Californian Grave Digger ~極私的ロック映画5選(ブラック・ムービー編)~

Californian Grave Digger  ~極私的ロック映画5選(ブラック・ムービー編)~
ポップカルチャーの世界は常にファッションやアート、そして映画と有機的にリンクし、温故知新を繰り返しながら変化し続ける。そして、その変化と進化が最も顕著に表現される大衆娯楽=ポップカルチャーから見えてくる新たな価値観とは何かを探るべく、日本とアメリカ西海岸、時に東南アジアやヨーロッパも交えつつ、太平洋を挟んだEAST MEETS WESTの視点から広く深く考察する大人向けカルチャー分析コラム! 橋のない河に橋をかける行為こそ、文化のクロスオーバーなのである!

音楽と演出が小気味よく連動するブラック・ムービーという底なし沼

筆者はブラック・ムービーが大好物である。好きな理由は色々あるが、まず「音楽がいい」こと。次に「演出」が音楽と小気味よく連動すること。最後にアフロアメリカンの「抵抗と反骨精神」が描かれていることが挙げられる。その歴史を紐解くと、ブラック・ムービーは1970年代初めに勃発した"BLAXPLOITATION(ブラックスプロイテーション)と呼ばれるムーブメント抜きには語れない。このムーブメントは、映画のネタが枯渇したハリウッドが、これまで無視してきたアフロアメリカンの観客層に着目。公民権運動の煽りも受けアフロアメリカン俳優を起用したアクション映画を製作すると、たちまち大ヒットとなり、以降、映画製作会社がこぞってアフロアメリカンを主人公に据えた作品を連発したことに由来する。ブラックスプロイテーションとは「黒人搾取映画」という意味であり、人種差別を背景にギャングや刑事を主人公にした流血と暴力の世界が描かれているのが特徴だが、同時にソウル/ファンクミュージックの大物アーティストも積極的に起用することで、他のアクション映画群とは違う独自の雰囲気が全面に押し出されている。
しかし、ブラックスプロイテーション映画はアフリカ系アメリカ人をステレオタイプに描き過ぎていたために、全米黒人地位向上委員会や公民権運動の活動家たちから異論を呼び、隆盛は短期間に終わる。事実、1975年以降には殆ど作られなくなるのだが、1990年代に入るとタランティーノ映画が登場し、その元ネタとしてブラックスプロイテーション映画作品の再評価が始まると、それまでは幻となっていた名作珍作怪作が続々とビデオリリースされるに至った。以上の経過を踏まえつつ、今回も恒例の極私的セレクトによるブラック・ムービー5選をお届けしよう。


●『ブラックハンター』(原題 TRUCK TURNER/1974年/日本劇場未公開)

アフロアメリカン初のグラミー賞受賞アーティスト、アイザック・ヘイズ主演によるバイオレンス映画。ヘイズといえばブラックスプロイテーションの先駆的作品『シャフト/黒いジャガー』(1971年)のサウンドトラックを手がけたことでグラミー賞を獲得したわけだが、実は俳優としても活躍しており数多くのブラックスプロイテーション映画にて主演を果たしている。その中でも"ヘイズ版シャフト"と呼ぶべき傑作が、この『ブラックハンター』だ。
  • ヘイズが演じるのは、犯罪者に保釈金を貸す保険屋に雇われたバウンティハンターにして、元プロフットボール選手のマック・"トラック"・ターナー。保釈金を返済せずに逃亡した犯罪者専門というところが実に合衆国的職業だが、44マグナムの所持を許されたヘイズの追跡は苛烈そのもの。抵抗する相手は容赦なく射殺! 女でも攻撃してくれば鉄拳制裁するタフガイである。ある日、ピンプ(売春斡旋業)の大物ゲイターを追跡の果てに射殺したところから、売春組織が総出でターナー暗殺を指令。打倒ターナーの大抗争が勃発し、ロサンゼルスの街を血に染める。
    『シャフト』を百倍凶暴にして千倍残虐にしたような、まさにブラックスプロイテーション末期を象徴するような作品だが、サントラもヘイズが担当しているので重厚でポップなサザンソウルがタップリと楽しめる。惜しむべくは日本語字幕版がVHSのみのリリースであること(海外版DVDはリリース済み)。鑑賞は難儀な道程だが、中古VHSを購入する価値のある傑作ブラック・ムービーと断言できる。
    ヘイズは残念ながら2008年に死去。晩年は『サウスパーク』のシェフ役で声優として活躍するも、熱心なサイエントロジー信者であったことから、同団体を揶揄したサウスパークのエピソードに抗議して自ら降板している。



    ●『スーパーフライ』(原題 SUPER FLY/1972年)

    ゴードン・パークスJr監督によるブラック・ムービー全盛期を代表する快作。コカインの密売人プリーストを演じるロン・オニールのスタイリッシュなファッションと、カーティス・メイフィールドの歌い上げる主題歌でも有名な本作は、麻薬取引の闇を描きながら痛快なアクションが展開する。音楽に合わせた編集スタイルも独特で、俳優以外にも本物のピンプや前科者が多数出演しており迫力満点。機転を利かせて危機を乗り越えるプリーストの閃きなど、映画としても非常に良く出来ているのだが、唐突すぎるラストには呆気に取られてしまう。以降、筆者は話が突然終わる映画や漫画を見る度に『スーパーフライ』を思い出してしまうのである。
    本作は日本でも劇場公開されていたが、永らくソフト化されておらず、鑑賞するには海外版のVHSを手に入れるしかなかった。しかし90年代のブラック・ムービー再評価の流れからやっと日本語字幕付きVHSがリリース。現在はDVDもリリースされているので、是非チェックして頂きたい。

