第三十七回 群馬のブラジル料理とアンサンブルコンテスト【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】

 

音楽を気軽に楽しんでいただくため、毎回オススメの曲とそれに合わせたお酒をご紹介する連載【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】。第三十七回は「アンサンブルコンテスト」についてお送りします。

『第47回全日本アンサンブルコンテスト』が2024年3月20日(祝・水)に高崎芸術劇場で開催されました。全国、中学校(生)4,956、高校2,337、大学137、職場・一般542団体の中から選ばれた、それぞれ22団体(大学のみ11団体)が出場するコンテストです。3〜8名のグループで楽器編成がさまざまであるところが特色といえるでしょう(審査をする側からするとこれが大変なのですが……)。

朝の9時半から演奏が始まるということで、前泊し群馬の酒場を探訪、と計画していたのですが、用事が長引いて高崎に着くのが20時近くになってしまいました。翌朝早いので居酒屋は諦め、目を引いたブラジル料理のお店を訪問しました。群馬県は在住する外国人が多く、中でもブラジル人が多く住んでいるので、きっと本格的なブラジル料理を味わえるに違いないと期待してのことです。

お店の看板も鮮やかで異国情緒があります。出迎えてくれたのは笑顔が素敵なブラジル人オーナー夫妻。お客は日本人ばかりのようでしたが、カウンターを除いて満席。人気の高さをうかがわせます。

ドリンク・メニューには「カシャーサ」と呼ばれるサトウキビから造られるブラジルを代表する蒸留酒があり、心惹かれましたが、いかんせん度数が38~54%と高いので、翌日のコンディションを考えて泣く泣くパス。ブラジル産アウロラ社のワインを注文しました。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(1)

 

ブラジルのワイン産地は、ブドウ栽培に気候が適した南部リオグランデ・ド・スル州に集まっており、ここはまた肉料理「シュラスコ」発祥の地としても知られています。というわけで、この日のメインはシュラスコ。前菜にブラジル風コロッケ「コシーニャ」とヤシの新芽「パルミット」のサラダを頼みました。ヤシの新芽はちょっと筍みたいなシャキシャキとした食感が面白い。コロッケは生地がモチモチしており、食べ応えがあります。シュラスコに添えられたケールの炒め物が、肉と肉の合間の口直しにぴったりで大変気に入りました。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(2)

 

さて、ここでアンサンブルコンテストの話をする前に、ブラジルを代表する作曲家エイトル・ヴィラ=ロボスのご紹介をしましょう。彼は1887年リオ・デ・ジャネイロに生まれ、大学教授の父ハウルからチェロやクラリネットの手ほどきを受け、またピアニストの叔母の弾くバッハを聴いて育ちました。12歳の時に父を天然痘で亡くすと、母親の反対を押し切り、独学で音楽の道へと進みます。「ショーロ」というブラジルの大衆音楽を演奏する楽団で演奏したり、民謡の採集を行ったりと、のちの彼の音楽の礎がここで築かれました。

20歳の時に国立音楽学校に入学し、和声法の講義を受けるものの、半年で退学。独自の道を歩みます。しかし、その道は平坦なものではありませんでした。なかなか世に認められなかったヴィラ=ロボスですが、二人の世界的な音楽家との出会いが大きなきっかけとなり、評価が高まっていきます。その一人はフランスの作曲家ダリウス・ミヨー、もう一人はポーランド出身のピアニストのアルトゥール・ルービンシュタインです。

30代半ばでパリに渡り、ブラジルと行き来しながらの三度のパリ滞在はヴィラ=ロボスの音楽に大きな影響を与えました。代表作の『ショーロス』のほとんどがこの時期に書かれ、またもう一つの代表作『ブラジル風バッハ』は三度目のパリ滞在を終えた1930年に第4番が書き始められ、最後の第9番は1945年に書き終えられています。

『ブラジル風バッハ』はソプラノ独唱と8本のチェロのために書かれた第5番がとくに有名で、1.アリア(カンティレーナ)、2.踊り(マルテロ)の2曲からなっています。8本のチェロで演奏される第1番も演奏機会は多い名作。個人的にオススメは、旋律の美しさが際立つ第2番。ジャズ的な要素もあって楽しめます。1.前奏曲(ならず者の唄)、2.アリア(祖国の唄)、3.踊り(藪の思い出)、4.トッカータ(カイピラの小さな汽車)の4曲で構成されています。

『ショーロス』も編成はギター独奏からオーケストラに吹奏楽・合唱という巨大編成のものまでさまざま。第1番のギター独奏、第5番のピアノ独奏のための二作品は、とりわけ郷愁を誘うメロディが心地よい名作として知られています。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(3)

 

最後にアンサンブルコンテストで演奏された酒にまつわる作品をご紹介して終わりましょう。その名も《高貴なる葡萄酒を讃えて》。作曲者はイギリスのゴフ・リチャーズ(1944-2011)。金管十重奏のための曲で、Ⅰ.シャンペン、Ⅱ.シャブリ、Ⅲ.キャンティ、Ⅳ.ホック、Ⅴ.フンダドーレそしてシャンペンをもう一本、という銘酒揃いの組曲です。シャンペン、シャブリ、キャンティは説明の必要がないかと思いますが、ホックとはイギリスのラインワインの通称で、ドイツのライン川沿岸のラインガウ地方ホッホハイム村に由来するものです。フンダドーレはスペインのブランデーの名前です。乾杯はシャンパンからスタートし、白ワインはシャブリ、赤はキャンティ、甘口のホック、食後酒にフンダドーレ、飲み足りずにシャンパンといったところでしょうか。途中、シャンパンの栓がポンと開く音を描写する箇所もあったりして、酒好きの心も捉える楽しい作品となっています。

 

 

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Text&Photo:野津如弘

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