レコードマニア・実況アナウンサー清野茂樹に聞く!プロレス舞台裏の功労者たち

レコードマニア・実況アナウンサー清野茂樹に聞く!プロレス舞台裏の功労者たち
現代を代表するプロレス実況アナウンサーでありながら、プロレスレコードマニアでもある清野茂樹氏。今年3月に上梓した『1000のプロレスレコードを持つ男』(立東舎)は、懐かしのあのテーマ曲がジャケ写付きでズラリと並び、その一つひとつについて入念な取材がなされた渾身の一冊だ。さすがの美声で語られるテーマ曲にまつわるお話からは、音楽が、またそれを選んだ“裏方”が、プロレス業界にいかに貢献したかが明らかに!

インタビューを受ける、実況アナウンサー清野茂樹氏

プロレス入場テーマ曲ブームを作ったのは、テレビ局ディレクター

─今年3月に上梓された『1000のプロレスレコードを持つ男』では、業界の“裏方”に入念な取材をされていますね。

昔は選手のテーマ曲はテレビ放送のための音響効果と捉えられていて、テレビ局のディレクターや音効マンが決めていたんですよ。だから選手に聞いても知らないんです。この本を書くにあたっては、その曲を選んだ経緯や理由をきちんと聞こうと、たどり着けるところは全部行きました。だからこの本のインタビューもほとんど裏方ばかりですね。

プロレス入場テーマ曲ブームを作ったのは、テレビ局ディレクター(1)
『1000のプロレスレコードを持つ男』
http://rittorsha.jp/items/16317410.html

─入場テーマ曲は選手が決めるものではなかった! ちなみに日本で初めて入場テーマを取り入れた人は誰なのですか?

マイティ井上さんが欧州遠征で観た入場スタイルを取り入れた説と、東京12チャンネル(現:テレビ東京)のディレクターだった田中元和さんが始めた説があります。僕はお二方とも直接お話を聞いたんですが、言っていることが違うんですよね(笑)。でも、それもまた“プロレスっぽい”ところで、厳密に調査して誰かを傷つける結果になるより「諸説あり」のままが面白いかなと。

ちなみに、最初にテーマ曲として使われたのは、74年9月に国際プロレスに来日したビリー・グラハムのために、その田中ディレクターが選んだ『スーパースター』(『ジーザス・クライスト・スーパースター』のサントラ)。実は足りない番組尺を埋めるための苦肉の策で、グラハムが「スーパースターっぽい」という理由でなんとなく選んだそうです(笑)。

    • Superstar/Andrew Lloyd Webber/Jerome Pradon/New Cast Of Jesus Christ Superstar (2000)

      シングル

      257

      Superstar
      Andrew Lloyd Webber/Jerome Pradon/New Cast Of Jesus Christ Superstar (2000)
  • プロレス入場テーマ曲ブームを作ったのは、テレビ局ディレクター(2)

    日本人で初めてテーマ曲が付いたのは猪木さんです。あの曲はメロディもいいし最強ですね。単純に元気が出ます(笑)。B面の倍賞美津子さんが歌う『いつも一緒に』はCD化されてないので、このレコードにしか入っていません。当時の妻だった美津子さんが「私が歌うわ」と実現したそうで、内助の功を感じさせるイイ話ですね。
  • ※甲子園の応援でおなじみのブラスバンドver

    77年2月に来日したミル・マスカラスの『スカイ・ハイ』は、日本のテーマ曲の歴史を変えた1曲です。元日本テレビのディレクター梅垣進さんが福岡のディスコで偶然聞いて選んだのですが、「あの曲は何?」とお客さんの問い合わせが殺到し、テーマ曲ブームのきっかけに。これ以来、入場時にテーマ曲をかけるのが通例になりました。
  • ─ディレクターがその曲を選ばなければ、入場テーマ文化は定着しなかった可能性もあるんですね!