    ●『ブラックシーザー』(原題 BLACK CAESAR/1973年/日本未公開)

    こちらもブラックスプロイテーション全盛期に製作された、これぞブラック・ムービー! と膝を打ちたくなる傑作。主演は名優フレッド・ウィリアムソンで、サウンドトラックはジェームズ・ブラウンという豪華な布陣となっており、監督のラリー・コーエンは恋愛ものからホラー映画まで節操なく撮る職業監督だが、ブラック・ヤクザ映画と呼びたくなる本作のハードな仕上がりは流石である。
    舞台となるのはニューヨークのハーレム。父子家庭で育ったトミーは、靴磨きをしながらギャングの使いパシリで生計を立てていたが、差別主義者の白人警官によって投獄されてしまう。そして10年後、成長したトミーは立派なギャング、というかヤクザ者に成長し、白人マフィアたちの縄張りを奪うべく次々と犯罪に手を染める。だが、全てを手に入れたかに思えたトミーに暗い影が忍び寄っていた……と、『ゴッドファーザー』のブラック・ムービー版のような内容だが、えげつない残虐描写と栄光から破滅に急降下する疾走感は本作ならでは。乾いたタッチの画面にジェームズ・ブラウンのサントラがベストマッチしており、『スーパーフライ』と併せてブラック・ムービー初級入門編に最適だ。
    ちなみに本作は予想外のヒットとなり、すぐさま続編『ハーレム街の首領』(1973年)が製作されるあたりも実に東映ヤクザ映画的。また本作のサントラを担当したことにより、(映画のサントラなどやる気が無かった)ジェームズ・ブラウンが"ソウルのゴッドファーザー"と呼ばれるようになったというから結果オーライ。ソウルミュージック史にも映画史にも残すべき作品であると断言したい。

    ●『ディスコ・ゴッドファーザー』(原題 DISCO GODFATHER/1979年/日本未公開)

    漫談師というかコメディアンというか、とにかくブラック・ムービー界隈では特異な存在としてカルト化している強烈無比な男、ルディ・レイ・ムーア主演による、ブラックスプロイテーションのムーブメントに完全に遅刻してきた大怪作。ルディの映画はギャグありバイオレンスありエロ描写ありと、とにかくサービス精神過積載気味の作りなのだが、あまりにも特殊すぎて日本では劇場公開どころかビデオリリースすらされなかった。しかし、最近になってようやく日本版DVDがリリースされた(…のだが、結局現在は再度廃盤の模様)。
    ルディの代表作『DOLEMATE(ドールマイト)』シリーズから数えて4作目となる本作は、絶頂期のルディが放つ下品なMCも最高なダンスミュージック映画かと思いきや、実はPCP(別名エンジェルダスト。象やゴリラを捕獲する際に使用される麻酔薬にして最悪のドラッグ)密売組織を巡るクライムサスペンスだったりするからビックリである。本作こそブラック・ムービーの極北。ここに辿り着いたらもう他に観るべき作品は無い、というくらいの存在なのである。

    ●『アイアン・フィスト』(原題 THE MAN WITH THE IRON FISTS/2012年)

    最後に紹介するのは、まさに70年代ブラックスプロイテーションのケレン味とリスペクトが散りばめられた近年稀に見るブラック・ムービーの最新系『アイアン・フィスト』だ。主演はウータンクランのリーダーにして、タランティーノ作品でもサントラ担当を務めるRZAその人(製作はイーライ・ロス)。HIP-HOPとカンフーが融合したファンタジックなアクション映画に仕上がっている。
    時は19世紀。鍛冶屋として中国奥深くに流れ着いたアフロアメリカン、ブラックスミスは対立する部族の抗争に巻き込まれて、その両腕を切り落とされる。しかし精神修行によって超人的なパワーを得たブラックスミスは、その両腕に鋼鉄の義手を装着。仇となる黄金魔人(演じるのは元WWEスーパースター、デビッド・バティスタ)を倒すべく立ち上がる!
    古典的なカンフー映画の物語が再構築された無国籍な雰囲気は、まさにハリウッド製香港映画といった趣き。RZAの好きなジャンルを全部ぶっ込んだかのような内容であり、HIP-HOPファンでなくとも楽しめる仕上がりとなっている。共演のルーシー・リューやラッセル・クロウも渋い演技で映画に華を添えている。


    以上が、筆者の最も好きなブラック・ムービーにして、サントラと映画本編が見事にリミックスされた5作品であると考える。是非、映画を観て気に入ったら次はサントラを購入してみよう。単なる映画音楽の枠を越えた独特のグルーヴに酔いしれることができるだろう。しかも昔はいざ知らず、今なら大抵の作品が字幕付きで鑑賞できるのだから隔世の感がある。ブラック・ムービーの世界はピンからキリまで底無しの世界なので、ここで紹介した作品を入り口に更なる深みへとハマって欲しいと願う次第であります!


    Text:Mask de UH a.k.a TAKESHI Uechi

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