齋藤光二が語るアニソンフェス『アニサマ』の超絶舞台裏 【Behind the scenes】


8月24~26日の3日間、さいたまスーパーアリーナにて、アニメソングのフェス「アニメロサマーライブ(通称:アニサマ)」が開催される。レーベルをまたぎ55組近いアーティストが出演し、2005年の立ち上げから実に14回目を迎える今年、チケットは早々に完売する人気ぶりで、追加チケットが発売されるほど。

そのイベントを統括し、全体の演出ディレクションまでこなすのが、ゼネラルプロデューサーの齋藤光二さん。アニサマの立ち上げに携わり、ファンの間では「さいとーぴー」として有名で、ツイッターでは2万人以上のフォロワーがいる。かなりの音楽フリークでもある齋藤さんに、3日間で8万人以上を集めるまでに成長した人気アニソンフェスの舞台裏を伺った!

マニアック且つユニバーサルな、アニソンのオリンピック

 


─出演アーティスト数が現時点で53組とすごい数ですが、準備にはどのくらいの日数をかけているのですか?

ほぼ1年ですね。僕が3日間すべてのマスタープランを作っているのですが、出演者も声優アーティストがいたり、アニソンアーティストがいたり、アニメキャラクターで出る方もいて、しかもレーベルによってスタンスも音楽性も違っていて、もう話す言語が違う! ってレベル。そこで打ち合わせを重ねるうち、アイデアが出ればセットリストも躊躇なく変えていくので、かなり高度なパズルです(笑)。

僕のイメージだと、アニサマにいちばん近いイベントはオリンピック。みんなライバルだけど閉会式では一体感があり、特定の競技だけ観るという人は少なくて、オリンピックという「箱推し」ですよね。アニサマでも、会場に来た人がこのシーンを全部楽しんで、アニサマという「箱推し」になって欲しいと、最初から最後までシームレスに展開する作りにしています。

マニアック且つユニバーサルな、アニソンのオリンピック(1)

齋藤光二 広告代理店、ゲーム会社などを経て現在はMAGES.所属。2005年「アニサマ」の立ち上げに携わり、その後「ニコニコ大会議」などのプロデュースを経て、現在、3daysとなったアニサマの統括プロデューサーを務める。 https://twitter.com/SaitoPPP


─シームレスというのは、出演アーティストの間が空かず、繋がっている?

そうです。SEやボイス、映像の演出などで繋がっていて、1枚のコンセプトアルバムを聴くように通して楽しんでもらう作り方をしています。シリアスから萌系まで振れ幅が大きいアニソンを破綻することなく繋げるというのが、腕の見せどころですね。

フェスの宿命で、曲数はどうしても限られます。その中で僕がよく言うのは、情報のレイヤーが多ければ多いほど、情報処理が追いつかないということ。衣装やダンス、声、アニメの映像などの「見どころ」を盛れば盛るほど、観る人の目が散漫になる。だから何を選ぶか、何が効果的かは考えて、提案します。バリエーションのあるものを最適化して、「魅せ方」のお手伝いをしていく感じです。

─内容を分かっていないと、そこまで演出できませんよね。

そうですね。だからアニメはできるだけ全部観るようにしていて、それも1、2話はできればリアルタイムで、Twitterでハッシュタグを付けて実況しながら観る。そうすると、そのアニメがファンにどういう熱で受け止められているかが実感として分かります。やはりアニメは「オタク」の目線で見つつ、演出にもマニアックな部分が必要なんです。

マニアック且つユニバーサルな、アニソンのオリンピック(2)

©Animelo Summer Live 2017/MAGES.


─マニアックな部分とは?

「分かる人には分かる」ポイントを忍ばせておくことですね。ビートルズで言えば、シタールの音が聴こえるだけで「ああ、ジョージ・ハリスンだな」ってわかりますよね。それと同じように、アニメを見た人にだけ分かる小ネタは随所に入れ込んでいます。

一方で、ユニバーサルであることも心がけています。ディズニーランドには作品を知らなくても楽しめる仕掛けがいっぱいあるように、アニサマでも、知らない映像や音楽の凄さを見せるやり方は追求しています。マニアックを突き詰めるだけだと広がりがないし、ユニバーサルなものだけを積み重ねてもアニサマじゃない。その2つを同居させる演出を心がけています。
 

新たな音楽を知る入り口にもなるアニソンの魅力とは?