    そうです。あと、よくぞこんな曲を選んだなっていうのが、NWA世界ヘビー級チャンピオンのテーマ「ギャラクシー・エクスプレス」。“チャンピオンが使えるテーマ曲”ってこれぐらいじゃないですかね。梅垣さんはリック・フレアーをイメージして選んだそうで、ほかにハーリー・レイス小川直也さんも使っていました。子門真人の「スター・ウォーズのテーマ」のB面で、実はルーカス・フィルムの許諾を取らずに発売したらしく回収騒ぎになり、そんなに流通してないんですよ。
  • ※スカアレンジver

    プロレス入場テーマ曲ブームを作ったのは、テレビ局ディレクター(3)

    ─レア盤ですね! ディレクターや音効マンが選手やシーンにピッタリの曲を選んできた。そういう意味では、プロレスの歴史は選手だけでなく裏方も共に作ってきたと言えますね。

    そうかもしれないですね。ただ、70年代のテーマ曲を選曲した方は亡くなっている方も多くて、もう時間との戦いですね。テーマ曲を巡る調査は考古学みたいなものですから! また、いざ連絡を取ってもこちらの情熱とは裏腹に本人たちは記憶が曖昧で、「覚えてないなあ」って言葉は何十回と聞きました。刑事の聞き込みと一緒で粘るんですけど、明らかに早く電話を切りたがっていたり(苦笑)。

    ─選んだ本人は意外とビジネスライクにやっていたという(笑)。

    そのギャップに毎回苦しんでいます(笑)。でも時々いい話に出会えるんですよ。たとえば、ハルク・ホーガンはプロレスラーになる前はアメリカでバンドをやっていて、でも芽が出なかった。ところが日本でレスラーとして人気が出て、ワーナー・パイオニア(現ワーナーミュージック)からレコードデビューを果たしたんです。ちなみにホーガンはベースボーカルで、ギターはCharさん、ドラムはジョニー吉長さんと、豪華メンバーです。

    ※ ハルク・ホーガンvsリック・フレアー(WWE公式より)

    プロレス入場テーマ曲ブームを作ったのは、テレビ局ディレクター(4)

    ─日本の裏方がハルク・ホーガンの夢を叶えていたとは! ところで選手が自分のテーマ曲を選ぶようになったのは、いつ頃からですか?

    “闘魂三銃士”“四天王”の世代からは、選手が自分で選ぶようになっていった感がありますね。まずは橋本真也。音効マンが選んでくれた曲を「気に入らない」と自分で選んだものの、全然合わない曲で、音効マンに謝って「じゃあ一緒に考えよう」と二人で考えて作ったのが「爆勝宣言」。この音効マンというのが、武藤敬司さんや小橋建太さんの曲を作った鈴木修さんです。

    ─レスラーと音効マンのタッグであの名曲が!
  • 三沢光晴さんにしても、テーマ曲が一時期コロコロ変わったんですよ。というのも、三沢さんがタイガーマスクのマスクを脱いで三沢光晴になったのは平成2年で、ちょうど昭和から平成はテーマ曲も激動の時代。テレビ局主導だったのが、団体主導で曲を選ぶようになってきていたんです。テレビ中継がある日とない日で曲が変わる中、三沢さんが自分で選んだのが「スパルタンX」なんです。
  • 自分で持ち込んだ外国人選手は、ディック・マードックが初めてという説がありますね。テレ朝の音効マンが選んだ曲が気に入らなくて「これを使え」とカセットテープを持ち込んだらしいんですが、それがまたテープだからテレビ局のプロデューサーに聞いても曲名をご存じない。長い間その曲名は誰も知らなかったんですが、あるマニアがThe University of Texas Longhorn Bandの「テキサス・ファイト」だと探り当て、我々マニアは「おおー!」と盛り上がったわけです(笑)。

いい入場曲の条件とは?

─インターネットも普及していない時代、テーマ曲を探すのは大変だったのでは?

いちばんはマニアのネットワークですね。昔の雑誌には「文通しよう」というコーナーがあったりして、マニア同志が連絡を取り合ってましたよね(笑)。僕は文通こそしませんでしたが、そういうところで繋がって情報交換していましたね。ある方とはもう20年来の付き合いですが、一回も会ったことがないから顔をまだ知らないんですよ(笑)。メールの前の時代だった習慣で、年賀状のやり取りは毎年続いていますね(笑)。
ほかにも僕なんかよりずっとすごいテーマ曲マニアはいて、一昨年グレート・カブキさんのお店で集まりがあったんですけど、さすがマニアと言いますか、店内に流れるテーマ曲への反応がイントロクイズぐらい速い!「これは三沢ですね、でもカバーです」と、仲良く盛り上がりました(笑)。

─楽しそうです(笑)。そもそも清野さんがここまでテーマ曲のレコードを集めることになったきっかけは?

