ループペダル忍者、KENTA HAYASHIが語る!ループペダルの魅力と世界27カ国でのライブ活動から得た成長
今回、その魅力を紹介するのは「ループペダル」。一人でも人前で伴奏つきで、リアルタイムで歌ったり、合奏したり出来る機材だ。極端な話、声とギターがあれば、それ相当の伴奏が作れてしまう優れもの。
これがあればバンドに頼らずとも、人前でバンド並みのパワーでステージ上でも充分対抗できるってものだ。現に多くのアーティストが、このループペダルを起用しプレイ。あのエド・シーランもライブの一幕でこれらを駆使し、その場で1人即興で1曲を完成させ、多くの喝采を浴びていたりする。
そんな中、日本人でも、この「ループペダル」を駆使し、世界を股にかけた活動を行っているアーティストがいる。「ループペダル忍者」こと、KENTA HAYASHIだ。
2015年より身体一つでワールドツアーを行い、以後、毎年年間200本を超える演奏を世界各国で行っているKENTA。現在は全世界27か国でのライブを実現させ、中には、2016年のFUJI ROCK FES.や2017年の世界最大のフェス、グラストンベリーへの出演も含め、世界各国の様々なフェスや会場で演奏。そのギターとエフェクト、ボイスやタッピング等を駆使し、ループペダルによるリアルタイムな抜き差しにより、その場限りの壮大なドラマを創り上げ、各所で喝采を浴びている。
そんな彼がニューアルバム制作に向け、先日、「目指せグラミー賞!」と銘打ち、CAMPFIREサイトで制作費のクラウドファンディングを行った。達成率162%という高い期待値の下、達成し、2018年2月からは、ドイツはベルリンにて、その新作のレコーディングに入る。
いよいよ世界照準に入ったKENTA HAYASHI。今回は、そんなループペダルの魅力を中心に、彼の恐るべきバイタリティと行動力、そしてアイデアや視点をみなさんにお伝えしたい。
2016年のFUJI ROCKへの出演は、長年の憧れの場所だったこともあり、のちの活動の勇気や自信につながった
─KENTAさんは高校を卒業後すぐに海外に出られたそうですね?
そうなんです。3月に卒業して、その月末にはもうアメリカに渡ってました。当時、レッチリが大好きで、僕もまずはカリフォルニアに。当時から「世界で活躍するバンドをやる!!」との信念を持っての単身渡米でした。
─実際、向こうでもバンドを組んでらしたんですよね?
FOUR MINUTES TIL MIDNIGHTというミクスチャー的なファンクロックバンドを組みました。解散したわけではないんですが、5年ほど前に僕のビザが切れてしまい(苦笑)。日本に戻らなくてはならない状況になってからは、向こうとの距離もあり、どうしてもコンスタントに活動が出来なくなったんです。なので、現実的に、「このままでは、このバンドで世界の第一線に行くのは難しいだろう」と判断して。僕自身はどうしても世界最高峰を目指したかったので、ソロで行く決意をしたんです。
─何が何でも世界最高峰になってやるぞと。
もちろんバンドでみんなと一緒に音を出すのも大好きではあるんです。だけど、どうしてもメンバー全員が一緒の歩幅で、一緒の速度で目標に向かうことの難しさってあるじゃないですか。自分だけが焦っても空回りしちゃったり、そこに何かしらの制限や抑圧を感じたんです。だったら全部自分1人で思った通りに進められる方がいいなって。
─1人での不安は無かったんですか?
心細さは無かったんですが、バンドで出す音にどう対抗して行こうか?は色々と考えました。あと、バンドだと、融合や化学変化によって突然変異的なものやバンドマジックが起こったりする中、一人だとそういったことが起こせるのか?等の懸念はありましたね。ようやく最近です。その迷いがなくなってきたのも。ここ1~2年のワールドツアーを始めてからです。今は逆に行けると確信しています。
─その確信に至れたポイントは?
大きかったのは2016年の<FUJI ROCK FESTIVAL(以降、フジロック)>への出演です。それこそフジロックにはギターを始めた15歳ぐらいの頃から17年越しの憧れの場所だったので。勇気や自信につながったんです。
2015年のワールドツアー in Europeは当初13本の予定だったが、結局2ヵ月で64本もやっていた(笑)
─KENTAさんの凄いところはその行動力だと思うんです。まずどうやって人脈を作り上げていったんですか?
これと思ったら、躊躇せず、直談判で色々と交渉していった結果ですね。絶対大丈夫と自分を信じて常に行動しています。やる気とガッツだけは昔からずっとあるので、まずは飛び込んでみるんです。ワールドツアーもコネクションとか全く無かったので、全部飛び込みでした。もちろん色々な人に教えてもらったり、助けていただいたりもありましたけど、とにかく今はネットがあるので自分でリサーチして、フェスやライブハウスに片っ端からメールしました。そして、返ってきたところからやり取りをしてツアーを組んでってという具合に。2015年のワールドツアー in Europeは当初13本の予定だったんですが、実際、向こうに行ってみると、反応や反響があったり、突然、「うちでもやって欲しい」等のリクエストが来たりして、結局、2ヵ月で64本やってました(笑)。ストリートライブも交えてですが。
─その際は生業的には・・・?
