まつりの作り方 第6回「吉原寺音祭」(静岡県富士市)

「まつりの作り方」第5回「吉原寺音祭」(静岡県富士市)
© ケイコ・K・オオイシ

野外レイブ~フェスが定着して以降、さまざまな場所がイベントスペースとして「発見」されるようになりました。本連載で取り上げているように盆踊りや祭りの会場がフェス以降の視点で捉え直されることもあれば、廃墟や廃校、工場など、通常であれば祝祭とは無縁とされる場所でパーティーやフェスが行われることも珍しくありません。

そうしたなかで祝祭空間としての可能性に今あらためて注目が集まっているのが、日本各地のお寺です。近年日本各地でさまざまな「寺フェス」が開催されており、なかには野外フェスなみの動員を誇るものも。その背景にあるものを探るべく、静岡県富士市で開催されているとある祭りを取材しました。

「お寺の敷居を下げることも大切」

「お寺の敷居を下げることも大切」(1)
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静岡県富士市の古刹、吉原山妙祥寺。1323年に創建されたこのお寺は、宿場町の雰囲気を残す吉原の地の人々から厚い信仰を集めてきました。

この妙祥寺を舞台として、2008年より開催されているのが「寺音祭」です。本年度はEGO-WRAPPIN’がメインアクトとして登場したほか、地元の老舗スカ・バンドであるTHE SIDE BURNSやピアノとドラムによるデュオであるミドリのマル、スティールパン奏者のケンネル青木が出演。

「お寺の敷居を下げることも大切」(2)
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「お寺の敷居を下げることも大切」(3)

境内の入り口や本堂には巨大なサウンドシステムが設置され、DJたちがビンテージのジャマイカン・ミュージックを7インチ・レコードでプレイ。音楽面でいえばあくまでも夏祭りの延長上にある各地の寺フェスとは明らかに一線を画した充実ぶりです。

「お寺の敷居を下げることも大切」(4)
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それもそのはず、寺音祭の発起人であり、妙祥寺の副住職である川村孝裕上人はもともとスカ・バンド、mule trainのドラマー。DJとしても都内で長年活動してきました。それまでサラリーマンとして忙しい毎日を送っていた川村上人が結婚を機に出家を決意したのは30歳のとき。修行期間を経て、奥様のご実家である妙祥寺に弟子入りすることとなります。

「単純に『おもしろそうだな』と思ったんです。信仰があったわけじゃないんですけど、生き方として仏門に興味があったんですね。それまでは頭をドレッドにしたり、モヒカンだったりした時期もあって、仏門に入ることになるとは思ってもいなかった(笑)」

「お寺の敷居を下げることも大切」(4)
「お寺の敷居を下げることも大切」(5)
「お寺の敷居を下げることも大切」(6)

そんな川村上人が2008年に始めたのが寺音祭でした。彼はその経緯をこう説明します。

「その少し前から寺や神社でライブをやるケースが増えてたんですよ。2002年にEGO-WRAPPIN’とDETERMINATIONSが京都の北野天満宮でやったり、寺フェスみたいなものも増えてきてたんですね。おそらく野外フェスが定着して、ライブハウス以外の場所をみんなが探し始めてたんじゃないかと思うんですけど、そういう動きに刺激された部分はありました。
もともとお寺は開かれた場所で、勉学を学ぶ寺子屋が行われたりと、地域の人たちが何かあったときに頼る場所だったんですね。でも、今は法事ごとでしかお寺に来ない時代になってしまった。なので、みなさんが来やすくなるように、お寺の敷居を下げることも大切だと思っていたんです」

近年、各地で寺の檀家数減少が社会問題となっており、過疎地では寺の消滅や僧侶の一般職との兼務、還俗も相次いでいます。その背景には、地方の人口減少や寺社と地域住民の結びつきの変化などさまざまな要因があるわけですが、仏教界ではそうした現状に対する強い危機感があります。そのため、(川村上人の言葉を借りれば「お寺の敷居を下げるための」)さまざまな変革が進められており、地域住民との新しい接点を作ろうという寺フェスもそうした試みのひとつといえます。

