百歌繚乱・五里夢中 第12回「ナイス♪変拍子 10選」

百歌繚乱・五里夢中 第12回「ナイス♪変拍子 10選」
前回の「2拍3連」に続いて、今回も、音楽における”リズム”の妙味について、重箱の隅をつつきつつ、思いを巡らしてみたいと思います。今回は「変拍子」について、です。

「変拍子」とは何か?

“変な拍子”とは、ずいぶんな言い草ですが、”変則的な”拍子ってことですね。
じゃあ変則でない、正則な(あまり使わない言葉だけど)拍子とは何かというと、2、3、4拍子。あ、8分の6拍子も、4分の3拍子を倍にしただけなので、正則です。それ以外は全部変則(1拍子はよく分かりません。例外)ってことになります。
誰が決めたってわけじゃなくて、人の感覚に自然に感じられるかどうか、というところがその境界線のようです。
2拍子は、人が2足歩行だから、4拍子は馬が四つ足だから、自然に感じるんだそうですね。
3拍子は揺れからくるのかも。つまり”キコカコ”(4拍子)が、”キッコカッコ”となって、”ツ”の位置が真ん中にくると、3拍子ですよね。
それらに対して、5拍子とか7拍子って、自然界にありません。たぶん。
ということで、人が無意識に音楽を作ると、ほぼ2、3、4拍子のどれかになります。
てことは、変拍子ってのは、”意識的”に作ろうとしないと、出てこないのです。いや、作る過程で、たまたま変拍子になってしまった、ということはあるかもしれませんが、少なくとも、それに気づかずに発表している人はいないと思います。……でも、ジョン・レノンは気づいてないかもなー。
ともかく、変拍子には、面白い音楽、新しい音楽を作ろうとする、音楽家の飽くなきクリエイティビティが詰め込まれているわけで、そんな変拍子を、私は愛してやまないのです。

ナイスな変拍子たち

  • #1:The Dave Brubeck Quartet「Take Five」(シングル:1959年9月21日発売/from アルバム『Time Out』:1959年12月14日発売)
    • Take Five/The Dave Brubeck Quartet

      シングル

      205

      Take Five
      The Dave Brubeck Quartet
  • いきなり古い曲で恐縮ですが、世界一有名な4分の5拍子曲ですから、取り上げないわけにはいきません。タイトルも直球で、いいですね。世界で初めて5拍子を取り入れた曲ではないけれど、初めてヒットした変拍子の曲です。メロディとリズムが、実にクールで流麗、変拍子をここまで”変”じゃなく聴かせるこんな境地が、既に50年代に存在したなんて、やはりジャズはすごい。
    ブルーベック・カルテットが中東ツアーを行った際、トルコでたまたま、民族音楽を演奏するストリート・ミュージシャンを見かけ、それが、おそらくブルガリア音楽の影響を受けた8分の9拍子だったそうで、これにインスパイアされて4分の5拍子に挑戦したといいます。だけど、あくまで実験のつもりで、本人たちもまったく売れるとは思っていなかったし、実際発売後長らく売れなかったのですが、2年後にシングルを再発すると火がつき、やがて世界的なヒットとなりました。
    作曲者はカルテットのサックス・プレイヤーだったポール・デスモンド(Paul Desmond)ですが、1977年の死去に際し、この曲の著作権(演奏権)を「アメリカ赤十字」に譲渡しました。おかげでそれ以降ずっと、「アメリカ赤十字」は、年に約10万ドルの印税収入を得ているそうです。


    #2:Sting「Seven Days」(シングル:1993年4月1日/from 5th アルバム『Ten Summoner's Tales』:1993年3月9日発売)
  • タイトルは「7日」ですが、この曲も全編4分の5拍子です。「Take Five」やこの曲を聴いていると、5拍子がかなり自然に感じられてきませんか。
    この曲は、アルバムからの第3弾としてシングル・カットされているし、このアルバムには他にも、全編4分の7拍子の「Saint Augustine In Hell」、部分的に7拍子の「Love Is Stronger Than Justice」という変拍子曲が収録されています。スティングは変拍子好きなのかも。
    このアルバムは、「Lake House」と呼ばれる、16世紀に建てられたイングランド貴族の屋敷でレコーディングされたのですが(スティングが購入したそうです。さすが金持ち~)、そこでの演奏の模様を収録した映像が、グラミー賞で「最優秀ミュージックビデオ賞」を獲得しています。凄腕ドラマー、ヴィニー・カリウタ(Vinnie Colaiuta)のアップから始まるこの曲のミュージックビデオは、さすがに美しい透明感のある映像で、ミュージシャンたちの気合や、ひんやりとした空気まで、見えてくるような気がします。


