マニアが集う“注文の多すぎる料理店” ~ブラジル料理編~

マニアが集う“注文の多すぎる料理店”~ブラジル料理編~
ブラジル音楽と聞いて、皆さんは何を思い浮かべます? ボサノヴァ? サンバ? それらは確かにブラジル音楽。でもそれだけ? いやいや。もっとあるんです。ダンスミュージックにヒップホップ、ロック、さらにはフォーク。オルタナだってレゲエだってある。日本ではあまり知られていないだけで、実は非常に多彩な音楽王国なのです。 そんなリアルなブラジル音楽を楽しめるお店が「アパレシーダ」。

一般のお店では買えないCDやレコードを販売し、さまざまなイベントを開催。さらにブラジルの家庭料理まで楽しめる。ブラジル音楽好きであれば、立ち寄らずにはいられないコミュニティスペース。聞くところによれば、ブラジルに興味の無い人も、訪れた途端すっかり魅了されてしまうのだとか……。
それが本当なら恐るべしアパレシーダ。どんなところなのか、行ってみました!

ブラジル好きが集えるコミュニティー・スペースとして、会社を辞めてAparecidaをオープン!

ブラジル好きが集えるコミュニティー・スペースとして、会社を辞めてAparecidaをオープン!(1)

お店があるのは中央線・西荻窪駅。古書店や居酒屋などの落ち着いた雰囲気のお店が並ぶ通りを行くと、入口周辺にポルトガル語のイベントフライヤーを貼りまくった怪しげな建物が。何やら異彩を放っています。ドキドキしながら二階に上がり、扉を開けるとブラジル関連のCDやレコード・雑貨・お酒などがぎっしり!

ブラジル好きが集えるコミュニティー・スペースとして、会社を辞めてAparecidaをオープン!(2)
バーカウンターの上に吊るしてあるチラシや、所狭しと飾ってある写真などは、ブラジルの田舎町にあるお店をイメージ。訪れたブラジル人客が、その本格的なムードに驚くこともあるとか。

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関連書籍や、ウィリーさんが買い付けてきた雑貨も人気。キーホルダーやピンバッジ、国旗グッズ、フィギュアなどここでしか見つけられないものも多い。

圧倒されていると店主のウィリー・ヲゥーパーさんが登場。早速話を聞かせてくれた。ちなみにウィリーさんは日本人。普段はライターもやっており、名前はペンネームです(こっそり本名を聞き出そうとしましたが、教えてくれませんでした笑)。

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「2018年夏はこれ!」とお勧めしてくれたブラジル産レゲエのレコード。

「もともと僕はサラリーマンをやりながら、ブラジル音楽のCD解説などを書いていたんです。でもブラジルには行ったことがなくて(笑)。
そこで意を決して2002年、初めてリオ、サンパウロに行ったんだけど、それがすごいショックで。それまでにレコードやCDは何千枚も持ってたし、ブラジル音楽のことなら何でも知ってたつもりだってたんですよ。でも現地のレコード店に入ったら知らないアーティストの作品ばかり。しかも聴くとどれもいい! 愕然としちゃいました」
ウィリーさんがそんな衝撃体験をしたのは、現地ばかりではなかった。

「当時、六本木にブラジル人が大勢集まるクラブがあって、何度か通ってたら、ある時、若いブラジル人が声をかけてきたんです。『君、日本人?どんな音楽が好きなの?』。それで『ジョビンとかエリス・レジーナとか』って言ったら爆笑されちゃって。『それ、母ちゃんがよく聞いてたよ』とか『今のブラジル音楽でもいいのはいっぱいあるよ』って。自分が音楽ライターだっていうのが恥ずかしくなりましたね。
あと浜松にある在日ブラジル人の街を訪れたら、セルタネージョ(ブラジルのカントリー音楽の一種)の人気アーティストが来日すると教えてもらって。フライヤーを見たら、会場が浜松・名古屋・津だけの3ケ所。東京はない。それも意外だったけど、行ったらもっと意外で。巨大な体育館みたいな会場にお客さんは3千人くらいほぼ全員ブラジル人! みんなライブ見ながら涙流して、大騒ぎしてるんですよ。初めて見る光景に圧倒されちゃった。
そんな体験をしてるうちに、なぜ日本のメディアは、昔のブラジル音楽のことばかりで、今のリアルなブラジル音楽を紹介しないんだろうなって。これはもう自分で紹介するしかないって、勝手に使命感を覚えて会社を辞めちゃった(笑)。

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ウィリーさんの責任編集によるフリーペーパー「Journal Cordel」。最新のブラジル音楽情報が詰まっている。

それでブラジルにも通うようになってフリーペーパーを始め、ディスクガイドや本を書くようになって。さらにブラジル好きが集まれる場所を作ろうと思って2006年にオープンしたコミュニティスペースがここアパレシーダなんです」

店頭に置かれているCDやレコード、雑貨、書籍は、ウィリーさんが買い付けたもの。新品から中古まで様々で、中にはウィリーさんの私物もある。音楽のジャンルでいえば、日本でも人気のサンバやボサノヴァはもちろん、ジャズより歴史があるといわれるショーロ、MPB(ブラジルの一般的なポップス)、アシェー(バイーア州で盛んなアフリカ・ルーツのダンスサウンド)、フォホー(ブラジル北東部のペアダンス音楽)など様々。入手しづらいものも多く、中にはすでに廃盤となっている名盤も。

ブラジル好きが集えるコミュニティー・スペースとして、会社を辞めてAparecidaをオープン!(6)

