世界は島だらけ! 魅惑のアイランド・ミュージック 【知られざるワールドミュージックの世界】

 

トロピカルでリゾート感覚のアイランド・ミュージック。地球上の7割が海ということもあって、無数に島が存在するが、そこにはそれぞれ特色ある音楽が奏でられている。アイランド・ミュージックというと、ハワイやキューバ、沖縄というイメージが強いだろうが、もちろんそれだけではないし、もっと知られてもいい素晴らしい音楽がたくさんあるのだ。

今回は、そんな知られざる島々の音楽にスポットを当ててみた。島は陸続きでないからこそ独自に文化が発展するし、人種や気候、植民地だったところはその統治国など様々な影響も見過ごせない。ぜひ世界地図とにらめっこしながら、知られざる島へ想いを馳せてもらいたいと思う。

音楽の宝庫カリブ海、水面を叩きながら歌う南太平洋、フレンチ風味のアフリカ、隠れキリシタンの賛美歌が伝わる……島、島、島!

 

まずは、アルバ島から。音楽の宝庫カリブ海に浮かぶ島で、南米ベネズエラの沖合に位置している。オランダ領のため文化的にはヨーロッパの影響が色濃いが、音楽はやはりカリブならではのサウンドが聴ける。このジェオンは、レゲエやレゲトンをベースにしたシンガー・ソングライター。ラテン・エリアではなかなかの人気で、レゲトン界で大ブレイク中のJ・バルビンとも共演するなど、今後期待されるアーティストのひとり。サウンドは様々だが歌心ある大らかなヴォーカルが心地良い。

 

 

同じくカリブ海からもう一曲。サン・アンドレス島はコロンビアの北西に位置する小さな島。この島の音楽は、カリプソのようなのんびりとした雰囲気のものだが、大きな特徴は使われている楽器。馬やロバの下あごの骨を使ったキハーダというパーカッションの一種を使うことで知られている。キハーダは、ギロのようにこすってもいいし、叩くと「カーッ!」という音色が響き渡る。見た目も音もインパクトがあって楽しく、ラテン・サウンドにぴったりはまる。

 

 

島というと、カリブと同じくらい連想しやすいのが南太平洋の島々。といっても、どこにどういう島があるのかはあまり知られていない。バヌアツ共和国は80以上もの島が集まった国だが、その中のガワ島にはウォーター・ミュージックというものがある。女性たちがバシャバシャと水面を叩きながら歌う様子はかなりの迫力だ。現在は観光客向けのパフォーマンスとして演奏を行っているらしい。

 

 

アフリカの島では、動物天国のマダガスカルや、リゾートとして知られるセイシェルなどのイメージが強いだろうが、ここではコモロ諸島に注目したい。大陸の南東に位置する4つの島のことで、シーラカンスが発見された場所でもある。音楽的にはアフリカだけでなく、統治国だったフランスの影響も大きく、ソフトなニュアンスのサウンドが多い。親しみやすいメロディや、トロピカルな雰囲気のリズムを楽しんでいただきたい。

 

 

イタリアのコルシカ島には、男性のみの無伴奏コーラスが伝統として残っている。賛美歌のようにも聞こえるが、この地は様々な文化が行き交う場所だったこともあって、フラメンコのカンテやアラブ系の節回しにも聞こえることがあるし、ブルガリアン・ヴォイスのような幻想的な味わいも素晴らしい。このア・フィレッタというグループは、来日公演も行うほどの実力派で、世界的に人気も高い。

 

 

おおよそリゾートとはかけ離れた島が、限りなく北極に近い島グリーンランド。カナダの北に位置するが、実際はデンマーク領だ。この広大な島にも独自の音楽シーンが存在し、ロックから民族音楽まで多様なシーンが見られる。イヌイットの血を引くニーヴ・ニールセンは、フォークをベースにしたシンガー・ソングライターで、この曲はザ・ディア・チルドレンというバンドを率いてのナンバー。透明感とオルタナティヴ感が組み合わさった独特の世界観が魅力だ。

 

 

フィリピンはリゾートのイメージが強く、セブ島やボラカイ島など美しい島がたくさんある島国。ミンダナオ島は2番目に大きな島なのでそれほどリゾート感はないが、音楽に関してはセブ湖という湖の周辺に住むトボリ族という少数民族の音楽がユニークで注目されている。船を漕ぎながら歌う素朴なアカペラは、言葉がわからなくても魂を感じさせて心に染みる。赤を基調にした独特の衣装や髪型にも注目。

 

 

最後は日本の島の音楽を。といっても、沖縄でも奄美でもなく長崎の平戸島をピックアップしてみた。ここで聴かれるのは隠れキリシタンの賛美歌。厳かに歌われる様子は、いわゆる賛美歌のイメージとは違い、お経にも近い。江戸幕府からの弾圧を隠すために苦心して、このようなメロディになったのだろう。なお、タイトルにある「おらしょ」とは「祈り」という意味がある。

 

 

島の音楽というと、なんとなく陽気で楽しいイメージがあるだろうが、島によってこれほどまでに違うことをあらためて感じていただきたい。


Text:栗本 斉
Illustration:山口 洋佑
Edit:仲田 舞衣