僕とマネージャーの2人で回って、若干黒字になった感じです。途中バスキングやストリートライブでCDを売ったりして、しのいだ時期もありました。
─ほぼ無名なのに黒字は凄いです!!現在はギターインストじゃないですか?これは元々からですか?
最初の頃は歌がメインの弾き語りでした。その合間にループペダルを交えた演奏を挟んでいたんです。そのうち段々と、その割合が半々になってきて、今は完全にインストに振り切ってますね。
─その移行には何か理由が?
分かりやすさや伝わりやすさですね。もちろん第一には海外での活動が多くなったというのがあって。歌詞が無い分、音という共通言語で分かり合ったり、通じ合ったり出来る。あと、インストの方が歌以上に聴き手の想像力や空想力に委ねられるじゃないですか。あの一緒に作っている感じに魅力を感じました。
縛りや限界があるが故の駆使や挑戦がある
─ちなみにループペダルとの出会いは、いつ頃だったんですか?
ビザが切れてアメリカから帰国しなくちゃいけなくなった頃ですね。当時は今の型の一つ前のモデルだったんですが。最初はホント一般的な使い方でソロの伴奏的に使ってました。日本に戻り、“ソロでやろう!!”と決意した時に、「これが僕のバンドだ!!」と決めたんです。これがあれば、オーケストラでもバンドでもDJでも何でも出来る!と。その可能性に気づいてからは、がぜんつき合うのが面白くなっていきましたね。
▲一つ一つの独創的なエフェクターのオンオフを駆使して、音色に様々な表情をつけていく。写真でKENTA氏がいじっているのは、ワーミーのペダルのないバージョンのエフェクター。基本的にウッドベースのような音を足したい時に使っている。
─ソロとは言え、同期やラップトップと共には考えなかったんですか?
考えなかったですね。やはりリアルタイムにこだわりたかったので。僕自身、ファンクバンド上がりというのが関係しているのかもしれませんが、グルーヴやタイム感を特に重視しているので。同期だとどうしてもカッチリしちゃう。ループにしても僕の場合はあえてシンクさせていないので、全部自分のタイミングだったりするんです。なので、毎回グルーヴも違うしテンポも違う。まさしく一人バンドです。左足と右足が他のメンバーみたいな(笑)。
▲これはアナログディレイ。ブースター的に音を膨らませたりする際に使用。KENTA氏は、このディレイをアナログとデジタルの両方を用い、適所に合わせ、踏み換え、最適な音を探っていく。
─逆に僕からすると、全てリアルタイムにつき、同じことが二度と出来ない。それが故にベストの演奏がどこなのか?を見極めるのも大変そうな・・・。
そこは永遠のテーマですね。ある程度の型は組んでおいたり、用意していくけど、その場、その場で臨機応変にフレキシブルに思ったこと、浮かんだことをすっとリアルタイムで加えていく。なので、気づいたら予定分数をかなりオーバーしていたなんてことも多々ありますよ。
─その場合は、考えながらやるものですか?無意識に気づいたらこうなっていたって感じなんですか?
両方ですね。順列並べ替えや組み合わせを把握して、熟知して、駆使しなくてはいけないところもあるので。けっこう数学的だったりします。音色の切り換えもそうですが、こっちの足では独立した3つのチャンネルのどこにどの音を入れようか?も瞬時に判断しなくちゃいけないですからね。計算しないで感性に任せっぱなしにしちゃうと、ややもするとアブストラクトになり過ぎたり、感性に委ねないと、予定調和的で面白味がなかったり。ホント、その両方のバランスの良い共存を目指しています。無意識に考えているという感じですね。"しまった!!"という事もたまにあります(笑)。
▲これがメインで使っているループペダル。こちらに外付けのアンドゥーとタップ機能を持たせたスイッチャ―とリンクさせ、ループペダルの1チャンネル1チャンネルに、リアルタイムで色々な音を録音させていき、それをループさせ、曲を構成していく。
─演奏中、かなりトランス状態に陥っているように映っているので、そこで冷静さをどこかで保っているところが想像出来ません。
入り込んでいる自分と、それを鳥瞰のように傍観している自分が同居している感じです。トランスモードになっていかないとエモーショナルなグルーヴまで辿り着けないし、入り込み過ぎちゃうと自己満足の音楽で終わっちゃう懸念もある。いつもそのせめぎ合いです。
▲リアルタイムで、即興で1曲、弾いてくれた。アコギのサスティーンの活かし方と、音処理の機転は、ほれぼれするぐらい素晴らしい。今、気づいたが、ギターの側ボディに何やら、面白い戒め的なステッカーが(笑)。
▲ギターで作った音だけではなく、ボイスパーカッションで、ビートやハイハット、スキャット等も駆使し、それをエフェクトさせたりすることで、幻想さや神秘性を加味させていく。肉声ならではのふくよかさや暖かみのある音が特徴的であった。
─KENTAさんの思う、このループペダルのいいところと悪いところを教えて下さい。
