マニアが集う“注文の多すぎる料理店”~パンク編~

マニアが集う“注文の多すぎる料理店”~パンク編~
日本で最も若者が溢れかえる街・渋谷。センター街や公園通りとはちょっと外れた文化村通りを進み、東急本店の脇を抜けた一角。落ち着いた雰囲気の飲食店や雑貨店が並び、近年「奥渋」「裏渋」などと呼ばれるが、そのエリアにパンク好きなら足を運ばずにいられない大衆割烹がある。それが「GNSP」だ。

「パンクは音楽以外にもあるんじゃないか?」内装、メニュー表にも店主のパンク・スピリッツが充満!

何より外観からして独特だ。

「パンクは音楽以外にもあるんじゃないか?」内装、メニュー表にも店主のパンク・スピリッツが充満!(1)

壁一面を覆い尽くすフライヤーやポスター。セックス・ピストルズクラッシュなど、一見、パンクの人気アーティストのものかと思いきや、よく眺めるとその全てがなんとパロディ。知られたロゴで「HANPEN」「DASHIMAKI」と書かれている。その上、ピストルズ、クラッシュ以外のパロディ化するアイテムがまた絶妙。伝説的ハードコアバンド、ザ・クラスやUKスカシーンの首領、ギャズ・メイオール率いるバンド、ザ・トロージャンズなど、マニアを唸らせるものばかりだ。
怪しい雰囲気漂うこのお店。どんなお店なのか、潜入してみた。

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扉を開けると、店中、パンクバンドのポスターが貼られ、壁には人気ミュージシャンの直筆サインだらけ。

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店内は、パンクをはじめレゲエ、スカなどのルード・ミュージックが鳴り響き、店主の私物と思われるパンクのレコードが所狭しと飾られている。
特にそのレコードの大半がラフィンノーズスタークラブ、リップクリーム、ワンダラーズ、コブラ……。80年代初頭から半ばに発売された、日本のパンクバンドのインディーズ盤。どれも貴重なものばかりで、パンクマニアならば、それらを見るだけでも十分感激するはずだ。
圧倒されているところへ店主の柴田宏翼さんが現れ、話を聞かせてくれることに。

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柴田さんの着るシャツのワッペンには「渋谷番外地」「Spirit of EDO」の文字が。

─パンクのジャケを模したポスターにつられてしまいました。ライブハウスかパンクバーみたいな入口ですよね。

「よく言われます(笑)。でも下北沢や高円寺とは違うので、コアなパンク好きのお客さんはそんな多くないんですよ。むしろ謎めいた外観で入りづらいことを幸いに(笑)、隠れ家として利用されるお客さんが多いです」

─80年代日本のパンクのレコードがたくさん飾ってありますが、もともとそのあたりの音楽が原点なんですか?

「自分は67年生まれなんですけど、音楽をちゃんと聞き出したのは中学でメタルを好きになってからです。アイアン・メイデンジューダス・プリーストとか。で、83年、高校に入った頃、ハードコアが盛り上がり出して、自分も『アウトサイダー』(ラフィン・ノーズほかのバンドによるオムニバス)を聴いて、一気に夢中になりました。その流れでパンクやOi!も聴くようになりましたね」

─洋楽のハードコアは?

「聴いてましたよ。ディスチャージGBH、クラスなど、ハードコアでは王道のバンドが多かったですけど。当時は日本のバンドの方がカッコよかったんで、それほどは掘り下げなかったんです。日本のバンドで当時、好きだったのはラフィン・ノーズ、リップクリーム、ガーゼ、カムズ、OUTO、あとコブラとか。地元の静岡ではインディーズを扱うお店がなかったので通販で買ってました」

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─日本のパンクにどっぷり浸かってたんですね。

「2歳上の兄がパンクバンドをやってたんです。その影響もありますね。兄は高校の夏休み、パーマじゃなくモヒカンにするような人で。当時はモヒカンなんて、見かけない時代ですからね。表に出ると兄を見る人はみんな口を開けてびっくりしてました。人が戸惑うってのはこういうことなんだって学びましたね(笑)」

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─飲食の世界にはいつから?

