト・アンド・デイ~ビッグ・バンド』が発表された1995年、初めて聴いた時は“wow!”と仰け反りました。衝撃だったなあ。ご存じの方も改めて聴いてみて。

#3. Chet Baker ‐ Moonlight In Vermont

お次は「ヴァーモントの月」です。この曲も多くのジャズ・ミュージシャンが取り上げています。今回はチェット・ベイカーのライブ音源にしました。1929年生まれの彼はトランペット奏者&ボーカリストで、代表作は「マイ・ファニー・バレンタイン」が収録されたアルバム『チェット・ベイカー・シングス』です。この作品を録音した1954年、彼はLAにあるティファニー・クラブでライブをしています。そこで演奏した一曲が「ヴァーモントの月」。ゆったりとした気分でお楽しみください。

#4. Wild Bill Davis & Johnny Hodges - It's Only a Paper Moon

作曲家のハロルド・アーレンが「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」を発表したのは1933年です。作詞はエドガー・イップ・ハーバーグとビリー・ロウズが手掛けました。この曲でまず思い出すのはナット・キング・コールが歌ったバージョンかな。ライアン・オニールとテイタム・オニールが共演したロード・ムービー『ペーパー・ムーン』(1973年公開)ではポール・ホワイトマン・オーケストラの演奏が劇中で流れていたはず。そして、ポールといえばポール・マッカートニー! 彼が2012年にリリースしたアルバム『キッス・オン・ザ・ボトム』でも取り上げていました。とにかく、本当に多くのアーティストがカバーしている「イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン」、今回はサックス奏者、ジョニー・ホッジスとオルガン奏者、ワイルド・ビル・デイヴィスの共演ライブからお聴きください。トロンボーンはローレンス・ブラウンです。

#5. Gerry Mulligan - Polka Dots And Moon Beams

バリトン・サックス奏者、ジェリー・マリガンに惹かれたのは彼の代表作『ナイト・ライツ』(1963年録音)がきっかけでした。アルバム・タイトルそのままに、夜、しっとりと聴きたくなるサウンドで、今も愛聴盤です。そのマリガンが1954年にカリフォルニアの高校で行なったコンサートで「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス」を披露していて、これが夜の静寂(しじま)に溶けてしまいそうな温もりあるサウンドなんですよ。トロンボーン奏者として名高いボブ・ブルックマイヤーがここではピアノを弾いています。

#6. Sarah Vaughan - Fly Me To The Moon

「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は1954年に発表された時、「イン・アザー・ワーズ」というタイトルでした。“つまりね”という意味で、何度も歌詞に出てきます。ムーディなワルツ・バラードが人気曲になったのは1962年、ジョー・ハーネル(p)のボサ・ノバ・アレンジが発表されてから。その時、タイトルも「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」にチェンジ。曲の新たな表情が見えたことで多くの人の愛唱歌になりました。スタンダード・ソングに歴史あり、ですね。たくさんの名唱&名演の中から、ここでは20世紀を代表する女性ジャズ・ボーカリスト、サラ・ヴォーンのパフォーマンスをどうぞ。1963年、デンマーク・コペンハーゲンのチボリ・ガーデンで行ったコンサートの録音トラックです。

#7. Frank Sinatra ‐ Fly Me To The Moon

「ムーン・リバー」「オールド・デビル・ムーン」など月に因んだスタンダード・ソングはまだまだありますが、ラストも「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」にしました。というのも、フランク・シナトラのバージョンで締め括りたかったからです。彼がこの曲をアルバム『It Might as Well Be Swing』(1964年)に収録し大ヒットさせたことで、「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」は世界的なポピュラー・ソングになりました。しかも、そのトラックはなんとアポロ10号、11号にも積み込まれ、人類が初めて月に持ち込んだ曲として記録されることになったのです。そのスタジオ盤と同様にカウント・ベイシー楽団と共演したライブ・バージョンで今回は締め括りたいと思います。1966年録音、指揮&編曲はクインシー・ジョーンズです!

  • ところで、月を見るとなぜ感傷的になるのでしょう? ロマンティック・ムードが高まるのでしょう? お月さまは隠れた自分を映し出す鏡なのかもしれません。今夜の月はアナタのどんな部分を引き出すのか、その時、聴きたくなる曲は何かしら。ご紹介したトラックでフィットする音源がありますように。では、また来月最終金曜日10月26日にお会いしましょう。

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