いいところは使いこなせるようになれば、自分の思い描いている音を1人で作り出すことが出来る。本来だったら、大所帯でやらなくちゃいけないものも、このループペダル一つで大丈夫。逆にマイナスを挙げるとすれば、限りがあるところですね。チャンネルに限りもあれば、演奏できる楽器に限りもある。だけど、その逆とも言えます。制限の中で、どれだけ自分のイマジネーションを駆使して突破して新しい景色を作り出すことが出来るか?あとは、やはり一人でリアルタイムでやるので、ごまかしがきかない。変な音が1音混じってループされちゃうと、それをごまかすことが出来ませんからね。僕の場合は、それも勝手に味と捉えて進めていっちゃってますが(笑)。
─これから、このループペダルを始めたいと思っている方々に何かメッセージを。
操作は慣れですが、やはりセンスが大事で、ポイントになってくる機材です。なので、逆に是非僕はみなさんに(特に音楽をやった事無い方に)これをやって欲しい。子供さんとか凄くいい感性&知育発達玩具になりえると思うんです。ホント、大人にとっても子供にとっても最高のおもちゃですから。むっちゃ頭を使うし、先々を予見しながらリアルタイムで右脳と左脳の両方を使う。毎回違う芸術が生まれるこのループペダルはとにかく楽しいですよ。
─ちなみにKENTAさんがループペダルを使って以降、何か自分に成長をもたらしてくれたものはありましたか?
自信ですね。グラストンベリーとかの大舞台でバンドが居なくても、1人でメインステージにポンと立たされても、お客さんを湧かせる自信が付きました。まさにこれがあれば百人力です。ソロミュージシャンとしての自信を凄く育ませてもらいました。
2018年はより世界照準を目指し、さらにパワーアップして進んでいく
─そう言えば、間もなくニューアルバムの制作に入られるとか?
そうなんです。「目指せグラミー賞!」と銘打ち、クラウドファンディングで資金を募りました。おかげさまで160%以上の達成率で。2018年の2月からドイツのベルリンで、4か月に渡ってレコーディングをしてきます。
─4か月、かなり長いですね。
まずはパワーアップして、新しいスタイルを作った上で制作に入る予定です。
─そのパワーアップとは?
今はアコギをメインに使っていますが、次作からはエレキギターを中心に制作していこうかなと。やはり今後フェスの大きなステージに照準を置いて、立ちで、エレキで、シンセサイザーやサンプラーも交えて、ガツンとしたスタイルで挑みたいと考えています。ホント、グラミー賞を狙っているので。そして、その新作を引っ提げて、またワールドツアーも行いたいですね。
と言うわけで、この取材の翌日からは、年末年始の大規模なフェス<Woodford Folk Festival>を含む、約2ヵ月のロングなオーストラリアツアーに向かったKENTA。きっとかの地でも、あの持ち前のバイタリティと行動力、ループペダルを駆使したパフォーマンスで、多くの人を魅了し、また予定をかなり上回るライブをこなして帰ってきそうだ。
そして、2月にはいよいよアルバムのレコーディングに突入。初夏には、更にビルドアップした世界照準のKENTA HAYASHIをワールドワイドに楽しませてもらえそうだ。
他の楽器がなくても、他に楽器が弾けなくても、アイデアや機転を用い、一人でもけっしてバンドに負けない気強さと人前で演奏できる気持ち良さを味わえるであろう、このループペダル。
これさえあれば、みなさんも、もしかしたらグラストンベリーのステージに立て、グラミー賞を狙えるかもしれない。少なくとも、それを今回のKENTA HAYASHIは教えてくれた。
Live Set Equipment
Martin Acoustic Guitar / K.Yairi / Boss AB-2 / RB-5S Relic Buffer / TC ELECTRONIC HyperGravity Compressor / TC ELECTRONIC Shaker Vibrato / MXR M109S SIX BAND EQ / DIGITECH Whammy Ricochet / JIM DUNLOP GCB-95 CRYBABY WAH WAH / Digitech HardWire RV-7 Stereo Reverb / Maxon Analog Delay AD-900 / TC Electronic Nova Delay ND-1 / BOSS - RC-300 Loop Station / BOSS FS-6 / SoulPowerInstruments Custom Stereo D.I Purple Lotus / Pick CLAYTON ULTEM US 0.72 & JIM DUNLOP ULTEX STANDARD 0.73 / MONTREUX Premium Cable "Arena Jr.-15LL"
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Text&Interview:池田スカオ和宏
Photo:小笠原幸一
撮影場所:下北沢Circus