─齋藤さんご自身が、ハマったアニメは?

僕の場合はやっぱり音楽の印象の方が強くて。アニメ音楽にハマったのは、大野雄二の『ルパン三世』ですね。コルトレーンとかビル・エヴァンスの前に、ジャズをルパン三世から知ったという感じです。今のアニソンを聴く人たちは、もしかしたらJAM Projectとかからハードロックを知るかもしれないですね。

今はアニソンといっても、音楽的に年代やジャンルがクロスオーバーしているのが特徴だと思います。例えば、今年出るORESAMAはスラップベースで90年代の特徴もあったり、ギターのカッティングを聴くと、きっとナイル・ロジャース大好きだと思いますし、オーイシマサヨシさんの音楽はモータウンっぽいところもある。音の鳴らし方とか「この曲をオマージュしたな」とか、ルーツ・ミュージックには注目しちゃいますよね。

─テーマソングのリリイベでは、出演した亜咲花さんがジャクソン5の「I Want You Back」をサプライズで歌って盛り上がっていましたね!

亜咲花ちゃんは、『ゆるキャン』というひとりキャンプするアニメのOP曲「SHINY DAYS」を歌っているのですが、「I Want You Back」をオマージュしてるような曲なんです。ジャンルも言語も違う2曲ですが、音楽という意味で楽しめるポイントは同じ。そこをイベントで共有したかったんですよね。
 


─齋藤さんは、そもそもアニソンの魅力をなんだとお考えですか?

限られた尺の中に、起承転結をつけるところかな。アニメのオープニングって、だいたい89秒なんです。その限られた時間内にキャッチーなメロと日本人好みの「泣きメロ」が詰め込まれ、ドラマチックに仕上げる。これは洋楽には見られない特徴ですよね。

例えばマルーン5の「サンデイ・モーニング」、ジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」、マイケル・ジャクソンの「ブラック・オア・ホワイト」とかって、循環コードで楽器のバッキングがずっとループしている。ほかにもブルースの”ストマン進行”やジャズの”枯葉進行”など、洋楽ってループミュージックというのが基本にありますよね。

アニソンはその点、bpmも早いし展開もコード進行も多くて、とくにボカロに影響を受けた曲は音程も急に上がったりして、人間が歌うことを想定していない(笑)。聴き心地がいいというより、どこかトリッキーで独特な音楽になっていて、文化としてガラパゴスな面白さはありますね。
 

プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル

プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル(1)プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル(2)プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル(3)

─出演アーティストが多いと演奏のリハーサルも大変そうですね。

アニサマバンドでは80曲ぐらいを完コピします。そのアニメの世界観にハマったファンが来るので、アドリブなどのプレイは求められていない。だから演奏隊は、CDを完コピした上で、ライブでいかに伝わる音にするかにこだわっています。

リハーサルの音源はすべて聴き、アーティストの世界観に合わせてディレクションして、マニピュレーターと共有しながら進めます。アニソンは映像と寄り添った音楽なので、ライブではモニターで映像も流します。その映像も出来次第クラウドでチェックして、演出アレンジに合わせて尺の調整をしてもらったりしますね。

プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル	(4)プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル	(5)プロ中のプロが集まって重ねる綿密なリハーサル	(6)

バンドと同時にカラオケのセットを組んで、朝から2つのスタジオを同時に回す日は、もう行ったり来たり。ゲネリハは1日で2日分やらなきゃいけないですし。舞台監督も8人ぐらいいて、機構の部分で事故なくシームレスな演出をするためのタイミングの確認もあって……とまぁ大変です(笑)。

─綿密にリハーサルを重ねるんですね。シームレスな演出で苦労する点は?

舞台の転換をだらだらMCで繋がず、どう見せるかがいつも悩みどころです。2017年はフラッシュモブを取り入れて「あえて見せる転換」をやりました。『小林さんちのメイドラゴン』というアニメのオープニングで、MVが2000万以上再生されているfhána(ファナ)の人気曲「青空のラプソディ」のMVを再現し、演者が踊り始めるフラッシュモブに合わせて、スタッフと楽器チームがあえて楽器の移動を見せながら片付けて、いつの間にか次のステージを作っていったんです。
​​​​​​​


─フラッシュモブだからできる演出! それを実現するスタッフ力もすごいです!