イラストレーターでレコード・コレクターの本秀康さんに言われたひとことですね。8、9年前にお会いした際に「プロレスのレコードをどれぐらい制覇したんですか?」と聞かれ、8割方と答えたところ「100%じゃないと強くなれないですよ」といったことを言われて「確かに」と。それ以来、本気で集めようと、欲しくないものまで買うようになりました(笑)。

─音の出ないソノシートにも数万円を払うようになったそうですね(笑)。

そうなんですよ。これなんかも力道山がジャケットのCMソングなんですけど、別に力道山は歌ってないんですよ(笑)。でも100%になるためには買うんです!
また、カバー曲がオリジナル曲かという問題もある。この「メイン・イヴェント」というレコードなんかは、ハンセン、ブロディ、ニック・ボックウィンクルの曲も入っていますが、全部カバーです。ハンセンの曲もオリジナルそっくりで完成度は高いんですけど、そっくりだから嬉しいかというとそうとも言えないのが、マニアの悲しいところで(笑)。

いい入場曲の条件とは?(1)

─音効マンが効果音を足したりマッシュアップして、躍動感のあるオリジナルテーマになっているんですよね。

そうなんです。だからそのテーマ曲は、そこ(会場)にしかないんですよ!

─さて、清野さんの考えるいい入場曲の条件とは何でしょう?

まず、メロディがあることですね。例えばアントニオ猪木さんの曲のメロディって、たぶんみんな覚えてるじゃないですか。新日本プロレスの内藤哲也さんの曲もいいですね。主旋律が歌えるかどうかは大事だと思います。あとは冒頭のインパクト。日テレの音効マンの小川彦一さんは「45秒が勝負」と言っていましたが、控室からリングまでの間に山が来ないと盛り上がりに欠けます。

─獣神サンダー・ライガーのテーマ曲もインパクトがありますよね!

そうですね。あと、手拍子がしやすい。UWFのテーマのようなマーチの曲って、二拍子で手が叩きやすいのもいいですよね。そういう意味ではブッチャーの『吹けよ風、呼べよ嵐』はどれにも当てはまらないんですけど、とにかく曲のイメージが非常に本人と合っている。イメージが合っているのも大事です。

試合に付加価値をつける実況という仕事


─さて、ここで清野さんの本業である実況について教えてください。子供の頃からなりたかったそうですが、なぜプロレスラーではなく実況?

子供の頃からプロレスファンなんですけど、なにぶん虚弱体質で(笑)。それにある試合で、ディック・マードックが固いエプロンサイドで、木村健悟さんの喉へエルボーをドスーンとやったのを見て「ああ、俺には絶対ムリだ」と思いましたね(笑)。そもそも中継の実況がかっこよくて「こっちがやりたい」と、テレビの前にラジカセを置いて録音しては、特に古舘伊知郎さんの実況は完コピしてましたね。

国語の作文でも、例えば運動会なら「一騎当千の兵達がいよいよ、この秋の空の下で決着をつけるわけであります」とか、古舘風のフレーズで大げさに書くわけです。担任の先生も呆れてたんでしょうね、ひとこと「面白いですね」とだけ、なげやりな感じで書いてあったりしました(笑)。

試合に付加価値をつける実況という仕事(1)

─そんな清野さんは今でこそ第一人者ですが、その道は順調ではなかったそうですね。

大学3年生の時にアナウンサーになりたいと思ったのですが、なかなかアナウンス試験に通らなくて。でも今思えば、どこの局に行っても「プロレスの実況をしたい」と言うヤツなんて自分でも入れないですね(笑)。その中で広島FM放送だけは「じゃあやってごらん」と言われ、ラジオのブースで架空実況をやったんです。小学生の頃からやってることなのでキャリアは長いですから(笑)。それで採用されまして。

─その実況という仕事で、モットーや心がけていることはありますか?