    #3:Pink Floyd「Money」(シングル:1973年5月7日発売/from 8th アルバム『The Dark Side Of the Moon(狂気)』:1973年3月1日発売)
    • Money/Pink Floyd

      シングル

      257

      Money
      Pink Floyd
  • 途中のギター・ソロ部分とエンディングはふつうに4分の4拍子ですが、他はすべて4分の7拍子。
    レジを打つ音やチンと鳴る音、コインのチャリン、紙を破る音などを組み合わせ、それが7拍子のリズムを刻んで、曲が始まります。そのリズムに、プレイヤーたちは、最初は合わせているんだけど、だんだん少しだけ、テンポが上がります。いわゆる”走る”ってヤツですね。つまり、SEシーケンスを最初のほうだけ聞いているだけで、テンポ・キープのためのリズム・ボックスも使っていないマニュアル演奏ってことです。当時は当たり前なんですが、今では絶滅危惧種となりました。
    英国出身の彼らにして、初の全米1位アルバムとなり、「Billboard 200」チャートに、なんと741週!ランクインし続けたという、超ロング・セールス記録を打ち立てました。1988年まで5年間、ずっとチャートに載っていたということになります。
    こんな、踊ろうとすると足を挫きそうになる、7拍子の曲をフィーチャーしたアルバムが、ひねくれた音楽を好まない(解らない?)アメリカ人に、そんなに受けたという事実が、ちょっと驚きです。


    #4:The Allman Brothers Band「Black Hearted Woman(腹黒い女)」(from 1st アルバム『THE ALLMAN BROTHERS BAND』:1969年11月4日発売)
  • 以前、「ナイス・イントロ/その他編」でも取り上げたのですが、改めて。
    イントロがいきなり8分の7拍子。ツイン・ギターによるフレーズをメインに8小節
    、そこからスッと4分の4に変わります。同じような”再イントロ”が後半にもリプライズ。
    “オールマン・ブラザーズ・バンド”は、ブルース・ロックのベースに、ギターのディッキー・ベッツ(Dickey Betts)のカントリー・テイストが加味されるという、基本、オーソドックスな音楽性を持つバンドなのですが、アレンジには割と凝るほうで、他にも「Whipping Post」という、イントロが4分の11拍子の曲があったりします(全体4分の3拍子なんで、イントロは4分の3×3+4分の2、という解釈もできますが…)。ブルース・フィーリングと変拍子のマッチングが、今もって新鮮に感じます。
    ちなみに、この「Black Hearted Woman」、私がドラムを叩いているおやじバンド”This Old Heart of Mine”のレパートリーの1曲なのですが、7拍子をノリよく叩くのは、ほんとに難しいです。


    #5:Jeff Beck Group「Situation」(from アルバム『Rough and Ready』:1971年10月発売)
    • Situation/Jeff Beck Group