ここにいる人たちって、舞台監督にしてもPAにしてもプロ中のプロが集まっているので、無理な注文も対応してくれるんです(笑)。そういう意味での切磋琢磨というか、「盛り上げるぞ!」という一体感はありますね。
 

趣味が細分化されている時代、アーティストとファンを繋ぐ役割

─さまざまな苦労を重ねたからこそ、14年も続く一大フェスに成長したんですね。

特殊な見せ方をするイベントなので、立ち上げの時はなかなか理解してもらえない状況で、こんなに成功するとは誰も思っていませんでした。それに僕自身ももともとバンドマンなので、ライブの演出といえば「圧倒的な演奏力だ」という固定観念もあった。

でも、幅広いジャンルの作家やアーティストと出会ううちに、「何を見せたいか」によって演出の幅は広くていいんだと思うようになった。創造物へのスポットの当て方って無限だし、「こんなにいろんな見せ方があるって面白いじゃん」って思っちゃったんですよ。

─その気付きがマニアック&ユニバーサルなアニサマの演出に繋がったと。サプライズゲストが来ることもあるそうですね。

2017年は氷川きよしさんがサプライズで登場したんです。本当にサプライズで進めたので、他の出演者にも「えっ、氷川きよしさんが今通った!?」ってびっくりされました(笑)。

氷川さんは最初、「アニサマで受け入れてもらえるか」を心配されていて、お客さんをどう盛り上げるか正直戸惑っていました。アニソンの特徴はコール・アンド・レスポンス。だったらそこは「きよしのズンドコ節」で、2万7千人の”きよしコール”が聞きたいじゃないですか。だから説得しました。

趣味が細分化されている時代、アーティストとファンを繋ぐ役割(1)趣味が細分化されている時代、アーティストとファンを繋ぐ役割(2)
©Animelo Summer Live 2017/MAGES.


結果としては、氷川さんにとってアウェイなはずのステージなのに、圧倒的な歌唱力で一気にホームにしてしまった。会場も氷川さんの真っ赤な衣装に合わせて、真っ赤なペンライトで埋め尽くされていました。次のアーティストもモニターを見ながら”きよしコール”を送っているし、オリンピック選手が別の競技を応援するような一体感がありましたね。

─ジャンルを越えて一体感が生まれた瞬間ですね!

一体感を持ってもらうためには、アーティストが頑張るのはもちろん、イベントとしてどういうパッケージで見せるかも大事。単純に並べただけじゃダメだと思っています。昔って、みんなが同じメジャーなものを共有できた部分もありましたけど、今は趣味がどんどん細分化していて、アニソン好きな人が集まっている場とは言え、全部のアニメを観ているわけじゃない。そんな時代だと、演出で「その場の楽しみ方」を補足する必要がありますよね。

─観客とアーティストの橋渡しをする感覚なんですね。

そうですね。アニサマで知った曲でそのアニメにハマったり、アーティストのCDを買ったりライブに行ったりすれば、さらに深い世界を楽しめる。業界全体を盛り上げていこうと始まったアニサマなので、そういうきっかけになれば嬉しいですね。

趣味が細分化されている時代、アーティストとファンを繋ぐ役割(3)


趣味が細分化されている時代、アーティストとファンを繋ぐ役割(4)

©Animelo Summer Live 2017/MAGES.

「Animelo Summer Live 2018 “OK!”」(アニサマ)

世界最大のアニソンライブイベントとして、2005年にスタート。14年目となる今年は、“OK!”をテーマに開催される。

日程:2018年8月24日(金)~26日(日)
時間:14時開場 16時開演
会場:さいたまスーパーアリーナ
主催:MAGES./文化放送/BSフジ

https://anisama.tv/
 



Text:明知 真理子
Photo:Great The Kabukicho
Edit:仲田 舞衣

 

音楽業界の裏方の仕事ぶりに迫る連載企画。
「Behind the scenes」シリーズ一覧はこちら