いやー、好きが高じてこんなことをやってますけど、実を言うと何も深く考えてないんですよ。単純に、小学校の時に観た古舘さんと同じことをやりたいという、本当にそれだけのことを何の成長もなくやっているだけなんで(笑)。

─実況は裏方でありながら試合に参加するような部分もありますよね。

場外乱闘に巻き込まれたりとか、アナウンサーも含めて登場人物というところはありますね。あと、野球やサッカーと違ってプロレスは表現が自由ですから、付加価値を付けるために、大げさに言ったり話を盛りますね。

そういう意味で古舘さんはすごかったですね。「ブレーキの壊れたダンプカー」のほか、「掟破りの~」「名勝負数え唄」「ツープラトン攻撃」など、30年経っても使われている、今やスタンダードになった名フレーズがある。ほかにも猪木とホーガンの闘いを「蘇ったネプチューンとヘラクレスの息子アントニオが――」とギリシャ神話に例えたりする。子供心にも何を言ってるのか分からないけど、なぜか納得していたり(笑)。

試合に付加価値をつける実況という仕事(2)

これは古舘さんがフリーになって出したレコードなんですが、内容的にはプロレスはまったく関係ない、男女の恋愛の駆け引きなどをひたすら実況したスネークマンショーのような要素のあるレコードです(笑)。ほかにも、古舘さんが入場テーマまで歌っている上に自分で実況までしてしまうというレコードまであります。

─そういう清野さんも夢を実現し、レコードを出されるそうで!

そうなんです! シングル盤を2枚で、1枚はA面が長州力の「パワー・ホール」、B面が藤波辰爾の「ドラゴン・スープレックス」。それにそれぞれが入場する時の実況も入れてあります。昔のプロレスレコードって、実況が入っているものが多かったんですよ。「さあッ、今からスタン・ハンセンの入場であります!ブルロープを振り回して、いよいよリングへ向かいます」みたいなことを言ってから曲が始まるという。

─すごい臨場感! プロレスにはやはり実況が不可欠ですね!

ボーナストラックとして「架空実況」も入れています。1984年に二人の試合に藤原喜明が乱入して、長州が大流血で救急車で運ばれ、無効試合になったことがあったんですけど、普通に試合の実況をしても仕方がないので、「藤波が怒ってホテルに帰ったけど鍵を付き人に預けたままで部屋に入れず」という逸話を実況しています(笑)。

もう1枚はA面が「UWFプロレスメインテーマ」、B面が「ワールド・プロレスリング・オリジナルテーマ」。こちらでは、対抗戦をしていた新日本プロレスとUWFが熊本での試合後に旅館の大広間で親睦会を開いたら、酔ってケンカになり、旅館を一軒ぶっ壊したという事件を、断片的なエピソードを繋ぎ合わせて架空の実況で再現しています。

─かなり冒険的な内容のようで、楽しみです!

この実況入りレコードを出せるというのは、本当に長く願っていたことなので、今年の僕のクライマックスです(笑)。次の目標としては、いつかLPを出したいですね!


【PROFILE】
清野茂樹(KIYONO SHIGEKI)
広島エフエム放送でアナウンサーを経験後、幼いころからの夢であるプロレス実況者になるため2006年よりフリーに。15年には新日本プロレス、WWE、UFCという世界3大メジャー団体の実況を史上初めて達成。2017年10月に初のレコードを発売する。

清野茂樹オフィシャルウェブサイト
http://kiyonoshigeki.com/

試合に付加価値をつける実況という仕事(3)
試合に付加価値をつける実況という仕事(4)

■1000のプロレスレコードを持つ男EP.「名勝負数え唄編」
■1000のプロレスレコードを持つ男EP.「新日本×UWF編」
HMV record shop より2017年10月21日(土)発売(各1800円+税)
※ HMV record shop 3店舗のみ10月14日(土)より先行販売


■10月15日(日)16:00から
HMV record shop 新宿ALTA店にて、リリース記念イベント開催(入場無料)!
ゲストの外道選手(新日本プロレス)とともにルェェェェェベルの違う音楽トークが炸裂か!?


Text:明知真理子

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