
昭和9年建造の九段会館3階ロビーの窓から新緑が生い茂る木々と、お堀をはさんで武道館が見える。ふと時が遡った錯覚に陥る。この九段会館は70年代から数々のフォークライブの名演が行われてきた趣のあるコンサートホールだ。3階席まで埋める客層は50歳代から60歳代前半のご夫婦が多く、男性同士、女性同士のグループも目立つ。その中には"バンド経験者"、"今でもバリバリに活動中"と見受けられる方もいらっしゃる。
客電が落ちると、メンバーが登場。「西岡さ~ん」と男性陣からの声援が飛ぶ。丁寧なチューニングが終わりいよいよ曲が始まる。西岡はギターを持たず、オートハープの前にスタンバイしている。"えっ、1曲目にあの曲?!"と心が葛藤しているうちに「遠い世界に」のイントロが奏でられた。いきなり感動!ギュッと心を鷲掴みにされてしまった。会場は早くもひとつになっている。2曲目も懐かしい曲「恋は風に乗って」だ。いつ聴いても心弾むラブソング、変わらない西岡の声がすごい。青木と西岡の歌声、イサトの巧みなギター、竹田の味のある演奏が、「21世紀の五つの赤い風船」の魅力的なステージを展開している。
2曲堪能したところで司会のなぎら健壱が、白いカウボーイハットに、白いジャケット、赤いシャツの派手な姿で登場。「解散していたのに40周年ですか?」と挨拶代わりに72年の解散のつっこみを入れる。「気にしていません!」とすぐに返答する西岡に客席は爆笑。五つの赤い風船の解散ライブに出演しているなぎらには思い入れがあるのだ。URC時代の「自分の方がA面」と言い合った風船と高田渡とのカップリングのアルバムの話から40周年記念アルバム『五つの赤い風船と仲間たち』の話へ。レーベルを越えて、これだけの素晴らしいメンバーがお祝いに書き下ろしてくれたことに西岡は感動したという。ジャケットにも似顔絵や名前が載るというのは各所属レーベルや事務所の理解がなければ実現しない。様々な人たちから五つの赤い風船をお祝いする気持ちが伝わってくる。
続いてはイルカの作詞・曲による「虹の架け橋」。淡いピンクの照明がピッタリのイルカらしい明るい楽曲で、しっかりと幸せへのメッセージも込められている。竹田のアコーディオンが実にいい雰囲気を作っている。このグループは本当に楽器にこだわりがあり、多彩だ。その上、マジックのような持ち替えのスムーズさにも驚かされる。「次は刺身のつまみたいなもので」と西岡は自分の書き下ろし曲「缶ケリ」を紹介する。かつて新宿厚生年金会館でのライブ中に、ステージ上で缶ケリをしたと信じられないような話が飛び出す。早口言葉のような曲のテンポに青木が歌詞を間違える。しばらく進んだところでいきなり西岡が演奏を止め、「こういう曲を書いた自分が悪い」とフォローを入れる。さらに「今後のために成功例は残したくない」と(東京がツアーの初日ですしね)テンポを落として再チャレンジ。メンバー全員のコーラスが入り、大成功で歌い終え、客席から喜びの拍手が巻き起こる。
続いて、司会のなぎらが山本コウタローと山田パンダを呼び込む。最近、大衆の面前に出る機会が少ないコウタローは、街でムツゴロウに間違えられたそうだ。かつてこのふたりは"山本山田"なるユニットを結成し、シングルも発売している。驚くことになぎらは所有しているそうだ。そんな自慢話?から、なぎらとコウタローが師匠西岡に対する自分の信奉の深さを子供のように言い合う。にぎやかなまま、作詞・作曲者のパンダ・コウタローもコーラスに加わり「風に吹かれてみようか」を大合唱。ふたりの参加に西岡もうれしそうだ。舞台袖に消えていくふたりに、なぎらが「くやしいけれどいい曲」と本音を。しかし、誉めてばかりはいない。「まだ、才能があるけれど、いい時に才能を出してなかった」と足を引っ張るのを忘れてはいない。