「寺としての役割をどこも考えてると思うんですよ。僕にしてもせっかくこういう場所があるので、地域のなかで意味のあることをやっていきたいと思ってましたし。ただ、イベントをやることに慣れていない方はなかなかできないと思うんですね。僕の場合はたまたま仏門に入る前から自分でイベントをやっていて、やり方が分かっていたということもあるので、その意味でもラッキーだったと思います」

「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」

「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(1)
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今年の寺音祭は、10周年を記念して妙祥寺からもほど近い保泉寺との2会場で開催。境内では地元の飲食店によるブースが立ち並んだほか、2つのお寺を結ぶ東海道沿いにもさまざまな飲食店が出店するなど、町を巻き込んだ大変な賑わいに。川村上人とも20年来の付き合いになるEGO-WRAPPIN’のライブの際には会場となる本堂への入場規制がかかるなど、過去最高の来場者数を記録しました。

「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(2)
「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(3)
「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(4)
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なお、現在の寺音祭の実行メンバーは15、6人とのこと。妙祥寺および日蓮宗関係者だけではなく、川村上人率いるDJクルー「SKA SHUFFLE」のメンバーや地元の仲間たちもボランティアで参加しています。

「経費は日蓮宗の助成金や過去の寺音祭の浄財などでまかなっていて、出店ブースからは電気代や水道代として少しいただいているぐらい。有料公演でもいいんですが、僕としては寺を解放したいという思いがあるので、今後も無料でやっていきたいですね」

寺音祭の特徴は、祭りの最初に川村上人による法要と法話が行われるということ。「できるだけ分かりやすい内容で仏教のなんたるかを話すようにしています」という川村上人の法話には、仏教に縁のない方をも引き込む力が。小さな子供が川村上人の法話に耳を傾けていたのも印象的でした。

「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(5)
「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(6)
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また、吉原では毎年6月、21台の山車が競演する「吉原祇園祭」が開催され、延べ20万人の人出で賑わいますが、今年の寺音祭ではその「吉原祇園祭」の囃子隊を中心とする吉原祇園太鼓SESSIONSもパフォーマンスを披露。祭りムードを盛り上げました。

「自分としては寺音祭を吉原祇園祭のプレイベントとしても捉えてるんですよ。それもあって祇園祭に寄せて名前も『寺音祭』にしましたし(笑)。吉原の人たちは小さいころからみんな吉原祇園太鼓を叩いているので、誰でも叩けるんです。ウチの子供も叩けますし、僕も叩けます(笑)」

町や地域住人と直接繋がる「開かれたお寺」としての祭りである寺音祭。吉原の商店街もまた、郊外に大型スーパーができた影響などで少しずつ閉店する店舗が増えており、商店街の若者たちのあいだでは危機感が広がっています。もともとは吉原と縁のなかった川村上人が立ち上げた寺音祭は、そうした若者たちとも連携しながら、次第に町を巻き込む祭りへと拡大しつつあるようです。

「商店街の若い連中も町を盛り上げようと頑張ってるんですよ。ビルをリノベーションしてイベントをやったり、毎月大きな駐車場にテントを張ってビアガーデンをやったり、空いてる店舗を再利用したり。みんな僕と同じ世代で、普段から仲もいい。『せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ』ということで、いろいろと一緒にやるようになったんです。山門から見える東海道に人が溢れている光景はちょっと感慨深いものがありましたね」

「せっかくだったら町を巻き込んでやろうよ」(7)
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「毎年やってよかったなと思います。僕自身が楽しいし、飽きるまで続けていこうと思ってます(笑)」と語る川村上人。最後に、寺の現状を憂う全国の僧侶のみなさんにメッセージを!

「こういうイベントも開催にあたってのノウハウがないとなかなかできないので、ノウハウを持ってる人たちと出会える場所、たとえばライブハウスやフェスみたいな場所に自分が足を運ぶことも大切だと思います。ネットで募ってるだけでは限界がありますからね。やろうと思えば、だいたいのことはできると思います!」



<INFORMATION>
寺音祭
http://zion-sai.com

妙祥寺
http://myouhou.com/temple/post_14/


Text:大石始
Photo:ケイコ・K・オオイシ

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