「高校を卒業して、静岡の料亭に就職しました。その後、25歳で上京して、いくつかお店で働いたあと、中目黒に10席くらいの小さな店を出しました」

─その頃からパンク色の店を?

「いや、そうでもなかったです。ただお店の音楽は好きなものをかけたいじゃないですか。それでパンクをかけていたら、少しずつ好きな人が集まってきて。渋谷でお店を始めてからは、自分の趣味が出るようになりました。ある時期から加速するようになって」

─何かきっかけがあったんですか?

「SAのNAOKIさん(元ラフィンノーズ、コブラ)が司会を務めるタワーレコードのUストリーム番組「BARボイラールーム」をウチでやらせて頂いたんです。渋谷にパンクをかける店があるって、NAOKIさんが聞いたらしくて。毎月いろんな方がいらっしゃってポスターを貼ったりしてるうち、今のような雰囲気になっていったんです」


─「ボイラールーム」には、若手バンドからラフィンノーズ、HIKAGEさん(スタークラブ)、仲野茂さん(アナーキー)のようなレジェンドまで大勢のバンドマンが出演されてました。

「この歳になってNAOKIさんをはじめ、いろんな方々とお目にかかれるなんて自分としては夢みたいでした。収録の後の打ち上げまで楽しませて頂きました。今でも皆さん、たまに来られるのも嬉しいですね」

─ちなみに最近は、どんな音楽が好きなんですか?

「最近はOiバンドが好きで、LION'S LAWとかBooze&GLORY、Jenny Wooなどですかね。日本だとOi-SKALL MATESのギターをやっていた伊東妙子さんとCool Wise Manの篠田智仁さんのデュオ、T字路sってバンドとか。インディーズっぽい荒削りな音楽がいいですね」



─そろそろお料理をいただきたいんですけど、とにかくメニューやレコジャケを模したポスターが独特ですよね。

「単に面白がってるだけなんですけどね。自分のイメージを形にしてくれるデザイナーさんと偶然知り合いになったので。ただ細かすぎてわからないと言われますけどね(笑)。あとメニューは大好きなクラスのロゴと寄席の出番表のイメージで作ってもらいました」

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─なぜ、寄席を?

「学生時代、パンクは音楽以外にもあるんじゃないかって考えてた時期があったんですよ。落語って江戸時代、大衆の憂さを晴らしてたわけじゃないですか。パンクと似てるなって思えたんですよ。ウチは和食を念頭に置きつつも、大衆酒場をイメージした料理を出すんで、落語にも近いものがありますし、だったら寄席の順番みたいなイメージで料理を紹介できたら面白いだろうなと」

─なるほど。ではお料理を頂いても?

「今日は刺し盛りとポテトサラダの二品で。どちらもポスターを作りましたけど、よく出るメニューですね」

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刺身盛り合わせ ¥1500(税別)は、旬の魚を最も美味しいタイミングで仕入れ、贅沢に盛り合わせた人気メニュー。

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ポテサラ ¥500(税別)は、カリカリのベーコンとピクルス、人参が入り驚くほど味わい深い。ボリュームも満点だ。

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レコードジャケットを模した各メニューのポスター。

─ありがとうございます。酒呑みには確実に嬉しいメニューです。まさか、こんな外観のお店でしっかりした刺身が食べられるとは……。最後に、柴田さんがパンクを通じて学んだことってなんでしょう?

「若い頃は衝動でしかなかったんですけど、この歳になって思うのは、続けることがいかに凄いかですよね。そもそも何十年も現場に出て、スタンスを変えず続けてるバンドマンって、パンク以外いない気がするんですよ。NAOKIさんも、HIKAGEさんにも、ラフィンノーズもみんな40年近くライブし続けている。それって本当にすごいなと思うんです。自分もお店を始めてまだ十数年なんですけど、ただひたすら続けていきたいなと思うんですよね」

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店名の「GNSP」は思いつきで決めたとか。後付けで「Great Night Sakamori Party」の略称と読んでいる。


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●味酒場GNSP
住所:東京都渋谷区宇田川町37-14 大向塚田ビル 2F
電話番号:03-6416-8806
営業時間:18:00~翌2:00
定休日:不定休

http://www.ns-punk.jp/


Text:大野 智己
Photo:武田 敏将

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