そして、きたやまおさむと杉田二郎が登場。5月12日に行われた杉田の40周年記念コンサートの京都公演で西岡がゲスト出演している。きたやまからフォークルは"人間グループ"だったが、風船は"音楽グループ"と賞賛の言葉が贈られる。歌わないきたやまはちゃっかり青木との企画ライブの宣伝をしてなぎらと共にステージ袖へ。誰も紹介をしてくれないと杉田が不満げにタイトルコールし、「どこまでも飛ぶ」を青木とデュエット。サビではコーラスに西岡が加わり、3人の見事なハーモニーを聴かせてくれた。グループ時代の杉田が懐かしい。杉田が拍手に送られ、1部最後の曲となった。西岡の作詞・曲による、記念アルバムのラストに収録された「心・静かに」だ。西岡の40周年の心境が、詞に託されているようだ。「静かな心 豊かな気持ち いつもまわりを鮮明に見ていたい 自分のペースじゃない流れなら そっと離れよう心静かに」自分の思うようにしっかりと生きてきた西岡だからこそ書ける楽曲だ。ここでもバイオリンのような楽器がしっかりと心を清らかにしてくれる。1部の幕を閉じるのに相応しい曲だった。
2部は西岡となぎらのふたりがステージに現れた。西岡の「楽しんでいただけましたか?」という投げかけに、なぎらは「そんな言い方じゃ終わっちゃいますよ」と突っ込みを入れる。「無理やり司会をやらされているんじゃないの?」と西岡が逆突っ込み。「ちゃんと自分から進んでやらせてもらっています」と、そのなぎらがゲストコーナーのトップバッターとしてアメリカ民謡の「永遠の絆」を歌い上げる。地道にライブ活動を続けているなぎらの声は張りがあり、カーター・ファミリー・ピッキングも鮮やかだ。
次のゲストは中川五郎。イサトがギター、竹田がアコーディオンでサポートする。チューニングに慎重なイサトに比べ、五郎はあっという間に終わってしまう。あの世へ行く歌を歌いますと「ビッグ・スカイ」を。ルー・リード作曲で五郎が訳詞の力のこもった歌だ。間奏でイサトや竹田がソロを取ると、そばで五郎はギターをかき鳴らし、エンディングはジャンプできっかけを出すほどの張り切りよう。中川五郎は当時、クラブ員対象だったURCの第2回目の制作配布だった。片面は六文銭。LPなのに45回転だったそうで、曲が少なかったからなのか、音質を良くするためなのか理由は定かではないらしい。
3番目のゲストは風船より後にURCからシングルデビューした斉藤哲夫。彼も72年の風船解散ライブのゲスト出演者だ。今日のコンサートに相応しい「昨日・今日・明日」を相変わらず素晴らしい声で聴かせてくれたが、なぎらからは「場外馬券売り場に行くお父さん」と辛口の衣装チェックが入る。衣装選びが苦手な斉藤は、家から来たままの服でステージに立っているようだ。話題は目まぐるしく変わり、西岡の噂話に。西岡は普段はギターの練習をせずに、酒ばかり飲んでいるという。イサトも同様だそうだ。しかし、なぎらは疑っているようだ。学校の試験と一緒で、やっていないという奴に限って陰でやっているからなぁと。西岡がホテルに早く帰る理由はそこにあるのかもしれない。サンタナでも練習していたらどうするんだよと大笑い。果たして真相は…。
4番目のゲストは山田パンダ。「ぼくはちゃんと着替えてきました」とスカイブルーのジャケットが爽やかだ。パンダはシュリークス在籍の頃、神部和夫(故)やイルカと新宿厚生年金会館に風船のライブを観に行ったそうだ。当時、ギタリストだったパンダはギターを携え、「僕の胸でおやすみ」を披露。会場のあちこちから歌声が聴こえてくる。
