101年目のジャズ vol.5 ~ライブ音源で楽しむスター・トランペッター編~

101年目のジャズ vol.5 ~ライブ音源で楽しむスター・トランペッター編~
『101年目のジャズ』は毎回ラジオ番組のナビゲーター気分でお届けしていますが、5回目ともなると実際に声を出してトークしているような感覚が深まっていて、ちょっと不思議な楽しさです。それもこれも興味や関心を持ってくれているアナタがいてこそ。感謝、感謝です!
さあ、今回はジャズの花形楽器とも言われているトランペットに大注目! もちろん、トランペットという楽器自体のヒストリーを紹介するわけではありません。スター的存在のジャズ・トランペット奏者によるライブ音源をシェアしたいっ、それが趣旨です。

#1. Louis Armstrong - On The Sunny Side Of The Street

1曲目にお届けするのは「この素晴らしき世界」を筆頭に、多くの代表曲を持つ“サッチモ”ことルイ・アームストロングの演奏です。彼は1920年代、つまり、日本の元号でいえば大正時代から音楽活動をスタートさせた人気ジャズ・トランペッター&ボーカリストで1971年に亡くなるまで多くの逸話を残しました。たとえば、1964年5月9日、サッチモが発表した「ハロー・ドーリー!」がアメリカのヒット・チャートでナンバー1を獲得。この部分だけを取り上げると“へぇ~”と受け流されそう。でも、それまで14週に亘ってトップの座に輝いていたのはあのビートルズだと知ったら“えっ?”ってなりません? しかも、当時、ルイ・アームストロングは還暦越えの63歳。こうなると“それは凄い!”という言葉が出てくるはずです。いずれにせよ、ビートルズとサッチモがヒット・チャートに並んでいた時代を私もリアルに体感したかったな~と若ぶってみたりして。さあ、ライブ音源です。1956年の演奏で「明るい表通りへ」と邦題が付いたスタンダード・ナンバー、彼のプレイと歌声を聴けばヘコんだ気分のアナタもきっと前向きになれるんじゃないかな。

#2. Dizzy Gillespie - Manteca

続いてのスター・トランペッターはディジー・ガレスピーです。彼は今も世界中のミュージシャンが演奏しているジャズ・ナンバーを書いた作曲家でもあり、ルイ・アームストロング同様、歌も歌っていました。文字どおり、ジャズ・シーンに大きな功績を残したディジー。今回選んだ演奏は彼と共に“ビ・バップ”を築いたチャーリー・パーカーとの共演盤『Jazz At Massey Hall』(1953年)からにしようと決めていたのですが、そうだ、1980年録音の「マンテカ」もあったじゃないと急遽チェンジ! というのも、共演者がトゥーツ・シールマンスとバーナード・パーディーで、このトリオ・プレイが実にイカしてるからです。ハーモニカ奏者として有名なトゥーツが、ここではギタリストとしての手腕を発揮。ソウルやロック系などジャンルを超えた活動をしているドラマーのバーナード・パーディーも超グルービー。ふたりとパフォーマンスしているディジーは言うまでもありません。

#3. Art Blakey - Split Kick

1954年2月21日、ニューヨークのジャズ・クラブ“バードランド”で行なわれたライブが、とんでもなく貴重だということをジャズ・マニアは知っています。それもこれもブルーノート・レーベルがレコード化したからです。リーダーはドラマーのアート・ブレイキー、トランペットはクリフォード・ブラウン、アルト・サックスはルー・ドナルドソン、ピアノはホレス・シルヴァー、ベースはカーリー・ラッセル。そうです、今回、“ブラウニー”の愛称で知られるクリフォード・ブラウンのライブ・トラックは“ハード・バップの夜明け”と言われている歴史的名盤『バードランドの夜』から選びました。彼だけじゃなく、みんな心底素晴らしいですし、ジャズっていいなあと思わせてくれる録音のひとつ。アナタはどう感じるかしら?