お店の半分はカフェ&イベントスペースになっており、ここでは毎日ブラジルにちなんだイベントを開催している。ブラジル音楽の歴史やジャンルを紹介する講座や、サンバリズムのワークショップ、楽器練習会、さらにはブラジル人先生によるポルトガル語レッスンなど。ブラジルを一歩踏み込んで理解するための企画が目白押しだ。取材にお邪魔した日は「パンデイロ」というブラジルの打楽器制作者である戸田さんがブラジル訪問時に撮影した写真展&ワークショップが開催されていた。

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「これまで開催したイベントで面白かったのは、サンパウロに60年住んでるブラジル音楽評論家・坂尾英矩さんの講演会。坂尾さんはアントニオ・カルロス・ジョビンとかバーデン・パウエルとかブラジル音楽のレジェンドと飲み友達なので公にされていない貴重なエピソードやブラジル人らしい人間味溢れる面白い話が聞けました。『マシュケナダ』を歌ったジョルジ・ベン・ジョールは1972年の初来日公演で名古屋に行ったとき、ある日本人女性と仲良くなって、ブラジルに帰った後に事務所名を「NAGOYA」に変えたというエピソードとか(笑)。あと盛り上がったのはやはりサッカー。ブラジルW杯の時、情報を求めて来店されるサッカー好きの人が多く来店してくれたので、その人たちを一堂に集めて決起集会をしたんです。サッカーの話以外でも、ブラジル旅行の心得みたいな話をしたり。音楽メインだけど、ブラジルが好きな人のための企画も様々にやりますよ」
  • さて、一息ついて食事を頼むことに。ここではブラジル家庭料理やドリンクが楽しめる。

    今のリアルなブラジル音楽を紹介するため、会社を辞めて飲食店をオープン!(8)
    「フェイジョアーダ(ブラジルの黒豆を豚肉や牛肉と一緒に煮込んだ料理)」(1200円)と「フェイジョン(ブラジルの豆シチュー)とリングイッサのプレート」(1200円)。

    今のリアルなブラジル音楽を紹介するため、会社を辞めて飲食店をオープン!(9)
    カシャーサ(ラムにも似たサトウキビの蒸留酒)とライム、砂糖、氷で作るブラジルを代表するカクテル、「カイピリーニャ」(680円)と、こちらもブラジルの代表的ソフトドリンク、「ガラナ」(500円)。

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    「パステル」(500円)揚げたパイ生地の中にチーズとオリーヴが入っているブラジルを代表する軽食。

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    「アサイーボウル」(680円) ブラジル産のアサイーは、日本で売られているアサイーとは違い、とにかく味が濃厚!

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    ブラジルの家庭ではポピュラーな調味料たち。激辛系からアマゾン産のレアなものまで。料理にかけて試すと楽しい!

    ウィリーさん自身がブラジル音楽のライターにして、CD制作のコーディネイトなども時折行うため、ブラジル人ミュージシャンとも取材を通じ交流が生まれ、お忍びで来店することもあるのだとか。
    「ミュージシャン同士の口コミもあって、これからデビューする若手から、スタジアムでやってるような大物まで、割といろんなアーティストがここにご飯を食べにきますね。大物だとシンガーソングライターのフラヴィオ・ヴェントリーニとか、ブラジル・ギターの大御所、ヤマンドゥ・コスタとか。ブラジルには日本のようなディスクガイドってなくて。彼らが僕が書いたようなガイド本とか見るとすごく欲しがってくれますね」


    アパレシーダがユニークなのは、モノではなく体験を提供するということで、イベントばかりではなく、ブラジルツアーまで行っていること。しかも通常の旅行代理店が企画するありきたりのツアーではなく、よりブラジル音楽愛好家に寄ったツアーとなっているのだ。

    今のリアルなブラジル音楽を紹介するため、会社を辞めて飲食店をオープン!(13)
    ブラジルツアーではリオのブルーノートなど、様々な音楽の旅が。

    「もともとは、複数のお客さんから「ブラジル行きたいんだけど一人は怖い」って言われて、それならみんなで行こうと始めました。2007年から毎年やってこれまで12回開催してます。行くのは例年9月が多いです。期間は年によって違いますが約2週間で3都市を廻ります。途中合流や途中抜け、ツアーが終わってからの延泊もありなので、1週間の人もいれば1カ月近く滞在する人もいます。ライブはもちろんだけど、お客さんのリクエストを聞いて、みんなでジョアン・ジルベルトの生まれた家に行ったり、カエターノベローゾの生まれた街に行ったり。常連さんの中には個別に楽器のレッスンを受けにいったり、レコードを探しに行ったりする人もいますね」
    それにしてもとにかく奥深いブラジル音楽の世界。知れば知るほど魅了されてしまう。
    では、最後にウィリーさんが考えるブラジル音楽の魅力とは何か。
    「ミックスですね。ブラジルって混血国家なんです。白人、黒人、黄色人種、様々な人種が混ざり合って国を作ってる。混ざることが国民性なんです。音楽もすごく多彩なんですけど、実は混ざり合ってる。例えばヒップホップで、ボサノヴァの曲をサンプリングしたり、セルタネージョの人がサンバの人と曲を作ったり。そう考えて聴くと、いろんな音楽の繋りがわかってきて楽しいし、だからジャンルではなくブラジル音楽として何でも楽しめちゃう。うちのお店でもそういう混ざり合うことが楽しめるような何でもありの空間で居続けたいと思っています」

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    ウィリーさんによる著書『リアル・ブラジル音楽』(ヤマハミュージックメディア) ブラジル音楽の歴史や最新情報までがディスクガイドを織り交ぜ解説。

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    【SHOP INFO】

    ●アパレシーダ
    東京都杉並区西荻南3-17-5-2F
    TEL:03-3335-5455
    営業時間:18:00~24:00
    不定休
    http://aparecida.jp


    Text:大野 智己
    Photo:渡邊 眞朗

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