
今から50年程前、テープレコーダという最新のテクノロジーが登場したことによって、ミュージック・コンクレートという音楽の制作手法が生れた。テープレコーダーで色々な音を録音し、それを操作編集することで音楽作品を仕上げていく。そこから「テープ・コンポジション」という作曲の方法論が構築されていった。
同様に、コンピュータというテクノロジが登場したことで、コーディング、すなわちプログラムを書くことによって音楽が制作できるようになった。だとすれば、テープ・コンポジション同様に、「コード・コンポジション」という作曲の方法論が構築し得るはずだ。
音楽に限らずどんな形式の表現でも、記述と表現は密接な関係にある。音楽を記述する際に最もポピュラーな五線譜の場合、音符という要素を五線と小節の枠内に記入する。これは言い換えれば、12音平均律と拍節というグリッド上に音符というオブジェクトを配置する、ということに他ならない。
テープ・コンポジションは、このグリッド上に音符を配置するというシステムを根本から解体した。テープの上に記述されているのは波形であり、それをシーケンシャルにつなげていったり、ループさせたり、重ね合せることで作曲する。そこには音符や音階や、和音や小節といった、五線譜で記述された音楽の前提となっていた構造は存在しない。記述法が異なれば、音楽を構成する時間や周波数の構造そのものがまったく変ってしまう。記述と表現は密接な関係にある、というのはそういうことだ。
波形編集をベースにした作曲は、今日でもサンプリングという方法で脈々と続いている。デジタル化することでその量と精度は飛躍的に向上した。マルチトラックによるノンリニア編集は今やどの音楽スタジオでも日常茶飯事である。もちろんシーケンサによる五線譜的な記述も、今なお並行して活用されている。
コード・コンポジションはこの2つの記述のいずれとも異なる、もうひとつの記述体系に根差している。コードによる記述の要は「抽象」ということだ。音を生成するオブジェクトをコードによって抽象する、音を変形するメソッドを抽象する。コードで音楽を記述するということは、音楽の構造を如何にして抽象するか、ということに他ならない。まずは構造を抽象し、次にそれをパラメータによって具体化する。ひとつの構造から、さまざまな具体、すなわち音を生成することができる。この抽象と具体、つまり構造とスケールの往復運動が、コードによって作曲する際の基本となる。
例えば、僕が最近メインに使っている SuperCollider3 では、あらゆるものがオブジェクトとして表現されている。音符(オシレータ)も波形(バッファ)もオブジェクトである。コード・コンポジションは五線譜とテープをつなぐこともできる。抽象というのは、それまで別々のものと見做されていたものの共通点を見い出すことで、異なるものを繋ぐことでもある。
波形、すなわち「素材」に根差したテープ・コンポジションは、今日の「音楽から音響へ」という流れを生み出した。だとすれば「抽象」に根差したコード・コンポジションは、音楽や音響をどういう新たな流れに向かわせるのだろうか? 僕の興味の出発点はそこにある。
参考:「デジタル・サウンド・コンポジション(コード・コンポジション入門)」
付録:前回紹介したHEADZの佐々木さんによる「UNKNOWNMIX RETURNS VOL.2」(2月24日)のビデオスナップショットが、以下のURLにある。それぞれのパフォーマンスの内容についても、今後この連載の中で触れていきたいと考えている。
>>>> wysiwyh (what you see is what you hear) live av performance を見る
>>>> live coding performanceを見る
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Tracked on 2007年04月11日 06:56
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Tracked on 2007年04月11日 14:02