#4. Lee Morgan - The Sidewinder

“バードランド”でとてつもないライブが行なわれた約2年4ヵ月後、天才トランペッター、クリフォード・ブラウンは25歳の若さで天国へと旅立ってしまいました。自動車事故でした。それを寿命というにはあまりにも早過ぎます。だって、1930年10月生まれのブラウニーの死後、「I Remember Clifford」という曲を書き上げた1929年1月生まれのベニー・ゴルソンは今月上旬、来日公演を行なっています。ということは事故さえなければブラウニーのライブも今、この日本で見られたかもしれない。その代わり「I Remember Clifford」という名曲は生まれていないわけですが。皮肉だ。さて、「I Remember Clifford」も様々なミュージシャンが演奏しています。なかでも『リー・モーガン vol.3』に収録されたバージョンは一聴の価値あり。リー・モーガン、彼もまたスター・トランペッターのひとりであり、悲劇のトランペッターともいえます。33歳で亡くなった彼の人生を知りたければドキュメンタリー映画『私が殺したリー・モーガン』をご覧になるといいでしょう。では、リー・モーガンの代表曲をお届けします。アメリカのヒット・チャート25位まで登り詰めた1963年録音のアルバム『The Sidewinder』のタイトル・チューンを1970年に行なったライブで演奏したバージョンです。

#5. 日野皓正 - So What

“ヒノテル”こと日野皓正氏のライブをご覧になったことはありますか? 今年の10月25日で76歳となる現役トランペッターは、現在も圧倒的な存在感を放ちながら彼独自のスタイルで観客を魅了し続けています。その姿はまさにスター。ステージに登場するだけでエネルギーの強さがビシバシ伝わってきます。トランペットという楽器を通してジャズへの愛情を心血注いで表現しているように感じます。そして、真っ直ぐであることの格好良さにいつもヤラレてしまいます。さて、今回お届けする日野氏の演奏は彼が28歳、1971年8月に開催された東京都市センター・ホールでのライブ録音です。曲はマイルス・デイビス作曲の「So What」。ジョー・ヘンダーソンや“プーさん”こと菊池雅章氏などと繰り広げたプレイはハートを火傷しそうな勢いです。

#6. Wynton Marsalis - Green Chimneys

ニューヨークにある“ジャズ・アット・リンカーン・センター”の芸術監督を務めているウィントン・マルサリスはグラミーの常連で、ジャズだけでなくクラシック部門でも受賞しています。1961年生まれというのが信じられないほど多くの実績を重ね、ジャンルを超えたミュージシャンとのコラボも珍しくありません。たとえば、世界3大ロック・ギタリストのひとりでシンガー・ソングライターのエリック・クラプトンともライブ共演し、その模様はCD+DVD化されています。このサイトにも音源がありますのでそこから1曲選んでも良かったのですが、初めて聴いた時の衝撃が忘れられないアルバム『Live at The House of Tribes』(2005年録音)をどうしてもご紹介したかったので迷わず決定。お届けする1曲目を聴いて大興奮したんです!

#7. Miles Davis - Seven Steps to Heaven

ラストはジャズ・ミュージシャンの中で最重要人物であると断言できるマイルス・デイビスです。1926年5月26日生まれの彼抜きにジャズを語ることは絶対にできません。その人生は『マイルス・デイビス自叙伝』や、山ほど出ている関連本に目を通すと見えてきます。映画『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス空白の5年間』を鑑賞するのも参考になるでしょう。でも、ミュージシャンを知るにはその人の音楽を聴くのがいちばん。というより、ジャズを知りたければマイルスを聴くのが最短の近道といってもいいかな。ただ、彼の場合、時代によってサウンド・スタイルが違いますので、せめて10枚ぐらいは聴いてほしい。その際、サイド・ミュージシャン名をチェックすると新たな発見があったり、聴こえ方が違ってきたりします。たとえば、これからお聴きいただく1964年のライブ音源はジョージ・コールマン(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、トニー・ウィリアムス(ds)との演奏で、アルバム『Four & More』に収録。聴いて“ウヒョ~”と興奮したアナタ、この時期のマイルス作品を中心に他のアルバムもチェックしてみて。逆に、ピンと来なかった方は違う年代のマイルス作品を聴いてみてください。今回はその入り口だと思ってね。あれれ、いつの間にか、マイルス・デイビスをご存じない方向けの曲紹介になってしまいました。しかもちょっとお勉強っぽくなっちゃったかな。

  • スター・トランペッターはまだまだいます。ハリー・ジェイムス、メイナード・ファーガソン、チェット・ベイカー等々。今年2月末に来日ライブを見てテンション上がりまくったロイ・ハーグローブもそのひとり。もちろん、スター性云々関係なく素晴らしいラッパ吹きもたくさんいるので、そういったプレイヤーの中から自分だけのヒーローを探すのも楽しいですよ。では、今回はこの辺で。また、来月最終金曜日、6月29日にお会いしましょう。

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