続いては山本コウタロー。1部で言い合ったなぎらを意識してか、まずは西岡宅で五弦バンジョーをサイン入りでもらった自慢話を。さらに西岡の「遠い世界に」の真似しか出来ないと前置きをし、「岬めぐり」のシングアウトを促す。2コーラス目からは予定通りの大合唱になる。エンディングまでしっかりと聴こえてくる手拍子にコウタローは目を細め、うれしそうだった。
ゲストコーナー最後の登場は杉田二郎。杉田にとって西岡は信頼できる相談相手だそうだ。コウタローも言っていたが、西岡や小室等といった先輩たちは「歌はこうやって歌い続けるという手本」でもある。杉田が一時休業する前に西岡とイサトにライブを手伝ってもらっていたそうだ。この時、西岡が詞を書いてくれたという「夢袋」を杉田が感慨深げに熱唱した。
ゲストコーナーも和気藹々で幕を閉じ、なぎらが風船のメンバーを呼び込む。ここで今日が63歳の誕生日である西岡とグループの40周年を記念してイサトが女性メンバーから花束を贈呈された。和やかな中、後半の風船コーナーに突入する。アップテンポの心地よいリズムが刻まれ、「風が何かを」からのスタートだ。暗い気持ちが吹っ飛んでしまうような前向きな歌である。心が弾んだところで、西岡から風船のメンバー、そして、彼らを支えるベーシストとキーボード&パーカショニストが紹介される。このふたりの演奏技術や器用さも風船サウンドに欠かせない素晴らしいものだ。『今日で63歳。死ぬまで歌を書き続ける!』と西岡が心強い言葉を発し、ビブラフォーンのイントロで「遠い空の彼方に」。風が流れるような曲調にメッセージが込められ、心にじんわりと広がる。この曲もしっかり青木のものになっている。続いて西岡が「これをやっとかないと皆さん帰らない」と「まぼろしのつばさと共に」を熱唱。力強いヴォーカルが胸を打つ。客席では口ずさむ人と聴き入る人とに分かれ、それぞれの思いを膨らませている。曲が続きリコーダーでイントロが…。もちろん、「血まみれの鳩」だ。西岡と青木の説得力のある悲しく美しい歌声が響く。ライティングも凝っている。パープルから赤へ、ホリゾントがブルーに染まる。間奏で真っ赤なライトを受けてリコーダーを吹く西岡の姿が印象的だ。エンディングの最後の音が消えると、食い入るように聴いていた客席からひときわ大きな拍手が鳴り響く。西岡が大きく両手を広げ、それに応える。袖に消えていくメンバーに声援が飛ぶ。鳴り響く拍手は波打つように手拍子に変わり、アンコールとなった。
「もう終わったんですけど」といいながらも西岡はうれしそうだ。そして、懐かしいあの曲に。「オー今も昔も」と歌い出すと、3階まで埋まった客席が西岡の目に留まり「こんなに入っているの」と驚きの声を上げる。さらに気分が高まって「これがボクらの道なのか」をもう一度最初から。広大なカントリーソングを感じさせるようなこの曲に、大きな手拍子が起きる。盛り上がり続ける中、ゲスト全員が呼び込まれる(きたやま以外)。「うるさいと思いますが、前もっていいますから」と西岡がシングアウトの前ふりをする。となればもう一度あの曲が。観客も待ってました!とばかりに今度は「遠い世界に」を大合唱。客席からもきちっとしたハーモニーが響いてくる。最後になぎらから風船のメンバーの名が叫ばれ、激しいくらいに拍手が溢れ、心に残る楽しいライブの幕が下ろされた。
<「五つの赤い風船」の結成40周年記念アルバムはこちら>
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「五つの赤い風船と仲間たち」 |
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