      シングル

      205

      Situation
      Jeff Beck Group
  • “同じバンドではアルバム2枚まで”&”バンド名は考えない”で有名なジェフ・ベックですが、これは、1971年5月に結成した、”第2期”とされる”ジェフ・ベック・グループ”の1st アルバムから。
    この曲も、「ナイス・イントロ/その他編」でご紹介済みですが、イントロが変拍子で始まります。イントロと、ギター・ソロの間奏後に登場する”再イントロ”(ロックの”定石”ですね)のみ、8分の7拍子×2小節のフレーズが入ってきて、それ以外はすべて4分の4拍子。
    初めて聴くときはアレッとなりますよね。で、ふつうになって安心してノッていたら、ほとぼり冷めた頃にまたアラッとなって、気を引き締め直す。変拍子のうまい使い方だと思います。
    7拍子フレーズ直後に、”チィ・チィ・チィ”とハイハットで畳み掛けるカタチもいい。ドラマーはコージー・パウエル(Cozy Powell)で、その後ハード&ヘヴィ・ロックで名を馳せる人ですが、私はこの曲での、不思議なほど軽やかなドラミングが大好きです。
    この印象的なイントロを、”ダウン・タウン・ブギウギ・バンド”が昔、「スモーキン・ブギ」が流行りだした頃に、ライブで演奏するのを目撃したことがあります。てっきり「Situation」をやるのだと思っていたら、歌に入ると、”これこれ、石の地蔵さん~”と、美空ひばりの「花笠道中」になりました。やるなー、と思いましたね。


    #6:Jeff Beck「Scatterbrain」(from 2nd ソロ・アルバム『Blow by Blow』:1975年3月29日発売)
  • バンドに向いてない自分にやっと気づいた?ベックさんの(1968年の『Truth』が”Jeff Beck Group”ではなくソロ名義なので、それ以来の)ソロ・アルバムからも1曲。
    前年に”マハビシュヌ・オーケストラ”をプロデュースしたジョージ・マーティン(George Martin)に、自分もああいうのがやりたい、とプロデュースを依頼、うまくはまって、全米アルバム・チャート4位と、自己最高位を記録したアルバムができました。中で最もヤバい曲がこれ。
    ドラム(by Richard Bailey)で始まるのですが、それがいきなり、8分の9拍子を叩いている!そこに16分でウニウニいうフレーズが乗っかり、少しずつ音階が上昇しながら、怒涛のように進んで10小節。そこで一旦8分の3×4の打ち放しが入って、もう一度それを繰り返す、それがテーマ。テーマ以外は4拍子となって、ちょっとホッとしつつ、奔放なソロ・タイム。エレピのソロの途中から登場し始めるストリングスが、さすがジョージ・マーティン、と拍手をしたくなる華麗さで、この曲を大きくスケールアップします。やがて後半のテーマに突入すると、ウニウニ・フレーズにストリングスも加わってもう嵐のような騒ぎに。まさに、脳がscatteringです。
    ベックさん、次のアルバム『Wired』にも「Led Boots」という変拍子名曲がありますね。


    #7:矢野顕子「丘を越えて」(from 1st アルバム『Japanese Girl』:1976年7月25日発売)
  • ※アルバム『JAPANESE GIRL - Piano Solo Live 2008 -』に収録のピアノソロライブ音源です。


    古賀政男さんがマンドリンの合奏に作曲したものに、島田芳文さんが歌詞をつけ、藤山一郎さんが唄って、1931年に大ヒットした作品を、矢野顕子さんがデビュー・アルバムでカバーしました。
    歌が始まって4小節目、一番の歌詞で言うと、「空は朗らかに」というところなんですが、その小節だけが8分の7拍子になっています。8分の3×2+8分の1と考えてもいいと思います。急にワルツになって、でももう8分音符余計にあるというカタチ。
    で、何事もなかったように、また曲は進んでいくのですが、たとえると、階段を昇っていると、一段だけちょっと段差が低いのがあって、アレッ?とつんのめってしまう感じ。面白いアレンジだと思います。
    演奏は”ムーンライダーズ”と言うか”はちみつぱい”の面々。あがた森魚さんが二番を唄っています。
    伝統歌謡をこんなふうにおしゃれにカバーする試み、もっとあっていいと思うな。


    #8:イエロー・マジック・オーケストラ「Day Tripper」(from 2nd アルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』:1979年9月25日発売)
    • DAY TRIPPER/YELLOW MAGIC ORCHESTRA

      シングル

      257

      DAY TRIPPER
      YELLOW MAGIC ORCHESTRA
  • 原曲にはなかった変拍子で、一味添えているカバーものをもう1曲。
    まず、イントロの最後の小節が4分の5拍子、つまり1拍増えています。その後、いきなりサビ歌になるんですが、4拍子って2拍・4拍にスネアがくるのでそこが強拍、1・3は弱拍で感じていますから、1拍余計なので、そこから強拍と弱拍が入れ替わったような、つまりリズムが裏返ったような違和感が生まれます。それが狙い。同じことが他のサビ前にもあるのと、再イントロの2小節目=Aメロ前は、4分の5である上に、2拍裏から付点8分のリズムでアクセントが4つ来るので、オヨヨ!となってしまいます。これは最後のほうにももう一度ある。
    文字にしていると、ワケわからなくなってきますね。「百読は一聴に如かず」です。ぜひ聴いてください。
    ギターを弾いているのは鮎川誠さんです。レコーディングの際、この変拍子のところでリズムがよく判らなくなってしまうんだけど、判っているような涼しい顔をして、弾ききったそうです。


    #9:The Beatles「Martha My Dear」(from 9th アルバム『The Beatles (White Album)』:1968年11月22日発売)
    ※現在取り扱いがございません。
  • 「Day Tripper」は変拍子じゃないけど、ビートルズにも変拍子曲はいろいろあります。「All You Need Is Love」とか、「Good Morning Good morning」、「She Said She Said」など。でも彼らの場合は、アレンジの面白さを狙ったものではなくて、メロディの流れ上、結果的に変拍子になっていた、という場合がほとんどだと思います。そして、メロディが強いので、妙な違和感は感じさせません。
    この「Martha My Dear」もイントロ、そして歌の最初の小節を4分の5拍子と考えないと、1拍余ってしまうのです。Cメロの「Take a good look around you…」のところは1つ目の小節を4分の2か、次の小節と合わせて4分の6拍子と考えないとリズム的に辻褄が合いません。
    だけど、「あ、変拍子だ」などとはまったく意識しません。
    コード理論のことはよく解らないのだけれど、転調もしているし、サウンドも、いわゆるバンド・サウンドからは程遠く、ピアノの芯をストリングスとブラスが彩るかたち。
    いろんな面で、常識からは自由に振る舞いながら、なお、一度聴いただけで身体にすっと馴染んでしまうポップさと、何度聴いても飽きないクオリティの高さを、兼ね備える作品を生み出してしまう、彼ら、この場合はほぼポール・マッカートニー個人ですが、その創造力は、ほんとに人類の宝物だと思います。


    #10:Led Zeppelin「Black Dog」(シングル(US):1971年12月2日発売/from 4th アルバム『IV』:1971年11月8日発売)
  • これは変拍子と言うよりも、”ポリリズム”かな。それもえらくややこしいポリリズム。「Oh Yeah」の前のブリッジ部分、ドラムは4分の4拍子で進んでいくんですが、そこにギターとベースがユニゾンで、8分の9拍子のフレーズで乗っかってくる。当然だんだんずれて来るんですが、8小節目の3拍裏で辻褄を合わせて、次の「Oh Yeah」パートになだれ込みます。
    細かく聴いていると、頭が変になってきますが、気にせず、身を任せていると、そのリズムのねじれが楽しくて快感です。でもこれを演奏するのはたいへんだろうな。私のおやじバンドでは、一度も演ったことはありません。
    ツェッペリンがすごいのは、ビートルズとは逆に、シンプルでハードなロックバンド・スタイルを崩さず、脳よりも筋肉重視なそぶりで、実はとてつもなく難しいことを、さらりとやってしまうところですね。


    以上、”ナイス♪変拍子”な10曲でしたー。
    冒頭で、”変”な拍子とはずいぶんだ、と言いましたが、考えてみると、音楽用語で”変”は”フラット=半音下”の意味で使われていますね。変ロ長調、とか。これこそ変だよね。さらに”シャープ=半音上”は”嬰”。”嬰児”の”えい”。はぁ?学校で頭ごなしに教わったけど、なんで”変”と”嬰”なのか?ネットで探ってみたら、雅楽で使っていたらしいけど、じゃあなぜ雅楽でその漢字を選んだのかまでは分かりません……誰か教えて。

    いやぁ、それにしても、音楽ってちっとも飽きないですねー♪


    Text:福岡 智彦

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